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ドラマ『さよならノワール』前半レビュー 闇を抱える小池栄子と、闇を覗き込む北香那

2026.8.11

#MOVIE

©フジテレビ
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小池栄子が主演する警察ヒューマンドラマ『さよならノワール』(フジテレビ系)。

かつて『踊る大捜査線』シリーズを生み出し、最近も『東京P.D. 警視庁広報2係』『夫婦別姓刑事』と警察ドラマが続くフジテレビの火曜夜9時のドラマ枠の最新作だが、警視庁内に実在する「犯罪被害者支援室」を主な舞台としたドラマは珍しい。

警察官が事件の被害者や遺族に寄り添い、再び前向きに人生を歩むことができるように手助けをする「犯罪被害者支援室」を描いた本作のオリジナル脚本を手掛けたのは、『白い巨塔』(フジテレビ系)や『14才の母』など社会問題や人間ドラマを深く綿密に描いてきたベテラン脚本家・井上由美子。

小池栄子×北香那の正反対なタッグも魅力的な本作について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター藤原奈緒がレビューする。

小池栄子と北香那による正反対のバディの魅力

バディを組む黒木夏海(小池栄子)と白石絵梨子(北香那)©フジテレビ
バディを組む黒木夏海(小池栄子)と白石絵梨子(北香那)©フジテレビ

7月7日から始まったドラマ『さよならノワール』が面白い。警視庁西池袋署に新設された犯罪被害者支援室所属の元刑事・黒木夏海(小池栄子)と、心理学者・白石絵梨子(北香那)がバディを組み、犯罪被害者や遺族に寄り添い、支援をしていく本作。『愛の、がっこう。』(フジテレビ系)や『緊急取調室』シリーズ(テレビ朝日系)の井上由美子のオリジナル脚本であり、『きらきらひかる』(フジテレビ系)などで井上とタッグを組んできた河毛俊作が演出を担当する。また、演出・河毛俊作と主演・小池栄子の組み合わせは、宮藤官九郎脚本『新宿野戦病院』(フジテレビ系)に続くタッグでもある。

本作で何より魅力的なのは、正反対のバディ・黒木夏海と白石絵梨子である。性格も、歩んできた人生の道のりもまるで違い、いつもぶつかってばかりだが、最終的には互いの長所を活かして被害者や被害者遺族に寄り添い、同じ刑事課の他部署の人々とも連携して事件を解決に導く。演じる小池栄子と北香那も素晴らしい。

筆者の考える小池栄子の天性の魅力は、『新宿野戦病院』のヨウコ・ニシ・フリーマン役や、『ムショラン三ツ星』(NHK総合)の銀林葉子役といった、太陽のような明るさで人々を突き動かしていく力強さにある。しかし、それらとは対極にあるような本作での静かな声、モノトーンに身を包んだハードボイルドな佇まいは、闇の中にいる人々と寄り添い、自身もまた、とある事情から闇の中から抜け出せない黒木夏海という複雑なキャラクターのパーソナリティを示しており、また新たな魅力を発揮している。

さらには夜ドラ『替え玉ブラヴォー!』(NHK総合)の主人公・千本佳里奈役や、朝ドラ『ばけばけ』(NHK総合)のヒロインの恋敵・江藤リヨ役など、一癖も二癖もある役柄の達人とも言える北香那の魅力がここでもまた光っている。自分とは異なる考えに不満そうに歪める口元も、競争に勝つと嬉しくてたまらなそうに笑う素直さも、何事も決めつけて考えがちな未熟さも、彼女が演じると、どうしてこんなにもすべてが愛すべき魅力のように思えてしまうのだろう。

強行犯係の刑事・鴨居卓海(岡山天音)と暴力団対策係の係長・河口真二郎(眞島秀和)©フジテレビ
強行犯係の刑事・鴨居卓海(岡山天音)と暴力団対策係の係長・河口真二郎(眞島秀和)©フジテレビ

そんな2人を軸に、いつもながら捉えどころのない飄々とした魅力の中に確固とした信念が見え隠れする岡山天音演じる刑事・鴨居卓海や、他作品ではあまり見せることがないワイルドな佇まいが新鮮な眞島秀和が演じる暴力団対策係の係長・河口真二郎といった面々も同じ警察署内にひしめいている。それぞれの登場人物の魅力的な描き分けも含めて、『緊急取調室』に続き、井上由美子脚本による女性たちを主人公にした新たな「警察ドラマ」が生まれたことを、喜ばずにはいられない。

