2018年にデビューした古川琴音。決してたくさんの作品に出ているとは言えない中で、一つひとつで鮮烈な記憶に残る演技をしている。NHKの夜ドラ『ミッドナイトタクシー』での好演も話題の今、改めて彼女の過去作も振り返りつつ、その個性を紐解きたい。
INDEX
『凪のお暇』などの地上波ドラマや、濱口竜介監督映画にも出演
古川琴音がデビューしたのは2018年のこと。デビューのきっかけは、自身で事務所のオーディションを受け、ユマニテに所属したことだそうだ。そこから『義母と娘のブルース』(2018年)や『凪のお暇』(2019年)『サギデカ』(2019年)、映画『街の上で』(2021年)、『メタモルフォーゼの縁側』(2022年)など、今でも語り継がれるようなドラマや映画に次々と出演。登場した話数や時間は少なくても印象に残ったのは、どこかほかの同世代の俳優とは違う、静かな存在力のせいだろうか。
筆者が彼女を強く意識したのは、濱口竜介の監督作『偶然と想像』(2021年)の中の一遍、「魔法 (よりもっと確か)」の演技であったが、それでもデビューから3年目であったことに驚く。相手役が中島歩だったこともあり、その年齢差やコントラストもあって、非常に印象に残った。
最近は、現代美術家の奈良美智のポストでも話題となった。彼の書く少女の絵に似ていると各所で言われていたことが、奈良本人の元にも届いているそうだ。髪型はもちろんのこと、どこかいつも俯瞰的な眼差しが感じられて不機嫌とまでは言わないが、無理にニコニコしていなくて怪訝そうな感じは確かに、奈良の描く少女に似ている。
INDEX
『ミッドナイトッタクシー』で単独主演に。兵藤るりとの若手期待タッグが実現
現在、放送中のNHKの夜ドラ『ミッドナイトタクシー』でも、そんな「怪訝そうな」魅力がぴったりとハマっている。脚本は、歴代最年少の28歳で向田邦子賞を受賞した兵藤るり。古川は、アフリカ生まれで北欧育ち、実の母親に捨てられ、叔母で芸能事務所の社長の弥生(和久井映見)に育てられ、現在は深夜専門のタクシー運転手をしているという象子役を演じている。象子は決して饒舌だったりサービス精神旺盛だったり、人に無理に合わせようとはしない。けれども、そんな象子だからこそ、人は何か話したくなるのである。
脚本の兵頭はインタビュー(※)で、「世の中をものすごくフラットに見ているキャラクターを作りたい」「誰にでも寄り添える人情味あふれるキャラクターにすることもできたと思うんですが、あえて特殊な経験をした象子だからこそ見える世界や、象子ならでは視点を描きたいと思っていました」と語っている。
※:映画チャンネル「『ミッドナイトタクシー』脚本家・兵藤るり、インタビュー「常識だと思っていたけど違うかも」ドラマに込めた思いとは?【前編】」より。
この発言を見て、「世の中をフラットに見ている」というキャラクターに、古川はぴったりだと思った。特にドラマを見ていて、象子の「フラット」さに驚いたのは、このタクシーには、宇宙人、魔法使い、未来人、幽霊が乗ってきたりするのだが、そのたびに象子がひとつも動じない。東京にはいろんな人がいるのだから、このタクシーに宇宙人や魔法使いや未来人や幽霊が乗ってきたとしても、さほど不思議ではない、という風に思っているところだ。
ものごとをフラットに見るというと、差別や偏見がないという意味でも受け取ることができるが、幽霊や未来から来た人にここまで動じないのであれば、この世の中に自分とは違った境遇のいろんな人がいても偏見を持つことなどないのだろうと思えた。
そして、古川のあえてくるくる表情を変えたりしない静かな面持ちが、象子の動じないキャラクターを完成させているのだなと思った。
INDEX
ステレオタイプなキャリアは辿らない
それで気づいたのが、彼女が10代でデビューして、誰もが通るような、高校生の恋愛映画などの相手役としての出演がほとんど見られなことだ。これは、別にそのような役を演じるのがいいとも悪いとも思ってはいないのだが、そのような役をしていないことも、ひとつの彼女の在り方として、特徴的だと思う。つまりは、規範的なジェンダーロールにとらわれない役を演じてきたと言えるのではないか。
そんな彼女は、朝ドラには、2作品に出演。2020年の『エール』では、ヒロインで作曲家の妻・金子の娘である華を演じた。母が終戦を機にかねてからの夢であった歌手を目指したり、父が有名な作曲家であったりするのに、華自身は、自分には何もないと悩んだり、好きになった高校球児との関係性に一喜一憂し、その感情を率直に表現するキャラクターとして演じていたていた。
また2025年の『あんぱん』では、中尾星子役として終盤に登場。魅力的な役だけに終盤だけの登場はもったいないし、もっと見たいと思ったら、『あんぱん 特別編 第4回「受け継ぐもの」』では、主演も務めた。特別版で、これだけ物語を引っ張る力があるのであれば、もしかしたら、朝ドラヒロインの道もあるのではと思わされた。
『十二人の死にたい子どもたち』(2019年)にも出演していた。古川は、ゴスロリの少女を演じている。衣装やメイクで自分の殻を作っているような繊細さを持つ役で、いつもは、かなりリアリティに寄った作品が多いだけに、このような役も演じるのかと驚かされた。
こうして、さまざまな俳優の作品を追っていると、同世代でもそれぞれに個性があって、決して重なることが少ないなと実感する。そんな中でも、古川琴音と言う人は、淡々としていて、少々のことに動じない、そして、周囲の「あたりまえ」に流されない、まさに「フラット」な役を演じることが本当に似合う役者だなと思う。これからも、どこかにいそうなのに、でもなかなか映像作品では描かれないような人物を演じてくれるのではないだろうか。