夕食の野菜を同じ長さに切り揃え、勤め先へ向かう道のりをまっすぐ歩き、直角に曲がる。現在公開中の映画『平行と垂直』の主人公である自閉スペクトラム症(ASD)の日向大貴は、自身の規律に沿って、毎日を生きている。そんな大貴に寄り添ってきた妹・希の結婚という出来事を機に、規則的な日々にもたらされたうねりに、2人はそれぞれ向き合うことになる。
今回は、安田章大演じる大貴の妹で、カウンセラーとして働く希を演じたのんにインタビュー。希の複雑で繊細な葛藤に、のんは俳優としてどのように向き合ったのだろうか。
芸能活動20周年、のんとして10周年という節目の年である今年。アニバーサリープロジェクト『のん10≧20(のんテントゥエンティ)』も始動する中、俳優業とともに活動の柱である音楽やアートの創作を含めた現在の活動と、言葉や「伝わること」への思いについても話を聞いた。
※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
ASDのきょうだいを持つカウンセラー3人への取材。希という役の輪郭を作る
—最初に本作の脚本を読まれたとき、どのような感想を持ちましたか。
のん:2人の日常が続いていく中で、喧嘩をしたり、立ちはだかった問題を乗り越えていく姿が愛おしくて、本当に心温まる物語だと思いました。これまでもASD(※)について知ろうとしたり、ASDの方を描いた作品を観たりしてはいたんですけど、その家族の方のことについてはあまり考えてこなかったんです。この作品では、家族の視点も描かれているのが新鮮で、「そっか、そういう課題があるのか」と、はっとさせられました。大貴が一生懸命生きていることや、大貴と希が2人で生きていく姿をたくさんの人に観ていただくのは意義があることだと思います。
※自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの難しさと、興味・行動の偏りや感覚の特性が、発達早期から持続する発達障害の1つである。知的水準や言語、生活上の困りごとは多様で、⽀援により適応は改善する。⾃閉症を中核概念に障害の表れを一つの連続体(スペクトラム)として診断される。(―『平行と垂直』作品資料より)
—企画プロデュースの佐藤現さんによるプロダクションノートに、のんさんに脚本を送った際、「脚本について感じたことを幾つか伝えてくれた」と書かれていました。それは、具体的にどのようなことだったのでしょうか?
のん:すごく素敵な作品だったので、「こんなふうになってほしい」という欲求が生まれて、より伝わってほしい部分を箇条書きにして送ったんです。具体的にはまず、希が大貴を支えているけれど、同時に希も大貴に支えられていることがもっとわかりやすくなったらいいなと。あと、最終的に希の婚約者である雅也の家族が大貴を受け入れてくれたことが伝わってほしくて、「たとえばこんな描写があったらいいんじゃないか」とか、つらつらとお伝えしました。

1993年7月13日生まれ、兵庫県出身。俳優・アーティスト。音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。2016年公開の劇場アニメ『この世界の片隅に』(片渕須直監督)で主人公すずの声を演じ、第38回ヨコハマ映画祭審査員特別賞を受賞する。2022年には主演映画『さかなのこ』(沖田修一監督)で、第46回日本アカデミー賞「優秀主演女優賞」を受賞。近年の主な出演作品にドラマ「幸せカナコの殺し屋生活」(2025/DMMTV)、「新幹線大爆破」(2025/Netflix)、「MISSKING/ミス・キング」(2025/ABEMA)、映画『アフター・ザ・クエイク』(2025/井上剛監督)、『てっぺんの向こうにあなたがいる』(25/阪本順治監督)などがある。音楽活動では、10月18日から全国ツアー『のん自由(10)ツアー2026』を開催予定。俳優・音楽・映画・アートといった枠にとらわれず、自由な表現に挑み続けてきた創作活動が評価され、24年に第16回伊丹十三賞の受賞も果たした。
—実際に希と同じようにカウンセラーであり、ASDのきょうだいを持つ方にお話を伺われたそうですが、演じるうえでどんな部分がヒントになりましたか。
のん:3名のカウンセラーの方にお話を聞いたんですけど、一括りにASDと言ってもいろんな特性があって、一人ひとり違うんですよね。なので、同じ質問をしても、いろいろな答えが返ってきたんです。たとえば、独り立ちをしようと働いている大貴について「どう思いますか」と質問したときに、「自立してくれたら嬉しい」という方もいれば、「自分が気にかけなくても生きていける状況になったら、心にぽっかり穴が開いてしまうかも」「そういう状況にはない」という方もいらっしゃいました。全部を受け止めて、希だったらどうかなと考えました。
その中でもすごく腑に落ちたのが、どんなことを思っているか言葉では教えてもらえない中で、「きっとこう思っているはずだ」と、自分の中で断定してコミュニケーションをとっているというお話でした。私たちも普段相手の思いを想像しながら生きているわけですけど、家族ってまた少し違うと思うんですよね。なにを考えているのかわからない瞬間もあったりしますけど、仲の良い家族なら、日常生活の中では大体わかる気がするんです。それが当たり前なんだというのが、役を解釈するうえですごくヒントになりました。
