メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

写真は「絶滅」するのか。『杉本博司 絶滅写真』が提示する、写真の「真実と嘘」

2026.8.26

#ART

『杉本博司 絶滅写真』展示風景 / 東京国立近代美術館 / ©Sugimoto Studio
『杉本博司 絶滅写真』展示風景 / 東京国立近代美術館 / ©Sugimoto Studio

捏造されたイメージから感じる「真実らしさ」

もう一つの傑作『ジオラマ』はどうだろう。アメリカ自然史博物館の剥製展示を撮影した同シリーズが、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の伝説的キュレーター、ジョン・シャーカフスキーに見初められ、同館のコレクションに収蔵されたエピソードはよく知られている。

1章「時間・光・記憶」より杉本博司『アビシニアコロブス』(1980年) / © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

人間が肉眼(多くの場合、2つの眼球)で見ることを前提につくられた立体的な風景は、単眼であるカメラを通して見ると平坦な風景になりがちだ。だからといってそれが嘘っぽい作り物に見えてしまうかというと、決してそうなっていないのが本作の面白いところだ。新古典主義の画家でナポレオンの主席画家でもあったジャック=ルイ・ダヴィッドによる歴史画『皇帝ナポレオン一世と皇妃ジョセフィーヌの戴冠』のごとく完成された構図は、太古のワンシーンに実際に立ち会っているかのようなあり得ない感覚を観客にもたらすだろう。ここには、限りなく真実のように感じられる偽物の時間が立ち上がっている。

このような誤認が生じるのは、私たちが教科書や映画を通してさまざまな歴史のイメージに慣れ親しんできたからだ。恐竜的なルックスの爬虫類や毛むくじゃらの猿人を私たちは当然見たことがない。だが『ジュラシック・パーク』や『猿の惑星』で、私たちは飽きるほどそういったイメージを目にしてきた。「映像の世紀」と呼ばれた20世紀、そしてその後の21世紀初頭を通じて、私たちはあらゆる表象に溺れるほどに囲まれて育ってきた。その経験が、『ジオラマ』シリーズのなかに、ある種の「真実らしさ」を喚起するのだろう。

1章「時間・光・記憶」より杉本博司『類人』(1994年) / © Hiroshi Sugimoto / Courtesy of Gallery Koyanagi

この視覚表象の操作に、筆者は杉本の時間や歴史に対する屈折した眼差しを見る。時間や歴史は永遠に不変ではなく、そのときの社会状況や政治状況に応じて、歪んだり、捏造されたりする。そのような可塑的な時間のなかで生きるのが現代の人間であり、その視覚表象の面にコミットして「いまここ」のイメージを扱うのが現代美術の一つの側面であり、杉本はそのことに自覚的なアーティストなのだと思う。

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS