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誰もが大喜利をする時代に。MONO NO AWARE玉置周啓が「メッセージ離れ」を選んだ理由

2026.11.6

MONO NO AWARE『Passion Tours』

#PR #MUSIC

MONO NO AWARE、絶好調。新たに届けられた『Passion Tours』は、意気揚々と帆を進める4人による、肩の力の抜けた、風通しの良い作品だ。

「食」をコンセプトに据え、その巧みな描写力とパワフルなアンサンブルで絶賛を集めたアルバム『ザ・ビュッフェ』から約2年半。舞台演出ユニットのGROUPNを迎えた大規模公演『波止場大サーカス』や全国ツアーのみならず、アジア各国の音楽フェスティバルに招聘されるなど、MONO NO AWAREというバンドのキャラクターがいよいよ多くの人々の知るところとなった。

そんな中で放たれた『Passion Tours』では、装飾をできるだけ排した、まさに生のMONO NO AWAREの4人の姿を確認することができる。今作のコンセプトは「旅」。ただし、仰々しい看板のようなものはない。あるのは、レンタカーを借りて海まで小一時間走るくらいの気ままさだ。

取材で玉置周啓(Vo / Gt)は、今作の空気感を「行きたさ」や「兆し」といった言葉で喩えた。楽曲やポッドキャストで見せてきた観察眼を意図的に閉じてまで、約50分の音の波に揺れることを選んだ、その真意をいくつかの角度から探った。

「僕ら的には、今こういうのがアツい」。ノリで撮った九十九里での一枚

─このプロフィール写真、素敵ですね。

玉置:そう、このノリね(笑)。本当は小見山(峻)さんと沖縄でのライブの後に撮る予定だったんですけど、台風の影響で合流できず、ライブから帰ってきてそのまま直行した九十九里の浜辺で撮った写真なんです。

色々考えたけど、その場のノリで小見山さんがカメラを取り出して撮った一枚がこれで。最後に撮った、本当に何も考えてない一枚。バイブスしかない。

(写真左から)竹田綾子(Ba)、玉置周啓(Vo, Gt)、加藤成順(Gt)、柳澤豊(Dr)
MONO NO AWARE(モノノアワレ)
東京都八丈島出身の玉置周啓と加藤成順が、大学で竹田綾子、柳澤豊と出会う。FUJI ROCK FESTIVAL’16 “ROOKIE A GO-GO”に出演し、翌年の投票でメインステージに出演。2024年6月にリリースした5thアルバム『ザ・ビュッフェ』が〈APPLE VINEGAR -Music Award-〉の大賞を受賞。2026年10月21日に6thアルバム『Passion Tours』をリリース。

─『ザ・ビュッフェ』(2024年)を発表する前後から、MONO NO AWAREというバンドにおいて「ノリ」を重視する姿勢が顕著になっていったじゃないですか。このプロフィール写真はその象徴というか。

玉置:うん。僕ら的には、今こういうのがアツい。

─約2年半前に発表した『ザ・ビュッフェ』はバンドにとってのブレイクスルーとなり、今に至るまで実に充実した時間を過ごしたのではないかと。

玉置:そうですね……大きな変化としては、ライブにエネルギーが満ち溢れてきたんです。“同釜”がデカいと思うんです、あれをライブでやると、お客さんと自分たちが何も考えてない状態で接続できるというか。

歌詞に感動してもらうとか、良いメロディーを聴くとか、そういう話じゃなくて、ただ音が出ててお互いに楽しい。『ザ・ビュッフェ』以降はバンドからポジティブな波動が出てますね。

前作の評価を引き継がず、音楽を逃げ場に戻す

─玉置さん自身から出てくる言葉も「ノリ」を重視したものに変わってきていますよね。「バイブス」とか「ポジティブな波動」とか。

玉置:あー、そうなってますね。メッセージ離れみたいなことを考えていて、それが大きいのかもしれません。

─メッセージ離れ?

