10月2日(金)より全国公開されている映画『ファーストボイス ー私たちの逆転裁判ー』の特別鼎談が解禁された。
同作は日本初の「ハラスメント裁判」をきっかけに、社会のルールが大きく転換していった実話に着想を得た物語。理不尽な嫌がらせを受け会社を提訴したいという女性と、前例のない裁判に挑む弁護士たちの姿を描く。お人好しの弁護士・朝日道子を綾瀬はるかが演じるほか、ファーストサマーウイカ、松本穂香らが出演。監督は前田哲、脚本は橋本裕志が手がける。
解禁された特別鼎談では、主演の綾瀬自らがインタビュアーを担当。同作の元となった実在の福岡セクシュアルハラスメント裁判で原告代理人を務めた元弁護士の辻本育子と、現役弁護士の原田直子を迎えた鼎談となっている。朝日の役柄は、辻本と原田の姿を1人のキャラクターに集約し、綾瀬への当て書きとして作られた。
まず辻本は綾瀬演じる朝日について、「こんなに綺麗な方に演じていただいて少し違和感がありましたが、本当に素敵で嬉しかったです」と笑顔で語る。劇中での乱れた髪型やデスクに資料が積み上がっている様子に対しては、原田が「あのあたりは私ですね」と自身の姿が反映されていることを明かした。
綾瀬が「当時、お子さんも育てながら(仕事を)やっていらっしゃったんですよね?」と聞くと、辻本は育児をしながら裁判に取り組んでいたと振り返る。当時は夕方の2時間だけ一度帰宅して料理をし、再び事務所に戻って仕事をしていたという。そのエピソードに綾瀬が「パワフルですね!」と驚くと、原田は「でも、当時の働いている女性はみんなそうでした。私たちだけが特別じゃないなと思っていました」と語った。

女性への就職差別や「結婚までの腰掛け」といった価値観が根強く残っていた1980年代。綾瀬からは「なぜ前例のない裁判に挑んだのか」という問いが飛び出す。辻本は「私は兄が3人いて4番目の女の子なんですね。でも父母から一度も『女の子だから』と言われたことがなかった。だから当然、兄たちと同じように大学を卒業したら就職して働くと思ってたんですけれど、大学4年の時に就職が全然できなかったんです。そもそも募集がないんです。それで公務員試験を受けるしかなく、面接の時に『公務員は男女平等な職場だと思ってるかもしれないけれど、やっぱり女性はお手伝いですけれどいいですか?』と面接官が言うんですよね。その時に違和感を覚えて、ちゃんと働ける職業ということで弁護士になろうと思いました」と、自身の原点についてコメント。この経験が、弁護士になった際に性差別の事件をライフワークにする決意に繋がった。
しかし、弁護士として活動するなかで性差別に関する相談はなかなか寄せられなかった。当時について辻本は、「だけど、10年くらい弁護士をしていてもそんな(性差別関連の)相談は来ないんですよ。問題がないから来ないんだったらいいけれど、決してそんなことではない。問題があっても来られないのは、どこに行ったらいいかわからないんじゃないかと思い、女性が問題に直面した時に『あそこの法律事務所に行ってみよう』と思える事務所を作ろうということで、『女性協同法律事務所』を原田さんと2人で作ったんです」と語る。
原田も「当時、辻本が言っていたのは『女性は能力があって成果を上げるけれど、その成果を自分のこととして主張しないで、上司や他の人たちが自分の成果として主張することに対して異議を述べない。そういう働き方こそ女性に求められているもので、性差別だ』と説明していました」と続けた。
さらに辻本は、当時の女性たちが置かれていた状況と声を上げることの意味について、「当時は多くの女性が我慢していたが、憲法上の権利侵害であれば、99人が我慢していても1人が『我慢できない』と言えば戦えるんです」と言及。この言葉を聞いた綾瀬は「びっくりするような時代ですね……」と息を呑むが、2人からは冗談交じりの言葉が返され、重いテーマを和やかな雰囲気で話し合う空間となっていたという。

また綾瀬は、「社会からの逆風や直接的なバッシングなど裁判当時、最も心が折れそうになった瞬間はどんな時か。それをどう乗り越え、二人で支え合ってこられたのでしょうか?」と質問。辻本は「私たちに対するバッシングというのはそんなに気にならないんです。一番大事なのは原告がそういったバッシングを受けて潰れてしまわないかということなので。それは予想もされたし実際あったわけですが、それに対応するということで、『応援団(支援する会)を作ってください』と最初に言ったんです。支援する会ができたので、原告を支えることについては支援する会にお願いしてしまったという反省もあるんですけれど……。わたし自身はそんなに心は折れなかった(笑)」と、原告を守ることを重視していたと明かす。
続けて原田も、「弁護士会の中でも『変わったやつがいる』みたいに見られていたので、あまりバッシングと感じはなかったんじゃないですかね」とコメント。綾瀬が「結構、原告だけじゃなくて支援団体との関係性とか、すごく複雑なんだなと思って……」と感想を述べると、辻本は「支援する会には本当に感謝しかないですよ」と、支援者への思いも口にした。

