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平田オリザが語る、日本を覆う閉塞感の正体。「寂しさ」に効く社会的処方箋とは?

2026.4.16

#STAGE

拠り所となるアイデンティティの変遷。企業や家族から、趣味の共同体へ

ーしかし、それでもお聞きしたいのですが……。自分の実感としても「わかった! 寂しさの正体ってこれだ!」とはなかなか言えない段階にあると思うんです。2026年2月の衆院選の結果も恐るべき勢いで自民党が大勝をして、自民党に投票した人ですらびっくり仰天、みたいな状態。それを引き起こしたのも「寂しさ」だと私は思うのですが、こんなにも私たちを翻弄する「寂しさ」とはいったいなんなのでしょうか。

平田:多くの日本人は、人と同じ行動が好きだし、みんな一緒が好きなので、大きな流れができるとそっちの方に行くと思うんです。でも、それは社会にとっては危険な部分もあるので、そこで多様性を確保するためにアートやアーティストの役割がある。「いやいやちょっと待ってよ。俺は違うよ」とはっきり声にして言う、っていうこと。

しかしいっぽうで、拠り所となるアイデンティティが弱くなってしまってもいる。昔はそれが企業であったり家族であったりしたんだけれども、そのどちらもがちょっと弱くなっていて、自分の努力とも関係のない「日本人」とか「男」とか、そういうすごく大雑把な事象が帰属先になってしまう。

かといって企業や家族に回帰してもキツい。だとすれば、「演劇が好きな私」とか「サッカーが好きな俺」の方がまだマシだと僕は思うんです。日本では、そういう趣味みたいなものはあまりアイデンティティとは捉えられてこなかったけれど、仕事と同じぐらいサッカーが好きとか、学校と同じぐらい演劇が好きってことが価値として認められるような社会になっていくといいなと思います。

『豊岡演劇祭』で交流する地域の人や学生たち ©トモカネアヤカ / 提供:豊岡演劇祭実行委員会)

ー趣味でつながる共同体については、若い人たちと親和性があるかもしれないですね。というか、趣味に打ち込むこと自体がユースカルチャーの特徴だと思います。

平田:そうですよ。だから推し活で全然いい。ただ、それをできれば2つか3つ持ってるといいなっていう。

ー自分が属している共同体が複数あって、これも楽しいあれも楽しいでいい。そして何か困り事があったときに寄る辺になる場所でもあったらなおいい。

平田:そういうことがこれから大事です。ただここにも難点はあって、基本的にはやっぱり生身の活動であるということ。インターネットってものすごく平等で、安くて、Netflixなんかに象徴されるようにあらゆるエンタテインメントが全部揃っている。しかし、だからこそ生の部分の価値がすごく大きくなります。しかし生の部分はコストダウンができないから、相対的に値段が上がっていってライブが貴重品になってしまう。そうすると、結局富裕層しかそこにたどり着けなくなってしまうことが問題です。

それは教育の問題ともリンクしていると思います。日本は、まだ大多数がそれなりに食べていけるし、みんな仕事も大体ある。ベーシックインカムと同じような状態で、基本的にちょっと働けば大体みんな食べていける。もちろん多数の例外、本当に困ってらっしゃる方もいるけれど。

でも、まだ大きな中間層は残っている。ただし、この中間層がプラスの楽しみを得ようとすると、可処分所得の差が顕在化していく。生で楽しめる人と、ネットでしか楽しめない人の分断がこれから起こってくるでしょう。そしてこの格差は拡大再生産される可能性が強い。富裕層の家の子しか生の塾には行けず、残りのみんなは安価なオンライン授業に行くしかない。だからこそ今のうちに、どんな子どもでもアートやスポーツにある程度参加できるような仕組みを作っていかなきゃいけないと思います。

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