玉置:『ザ・ビュッフェ』を作った時は「食」をテーマに色々なメッセージを込めていたけど、今回の『Passion Tours』はそもそも伝えたいことが特になかったんですよね。「旅」がコンセプトになっているけど、旅を通して伝えたいことがあるわけではなく、「旅の高揚感を取り戻そう!」みたいな目標がただあっただけで。

玉置周啓(Vo, Gt)

─なるほど。

玉置:というのも、なんか社会に対する、うーん……例を出そうとするだけで体調悪くなっちゃうというか、マジであんまり考えたくないんですよね。『ザ・ビュッフェ』を作った頃には社会に対する自分の反応が多分にあって、それを表現したい欲求も持っていたんです。でも、『Passion Tours』はもう、何も言うことがない。そこからスタートしてる。

─メッセージから離れたいというか、疲れたというか。

玉置:言うことがありすぎてホワイトアウトしちゃったんです。世界は問題だらけで、刺激だらけで、とても自分だけでは処理しきれない。誰を見たらいいのかもわからないし、どれがどの「氷山の一角」なのかもわからない。

そんな時にポッドキャストでTaiTanくん(※)が教えてくれた土門蘭の『ほんとうのことを書く練習』(ダイヤモンド社)とか、ちょっと前に出てた東浩紀の『平和と愚かさ』(ゲンロン)とかが繋がりはじめたんです。

※TaiTan:Dos Monosのラッパー。玉置とポッドキャスト『奇奇怪怪』のパーソナリティを務める。

玉置:つまり、見えなかったことについて考えはじめると、他者の要素が自分の中にどんどん増えていくじゃないですか。それは世界を知ることだと思うんですけど、同時に自分を駆動していたものを忘れてしまう。結果的に対応しなきゃいけない課題ばかりが乱立していくような感覚に気づいたんですよね。それってなんか……俺、向いてねぇなって。

多分ミスったんでしょうね、俺は。情報をのべつ幕なしにピックアップするような数年間を送ってしまった。それに『ザ・ビュッフェ』で評価していただいた部分を引き継いで、「メッセージをカマしていくぜ!」みたいなことを続けると、ただの器用貧乏になってしまう。だったら、もっと楽しいことをしたい。「自分が欲するものを出して、それが当たらなかったらやめよう」みたいな、そういうマインドになったんです。アルバムを作る前にもメンバーとよく話してました。「音楽って元々は逃げ場だったはずだよね?」みたいな。

─「MONO NO AWARE」という自分たちだけの逃げ場を作って、全員であえて考えない練習をしてみたくなったというか。

玉置:そう。でも喋れば喋るほど、結局考える方に向いていっちゃうんだけど(笑)。要はまぁ、物事のバランスを取りたいんです。MBTIも仲介者(INFP)だったし。表現系じゃなかったんですよね。MBTI自体、俺が自分で仲介者になるように調整しながら回答してる感じもする。

─仲介者のMBTI診断は「仲介者になろう」と調整しながら回答するから、必然的に仲介者になると(笑)。

玉置:絶対そう。てか、MBTIなんかやる時点で芸術家タイプじゃない(笑)。まぁつまり、自分が芸術家らしいのかどうかとか、そもそも社会に対してどう振る舞うべきなのかとか、それを全部忘れた状態で子供のような高揚感を取り戻すことがまず重要だったんですよね。何マスか戻って、自分の本当の気持ちみたいなものを確認した上で、そこから手が伸びる範囲に伸ばしていくっていう認識へと移行したい。だから、今回はただ単にノスタルジーに浸っているパートもあるというか。

ノスタルジーを「劇薬」として遠ざけるのをやめた

─ローマのスペイン広場やタイのカオサンをはじめ、『Passion Tours』には具体的な地名がいくつも出てくるじゃないですか。

玉置:そう。“スリランカ”だけ土産話で、あとは実際に俺が行った場所です。

https://youtu.be/NYrTR_10UGg?si=WJF5fL1QMdfsmqxk

─しかも、相当前ですよね?

玉置:19歳の頃とかですね。

─それほど前の記憶を掘り起こしたのは、ノスタルジックな感覚からですか?

