10月16日(金)に全世界同時公開された『ストリートファイター/ザ・ムービー』。監督は、悪ノリコメディ『バッド・トリップ~どっきり横断の旅~』(2021年)のキタオ・サクライ。一方、リュウを演じるのは、ドラマ『ウォリアー』(2019年~2023年)で武術の達人を演じてきたアンドリュー・小路だ。
ふざけ倒す演出と、大真面目な演者。その組み合わせは、ゲームの再現度を何より気にするファンの目にどう映るのか。黒帯のくたびれ具合から春麗の大腿筋まで、10代の頃にリュウの真似をして空手着の袖をボロボロにしていたハシマトシヒロが、本作の細部を語る。
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ヴァン・ダムのガイル、清水宏次朗のリュウ。シリアスだった歴代映像化
対戦型ゲームの最高峰ともいえる『ストリートファイター』シリーズは、過去何度も映像化されている。そしてそれらの世界観は、基本的にシリアスだ。

1994年の映画『ストリートファイター』は、曲がったことが大嫌いで、熱く硬派な軍人・ガイルが主人公。ジャン=クロード・ヴァン・ダムが演じているだけあって、ガイル得意のサマーソルトキックはゲーム同様に美しく、跳び後ろ回し蹴りのキレは芸術的ですらあった。
同年のアニメ版『ストリートファイターⅡ MOVIE』においては、定石通りリュウが主人公。無骨でストイックな、イメージ通りの姿で描かれているリュウに声を当てているのは『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズ(1985年~1988年)のヒロシ役も務めた、清水宏次朗だ。
ヒロシといえばケンカは強いが女好きであり、そのキャラに清水宏次朗はガッツリハマっていた。だが、リュウは正反対の硬派キャラである。相方のケンが女好きに描かれやすい一方、リュウに女性の影は見当たらない。案の定、清水の声の演技はぎこちなく、お世辞にも上手だとはいえなかった。ケンの声を務めた羽賀研二は、ディズニー『アラジン』で主人公の吹替を務めたほど声の演技が達者であるため、余計にリュウの「ぎこちなさ」が際立つ。だがその不器用さが、かえってリュウというキャラのパーソナリティに合っていたともいえる。
2009年の『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』は、タイトルが示す通り、春麗(チュンリー)を主人公としたスピンオフである。裕福な家庭で育った少女が、ベガ率いる悪の秘密結社・シャドルーに父をさらわれ、修行を経て武闘派の女性へと覚醒するまでを描く。
惜しむらくは、戦闘時の服装が黒のボディスーツであること。ゲーム版『ストリートファイターZERO』に寄せた可能性もあるが、春麗といえばやはり、チャイナドレスに素晴らしく発達した大腿筋である。『スト2』の映像化であれば、やはりファンが期待するのはキャラの再現度だ。アクションがキレていたため、その点がもったいないと感じた。
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『バッド・トリップ』の監督が撮った、「わけのわからんパワー」に溢れている実写版
そして最新作、『ストリートファイター/ザ・ムービー』である。本作は、過去のどの映像化作品とも似ていない。すべての過去作を笑い飛ばすような、わけのわからんパワーに溢れている。
本作を観る際は、Lサイズのポップコーンとコーラを買い込んで観てほしい。いや、できることならビールでも飲みながら観てほしい。毎回応援上映のように、ツッコミながら観られるようにしてほしい。高尚な考察なんか、一切する必要はない。ちょこちょこ挟まれるクドいギャグに笑いながらポップコーンを食い、演者たちの本気の戦いの熱に煽られながら飲むビールは、格段に美味いはずだ。
なにしろ監督のキタオ・サクライは、コメディ畑出身である。前作はロードムービー悪ノリコメディ『バッド・トリップ~どっきり横断の旅~』という、「最低」の映画だ。ちなみにこの場合の「最低」とは、エド・ウッドの『プラン9・フロム・アウタースペース』(1959年)やジョン・ウォーターズの『ピンク・フラミンゴ』(1972年)を最低と言うようなニュアンスだ。つまり、「最低で最高」という意味だと思ってもらえればいい。この作品の主人公は、本作ではあのウザいリングアナウンサーのドン・ソバージュを演じているエリック・アンドレである。その時点である程度想像がつくと思うが、本編84分中、80分はふざけている。そしてそのうち50分は下ネタだ(体感時間)。監督も泥酔して撮ったのではないかと疑ってしまう内容で、酒でも飲みながら複数人で観るのが正しい鑑賞法だ。素面のままひとりで観てはいけない。悪い夢を見る。筆者のように。
そんなサクライ監督の撮った本作だが、もちろん演者たちは大真面目である。ガイル(コーディ・ローデス)はあのガム取りヘラみたいな髪型を忠実に再現しているし、その他のキャラも、基本的にゲーム準拠だと思ってもらっていい。

