2023年2月、東京の科学技術館にて開催されたフェア型のアートイベント『EASTEAST_TOKYO2023』が大盛況をおさめた。
アーティスト、ギャラリー、コレクターといったプレーヤーはもちろん、観客動員も1万人を越えた。しかも、そこに集ったのはいわゆるアートピープルだけではなく、音楽やファッションなどジャンルを横断した多様な文化的コミュニティの人々。東京のカルチャーシーンが凝縮されたような会場の熱気は、コロナ前の懐かしい雰囲気すら感じさせるものだった。
もともと2020年に立ち上がった『EAST EAST_Tokyo』から3年を経て、大幅にリニューアルされた『EASTEAST_TOKYO2023』。会場もスケールアップし、作品展示のみならずフードやライブ、パフォーマンス、トークと全方位的に展開された今回の複合的なアートイベントは、一体どのようなプロジェクトだったのだろうか。
ファウンダーの武田悠太(LOGS)、アドバイザーの松下徹(SIDE CORE)、そしてディレクターの黒瀧紀代士(デカメロン)の3名に、これからのアートやカルチャーの手がかりをつかむため、イベント立ち上げのコンセプトからキュレーションの方法論、「文化的エコシステム」というビジョン、そして今後のプランまで語ってもらった。
INDEX
既存のアートフェアへの問題提起
ー大盛況だった『EASTEAST_TOKYO2023』開催後の実感や手応えをメインにうかがいたいのですが、前身のアートフェアとして『EAST EAST_Tokyo』(2020年)がありました。そもそも新たなアートフェアを立ち上げた意図はどんなものだったのでしょう?
松下:既存のアートマーケットに対する問題提起ですね。世界最大級のアートフェアである『アート・バーゼル』(スイス)を頂点に、アートマーケットには強固な権力構造が存在しています。そこではアーティストは飾りでしかなくて、主張することは許されない。でも自分達にとってもアートフェアは重要な場所でもある。だからこそ自分たちなりのマーケット観を一つの形にしたかったんです。今あるシステムがどれだけ強大でも、ドン・キホーテのように反抗する姿勢は見せたいなと。
ー既存のアートマーケットという「風車」にぶつかっていったわけですね。
松下:とはいえ、単純にアーティストにとってだけ都合いい「作家天国」になればいいとも思いません。アートフェアは何よりギャラリーのための機会だし、Instagram以降、作品が作家とお客さんの間で直接取引できる世界になって、優良なギャラリーが苦境に立たされている現状もある。その意味で、アーティストもギャラリーもコレクターも、それぞれが自分の考えを投影しやすくて居心地がいいアートフェアを目指したかったんです。
ーそうやって立ち上がったアートフェアが大幅にスケールアップして開催されたわけですが、なぜ3年後のこのタイミングで、科学技術館という会場だったのかは気になります。
武田:コロナ禍が落ち着いた時期に開催できたのはラッキーでした。会場を押さえられた時期が今回の会期だったというのもあって、決して狙ったわけではないんです(笑)。ただ、前から松下さんたちと次の展開についてはずっと話し合っていて、会場に関しては、制作チームでアイデアを出し合う中で科学技術館に白羽の矢が立った。実際に下見に行ったら思った以上にハコがよくて「ここだ!」となりました。まず過去にアートイベントで使われたことがないし、皇居外苑の北の丸公園の中という立地が特徴的で、会場内の空間には回遊性がある。そもそもピカピカのホワイトキューブでやることをスタッフは誰もイメージしていなかったので、科学技術館はバッチリでした。
武田:また『EASTEAST_TOKYO2023』が目指したのは、もともと仲間たちによるワンチームとしてのプレゼンテーションだった『EAST EAST_Tokyo』を、東京という都市のスケールに拡大すること。原宿や新宿など、東京のいろんな街で様々なアートコミュニティが勃興していることは認識していたので、それらを広く紹介するためにアートワールドの外部から新しい血を入れようと今回のディレクター陣に声をかけたんです。
松下:僕としても初回の『EAST EAST_Tokyo』で新しいアートフェアのビジョンをある程度は提示できましたが、『EASTEAST_TOKYO2023』では自分たちの考えを越えてもっと広い文脈や価値観を扱いたかった。そこでアソシエイトディレクターとしてが黒瀧さんが選ばれました。