2026年上半期の音楽を振り返る、全3回の座談会。2回目となる本記事では、国内外の大ヒット作から知られざる新鋭まで、音楽ライター / 評論家3人にそれぞれの観測範囲でビビッときたリリースタイトルを紹介してもらった。
鈴木慶一、大森靖子、BiS等についての著作があり、メジャー / インディの垣根を問わずシーンをウォッチする宗像明将、DJとしても活動しインディペンデントな音楽に精通した松島広人(NordOst)、ブラジルなど米欧以外の音楽や国内インディに精通した風間一慶。3人の多岐にわたるレコメンドの中には、おそらくあなたも未知の音楽との出会いがあるはずだ。
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各地で起きている、ルーツやローカルを見直す動き
—前回は主に国内インディのバンド系の新譜についてお話いただきました。ここからはそれ以外のみなさんの注目作をご紹介いただければと思います。
風間:はい。まず、個人的に一番ビビッときたのが、マリサ・アンダーソンの『The Anthology of UnAmerican Folk Music』というアルバムです。
風間:詳しい方はタイトルにピンときたかもしれないんですが、ハリー・スミスという人が1952年に『The Anthology of American Folk Music』というコンピレーションを作っているんですね。それはどういう作品かと言うと、1920年代とか1930年代のブルースやカントリーをカタログ的に集めたもので、その後のフォークリバイバルにつながっていった。その元となったハリー・スミスのコレクションはいま、オクラホマにあるボブ・ディラン・センター(※)に収納されているんですけど、マリサ・アンダーソンがそこに入ってカタログを一つひとつ見ていったら、カントリーとかフォークとかの中に、アメリカルーツではないものが入っていることに気づいたんですね。例えばレバノンだったり、ベトナム、カンボジアとかのものが入っている。アメリカの音楽として収集されたものの中にある、アメリカじゃない音楽。それを、ギターを使って演奏したのが、『The Anthology of UnAmerican Folk Music』です。マリサ・アンダーソン自身はアメリカ人の白人女性ですけど、ある意味アメリカの中から脱植民地的な回答を一個出してきた。その上で、作品としてものすごく優れています。
※編注:正確には、ボブ・ディラン・センターと隣接し、同じ財団が運営しているウディー・ガスリー・センター内のハリー・スミス・ライブラリー
松島:この辺は観測範囲外だったんですけど、マリサ・アンダーソンのアルバムはThrill Jockey(※)から出ているんですね。そういうコンセプトの作品がスリルジョッキーから出ているのは面白いことだなと。
※Thrill Jockey:シカゴのインディレーベル。Tortoise、Mouse on Mars、Future Islands、OOIOO、竹村延和など、ポストロック〜電子音楽のタイトルを多くリリースしている。
風間:そうですね。フリーインプロビゼーションとかの文脈も入っていて、アヴァンギャルドなことをずっとしてる人ではあるんですが、そういうところで捉えてもすごく面白かったですね。
上半期は「アメリカの中に何があるか」というテーゼを生み出していくものが多くて、象徴的なところで言えば「スーパーボウル」のハーフタイムショーのバッド・バニーがそうでしたよね。ラストで、アメリカ大陸の国を順にずらっと言っていくんですよ。「アメリカ」には、ブラジルだったり、もちろんプエルトリコだったり、カナダとかメキシコとかも含まれる。ヒスパニックやラティーノの「私たちも含めてアメリカなんだぜ」というメッセージでした。マリサ・アンダーソンにもそれと同根のものを感じました。こういう風なアプローチがこれからも増えていくんじゃないかと思います。

風間:その文脈でもう1枚紹介したいのは、7月の発売なので下半期になっちゃうんですけれど、Orquesta Akokánというキューバンビッグバンドの出した、その名も『América!』というアルバムです。彼らはマンボとかブーガルーとか、そういうのをずっとやってるビッグバンドなんですけど、彼らもラテンアメリカの文脈をふまえて「私たちも含めてアメリカなんだぜ」というテーゼをここにきて提示してきた。サルサという音楽自体がニューヨークで生まれた混血的な音楽なんですけれど、そういうことをふまえた上でやっている。後半の方にちょっとブラジリアンジャズが入っていたりとか。個人的にも大好きな内容です。素晴らしかったです。
前回話した「東京インディをローカルで捉える」みたいなこととも近くて、そうした足元を見直す目線が合わさってきた、と言いますか。アメリカに限らず各地でそういう動きは今後増えていくかもしれないと思います。
風間:デヴィッド・バーンが主宰するLuaka Bopというレーベルも、最初の頃はいわゆるワールドミュージックを牽引したレーベルのひとつで、例えばブラジルのトロピカリア時代のものをアメリカに紹介したりしていたんですが、2010年代以降にはゴスペルとか、アリス・コルトレーンのコンピレーションとかも出してたりするんですよ。というように、けっこう早い頃から、アメリカのローカルなものを捉えていて。
