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その選曲が、映画をつくる

ソフィア・コッポラがエルヴィスの妻を描く『プリシラ』、その選曲を考える

2024.4.9

#MOVIE

©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023
©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

ソフィア・コッポラ監督の最新作『プリシラ』が4月12日(金)から公開となる。

エルヴィス・プレスリーの妻プリシラ・プレスリーを主人公に、彼女がエルヴィスと過ごした10年間の物語を描いた本作には、今までのソフィア・コッポラ監督作品同様、たくさんの既存のポップソングが映画全編に巧みに配置されている。

音楽ディレクター / 評論家の柴崎祐二が、音楽を中心に同作を解説する。連載「その選曲が、映画をつくる」第13回。

※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

大スターと恋に落ちた少女の物語

1959年9月、アメリカ空軍将校の継父とともに西ドイツで暮らしていた14歳のプリシラ・ボーリューは、兵役のため歌手活動を中断し同地に赴任していた「キングオブロックンロール」ことエルヴィス・プレスリーと出会い、恋に落ちた。一般家庭に育った少女と、世界が憧れる大スターというアンバランスな二人は、プリシラの両親の忠告をよそに、お互いの境遇を越えて惹かれ合うようになる。しかし、兵役を解かれたエルヴィスは、束の間の逢瀬の季節を終え、仕事に復帰するためアメリカへと帰国してしまう。

涙に暮れてエルヴィスを見送ったその日から2年間、プリシラは彼と過ごした日々を忘れられず、抜け殻のような毎日を過ごしていた。そんなある日、エルヴィスから突然電話がかかってくる。「会いたい」「手配するからメンフィスへ来て」。プリシラは、はち切れそうな喜びを胸にメンフィスへと向かい、エルヴィスの自宅グレースランドへと赴く。そこには、西ドイツでの簡素な暮らしとは似ても似つかない、豪奢で夢のような世界が広がっていた。

一度は西ドイツへと帰国したプリシラだったが、エルヴィスへの思いはますます募るばかり。そこへエルヴィスがプリシラの両親へある提案をする。彼女をカトリックの名門学校へ編入させ必ず卒業させるので、自身の邸宅へ呼び寄せたい、と。エルヴィスは言う。「お嬢さんを愛しています。結婚を考えています」。

晴れてメンフィスへと移ったプリシラ。それは、エルヴィスとの甘い生活の始まりであると同時に、一人の少女が経験するにはあまりにも浮世離れした日々の幕開けでもあった。

本作『プリシラ』は、「キング」の傍らにありながら、自らのアイデンティティに悩み、時に苦しみを抱えながら若き日を歩んだプリシラ・プレスリーを主人公とした、甘く苦い物語だ。波乱に富んだエルヴィス・プレスリーのライフヒストリーの陰に隠れ今までほとんど語られることのなかったプリシラ・プレスリーの10年間が、「ガールズカルチャー」の先駆者であるソフィア・コッポラの手によって映画化された。

プリシラ役を務めるのは、『ザ・クラフト:レガシー』の主演等で知られる新星、ケイリー・スピーニーだ。かたや、オーストラリア出身の若手ジェイコブ・エロルディがエルヴィスを演じる。二人の俳優は、20世紀を代表する実在のセレブリティカップルという難しい題材を、繊細な表現を駆使しながら巧みに演じている。これまでのコッポラ作品と同様、美術や衣装、メイク等もこだわり抜かれている。1950年代末から1970年代前半にかけてのトレンドの変遷が、精密な時代考証と繊細な美意識の元に再現され、チャーミングなヴィジュアルが画面いっぱいに展開される。

プリシラ(ケイリー・スピーニー)とエルヴィス(ジェイコブ・エロルディ)。 ©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

コッポラは、当然ながらプリシラという女性の姿をただ「エルヴィスのお側人」として描いたりはしない。これまで、ドキュメンタリーや伝記ものなど多くの「エルヴィス映画」が生み出されてきたが、それらの多くがプリシラの存在を口数少ない脇役として扱ってきたのと異なり、当然ながら本作の主役はあくまでプリシラその人である。エルヴィスの主観は一切排され、彼のファンに広く知られる様々なエピソードも、あくまでプリシラがどのように接し、眺め、感じたのかという視点から映し出されていく。

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