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若き日の藤岡弘、のような武道家。アンドリュー・小路の『ウォリアー』とブルース・リー
中でも素晴らしいのが、主人公リュウの造形である。演じるアンドリュー・小路が、これ以上ないほどにハマっている。若き日の藤岡弘、を彷彿とさせる、無骨で融通の利かなそうな昭和の武道家然とした風貌。突きひとつ、蹴りひとつを取っても、演者自身が真面目に武道を稽古してきたであろう重みを感じさせる。この「重み」は、運動神経が良く、単に技の見た目だけを器用にこなす俳優には、決して出せないものだ。
また、強さを追求するあまり、闇落ちしそうな危うさをもまとっている。『鬼滅の刃』(2016年より連載開始)でいえば、あくまで鬼化を拒否した煉獄杏寿郎ではなく、弟を超えるために鬼化を選んだ黒死牟のような執念だ。

アンドリュー・小路のアクションは、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』(2021年)においても、『ブレット・トレイン』(2022年)においても、素晴らしく冴えている。特に『ブレット・トレイン』においては真田広之の息子役を演じており、長年のアクション映画フリークとしては、涙が出るほどに感慨深いカップリングだった。
だが、彼を語る上でもっとも重要な作品は、主演を務めたドラマシリーズ『ウォリアー』だろう。同作は、西部開拓時代のサンフランシスコを舞台に中華系反社組織の世界に身を投じる武術の達人、ア・サームの生きざまを描く。そのア・サームを演じているのが、アンドリュー・小路。対立する組織の人間、あるいは差別感情をむき出しにする相手に、彼の鉄拳が炸裂するのだ。
そもそも『ウォリアー』は、1970年代にかのブルース・リーが自らの主演を前提に構想を練ったものではあるが、アンドリューはリーの演技に寄せてはいない。彼オリジナルのア・サーム流アクションを構築している。例えば、リーならば横蹴りで吹き飛ばしそうな流れで、アンドリューは旋風脚を蹴る。その素晴らしく伸びのある旋風脚が、発展技ともいえる「竜巻旋風脚」(※)に繋がったのだろう。
※竜巻旋風脚:『ストリート・ファイター』の有名な必殺技(コマンド:↓ ↙ ← + キック(K))
だが、ブルース・リーへのオマージュも忘れてはいない。番外編ともいえるシーズン1第5話では、相手の頸をひねり折ったり、ハイジャンプからフットスタンプ(※)を決めたりと、リーをイメージしたアプローチを見せている。
※フットスタンプ:両足(または片足)の裏で激しく踏みつける打撃技
フットスタンプの際にきっちりスローモーションにする点も、『燃えよドラゴン』(1973年)で、リーが妹の仇・オハラを踏み殺す有名なシーンと同様である。この話だけ突然西部劇チックになるため、「もし西部劇にブルース・リーが出演したら」という想像が働き、趣深い。
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黒帯のくたびれ具合まで本物
本作の話に戻るが、彼の演じるリュウは、クソ真面目な武道家だ。そのクソ真面目具合が、サクライ監督の真面目とは程遠い演出の中では逆に浮いてしまい、そこはかとないおかしさや可愛らしさ、不器用ゆえの悲しみまで醸し出してしまう。
また、先程も本作におけるキャラ再現度の素晴らしさに触れたが、特筆すべきはリュウの空手着の造形である。
特に素晴らしいのが、その黒帯のくたびれ具合だ。黒帯は、白帯・色帯に比べて硬い生地でできているため、使い込むと劣化して、いい感じの風合いが出てくる。映像ではわかりにくいが、劇場用パンフレットで確認する限り、彼の黒帯の劣化具合は、毎日毎日何年間も稽古している人間のそれである。

こういったディテールにこだわったアクション映画は、意外に少ない。ひどい作品になると、黒帯が浴衣の帯のような材質だったりもする。衣装を手掛けたキム・バレットは、アンドリュー自身の私物の黒帯の写真を何枚も送ってもらい、参考にしたそうだ。これは、アンドリュー自身が、しっかりと稽古をしている武道家でもある証といえる。
これは余談だが、ゲームとしての『スト2』がブームを巻き起こした1990年代の一時期、現実のフルコンタクト空手の世界でも、リュウの真似をして、空手着の袖をわざとボロボロにするのが流行ったことがある。道着の袖を途中で切りっぱなしにすることにより、ほつれてボロボロになっていく。これは黒歴史だが、当時10代の筆者も当然やっていた。それがカッコいいと思っていた。その頃の写真はすべて捨てた。さすがにリュウのように肩からバッサリいく勇者は少なかったが(いるにはいた)。
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春麗の大腿筋、実際のUFC王者、マ・ドンソク……語りたいポイントがたくさん
リュウと並んで再現度が高かったのが、カリーナ・リャン演じる春麗だ。青いチャイナドレス。そして、美しく発達した大腿筋の持ち主である。『レジェンド・オブ・チュンリー』の際に惜しいと思った点が、すべて払拭されている。チャイナドレスから覗く上半身も、細く締まっていながらも、大胸筋や広背筋がよく発達している。

