『恋せぬふたり』(NHK)で第40回向田邦子賞を受賞した脚本家・吉田恵里香が、連続テレビ小説『虎に翼』(NHK)以降初めて手掛けるドラマ『もうパパ!』(ABCテレビ・テレビ朝日系)。
動画配信が当たり前になった世の中で、ありそうでなかった「親子チャンネル」の配信者を描いた令和のヒューマンファミリードラマで、子役出身の原菜乃華が地上波ゴールデンプライムタイム(19時から23時)連続ドラマで初めて主演を務めている。
『やまとなでしこ』『恋ノチカラ』(共にフジテレビ系)でも共演した堤真一と矢田亜希子の夫婦役での再共演や、M!LK塩﨑太智の人気配信者役も評判となっている本作について、ドラマ・映画レビュアーのuriがレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
『虎に翼』吉田恵里香による「家族」をめぐる物語

「家族であり続けること」は、どうしてこんなにも難しいのだろう。
フィクションの世界で、多様な家族のあり方に触れるたび、いつもそんな思いに行き着いてしまう。理想的に見える家庭にも単純な言葉では割り切れない事情や、複雑な関係性が潜んでいることがある。そして、ひとつとして同じ形はない。だからこそ、私たちは今も「家族」をめぐる物語に惹きつけられるのかもしれない。
『恋せぬふたり』『虎に翼』などを手掛けた吉田恵里香による完全オリジナル脚本で、原菜乃華が主演を務めるドラマ『もうパパ!』。本作もまた、そんな親子の複雑な関係性に切り込んだ作品である。動画配信でバズったことをきっかけに、「家族の幸せな日常」で再生数を稼ぐ父親と、その父親に振り回されながらも本音が言えない娘の、リアルな衝突と再生を描いていく。
INDEX
娘のプライベートを動画配信の「ネタ」にする危うい父親

父と娘のドラマと言えば「衝突と和解」が定番のテーマであったが、2026年秋ドラマでは、そこからさらに一歩踏み込んだ「父からの脱却」を描く作品が並ぶ。
10月から放送中のNHK連続テレビ小説『ブラッサム』では、破天荒で厳格な父・葉野清治(渡部篤郎)に支配される主人公・珠(石橋静河)が、不自由な暮らしの中でも物語の力に自由を見出し、父の死を経て厳しい家父長制の支配から精神的にも解放されていく姿が描かれている。さらに、ドラマ『ポリティカルパン』(フジテレビ系)においても、政界の絶対的支配者である父・小早川士郎(草刈正雄)と、政治家一族である小早川家のしがらみに抗いながら、自らの道を模索する娘・雅(河合優実)の姿が映し出されている。
そして、『もうパパ!』では、同じ「父からの脱却」をテーマとしながら、現代ならではの複雑で生々しい父と娘の姿を描いている。
第1話において、父・良詫(堤真一)は娘・紀子(原菜乃華)の初デートを家族チャンネルで配信しようと画策する。戸惑う娘をよそに、「万が一失恋しても動画にして、決して初恋を無駄にしない」と言い放つそのグロテスクな言葉には、 娘の笑顔を守りたいという愛情と、娘のプライベートまで「ネタ」にする配信者としてのエゴが混在している。また第2話では、良詫が一度は紀子のチャンネルからの卒業を認めるものの、「パパには紀子がいないとダメみたい」と、結果的に娘の人生を狭めてしまうような危うさも見せる。
何より厄介なのは、良詫の行動の根底に「娘を愛している」というまぎれもない思いがあることだ。愛されているからこそ、息苦しい。愛ゆえに、間違えてしまう。こうした複雑な親子関係こそ、現代的でとてもリアルに感じられるのだ。
INDEX
子どもの顔出しやセクシャルマイノリティ、社会への眼差し