で、LEENALCHIっていう韓国のバンドがいまして、彼らがLuaka Bopから新譜を出したんです。韓国の伝統民謡とソウル、ファンクを融合させた音楽をバンドで、先日『Asian Pop Festival 2026』で観てきて、ものすごくかっこいいライブをしてたんですけれども。Luaka Bopから現行のバンドの新譜が出る、しかもアジアのアーティストというのは、たぶんものすごい異例です。
宗像:そうなんですね。Luaka Bopから出た東アジアのアーティストでパッと思いつくのは、喜納昌吉のベスト盤ですね。韓国のアーティストの、それも新譜が出るというのは、面白いなと思います。
風間:Luaka Bopもおそらく、各地でローカルを捉え直している動きに注目していて、その中で面白いアーティストを取り上げた。Luaka Bopの今後の動きは注目ですね。
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Joji、全米チャート5位の快挙
宗像:私のおすすめは、まずHave a Nice Day!『CLOUD NINE』……お前まだ言ってんのか、と言われそうですが、2010年代からずっと好きで。
松島:僕も大好きです! でも最近のことは追えていなかったので、どういう感じなのか聴きたいですね。
宗像:やっていることは相変わらず、エレクトロなのにオーガニックみたいな不思議な感じになっていて。アルバムは浅見(北斗)さんが一人で打ち込んでいるんですが、ライブになると5人体制になって、フロアでモッシュピットが起きるようなライブをやっています。浅見さんにこのあいだ10年ぶりにインタビューしたんですが、「毎日朝起きて夕方までに作業を終える」と言っていて、そんなヘルシーな暮らしでどうやってあんなめちゃくちゃなフロアを作ってるんだろう……って。エレクトロミュージックの1個のポイントとして、挙げておきたいなと思いました。
宗像:Joji『Piss In The Wind』の話もちょっとしたくて。Jojiって、若い世代で、世間的にどう捉えられてるんだろうというのを、風間さんとか松島さんに聞きたかったんです。
Jojiって謎の存在なところがあって、日本人らしいんですよね。正確な国籍はオーストラリアかもしれないんですが、少なくともお母さんが日本人で、日本出身ではあるんです。このアルバム、ビルボード200で5位になってるんですよ。2022年の“Glimpse of Us”は、ビルボードのシングルチャートでトップ10に入っている。日本で生まれたアーティストとしては坂本九に続く2番目の快挙をやっている人なんですよ。だけど、国内でほぼ顧みられない。MUSIC AWARDS JAPANの時代に、世界的な活躍が日本でほぼ顧みられない謎の状況があるんです。
宗像:聴いてみると、非常にダウナーでメランコリックで、戦争の時代だからなのかな? というぐらい、明るいポップなパーティーチューンとかが1曲もないんですよね。
松島:Jojiは間違いなく、日本の若いミュージシャンに大きな影響を与えているアーティストかと思います。88risingでのバイラルもそうですし、ある時期に先端的な部分を牽引していたアーティストのひとりなのかなと。例えばPeterparker69とかは間違いなくJojiの影響下にいるし、「BROCKHAMPTONとJojiが青春でした」っていう若い人はクラブとかにはめっちゃいますね。
だから、今回の新作は、たくさんの人が反応したわけではなかったんですけど、本当に「OG(※)が帰ってきた」みたいな、フランク・オーシャンが新譜を出したみたいなレベルで(笑)喜んでいる熱烈なファンもいる、っていう印象です。でも、全員の中でコモディティな存在になっているわけではない。という感じなのかなと。
※OG:ヒップホップ用語でOriginal Gangsta=偉大な先駆者。
宗像:なるほど。メディアにはあんまり取り上げられないじゃないですか。
風間:そうですね。ただ、Joji自身があまり日本ルーツを出してないというか、来日公演とかもないですし、もしかしたら本人的にもそこまで日本を重視してないのではないかという気もしますね。
松島:はい。あとは、こういう大きすぎる規模になると、日本の音楽メディアの批評が機能しなくなるという問題も、ずっとあるような気がします。紹介と宣伝はできるけど、突っ込んだ批評ができないという。ちょっと意地悪な言い方ですけど、逆にJojiの活動規模感がもう少し小さかったら、めちゃめちゃ取り上げられてたんじゃないんですかね、と思っちゃったりします。
宗像:いま松島さんがおっしゃった「紹介と宣伝はできるけど」。これは重要なフレーズですね。あとでMUSIC AWARDS JAPANの話題をする時にもこのことも話したいと思います。
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Worldwide Skippa、アルバムは傑作だけどちょっと心配?
