映画『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』が1月24日(金)より公開されている。本作は⽇本で唯⼀のホラージャンルに特化した⼀般公募フィルムコンペティション『第2回⽇本ホラー映画⼤賞』にて、⼤賞を受賞した近藤亮太監督の短編映画を長編化したものだ。
結論から言えば、本作はとても怖い。触れ込みには「ノーCG」「ノー特殊メイク」「ノージャンプスケア」とあり、本編には直接的な残酷描写はない。派手さを完全に排しているとも言える作風だ。
それなのに、いや、だからこそ、「なぜここまで怖いのか」とホラー映画における恐怖表現や、「そもそも恐怖とは何か」という根本的な疑問まで呼び起こす傑作だったのだ。「静」の演出があってこその没入感を得るためにも、是が非でも劇場で観てほしいと願う。そのさらなる理由を記していこう。
※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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『リング』を想起させる「ビデオテープ」と「謎解き」
主人公の青年・敬太(杉⽥雷麟)の元に、母からの古いビデオテープが届く。そこには、幼い頃に失踪した弟の⽇向がいなくなる瞬間が映されていた。霊感を持つ同居⼈の司(平井亜⾨)は禍々しい雰囲気を感じて深入りしないよう助言するが、それでも敬太は自分の過去を辿るべく行動を起こし、彼を取材対象にしていた記者の美琴(森田想)も同行を試みる。
ビデオテープの映像から「謎解き」をする物語の発端から、小説および映画『リング』を思い起こす方は多いだろう。また、若者を中心に大ヒットした『変な家』のように、「受け手が主体的に推理できるミステリー」という万人向けのエンタメ性も備えているのだ。
クリアな映像が当たり前になった現代では、ビデオテープならではのノイズのある映像の「不鮮明さ」が不安を掻き立てる。そのノイズにはCGが使われておらず、近藤監督の友人が持っていたビデオテープで、もっともノイズが現れる箇所に今回の映像を録画し、それを取り込むというアナログな手法を用いたのだそうだ。
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「わからない」からこそ怖い
近藤監督は「この映画では⽬にはみえない“何か”が怖いのだと考え、作中の彼らが感じる恐怖⼼を精⼀杯想像し、ともに体験してもらうことを企図しました」と映画公式サイトのコメントで語っている。なるほど恐怖というものは人間の心理や想像力、もっと言えばその想像を経てもなお「わからない」ことにも起因するという事実を本作では再確認できる。
たとえば、前述したビデオテープの映像も、ノイズの多さはもとより死角も多いため、何が起こっていたのかを観客に想像させる。しかし、想像すると正常な理屈では到底納得できるはずもない結論に辿り着くので、「わからない」恐怖がさらに深まる。

そして、映画中盤ではある人物から断片的に「この場所で何があったのか」が語られる。そこにはおぞましい人間の悪意、あるいは超常的な存在があるようにも感じられるのだが、そちらも(少なくともその時点では)結局ははっきりとはしない。「わかりそうでわからない」という感覚はもどかしく、いっそのこと「幽霊ですよ」「狂った人間ですよ」などとはっきり言ってくれたほうが安心できるのだが、いい意味で意地悪にも本作は「腑に落ちる」ような回答を簡単には示してくれない。