また、生誕100周年を祝した日本独自企画として、アルバム『Kind Of Blue』と『At Newport 1958』が高音質CDで5月27日に発売された。
・大友良英
思いついた順番に1番聴いてきたマイルスを10曲ほど連ねました。なんといっても圧倒的に好きなのは『Get Up With It』の中の”Rated X”と『Dark Magus』のA面なんです。特に”Rated X”は10代の頃から1番好きで今でもマスターピースであり続けている作品。強い影響を受けてます。それ以外だとリー・コニッツやギル・エヴァンスとやっているものはどれも好きで、とりわけ『Birth of The Cool』は全曲大好きな作品です。第二期黄金クインテットの60年代がすっぽり抜けちゃってますが、実際この辺りには疎くて、愛聴してきたのは、なぜか50年代と70年代って感じです。NHK-FM『ジャズ・トゥナイト』のテーマ曲の”’Round Midnight”はもちろん外すわけにはいかないのでラストに入れました。番組ではテーマ曲なんでフェイドアウトしてしまいますが、でもこの曲も細部まで暗記するほど聴いてきた大好きな作品です。
<大友良英が選ぶマイルスの10曲>
Rated X (『Get Up With It』収録)
Moja (Part 1) – Live (『Dark Magus: Live At Carnegie Hall』収録)
On the Corner / New York Girl / Thinkin’ of One Thing and Doin’ Another / Vote for Miles (『On The Corner』収録)
経験を積んだ30代になってようやく、私はマイルスの音楽が腑に落ちてきた。アルバム制作中、ロンドンの地下鉄で『In A Silent Way』をふと聴いた時の衝撃は忘れられない。彼の革新的なアレンジや飽くなき探究心には、いつも感服する。ドラッグでブリブリの彼が奇妙な絵を描きながらテレビインタビューに答える姿を見て以来、いかなる状況においても自分らしくあろうとする彼の姿にも強く惹かれた。もし彼に直接出会えていたら圧倒されて終わった気もするが、そのアートに対する真摯さは今も私の創作意欲をかき立て続けている。
<小袋成彬が選ぶマイルスの10曲>
Moon Dreams (『The Complete Birth Of The Cool』収録)
Here Come De Honey Man – Live(『Miles & Quincy Live at Montreux』収録)
All Blues (『Kind Of Blue』収録)
On The Corner – Take 4 (『The Complete On The Corner Sessions』収録)
Concierto de Aranjuez: Adagio (『Sketches of Spain』収録)
Shhh / Peaceful (『In A Silent Way』収録)
It Never Entered My Mind (『Workin’ With The Miles Davis Quintet』収録)
私は1967年、20歳でジャズ喫茶「いーぐる」を開店しました。多くのみなさんがご想像するような「ジャズ・ファン熱が嵩じての開店」ではまったく無く、「ジャズってなんだかカッコいい」という実に軽薄な動機でした。ですからマイルスの名前こそ知っていましたが、曲名は言わずもがな、アルバムに対する知識は0。ジャズに詳しい友人からジャズ喫茶に必要と思われるリストを作ってもらい、営業しながらそれを聴くうち、少しずつマイルスについての知識を身に着けて行ったのです。最初に理屈抜きに気に入ったのは『Four & More』収録の”So What (Live)”でした。なんといってもそのスピード感、ドライブ感がいかにもジャズらしい。次いで今でも愛聴しているのは開店当時の新譜『Sorcerer』収録の”Prince Of Darkness”。その後彼はエレクトリックジャズと呼ばれるスタイルに進んでいくのですが、一番のお気に入りは一時休養直前に日本で録音された『Agharta』の”Prelude”~”Maiysha”ですね。
<後藤雅洋が選ぶマイルスの10曲>
Rifftide – Live (『In Paris Festival International de Jazz May, 1949』収録)
Solar (『Walkin’』収録)
If I Were A Bell (『Relaxin’ With The Miles Davis Quintet』収録)
Nuit sur les Champs-Élysées (『Ascenseur pour l’échafaud』収録)