特筆すべきは、本作がSNS上での子どもの顔出し(シェアレンティング)による個人の尊厳の問題に踏み込みながらも、その行為を一面的に「悪」として切り捨てていない点だ。
例えば、良詫が「タラちゃんねる」をはじめたのは、小学生の頃に不登校になった紀子を笑顔にするためだったように。もしくは、幼馴染の人気配信者・「シュンマックス」こと佐々木俊也(塩﨑太智)と「親友になりたい」と打ち明け合った紀子が、「タラちゃんねるやってて良かった」と喜んでいたように。さらには、過去の紀子による発信が大学の先輩・吉良陽日(岩瀬洋志)の背中を押し、回り回って今度は自分自身の背中を押す力へと変わっていったように。
そもそも、子どもの姿が悪用されるリスクは個人の力だけで完全に防ぎきれるものではない。SNSに顔を出していなくても、盗撮や悪用の危険性は残る。インターネットでの発信だけでなく、悪用を許してしまう社会の仕組みにも問題があることを、本作は問いかけているのかもしれない。

そうした社会への問いかけとして、とりわけ印象的だったのは、第3話で、「母に誇れる自分でいたい」という切実な思いと、シングルマザーであるたった一人の家族に拒絶されるかもしれない恐怖が共存していた俊也の姿だ。
彼は、「母を傷つけたくないから」と同性愛者であることをカミングアウトしない選択をする。そんな息子の葛藤を聞いてしまっていた俊也の母・奈美恵(平野綾)は、俊也に「あんたに苦しい思いをさせる世の中がカスでおかしいだけだから」と語る。その言葉は、カミングアウトをするもしないも自由であり、どちらを選んでも、ありのままの自分で生きて良いのだと肯定する、作品のメッセージだと感じた。
INDEX
良詫と紀子が役割を下ろした先に

そして本作は、それぞれが「背負ってきた役割」を下ろしていく物語でもあると筆者は考えている。
第1話で「タラちゃんねるの紀子ちゃん」らしくあろうとしていた紀子はその役割からの卒業を願い、第4話では「明るくてパパが好きそうな娘」で居続けた良詫の1人目の娘・香織(鈴木愛理)が、結婚を機に「私のことは忘れてください」と良詫に会わない決断をする。さらに同じ第4話では、かつて家を出た紀子の母・佐伯福子(矢田亜希子)が、自身も寂しさや苦しさを抱えながらも「今の人生は自分で選んだことだから」と、頼ってきた娘に対して「私にできることはありません」と自らの生き方を貫き通した。
彼女たちの選択を見ていると、自分に嘘をつかずに生きることと、大切な人と一緒に生きることが必ずしも両立しないことを痛感させられる。香織が良詫を許す展開や、福子が紀子の思いを受け止めてあげる展開にもできただろう。しかし、吉田脚本はそうはしなかった。
彼女たちの揺るがない決意の眼差しには、『虎に翼』第69回で主人公・寅子(伊藤沙莉)が恩師である穂高(小林薫)に対して「先生に感謝はしますが、許さない。納得できない花束は渡さない。世の中そういうものだと流されない」と怒りを突きつけた姿が重なる。彼女たちは、背負っていた役割を下ろすことで、過去の自分を守り、未来の自分をも守ったのだ。

そして本作において、誰よりも「役割」に縛り付けられているのは良詫なのかもしれない。
香織への仕送りも、家族チャンネルの運営も、彼なりに「理想の父親」であろうと不器用に立ち回った結果ではないだろうか。子どもたちに「いいパパか?」と問いかける姿や、「ナイスファーザー賞」の受賞を理由に紀子の卒業を認めるといった行動の裏には、「いい父として認められたい」という、彼の切実な思いが隠れているような気がしてならない。 家族であり続けることはやっぱり難しい。けれど、「理想の父」や「良い娘」といった役割を下ろした先にこそ、彼らがひとりの人間として向き合える、飾らない関係が待っているのかもしれない。
『もうパパ!』

ABCテレビ・テレビ朝日系にて毎週日曜よる10時15分から放送中
公式サイト:https://www.asahi.co.jp/moupapa/