それは、世界との途切れたつながりを一つひとつ結び直していく作業でもある。yonigeのVo / Gt牛丸ありさは、心の傷や孤独感、特性ゆえの生きづらさを抱えながらも、歌詞を書くことで自分の現在地を確かめてきた。
上がったり下がったりしながらもこの2年間で本来の自分らしさを取り戻してきたというトラウマからの回復過程を、産業カウンセラーの手島将彦との対談でつぶさに振り返る。
再生の前提条件となる信頼できる人たちとの安心・安全な環境をいかに作るか。心の傷をそっと置いておけるようになるまでの道筋を辿った。
INDEX
「自分の心の中に欠けた部分があるように感じる」(牛丸)
─心のことについてお話しするのは、少しハードルを感じる場合もあると思うのですが、何か今回ゲストアーティストを引き受けてくださった理由はありますか?
牛丸:ずっと小さい頃から、自分のメンタルのことを考えてきたんですが、そういうことを話す機会ってなかなかないから面白いなと思いました。私の中で、すごく大きく2つの心の傷があって、1つ目は小中学生ぐらいの時期。両親がとても仲が悪くて、私が仲裁しなければいけない立場だったんですよ。いわゆるアダルトチルドレンというのかもしれません。もちろんその当時は自分でもわからなかったんですが、ここ数年でそういう言葉を知って、もしかしてあれは自分がすごく無理していたことだったんだと客観的に思い返せるきっかけが増えていきました。それが最初の傷です。

牛丸:その後、最近まで交際していた相手が典型的なモラルハラスメントの傾向がある人で、私もそこから離れられず、7年ほど一緒にいたことが大きな傷として残っています。その影響で、自分の心の中に欠けた部分があるように感じ、周囲に迷惑をかけてしまったり、人に心を開きにくかったりすることがあります。
手島:大きな心の傷、いわゆるトラウマといったりするものだと思うのですが、トラウマから回復していく道筋の一つとして、まず、安心・安全が確保されること。その次に、過去の傷を思い出すことは辛いんですが、それを思い出して受け入れていくこと。そして最終的にはつながりをとり戻す、という順番があります。

大阪寝屋川出身。yonige(2013年結成)のVo / Gtを担当。ソリッドなバンドサウンドとポップなメロディ、恋愛や人生観をリアリティのある言葉で綴った歌詞が10〜20代を中心に共感を呼んでいる。2015年リリースの“アボカド”MVが話題を集め、2017年メジャーデビュー。2019年には日本武道館公演をソールドアウト、2025年の日比谷野外音楽堂ワンマンでは2000人を動員した。2025年5月からは47都道府県ツアーを完走。2026年春に、ソニー・ミュージックレーベルズと再メジャー契約、併せて新曲“芽吹くとき”が4月クールのTVアニメ『上伊那ぼたん、酔へる姿は百合の花』OP主題歌に決定した。
手島:どういうことかというと、トラウマや心の傷というものは、別の見方をすると、つながりが切られた感覚なんですね。自分にとって大きなことが起きた時に、自分も周囲の人も信じられないし、そんな理不尽なことが起きる世界も怖くなる。それによって、身近な人との関係性が切られたり、世界との関係性が切られたりしてつながれなくなってしまいます。そしてそのつながりを最終的に回復する過程は、良かったり悪かったりを繰り返しながら進んでいく。
yonigeの最新シングルに収録された“芽吹くとき”や“Don’t”の歌詞もそうですが、「未来なんて見えない」というような割り切りや「正解がほしいわけじゃない」みたいな感じが出てきていて、正解は一旦置いておいて曖昧な中につながりを回復しようとしている感じが自然と作品に出てるのかなと、僕はちょっと勝手に解釈していたんですよね。昔からyonigeの作品を聴いていましたが、今回改めて順番に曲を聴いてみたら、回復の過程にいるような変化を感じるんです。今はまだ周りとの関係はギクシャクするかもしれないですけれど。
INDEX
詩を書くことは自分の現在地に点を打つ作業
牛丸:確かにそうですね。ちょうど2年ほど前に、トラウマの原因になった元彼と別れて、この2年間でその付き合っていた期間を取り戻すように自分の中のネガティブだったものを、今、ポジティブに変換しているという感じです。別れた後に新しく出会った人たちとか、環境のおかげで、どんどんといい方向に行っているんですが、今がすごくいい環境だからこそ、過去を振り返った時に、「あんな大変なことをしていたんだ」とより傷が浮き彫りになることがあります。詩を書くことは、ジャーナリングのように、今の自分の現在地に点を打つような作業で、歌詞に自然と反映されていっている感じはあります。

手島:今は上がったり下がったりしつつ、自分でケアしている過程なのかなと思います。そういう時の言葉って、似たような経験をしている人には多分届くだろうなと僕は思うんですね。まだしばらくしんどいだろうなとも思いますけど、ただ、悪いしんどさじゃない気はします。
ネガティブな感情も含めて、基本的にどんな感情も悪いものって多分1個もないんですよね。例えば、孤独だなって感じることも人間の本能なんです。孤独を感じないと人は人とつながらない。そして誰かしらとつながりがないと生きていけないというのを思い出させるために、わざわざ孤独感が湧いてくるところがあるんですよ。だから、孤独を感じるのは実はまともな反応で、強すぎると辛くなるかもしれませんが、ネガティブといわれる感情も、基本的には全部必要なものなんです。いい悪いではなく、全てをひっくるめて認める感じの世界を描いているのかなと勝手に思いました。

牛丸:いや、そうです。今は、すごく嫌なこととか、ネガティブなこととか、予想外のことが起きても、これは今の自分に必要なものなんだととらえ、抗わなくなりましたね。感情の起伏も穏やかになってきている感じがします。
手島:これもよくお話しすることですが、未来は基本的に予測できないものなので、わからないからこそ不安になるんですよね。一方で、過去は解釈を変えることはできても、起きた事実そのものを変えることはできません。だからこそ、過去や未来にとらわれすぎず、意識を今に向けることが大切だと思います。もちろんすべての曲がそうだというわけではありませんが、以前の曲には、過去が今を飲み込んでいるように感じられるものもありました。それに対して今は、わからないことはいったん置いておいて、まずは今大事にすべきことに向き合おうとしているように感じます。

産業カウンセラー、音楽専門学校講師、保育士。ミュージシャンとして活動後、マネジメント・スタッフを経て、専門学校ミューズ音楽院で講師と新人開発を担当。「文化・芸能業界のこころのサポートセンター Mebuki」所属カウンセラー。著書に『なぜアーティストは壊れやすいのか?——音楽業界から学ぶカウンセリング入門』『アーティスト・クリエイターの心の相談室——創作活動の不安とつきあう』などがある。
牛丸:そうですね。昔は本当に、過去のことにばかりとらわれていました。でも、それを歌詞にして外に出すと、意外と忘れられるんです。だから逆に、自分の中にある気持ちを手放したくない時は、そのことを歌詞にできなかったりもしました。今はそこまで左右されなくなりましたが、元彼と7年間別れられなかった時も、本当は自分の気持ちにうっすら気づいていたのに、終わらせたくなくて歌詞にできなかったんだと思います。