彼女は、元よりマッシブだったわけではない。『プレゼンス 存在』(2024年)や『BAD GENIUS/バッド・ジーニアス』(2024年)の頃は、ごく普通の華奢な女性だった。『バッド・ジーニアス』においては優等生の秀才キャラであり、アクション性は皆無だ。
春麗役が決まった際、「この脚は春麗の脚ではない!」ということをもっとも痛感したのは彼女自身で、週6日、1日2時間のトレーニングを自らに課し、あの大腿筋およびアクションを身につけたという(劇場用パンフレットより)。
本編中に、横蹴りを相手の顎に決めた体勢のまま、相手を持ち上げて静止しているシーンがある。さすがに特殊効果ありきの画だとは思うが、そのシーンに説得力を持たせるに足る、そんな大腿筋だった。

ひとりひとりを語りだすとキリがない。たびたび白目をむく、ベガ(デヴィッド・ダストマルチャン)のいい意味での気持ち悪さ。絶対裏切ると思っていたのに最後までいいヤツだったダン(アンドリュー・シュルツ)。ゲームのキャラそのままに手脚が伸びるダルシム(ヴィドゥユト・ジャームワール)。現実のUFC王者であり、リアルでは全出演者最強の男のはずなのに小物臭がハンパなかったジョー(アレクサンダー・ヴォルカノフスキー)。

そして、劇中のアニメパートにしか出ない剛拳に声優としてマ・ドンソクが参加するという、大いなる無駄遣い。筆者は時間の都合上吹き替え版で観たため、マブリー(マ・ドンソク)は出ていないも同然である。
ネタバレになるため詳細は書かないが、この作品、続編作る気満々である。続編が実現したならば、今度こそビールを飲みながら観られるよう、公共交通機関で劇場まで行く所存だ。
映画『ストリートファイター/ザ・ムービー』
大ヒット公開中!
■監督:キタオ・サクライ
■製作総指揮:J・J・フック、ジェイ・アシェンフェルター、辻本憲三、辻本春弘
■製作:メアリー・ペアレント、ケイル・ボイター、ジェイソン・モモア、中山貴之、ステファン・マクール
■出演:ノア・センティネオ、アンドリュー・小路、カリーナ・リャン、ジョー・“ロマン・レインズ”・アノアイ、デヴィッド・ダストマルチャン、コーディ・ローデス、アンドリュー・シュルツ、ヴィドゥユト・ジャームワール、エリック・アンドレ、オーヴィル・ペック、オリヴィエ・リヒタース、後藤洋央紀、ライナ・バランディンガム、アレクサンダー・ヴォルカノフスキー、カイル・ムーニー、メル・ジャーンソン、With カーティス・“50セント”・ジャクソン、And ジェイソン・モモア
■日本語吹替版キャスト:高橋広樹、岸祐二、折笠富美子、武虎、楠大典、安元洋貴、楠田敏之、江川大輔、チョー、諏訪部順一、三宅健太、永野善一、たなか久美、沢城みゆき、鶴岡聡、うえだゆうじ、狩野英孝、なだぎ武、丹生明里、葛葉
■原題:Street Fighter
■配給:東和ピクチャーズ・東宝
コピーライト:ⓒ2026 Capcom and Legendary. All Rights Reserved.
■STORY:
舞台は1993年。かつて、共に天才格闘家として名を馳せ、兄弟のような存在であったリュウとケン。ある理由により疎遠になった二人のもとに、謎の女性格闘家・春麗が現れ、“ワールドウォリアー・トーナメント(世界格闘王決定戦)”の招待状が差し出される。ルールなし、リミットなし、容赦なしの【ザ・最強】を決める世界最高峰の頂上決戦だ。大会に出場するにあたり、リュウとケンは互いに拳を交わし、世界最強の猛者たち”ストリートファイター“と戦うことになる。トーナメントが進むにつれて、この大会は単にチャンピオンを決めるだけではない、大いなる陰謀が隠されていることが明らかになる・・・
リュウとケンが過去に葬り去ったはずの究極の悪夢が再び蘇る。この絶体絶命の敵を前に、二人は力を合わせ、その拳で運命を変えることができるのか?