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『フェイクマミー』は「ニセママ」を透明化しない。替えの効かない存在を描くドラマ

2025.11.21

#MOVIE

©TBS
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園村三による「TBS NEXT WRITERS CHALLENGE」の第1回(2023年開催)大賞受賞作を連続ドラマ化した『フェイクマミー』(TBS系)。「金曜ドラマ」というTBS連続ドラマの看板枠の脚本を、商業デビュー作家が手掛けるという異例の事態は、放送開始前からドラマ好きの間で話題となった。

放送開始後も、元バリキャリ女性と元ヤンママによる子育てという、今までに無い組み合わせが人気となり、SNSを中心に様々な反響を呼んでいる。

波瑠と川栄李奈という今までに無かったものの絶妙に合う組み合わせや、子役・池村碧彩の好演も光る『フェイクマミー』について、毎クール必ず20本以上は視聴するドラマウォッチャー・明日菜子がレビューする。

※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

独身女性とヤンママの連帯を描いた心強いドラマ

見た目も性格も正反対な「独身女性」花村薫(波瑠)と「ヤンママ」日高茉海恵(川栄李奈)©TBS
見た目も性格も正反対な「独身女性」花村薫(波瑠)と「ヤンママ」日高茉海恵(川栄李奈)©TBS

2025年も残すところあとわずか。今年、心惹かれたドラマを思い出してみると、「連帯」や「共存 / 共生」をテーマにした作品が多かった。個人主義で実力重視な社会に疲れ、ひとりで生き抜くことの厳しさを痛感する中で、そうした作品が心地よく感じられたのかもしれない。そんな中、またひとつ心強いドラマが登場した。独身女性とヤンママの連帯を描いた『フェイクマミー』である。

先を読むのが難しいファミリークライム・エンターテインメント

茉海恵の一人娘・いろは(池村碧彩)のニセママになることになった薫©TBS
茉海恵の一人娘・いろは(池村碧彩)のニセママになることになった薫©TBS

東大卒・元バリキャリで転職活動中だった花村薫(波瑠)は、元ヤンでベンチャー企業「RAINBOWLAB」社長の日高茉海恵(川栄李奈)から「ニセママ契約」を持ちかけられる。自社の広告塔として表に立つ彼女には、非公表の一人娘・いろは(池村碧彩)がいた。いろはは類い稀なる天才児で、名門私立・柳和学園小学校を志望している。しかし、規律と品格を重んじる柳和学園の入学試験では、子どもの能力だけでなく、「親子面接」も重視される。最初は、いろはの家庭教師でしかなかったはずの薫は、あることをきっかけに「日高茉海恵」になりすまし、親子面接を受ける。

いろはのクラスの担任教師で、薫の元家庭教師であった佐々木智也(中村蒼)©TBS
いろはのクラスの担任教師で、薫の元家庭教師であった佐々木智也(中村蒼)©TBS

試験に合格したいろはは無事、柳和学園に入学し、薫の「ニセママ業」も続行。だが、第4話では、いろはのクラスの担任教師で、薫の元家庭教師であった佐々木智也(中村蒼)に、替え玉受験がバレてしまう。さらに、いろはの父親が、RAINBOWLABの競合「三ツ橋食品」社長の本橋慎吾(笠松将)であることが判明。薫にとって唯一のママ友となったさゆり(田中みな実)の息子・圭吾(髙嶋龍之介)といろはは異母兄妹だったのだ。

RAINBOWLABの競合・三ツ橋食品社長の本橋慎吾(笠松将)はいろはの実の父親だった©TBS
RAINBOWLABの競合・三ツ橋食品社長の本橋慎吾(笠松将)はいろはの実の父親だった©TBS

独身女性とヤンママのシスターフッド、疑似家族モノ、名門私立のママ友バトル、大手企業による競合ベンチャー企業への圧力、そして、ほのかなラブもあり……? な、先を読むのが難しいファミリークライム・エンターテインメントの爆誕である。

本作は2025年の「いま」を的確に捉える

第6話、薫にとっての唯一のママ友・さゆり(田中みな実)がニセママに気づいてしまう©TBS
第6話、薫にとっての唯一のママ友・さゆり(田中みな実)がニセママに気づいてしまう©TBS

