デビュー前にDJ HASEBEのフィーチャリングアーティストに抜擢され、NHKラジオのタイアップなどを獲得し話題になっているシンガーソングライター、シトナユイによる2nd EP『TINY LAND』がリリースされた。
前作『MUSIUM』からおよそ1年ぶりとなる本作は、彼女が子供の頃から親しんだヒップホップやジャズ、クラシックなどの影響を随所に散りばめながら、浮遊感たっぷりのメロディをスモーキーなアルトボイスで歌い上げた5曲が並ぶ。エイティーズっぽいビートやシンセのフレーズにオートチューンなど現代のエフェクトをミックスした独特のサウンドスケープは、早くも貫禄すら感じさせる。
クラシック畑からほぼ独学でポップミュージックの世界に飛び込み、大阪音楽大学ミュージッククリエーション専攻を首席で卒業した彼女。そのユニークな音楽性はどのように培われてきたのだろうか。
INDEX
ブラックミュージックに魅了された10代。実は歌声に悩んだ時期も
─子どもの頃はバイオリンを習っていたんですよね。音楽一家だったのですか?
シトナ:いえ、近所に住むお友だちが習い事をたくさんやっていて、それで「私もやりたい!」とお願いしたんです。近所にクラシック楽器を教えている先生が多かったのも理由の一つですね。ピアノもやっていたんですけどヘタすぎて(笑)、バイオリンに転向して今も続けています。
─当時よく聴いていた音楽も、クラシックが中心?
シトナ:そうですね。ヴィヴァルディのような渋い作曲家が好きな一方で、ドビュッシーのように幻想的な印象派の作曲家にも惹かれていて。そこからクラシックバレエも習い始めるんですけど、小さい頃から女の子っぽい格好がどうにも苦手で(笑)。フリフリの衣装が嫌でストリートダンスの教室に行ったらめちゃくちゃ楽しくて、そこからブラックミュージックに触れる機会が増えていきました。ダンスを通して彼らの独特のグルーヴや歌い方、リズムの取り方に魅了されていって、高校からはボーカルコースを専攻しました。
─当時から「歌」にも興味があったのですね。
シトナ:ボーカルコースに入ると、まずは一律にJ-POPを歌わされたんです。それって私自身のルーツにはないし、主流のハイトーンボイスは私の声質にも合わず歌いにくくて……。どれだけ高音が出せるか、そういうテクニックを判断基準にしている生徒や先生たちから「上手い」と言われたこともなく。むしろ「変わった声だよね」みたいに、ちょっとネガティブな意味で言われ続けていました。
─みんなと一緒じゃないことが「変」みたいな。
シトナ:そうですね。当時はまだ学生だったので、「あの子だけ変わってる」みたいな目線は耐えられなかった。でも、授業でゴスペルにチャレンジする機会があって、その時に「すごくいいじゃん!」と褒めてもらえたのをきっかけにジャズやソウルに傾倒していきました。そこからiriさんのような、声の低い女性が歌うR&Bのかっこよさに目覚め、自分の歌や声にも自信が持てるようになっていったんです。
─そもそも高校生の頃は、「音楽がやりたい」というより「勉強をしたくない」という気持ちのほうが大きかったそうですね。
シトナ:「できれば映画音楽とか作ってみたいなあ」くらいの軽い気持ちで(大学に)入学したので、こんなにどっぷりと音楽の世界に入るとは思っていませんでした(笑)。当時の自分は本当にやりたいことがなくて……自分が何をしたいのか、何ができるのかも全然わからないまま大学の前半は過ごしていました。