“Obsessed“の大ヒットで世界に衝撃を与えたAyumu Imazuと、彼が昔から尊敬しているアーティストだというSIRUP。「バズ」や「世界での活躍」など、大雑把に語られがちなテーマをパーソナルな切り口から語ってもらいつつ、SIRUPがホストを務めるイベント『Grooving Night』への参加の意気込みと、2人の「社会との接点」について聞いた。
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大阪出身という共通点。初対面から深い話に
―お2人はどのようなきっかけで出会ったのでしょうか。
SIRUP:元々インスタで繋がっていて、2022年にアメリカに旅行で行ったたとき、Ayumuがいるニューヨークにも行ってみようかっていう話があって。行くことになったら連絡するわ、とDMでやり取りをしていたんですが、その時は結局スケジュールが合わなくて。その後、渋谷でしっかり喋りました。
―1対1で?
SIRUP:そう、1対1で。お互いに大阪出身だから、地元の話とかもしたよね。その後も2回ぐらい一緒に飲みました。
―Ayumuくんは2019年にSIRUPの“Do Well”のカバー動画も上げていますよね。
Ayumu:元々SIRUPさんの曲が好きでカバーもしていたので、あの動画を見て「めっちゃ良かった」と言ってくれて嬉しかったです。
SIRUP:全部チェックしていました。
―お互いに初めて話してみた時は 、どんな印象でしたか?
SIRUP:会うまでは「ニューヨークに住んでる方」、みたいなイメージが強かったけど、会ってみたら思っていたよりも「大阪の子」って感覚がありましたね。自分でやりたいことやキャリアをコントロールしているし、なぜそれらをやっているかをハッキリと考えていたので、すごいなと思いました。
Ayumu:初めて会った時から喋りやすかったです。価値観も似ていて、初対面で深い話ができたことは新鮮だったなと。
―アーティストとしての「生き方」みたいな所も近いと感じましたか?
Ayumu:そうですね、あとは、アメリカや日本の音楽に対する考え方も似ているなって。
―一番興味深かった話は何だったか覚えていますか?
Ayumu:アメリカへ留学して、歌の壁の高さを感じる一方で、ダンスには可能性を感じました。今はまた少し考えが変わったんですけど、その時は、アメリカではダンスを頑張りたいと話しました。
SIRUP:これだけ楽器も歌もできて、曲も作れて、プロジェクトもちゃんとしているのに、「ダンスがやりたいんです、本当は」みたいな感じのことを話していて。そこが面白かったです。
―それが今はどのように変わっている?
Ayumu:2020年、2021年はダンスを頑張りたかったし、そこからプロデュースを頑張ろうとも思ったりしましたね。でも逆に最近は、またダンスに戻ってきています。
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SNSでバズって変わったこと
―若い世代の間では音楽それ自体よりSNSでのバズや人気の方が大事という考えが定着してきたり、音楽レーベルも「どうやってバズらせるか」に意識が向いていますが、今はまさに転換期だと思っていて。TikTokやInstagramというプラットフォームが無くなってしまったらその努力はどうなるのかと思うし、インターネットの在り方は変化していくのに、そこに集中して乗りこなすのは大変だなと。Ayumuくんは“Obsessed”が世界的にバズったことで、何か変わりましたか?
Ayumu:TikTok1本の動画がここまでの数字を持ってきてくれると分かって初めて、SNSに力を入れたくなる理由もよく分かった。頑張っても数字が見えなかった時は、SNS自体がちょっと馬鹿らしくなってしまうこともあったんです。でも“Obsessed”があって、SNSでの発信もある意味気楽にできるようになったし、コンテンツも楽に作れるようになりました。
―事前にもらっていたAyumuくんからSIRUPへの質問で「シンプルなサウンドの曲が流行りやすい最近の傾向をどう見ているか」というのがあったけど、“Obsessed”もシンプルなサウンドですよね。Ayumuくんとしては“Obsessed”がバズって、音楽の作り方は変わった?
