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「不適切」なドラマをどう受け取るか。『不適切にもほどがある!』が令和の私たちに問うもの

2024.3.7

#MOVIE

©︎TBS
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毎週金曜夜10時から放送中のテレビドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS系)。第1話の無料配信総再生数(TVer・TBS FREE)が歴代のTBS金曜ドラマのTOPを記録し、最新の第6話の世帯平均視聴率が8.3%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と過去最高、現在放送中のドラマ全体でも世帯視聴率の「総合視聴率)で第5位、「タイムシフト視聴率」では第1位となるなど人気となっている。東京ドラマアウォードを受賞した『俺の家の話』(2021年 / TBS系)以来、約3年ぶりに人気脚本家・宮藤官九郎が手掛けるTBSドラマということもその人気の理由の一つだが、ドラマ好き以外の中でも話題となっているのは、その内容。

物語は、1986年を生きる主人公・小川市郎(阿部サダヲ)が、ひょんなことから2024年へタイムスリップすることからはじまる。昭和の1986年、はコンプライアンスについて声高に語られるはるか昔。令和の2024年からすると、1986年の登場人物たちの発言や行動は「不適切」だらけで、その懐かしさや新鮮さも含めて毎話、各所で視聴者による感想合戦が繰り広げられている(放送時点でのXトレンドでも1位になった)。

テレビ局各社が、バラエティ番組などで放送する内容を自己検閲して、なるべく問題にならない描写を心がけている中で、なぜ、敢えて昭和の「不適切」を描くのか、宮藤官九郎の過去作を振り返りながら、考えてみたい。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

宮藤官九郎の過去作で描かれてきた「不適切」

本作の脚本を手掛けた宮藤官九郎作品の特徴としてよく挙げられるのは「軽妙でリアルな会話と笑い」「豊かなチーム感」だろうか。ドラマ脚本家として注目される前から、松尾スズキが主宰する劇団「大人計画」に所属し、一部公演の作・演出を務めてきた他、1996年からは「ウーマンリブ」と称して自身の単独公演も行い、並行して、バラエティ番組『笑う子犬の生活』(1999年~2001年 / フジテレビ系)などのテレビ番組の放送作家でもあった宮藤。

コメディ作品の多い劇団に所属しながら、テレビではコントの台本も手掛けており、活動のベースに「笑い」と「チーム」があったのは間違いないだろう。そんな宮藤の初期の代表作と言えば『池袋ウエストゲートパーク』(2000年 / TBS系)と『木更津キャッツアイ』(2002年 / TBS系)。共に平成を舞台にしたドラマではあるが、現在の視点で見ると、グループ同士の抗争や盗難事件、体罰上等のスパルタ教師(阿部サダヲが演じている)など「不適切」な題材も多い作品だ。セリフ一つひとつを挙げても、そのまま今、放送するのは難しいだろう。その後の作品でも、『タイガー&ドラゴン』(2005年 / TBS系)の主人公の一人はヤクザであるし、『監獄のお姫さま』(2017年 / TBS系)に至っては主要登場人物全員が受刑者だ。

手掛けてきた多くのドラマで、設定やセリフに「不適切」を塗して、それを笑いや人間としての深みに変換して描き続けてきた宮藤。そんな宮藤の世間におけるイメージが大きく変わったのは、『あまちゃん』(2013年)、『いだてん~東京オリムピック噺~』(2019年)などNHKでのドラマ放送以降だろう。朝ドラと大河ドラマ両方の脚本を手掛け、名実ともに国民的脚本家となってからも「軽妙でリアルな会話と笑い」「豊かなチーム感」は変わらずとも、「不適切」な要素は薄まっていった(とは言え、阿部サダヲが演じる『いだてん』の主人公・田畑政治がタバコを吸うシーンなどには、攻めている印象もあったが)。

それは『いだてん』の後、久々の連続ドラマであり、地上波ドラマとしては前作に当たる『俺の家の話』(2021年 / TBS系)まで続く。不適切な人物が登場せず、なるべく不適切な発言が出ない傑作ドラマを作ってしまうのが、脚本家としての宮藤の凄さだとは思うが、書きたいことが書けなかったのも事実かもしれない。その反動が出たのが、脚本家・大石静と共同脚本の『離婚しようよ』(2023年 / Netflix)と、山本周五郎原作で監督も務めた『季節のない街』(2023年 / Disney+)ではないだろうか。前者では不倫に興じる政治家が、後者では被災した人々が集う仮設住宅を舞台に性加害や窃盗、DVなど不適切な行為をする人物ばかりが登場する。特に後者は、宮藤が演劇を始める前から好きだった原作の念願のドラマ化であったとのことで、そもそも、不適切な人物を書くこと自体にも宮藤の想いがあったのだろう。そんな宮藤が、今回、新たに脚本を手掛けたのが『不適切にもほどがある!』である。

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