『フェイクマミー』の第1話から驚いたのは、2025年に放送された様々なドラマで扱われてきた多くのテーマが、この一作に盛り込まれていたことである。『フェイクマミー』の構想は2023年以前から考えられていた(元のタイトルは『フェイク・マミー』)ものなので、この一致は偶然でしかないが、本作は、2025年の「いま」を的確に捉えた作品だといえる。

たとえば、独身女性×子持ち女性の連帯は、さまざまな家庭環境の人々が「家事」を通して、悩みや苦しみを分かち合った『対岸の家事~これが、私の生きる道!~』(TBS系)のエキシビジョンマッチのようにも感じた。そして、茉海恵といろは、そして薫の関係性は、職場でも家庭でも学校でもない「サードプレイス(第三の場所)」という新たな概念を提示した『バニラな毎日』(NHK総合)を思い出す。また、子どもを持たない女性がどうやって社会と関わっていくかという問いは、『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)に登場した冨永愛演じる都のエピソードでも考えさせられた。

ニセママを請け負う人間を透明化しない意識

薫の存在を必要とし続ける茉海恵といろは©TBS
薫の存在を必要とし続ける茉海恵といろは©TBS

「母親替え玉受験」から始まった『フェイクマミー』において、作り手の意識が徹底していると感じたことがある。それは、ニセママを請け負う薫を透明化しない、ということだ。

2024年に放送された桐野夏生原作の『燕は戻ってこない』(NHK総合)では、代理母が合法化された日本を舞台に、貧困から代理母業に手を伸ばした理紀(石橋静河)の生きざまが描かれた。もちろん、代理母の契約は口外してはいけないし、出産までの期間は家族にも秘密を貫かなければならない。厳しい制約の中で理紀は双子を無事に出産するものの、その後、彼女はルールから外れた衝撃的な結末を選ぶ。

理紀が違法とも言える決断をせざるを得なかった理由のひとつには、彼女を透明化しようとするクライアントや世の中への抵抗もあったのではないか。『フェイクマミー』の薫は代理母ではないが、ニセママ契約もまた、花村薫という個人を消し、「いろはの母・日高茉海恵」として生きることを求められるはずだ。つまり、ニセママ契約は、花村薫という人間を透明化することを前提に成り立つ契約なのだ。薫は理紀のように息を潜めて暮らしているわけではないが、だからといって、ニセママ契約上、基本的には「花村薫」として堂々と日常生活を送ることは叶わないのである。

だが、世間からは透明人間状態になっていても、薫の一番近くにいる茉海恵といろはだけは、彼女の存在を必要とし続ける。かつて働くママのサポートに回され、「独身で子どものいない女性社員は多様性に含まれない」現実を目の当たりにした薫。大手・三ツ橋商事退職後の再就職もうまくいかず、社会から「求められていない」と感じていた彼女を、茉海恵といろはだけは、純粋に肯定しつづけて来たのである。

いろはにとって替えの効かない存在であるママとマミー

「リアルマミー」こと母・聖子(筒井真理子)にニセママを拒絶されてしまった薫©TBS
「リアルマミー」こと母・聖子(筒井真理子)にニセママを拒絶されてしまった薫©TBS

薫を肯定する意識は、薫の背景を知る由もない、いろはのまっすぐな言葉からも感じ取れる。第3話で「みはり星」という母の日の作文で茉海恵と薫について書いていたいろは。その後、いよいよ替え玉受験がバレてしまい、第5話では、担任の智也から薫について尋ねられた彼女はこう答えるのだ。

「マミーは私が知らないことやわからないことを知っているすごい人です」

「ママとマミーは夏の大三角みたいに、それぞれが星になって、ちゃんと私とつながっています」

いろはの言葉は、薫と茉海恵はどちらかが搾取されるものでもなく、どちらもが独立している替えの効かない存在であることを示す。そして、何よりも、いろはが薫を指して呼ぶ、本作のタイトルにも込められた「マミー」という呼び名こそ、薫を透明化しないという作り手の強い意志の表れだろう。

第6話では、薫が「リアルマミー」こと母・聖子(筒井真理子)に、ニセママ業を打ち明けるものの、理解はしてもらえずに、一方的に拒絶されてしまう。許されない道を進んでいることは、薫も茉海恵も、そして視聴者である私も分かっている。だが、それでも彼女たちが進む先に、どうか光がありますようにと願わずにはいられないのだ。

『フェイクマミー』

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TBS系にて毎週金曜よる10時から放送中
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/fakemommy_tbs/

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