Ayumu:曲自体は好きだけど、シングルでは絶対に出さないような曲だと思ってたから 、今の時代にTikTokがあって良かったなと思って。反応を見て調子が良かったらリリースしよう、くらいの感じでその時は出してました。
―SIRUPの“LOOP”もバズった曲だけど、元はボツにしようとしてたんだっけね。
SIRUP:そうそう。今までのAyumuの曲はギミックが多かったけれど、“Obsessed”はそうじゃなかった。SNSでミニマムな曲がバズるのは、聴く人が反応しやすいからなのかな。
Ayumu:TikTokやInstagramのリールは、フルで聴くというより、「動画の後ろで流れている10秒くらいのものを聴く」っていう解釈が近いですよね。だから、ミニマムなサウンドで分かりやすい曲が伸びるのかもしれないです。
SIRUP:“Obsessed”はこれまでの「超かっこいいAyumu Imazu」とは違って「Ayumuくん~!」みたいな親しみやすい一面もあったし(笑)、歌われている内容にリアリティがあったから、ファンも喜んでくれたんじゃないかな。
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「社会的なことを語る 」イベントだからできること
―今回2人が共演する『Grooving Night』はテーマが「『音楽・社会・人』をつなげる新しい音楽イベント」で、音楽ライブと社会問題についてゲストと語るトークセクションの2部制のイベントです。今まで3回開催してきて、SIRUPはどのような想いでこの企画のホストをしていますか?
SIRUP:始めた理由としては、社会に対して音楽以外の発信をした時、SNSだけだと伝わりづらいと思ったのがあって。『Grooving Night』ならライブがあるから、社会と音楽やライブがどれだけ繋がっているのかを重苦しくなく、メッセージが理想的な形で伝えられると考えました。それに、トークを通してゲストアーティストの考えを知って、今まで聴いていた曲の聴き方が深くなるという体験をお客さんに持って帰ってもらえたらなと思っています。
―日本だとアーティストが「選挙に行こう」と言っただけで「音楽は好きだったのに、政治と結びつけるのは残念」と言われたり、ライブのMCで社会的な話をすると「ライブは現実逃避だからリアルの話をしないでほしい」という人もいる。そういった中であえて「社会的なことを語る場です」と宣言することで、話せることが増えるよね。
SIRUP:社会的なことに関心があるリスナーが徐々に増えてきたタイミングでスタートしたのもあって、これからもっと大きな流れになればいいなと思っています。
―これまでの『Grooving Night』で面白かった話、記憶に残っている話は?
SIRUP:2回目の開催のとき、ショウくん(OKAMOTO’Sのオカモトショウ)がしてくれた 結婚の価値観の話は面白かった。結婚している人が結婚観の押し付けに関して語るのは、日本だとかなりレアだったと思う。例えば「嫁が家で待っているんだろう」とか「いつかは家族を持つんでしょう」みたいな、結婚している人に対しての周りが価値観を押し付けることに対して「それは人それぞれの選択でしょ」っていう話を、実際に結婚している彼が大勢の前で語れたこと自体に意義があったと思います(レポート記事:SIRUPとオカモトショウ(OKAMOTO’S)による、社会を変えるための対話。「答えがひとつじゃないことを前提に話すことが理想」)。
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他イベントにも導入推進したい、視聴覚障害鑑賞サポートとマイノリティの人権推進のための取り組み
―トーク以外でも「誰も取り残さない」取り組みとして、視覚や聴覚に障害のある人への鑑賞サポート(※1)や性的マイノリティとその家族、アライの尊厳と権利を守る活動をするNPO法人「虹色ダイバーシティ」のブース出展(※2)などを通じて社会課題について取り組んでいますが、今回そういったイベントにAyumuくんを呼んだ具体的な意図は?
※1編注:2024年3月に開催した『Grooving Night #3』開催時、聴覚障害のある人たちには、ステージにリンクさせた字幕や映像が映し出されるメガネ型ディスプレイを導入。また、弱視の人たちを対象に、ステージ上の映像を手元で鑑賞できるタブレットを導入した。
※2編注:SIRUPはかねてより性的マイノリティが受け入れられていない日本の社会に提言をしており、前回開催時は認定NPO法人「虹色ダイバーシティ」が運営する常設LGBTQセンター『プライドセンター大阪』のブース出展があった。
SIRUP:アーティストとして素晴らしいのはもちろんだけれど、いわゆるブラックミュージックをやっているのにその文脈を学ばない人が残念ながら多い中で、Ayumuとは初めて会った時に人種差別の話とかをリアルに話せたんです。『Grooving Night』に関してはそういった話ができる人にオファーしたいと思っていたので、お誘いしました。
―イベントに参加するにあたって、Ayumuくんはどのような想いを抱いていますか?