その後、話題は10月1日から新たな改正が施行された男女雇用機会均等法へ。同法の課題について辻本は、「『男女雇用機会均等法』は要するに『機会を均等に与えましょう』であって、チャンスは与えるけれど、その結果が平等になるかどうかにまでは関与しませんよ、という法律なんですよ。だから機会が均等になっても、男女の格差というのは残っているんです。明らかにわかるのは賃金格差ですけれど、福岡セクシュアル・ハラスメント裁判があった当時は男性の正社員の給料が100だとしたら女性は60くらいだったんですね。それが去年の統計でも、女性は男性の4分の3しか給料をもらえていない。そういう格差が35年以上経っても残っているというのは、やっぱり『男女雇用機会均等法』の限界なんじゃないかと私は思うんです」と指摘する。
そのほか、ハラスメントが生まれる構造についても話は及んだ。辻本は「ハラスメントというのは要するに『力の乱用』なんです。少しでも力の差があると相手を自分の気持ち良さのために攻撃することが、ストレスの多い社会になればなるほど蔓延すると思うんです。だから今みたいな対症療法では無くならないんじゃないかなと思います」と語る。続けて原田も、「相手が反撃できないと思うからやるんですよ、ハラスメントは。反撃したら自分の立場が危うくなるとか、そういう相手にはハラスメントはしないんです」と言及した。

最後に綾瀬は、「ハラスメント問題は、現代の課題としても存在していると思います。今まさに生きている上でのモヤモヤや理不尽と戦っている方々に向けて、最後にメッセージやエールをお願いしたいです」と問う。辻本は「本当に自分がやりがいを持って仕事をしたり生きようと思ったら、いろんな壁にぶつかるんです。それは理不尽な差別というものが本当にたくさんある。そういう時に決して『自分が悪いんじゃないか』とか思わずに、諦めずに抗ってほしいなと思います」と語りかけた。
原田もまた、「もっと『わがまま』になっていいんじゃないかなと。やりたくないことはしないとか、できないことはできないと言っていいと思うんです。私は周りからわがままだと言われていますけれど(笑)、できないことはできないと言うし、やりたくないことはやらないと言う。配偶者との関係でも、家庭責任をしっかり負ってお互いに話し合って分担していくとか、諦めないで、でも自分のやりたいことはやる、やらないことはやらないという『わがまま』を通して生きていくのが一番精神的にもストレスにならないし、いいんじゃないかなと思います」とメッセージを送った。綾瀬も深く頷き、「『自分がやらなきゃ』って思っちゃいますよね。メッセージありがとうございます!」とコメントした。

共演者から「切り替えが早い」と言われるという綾瀬。鼎談の終盤では「(役を演じる上で)別の人を生きるというのは楽しいことでもあると思うんですけれど、エネルギー量をすごく使うので、くったりしちゃうことも多くて。なるべく集中する時以外はダラッとしています(笑)」と明かした。すると2人も「私達も事件が終わったらメモして忘れる。そうしないと持ちこたえられない」と話し、両者は共通点を見つけて意気投合。互いの仕事への向き合い方について話題が展開し、3人の距離が縮まっていく様子も見られたという。
鼎談を終えた綾瀬は、「おふたりと直接お話しさせていただけて本当に光栄でした。時代を切り開いてくださった強さと優しさは、現代を生きる私たちへの大きなエールだと感じました。作品の持つ意味を改めて実感できたので、たくさんの方に観ていただけるよう伝えていきたいです」とコメントを寄せている。
同作の舞台は、日本が好景気に沸いたバブル経済絶頂期の1989年。鼎談で当時を語った2人の弁護士をはじめとする多くの人々が声を上げてきたことで、現在は少しずつ性役割が解きほぐされ、女性の社会進出も広がっている。しかし2人が語ったことは、2026年を生きる私たちが頷きながら聞いてしまう内容でもあった。つまりそれは、彼女たちが徐々に権利を掴み取ってきた現在でもなお、いまだに多くの社会課題が解決していないということの表れではないだろうか。
そして、女性の抱える問題を考えることは、すべての人の権利を見つめ直すことにもつながる。辻本がハラスメントの生まれる構造について「少しでも力の差があると相手を自分の気持ち良さのために攻撃することが、ストレスの多い社会になればなるほど蔓延する」と語ったように、「力の差」は多くのシーンで発生する。多くの人に思い当たる記憶があるのではないだろうか。今回の特別鼎談と同作は、観た人の生活に存在する自身と他者の多様な役割を数え直し、それぞれに発生する課題を想像し、和やかに話し合うきっかけになるのではないか。そう期待している。
映画『ファーストボイス ー私たちの逆転裁判ー』

2026年10月2日(金)全国ロードショー
◆出演:綾瀬はるか
ファーストサマーウイカ、松本穂香
峯村リエ、山田真歩、工藤阿須加、水川かたまり(空気階段) / 鈴鹿央士、迫田孝也、酒向 芳
木村多江、筒井道隆
◆監督:前田 哲
◆脚本:橋本裕志
◆音楽:富貴晴美
◆製作:「ファーストボイス」製作委員会
◆配給:松竹/ワーナー・ブラザース映画
◆主題歌:ちゃんみな「History」 NO LABEL MUSIC / Sony Music Labels Inc.
<ストーリー>
ディスコでミラーボールが煌めき、日本が好景気に沸いた1989年――。寝ぐせ頭で法廷に駆け込む日々を送り、お金にならない案件ばかりを受けてしまうお人好しの弁護士・朝日道子(綾瀬はるか)。そんな彼女のもとに、職場で理不尽な嫌がらせを受け、大好きな仕事をも奪われたとして、会社と上司を相手に提訴をしたいという女性・恵(ファーストサマーウイカ)が訪れる。しかし、それは誰も戦ったことのない前例なき「ハラスメント」を巡る裁判。新人弁護士の栞(松本穂香)は「勝ち目がない」と反対するが、朝日は「この裁判は必ず未来に繋がる」と立ち上がる。彼女たちの前に立ちはだかるのは、“常識”という巨大な壁。それでも踏み出した勇気ある一歩と最初の一声“ファーストボイス”が、日本社会を揺り動かしていくー!
©2026『ファーストボイス』製作委員会