玉置:完全にそうです。ここ数年、「ノスタルジーは劇薬だ」っていうことを自分に言い聞かせながら生きてみたわけですよ。もっと現実を眼差さなきゃいけないし、過去に浸っていては仕方がないな、みたいな。それって「エモい」っていう言葉に感じる危機感に近いと思うんですよね。

でも……今は「『エモい』って大事だな」みたいな。エモさを遠ざけてる間に、エモがろうと思ってもエモがれなくなるんだろうなみたいな予感がありまして。だからこそ、バカみたいに好きなものに浸って、自分が気持ちよくなるためだけに音楽を作ってみたくなったんです。

─以前は「エモい」を自分の言葉に置き換えていたけれど、今は感じたまま「エモい」と言いたい。

玉置:まさにそう。今までの自分だったら「エモい」っていう言葉に過剰に反応して、自分なりに紐解いて「みなさんの思ってる『エモい』はこうなってます!」みたいに解説していた気がするんですよね。けど、「エモい」っていう言葉に含まれてる感情って多様すぎて、他では言い換えられない、ちょっとしたイデアみたいなものになってきてると思うんです。

だったら即座に「エモい」って言える状態であるべきなんじゃないかなって。自分が今大事にしたいのはそういうことで、アルバムを作っている間は「いきたさ」っていう言葉でチーム内に共有していたんですけど。

─「いきたさ」?

玉置:えっと、「wanna go」ですね。

─あぁ、「行きたさ」ですか。

玉置:例えば、『Passion Tours』は『パイナップル・ツアーズ』(※)(1992年)っていう沖縄の学生が撮った映画から採ってるんです。旅行代理店が小さな島を駆逐しに来るような、当時の沖縄の人たちの感情とかを反映させた作品で。ただ、とにかくカラグレ(カラーグレーディング)がすげぇ良くて。世界に抱かれていて、人間が信頼されている雰囲気があったんです。それで「ここ行きてぇな」って思って、アルバムのタイトルも決めたんです。

※『パイナップル・ツアーズ』:1992年公開。大学卒業後すぐの若手監督たちが沖縄の架空の離島を舞台にした3話オムニバス映画。

─今になってみれば、パッションはほとんど「エモい」の英訳というか。

玉置:確かに。最初は単にパッションフルーツから引っ張ってきたんですよ、八丈島でよく作ってるんで。でも、後から意味が付いていってね。作り終える頃には「ありがたい言葉だなぁ」なんて思いながら(笑)。

─ただ、『Passion Tours』というアルバムは落ち着いた曲が多いじゃないですか。アコースティックギターによる弾き語りの比重も増して、玉置さんの言葉遣いも平易になっている。いわゆる「ノリの良い音楽」とは少し違って聴こえます。

玉置:言葉についてはメロディーが浮かんだ時点で使われていた言葉を推敲せずに歌っているからこそ平易なんだと思います。来年には変わってるかもしれませんけど、推敲とかがバカらしくなったんですよ。『Passion Tours』は言葉と曲が癒着している気がする。逆に言うと、俺は仮歌だと平易な言葉しか出てこない(笑)。

─あぁ、なるほど。

玉置:要するに、「本当のことは平易なことなんだろうな」っていう感覚が今年はあったんですよね。もうちょっと穏やかな世の中だったら複雑な言葉で遊ぶ余地があったんですけど、今はそのゲームをやりたくない。それよりも平易な言葉の方が映えると思ったんです。最近聴いているのも夏目(知幸)くん(※)とか柴田聡子とかの、平易なボキャブラリーを活かしている曲ばかりで。

※夏目知幸:元シャムキャッツのボーカル・ギター。2020年のバンド解散後、Summer Eye名義で活動。

https://youtu.be/lHM4I4WfIVk?si=wl9BB9ZuFu6DlBoo

─そういえば『Passion Tours』には夏目さんがスペシャルサンクスとしてクレジットされていますよね。

玉置:そうそう。ブックレットの撮影でビーチパラソルを砂浜に差して撮影したかったんです。それが撮影の当日にAmazonから届かないということが判明し、「どうしよう……」ってチームで話していたところ、ちょうどインスタのDMで夏目くんから「ツアーめっちゃ回るな! いいね!」って届いて。

─ビーチパラソルを持っている人から!

玉置:で、夏目くんに「そうなんですよ。ところで傘を……」って頼んだらすぐにパラソルを貸してくれたんです。ついでに偽物のマンゴーみたいなのも貰ったし(笑)。だからCDのジュエルケースの裏には夏目くんのパラソルが写っているんです。

『Passion Tours』は、その夏目くんの雰囲気とかエピソードに集約されているというか、世界への信頼を丸ごと夏目くんが担保してくれた感じがしたんですよね。それ以降、夏目くんへのリスペクトが止まらないし、曲の聴こえ方すら変わるっていうか。インスタのストーリーズで流れてくるライブ映像も飛ばさずに見ちゃう(笑)。今、地球は夏目くんを中心に回ってるなって。

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