Ayumu:まず、SIRUPさんと対バンできること自体が嬉しい。それに加えて、社会問題をライブに持ってきて話せる場を作るという、企画自体が素晴らしいなと思いました。僕は普段から社会問題について発言するタイプではないのですが、考えていることもたくさんあるから、少しでも共有できたらと思っています 。
―私は書く側だけど、インターネットで発信したこと、書かれていることがまるでその人の「全て」かのように捉えられてしまう風潮を感じます。社会問題についてインターネットで発言しなきゃいけないとは思わないし、日本人はディスカッションが苦手だと 一般的に言われている中で、このイベントはレクチャーではなく、みんなで一緒に考えることを趣旨にしていますよね 。
Ayumu:それが良いなと思いましたし、自分が思っていることを押し付けるのではなく、話し合える環境を作ることは大切だと感じるので、このイベントはすごいなと。
―SIRUPとは、具体的にどういう話がしたいですか?
Ayumu:ダンスを6歳から続けているんですけれど、日本ではダンサーが守られていないと感じていて。アメリカだとダンサーのユニオンがあって、最低賃金も決められていて、発言できる環境が整っている。でも日本では、「言われた条件でなんでもやります」という人がどんどん出てきてしまうから、問題に対して発言がしづらい環境だと思うんです。それは改善していきたいです。
SIRUP:コレオ(コレオグラフィー / 振付師)に関しても課題感があるんだよね。
Ayumu:はい。コレオには、著作権が発生しないんですよ。だから振付師が1回OKを出せばTikTokなどで多くの人が踊って、自分のものじゃなくなってしまう。この現状も改善したいと思っています。
SIRUP:韓国政府が振り付けの著作権ガイドラインを作る話はどこまで進んだんだろう。
―私も著書『世界と私のAtoZ』(講談社、2022年)の中で、例えば黒人の一般人の子がTikTokで振り付けを作ったのに、著名インフルエンサーであるチャーリー・ダミリオにカバーされて、チャーリーの振り付けみたいになってしまう問題について書きました。
Ayumu:最近、韓国ではコレオがどこから来たのかっていうクレジット表記は大事にされてきている気がします。
SIRUP:クレジットとか音楽的な話は過去3回の開催の時はしていないから、今回はそういった話を知ってもらうのも大事だと思います。
―アーティストがメジャーになればなるほど、自分や業界の問題を話さないことが定着してしまっていると思います。それによってリスナーは綺麗にパッケージ化されたコンテンツとしてアーティストや作品を消費できてしまうし、「アイドルは『辛い』とか言ってほしくない」みたいな傾向も強まっている。一方で、ビリー・アイリッシュやオリヴィア・ロドリゴのようにリアルを教えてくれるアーティストも登場していて。会場に来てくれた限られた人数ではあるけれど、アーティストならではのリアルな苦悩 や音楽業界の問題がお客さんに伝わることは、業界全体の持続可能性に繋がると思います。
SIRUP:本当にそうだね。
Ayumu:ダンスも含め、黙ってやっているだけでは改善されないことを感じます。
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自分がやりたいことを突き詰めていれば、それが個性になる(Ayumu)
―SIRUPが海外にも活動領域を広げているのは、音楽を通じてさまざまな経験がしたいという「人生へのロマン」的な要素があると思っていて。Ayumuくんはリアルにアメリカに住んでいるし、アメリカの若者のリスナーも多くてSIRUPとはまた違ったスタイルの活動だと感じていますが、海外で活動しようと思ったきっかけは何だった?
Ayumu:14歳の時にニューヨークへ留学に行けたことが全てです。一番吸収しやすい時期にニューヨークにいることができて、アーティストとしてのスキルはもちろんですが、「人としてどんな人でありたいか」について考えたし、自分がどんな風に見られているのかを客観視できました。
―14歳って、日本に住んでいたとしても色々なアイデンティティを発見する時期だと思うし、大人になってから海外に行ってカルチャーの違いを感じるのとも違うと思うんだけれど、どういったことを感じました?