悲しみは、悲しみのままで終わらない

犯罪被害者や被害者遺族たちに寄り添う黒木と白石©フジテレビ
犯罪被害者や被害者遺族たちに寄り添う黒木と白石©フジテレビ

ノワール(noir)。フランス語で「黒」を意味するその単語は、アメリカで1940〜50年代に作られた悲観的・退廃的な雰囲気の映画を指す「フィルムノワール」や、フランス産のミステリー小説のジャンル「ノワール小説」などを連想させる。本作『さよならノワール』の場合、それは、主人公・黒木夏海と白石絵梨子が寄り添う犯罪被害者や被害者遺族たちが経験する「人生最悪の数日間」のことを指すのだろう。

本作における「ノワール」のイメージとして、印象的な場面がいくつかある。例えば、第1話のオープニングの1シーンは、事件のあった火災現場だった。誰もいない、焼けて全体的に黒くなった空間に外から光が差し込み、ポツンと「さよならノワール」の文字が浮かぶ。第2話のオープニングでは不動産詐欺にあった女性・美雨こと佐藤茂子(今泉佑唯)が悲しみと怒りのあまり自分で割った鏡の前で、平然と髪をとかす姿を、心配そうに黒木と白石が見つめていた。また、第3話、第4話は「転落」から始まる。第3話における、煌びやかな装いで人々と共に踊っていた笹村圭(柾木玲弥)が、出入口への階段で起きた転落事故に巻き込まれたことにより、次のシーンでは色を失い、遺体となって横たわる、その悲しい対比。第4話でも同様に、歩道橋の階段から突き落とされた、将来を期待されたサッカー部主将・勝俣陸(岩瀬洋志)の明暗が描かれた。

だからといって「ノワール」は「ノワール」のまま、悲しみは悲しみのままで終わるわけではない。第3話の最後で、最初は遺体が自分の息子とは認めなかった圭の母・綾子(神野三鈴)が、それまで見ようとしてこなかった圭の人生を知ることでようやく、その死を受け入れることができたように。本作は、黒木と白石たちが、黒木が言うところの犯罪被害者支援室の役割「人生最悪の数日間のパートナー」としての役目を終え、被害者、あるいは被害者家族を、民間の支援団体である関東被害者支援センターに繋げるまでを描いている。大切な人・ものを失うことで闇の中にいた人が、ゆっくりと明るい方へ向かっていくまでを描くのが、『さよならノワール』なのだろう。

闇を抱える黒木と、闇を覗き込む白石

黒木の「闇」の鍵を握る元上司・山崎創(渡部篤郎)©フジテレビ
黒木の「闇」の鍵を握る元上司・山崎創(渡部篤郎)©フジテレビ

第2話の終盤、黒木が見る夢が描かれた。緑の中で娘・夕夏(西島海心)を抱きしめる黒木は、白を基調とした服を着ている。「バイバイ」と言い残し去っていく娘を呼び止めようとして夢から覚めた黒木は、いつも通りの黒を基調とした服を着ていて、顔を洗いに行った先の洗面台の鏡に失踪中の元上司・山崎創(渡部篤郎)の幻影を見て驚く。主人公・黒木もまた、被害者や被害者遺族と同じように、闇の中にいる人物だ。

そして第5話においては、臨床心理士である白石のカウンセリングにより、彼女が抱える闇である過去の正体が明らかになった。1年前、上司・山崎からの深夜に届いた唐突な呼び出しに応じた黒木。しかし、寝ていた娘を家に残したことがきっかけで起きた悲劇により、その責任を問われて離婚し、娘と離れて暮らさざるを得なくなっていた。つまり、彼女は1年前、自身起きた「人生最悪の数日間」から、未だに抜け出せない状況にあるのだ。

そして、そんな黒木と、彼女が抱える深い悲しみに、同僚として、あるいは心理学者として強い興味を示す白石。黒木の過去に触れ、現在の黒木へ適切なアドバイスをする白石の姿は、美しいシスターフッドとして捉えることもできるだろう。でも、彼女の恩師である精神科医・五十畑修(岡部たかし)は、その姿を「危うさ」として捉え、心配する。白石は「あえて危険な方へ危険な方へ向かうところがある」「闇に首を突っ込んでいく」傾向にある人物だと彼は言う。つまり、本作は、「闇」を抱える主人公・黒木と、「闇」を覗き込まずにはいられない白石の話でもあるのだ。

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