マイルスはアコースティックなジャズ作品より先に、『Bitches Brew』や、『Get Up With It』などの電化マイルスから聴き始めました。ロックやクラブミュージックのドパガキ的な快楽に慣れた耳からするとそっちの方が刺激的で面白がりやすかったんです。 次第に初期のオーセンティックな作品も聴くようになって、特に『’Round About Midnight』をよく聴きました。有名なモンクの曲のオープニングの編曲もサイコーですが、2曲目の”Ah-Leu-Cha”には喰らいました。今でこそデジタル技術があるから、サンプリングしたフレーズをピッチを変えずに早回しにすることは当たり前になったけど、この当時の、「チャーリー・パーカーの曲をただ実際に速く演奏する」っていうアナログさが、捉え方によってはちょっと滑稽ですらあります。それでも尚独特のクールさを醸し出せているのが凄いです。”So What”もライブだと(スタジオ盤の『Kind of Blue』に収録のVer.と比較すると)ギャグスレスレみたいな速さで演奏してますよね。でもやっぱり、不思議と知的な品格があるんです。 マイルスはあるインタビューで、自身の音楽を「ジャズ」ではなく「Social Music(ソーシャル・ミュージック)」と呼びました。それは白人社会から押し付けられた固定的なジャンルに収まるものではなく、社会やその時代の空気から自然と湧き上がる音楽だということ。「人々の間で自然に生まれたブレイクダンス/白人社会が作り出したバレエ」の対比を用いながらマイルスが語った真意は、現代のヒップホップアーティストが「リアル」であることを何より大切にする姿勢とも通底しているように思います。ただ、そこで「リアル」や「ストリート」ではなく「ソーシャル」という言葉を使うところがマイルスらしい(当事者的な目線だけではない)俯瞰的な視点を感じさせます。 社会の過剰なスピードや猥雑さ、その濁流に飲み込まれることも、あるいは社会の外部へ周縁化されて切り離されることもなく、音楽に宿る知性によってそれを乗りこなしていく。生誕100年を機に、彼が残したそのしなやかな知性の在り方を、あらためて今、自分の指針として受け継いでいきたいです。
大学生のころ、学校の近くにあった国分寺のジャズ喫茶によく行っていた。そこでいつもかかっていたのがマイルスだった。よく流れていたのは1960年代末から1970年代初頭の音源。扉を開けると度々エレクトリック・マイルスのサウンドが鳴っていたので、僕にとってその時期のマイルスの音楽は自分から選んで聴くものではなく、その店で「流れているもの」だった。だから、今でもマイルスを聴くとその店の風景が脳内に立ち上がってくる。マイルスの音はその喫茶店の記憶とセットなのだ。とはいえ、徐々に自分でも聴くようになり、小西康陽が紹介していたから『Miles Ahead』を買い、ブラジル音楽にのめり込んだのがきっかけでエルメート・パスコアルが参加している『Live-Evil』を聴いた。挾間美帆の音楽に出会ってからはギル・エヴァンスとのコラボを積極的に聴き、ジョエル・ロスらの影響で『At the Plugged Nickel』を聴き込んだりもした。2020年代も半ばになっても何かに関心が出ると、そこからマイルスに繋がることが絶えない。僕にとってマイルスの音楽は「立ち戻る場所」のようなものなのかもしれない。
<柳樂光隆が選ぶマイルスの10曲>
Directions – Live (『Miles Davis At Fillmore: Live At The Fillmore East』収録)
On the Corner / New York Girl / Thinkin’ of One Thing and Doin’ Another / Vote for Miles (『On The Corner』収録)
Rated X (『Get Up With It』収録)
Agitation – Live (『At Plugged Nickel, Chicago (Live)』収録)
マイルス・デイビスの何が素晴らしいのか。個々の名曲、名演は数知れずあるが、やはり、チャーリー・パーカーとの徒弟制度的な共演時代から最後はヒップ・ホップに至るまで、時代の最先端を切り拓き続けたその創造性をこそ讃えるべきだろう。マイルス個人の音楽史を辿ることは、そのままビ・バップ以降のジャズ史を辿ることである。しかし、振り返ってみると、オーソドックスなジャズ史にはどうにも収まりきれない、彼固有の音楽が聞こえてくる。フュージョンの源流として、マイルスを語ることには誰も異存があるまいが、では70年代のマイルスの音楽を、今、フュージョンと呼んで良いのかというと、躊躇するところがある。『Kind of Blue』は、モード・ジャズの決定的名盤だが、最早そのジャンルを超越して、独り屹立している観もある。ジャズそのものでありながら、ジャズを常に振り切ろうとしていたマイルスの軌跡が鮮烈に浮かび上がってくるような選曲を心懸けた。
<平野啓一郎が選ぶマイルスの10曲>
Half Nelson (『On Savoy: Charlie Parker & Miles Davis』収録)
Ah-Leu-Cha (『At Newport 1958』収録)
Blue in Green (『Kind Of Blue』収録)
Flamenco Sketches (『Kind Of Blue』収録)
Milestones – Live (『Miles In Berlin』収録)
E.S.P. (『E.S.P.』収録)
Orbits (『Miles Smiles』収録)
Helen Butte / Mr. Freedom X (『On The Corner』収録)
It’s About That Time / The Theme – Live(『Bitches Brew Live』収録)