Ayumu:日本人がどういった風に見られているのか、客観視できたのは大きかったです。アメリカに住んで初めて、自分が外国人として生きることを経験しましたので。
―特にニューヨークは人と違うことをするのが成功への近道みたいな部分があるじゃないですか。自分を客観視することで、何をしたら人と違って見えるのかわかったのかな。
Ayumu:みんなが個性的だから、意図的に人と違うことをやろうとしなくても、自分がやりたいことを突き詰めていればそれが個性になるとわかった気がします。
SIRUP:聞いていて思ったのは、俺が14の時は中学校の友達のことしか考えてなかったけど、Ayumuは世界中に共通言語としてあるダンスをやっていたから、世界という文脈で見ることができたんだろうなって。
―SIRUPは日本での活動と海外での活動で、どのようなところにギャップを感じますか。
SIRUP:俺は大人になってから海外でライブをするようになって、ライトなところで言うと、例えばライブや音楽に対して日本人と海外の人が反応するポイントの差があると感じています。Ayumuにも聞きたいな。
Ayumu:アメリカのアーティストと交流していて一番感じるのは、日本だとチームで動くと思うんですけど、アメリカは本人1人の周囲にスタッフがいる感じで、日本よりも責任感が強いなと思います。
―アーティスト本人が決めなきゃいけないことが多い、みたいな?
Ayumu:それもそうだし、やり方が根本的に違う。フィーチャリングしてくれたMAXは事務所のスタッフ全員を自分で動かしているようなすごい人で、日本にも同じような人はもちろんいるけど、アメリカではそのやり方が主流だというギャップを感じました。
ー日本だとアーティストに負担をかけないように周囲が動いてくれているけど、結果としてアーティスト本人の主体性がなくなっている場合もあるよね。
SIRUP:「アメリカはみんな主体性があるから全然まとまらない」みたいな話を想像していたけど、全く違ったね。
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10年で変化したアジア系の活躍
―事前に聞いたSIRUPからAyumuくんへの質問で、「日本のR&Bやダンスミュージックシーンをどう見ていますか。どういったことを意識していますか」というのがありました。
SIRUP:Ayumuはアメリカに住んでて生活環境が全く違うし、普段は英語を使っている中で、どういう風に日本の音楽を聴いているのか気になる。
Ayumu:邦楽で一番好きなのは、実はJ-ROCKなんですよ。RADWIMPSとかバンドを聴いていると、オリジナリティを感じます。アーティストにもよりますが、日本のアーティストが作るR&Bやヒップホップはコピーアンドペーストになっちゃう傾向を感じていて、そういう曲はあんまり刺さらないかな。
―SIRUPが色々な国に行って、どこに行っても同じ問題はあるとわかったり、逆に日本でフラストレーションが溜まるポイントが 他の国では当たり前ではないと気づけたのは希望だと思うんです。Ayumuくんがニューヨークに住んでいて感じた希望はありますか?
Ayumu:2014年に初めてニューヨークに行った時と現在で、アジア人の受け入れ方が変わってきています。10年でここまで変わるというスピード感に驚いていますし、音楽業界に限らず社会全体が動いている気がするのは希望です。
―アジア系アーティストに回ってくるチャンスの量が10年前とは全く違うよね。
Ayumu:そう、全然違う。
―TikTokではアジア系イケメンがバズるし、88rising(※)がアジア系による音楽基盤を作ったことで、アジアの音楽はK-POPやアニソンだけじゃないんだって伝えられた。
※編注:2015年にショーン・ミヤシロとジェーソン・マーが設立した、アメリカを拠点としてアジアのカルチャーシーンを世界中に発信するメディアプラットフォーム。
Ayumu:10年前にアジア人の見た目が褒められることはほとんどなかった気がするから、ライトなところで言うと、そういったことから変わってきたかな。
SIRUP:わかる。俺も髪型がK-POPっぽいみたいなビジュアル的な理由で、恩恵を受けていると実感する。日本で暮らしていると、例えばK-POPの流行は日本人が国外に出れる文脈だと感じるけど、アメリカに住んでいる人から見ると、アジア人の権利拡大になる。視点によって見え方は違うけれど、感覚は共有しているなと思います。
Ayumu:アメリカと日本を行き来していて思うのは、結局どっちも良いとこも悪いとこもあるし、自分の捉え方次第だと思いますね。
SIRUP:日本だと「音楽業界の既存の文脈に乗らないと売れないから、何かを諦めないといけない」風習が、全然変わっていないと思っていて。SNSが広まったことで自分たちで選択肢を切り拓ける可能性もあるのに、それをやろうとしない人とは考え方の乖離が大きいから、交われなくなってしまった人も増えた。
Ayumu:それはあるかもしれない。
SIRUP:アーティストはどこまでいっても孤独な戦いだから、「やるべきこと」と自らが受け止めなくてはいけないと思うんです。抽象的ではあるけど、その視点がある人の音楽とない人の音楽では、心にくるものが違うと思う。