宗像:あと、Worldwide Skippaの『Never Skip Me』。これは今年上半期で最も感銘を受けた作品のひとつです。この記事を読んでいるみなさんはもうご存知の方が多いと思いますけど、Worldwide Skippaは去年、“団結前夜”に対して“ダサくて助かる”っていうディスソングを出して。個人的にも、若手のラッパー、DANNY JINやWorldwide Skippaがそういうこと(=排外主義へのカウンター)をやっているのに感銘を受けたんです。その彼が今回アルバムを作って。
宗像:“ダサくて助かる”でも相手に対して「曲自体がダサい」と返したように、現行のヒップホップをちゃんと聴いていて、そのオタクであって、自分がその「いまの音」を作るというのをちゃんとやっている。というのと、『ナタリー』のインタビューでも「僕にできる最善のやり方は混ぜ込むことですね 」と言っていて、このアルバムでも実践しているのが、政治の話や社会の話をしていると聴いてもらえない、だから、ポップな曲を作って、そこに部分的に社会的な要素を入れていくんだ、と。そういう姿勢も含めて本当にいいなと思っています。
松島:おっしゃる通りで、こういう人が現行日本語ラップのメインストリームに切り込んでいって、サブリミナル的に、そういう発信を当たり前のことのように事もなげに歌う、っていうのは、すごくアクチュアルで重要な活動だと思います。なので、『Never Skip Me』は素晴らしかったんですけど、やっぱりリリックにも表れている通り、スキッパくんはいまギリギリのところでいま頑張っているんだなっていう感じも伝わってきて、ちょっとだけ心配になりました。スターダムに駆け上がるスピードが速かったし、そもそも彼の出自っていうのは、熱心なラップヘッズなんですよね。そこから自分がスターになってしまうっていう、特殊なルートをたどっている。
(『Never Skip Me』に収録されている)“バギー”という曲があって、これは『ワンピース』のバギーというキャラクターに自分をなぞらえている曲なんです。バギーというのは、自分の戦闘力はそんなに強くないんだけど、たまたま闘争のうねりに巻き込まれて、どんどん自分の存在が大きくなってしまい、四大勢力の一角にまで駆け上がってしまったっていうキャラクターなんです。そこと自分を結びつけているのは、コンプレックス的なものはやはりまだあるんだろうなって思うし、それでも自分はこれでいいっていう所信表明でもある。ちょっと自虐的なところもあり、彼はいろいろなものを背負いすぎな気もして。大好きだからこそちょっと心配ですね。
宗像:そうですね。上の世代が「スキッパくん頑張ってるな」みたいな感じだとよろしくないのかな……という気もしました。でもやっぱり、頑張ってほしいなって気持ちになりますね。
松島:はい。それでも背負うしかない、という決意も込みでのフルアルバムだったんじゃないかなと思います。
宗像:あともう1枚。シャッポの『Commonplace』というアルバムです。シャッポは、福原音さんと、細野晴臣さんの孫である細野悠太さんのユニットで、彼らはこの前の『WORLD HAPPINESS』でも、細野晴臣さんのバッキングを原田郁子さん、角銅真実さんと一緒にやっていました。
1940年代から60年代みたいな、日本のロック以前の文脈みたいなことをやってるんですよね。そこにラッパーも迎えたりして、2026年的な音にまとめている。戦前のアメリカ音楽みたいなところまでさらっと含めて音楽を作っていることに対して、不思議なバンドだなというのは感じましたね。
風間:たしかに。福原さんはすごくブギウギに精通していたりしますよね。細野さんのお孫さんがやっているということもあって、どうしてもはっぴいえんど史観的な文脈で見られるんだけど、特に福原さんは、それだけにはとどまらない野心がちゃんとある方で、プレイヤーとしてもものすごい上手いですよね。
宗像:自分たちをカテゴライズさせないぞ、みたいなところはすごく感じますね。特定の音楽に縛られたくないという感じはすごくしたし、そこも含めて面白いと思いますね。
風間:それもそうですね。アルバムの名前が『Commonplace』っていうのもすごい。そういうふうな野心の出し方に、個人的に感動したし、やっぱりこれも彼らにとってのローカルミュージックの捉え方なんだろうなと思います。特に、Neibissが参加している“近況報告”っていう曲は、本当によかったですね。ラップのフレックス(※)のことを近況報告って言うんだ、という。
※フレックス:成功を見せびらかす、手に入れたものを誇示する
松島:すごい。
風間:生活に落とし込むと近況報告になるんだ、っていう。しかもそれを考えてるのが、ラッパーではなく呼んだバンドの方だというのが、すごく面白かったですね。

宗像:あと私は、KroiがINCOGNITOと一緒にやった“Kinetic”も面白いと思いました。Kroiのような、いわゆるJ.ディラ以降のズレるリズムみたいなものを操るバンドが、メインストリームに出ていって、いまはもう代々木第一体育館とかでやってるんですよね。自分たちの趣味的な部分と、いろんな人に分かりやすい部分を行ったり来たりして、13000人くらい入る会場でやるぐらい人気になっている。ミュージックシーンの中で希望だと思っています。goetheという北海道のバンドが出した『circle』というアルバムも、そうしたJ.ディラ以降的なビートを操りながら、ポップミュージックをちゃんとやっている。ある意味で星野源みたいな。こういうバンドがメインストリームにどんどん出てくると面白いことになるんじゃないかと思いますね。