Corneliusが新作『Refractions』をリリースした。前作『夢中夢』(2023年)からちょうど3年ぶりのアルバムだが、サウンド面では前作と大きく様変わりして、よりハードでカッティングエッジでリズムの強い、言ってみればロック的、バンド的な音が展開されている。これが通算8枚目のアルバムだが、同じサウンドのアルバムはひとつもない。Corneliusとしてデビューして30年余、いまだ変化し、成長し、進化し続けているのだ。
小山田圭吾の話しぶりはいつも通り穏やかなものだったが、その内面も、また創作のアプローチも大きく変化したようだ。彼の中で何が変わり、何が変わっていないのか。
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1969年東京都生まれ。1989年、フリッパーズ・ギターのメンバーとしてデビュー。バンド解散後、1993年、Corneliusとして活動開始。2024年に活動30周年を迎え、6月26日に近年発表してきたアンビエント色の強い作品を中心に再構築した作品集『Ethereal Essence』を発表。2026年8月、8thオリジナルアルバム『Refractions』をリリース。自身の活動以外にも、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなど幅広く活動中。
今、湧き上がってきた新たな「衝動」とは?
─Corneliusとしては短いスパンでのリリースとなりました。
小山田:そうですね、僕にしては。今回は時間もあったし集中してできました。40代の頃とかアルバム1枚ぐらいしか出してないから。
―『Mellow Waves』(2017年)だけですね。
小山田:うん。気がつくとアラカン(アラウンド還暦)になって、やばいぞと。残された時間を逆算する感じになってきました。
―まだ57歳でしょ(※)。残り時間を気にするような歳ではないのでは。
小山田:そうですけど、でも逆算するタイミングには近づいてきているというか、先輩にも70歳前後で亡くなっちゃう人とかも結構いますし、自分もそんな体が丈夫でもないんで。
※小山田圭吾は1969年1月生まれ

─健康状態はいかがでしょうか。
小山田:全然よくもないけど、そんなひどい病気っていうのも今のところない。でも、ある種のライフプランっていうかね。
─いつまでにこういうアルバムを出したいとか、そういう大ざっぱなプランみたいなものがあったりするんですか。
小山田:あります。バンドで、ビートがしっかりあるような曲を1時間半とか2時間ぐらいステージでやったりする体力はまだあるけど、70歳過ぎればだんだん衰えてくるだろうし、今回みたいなビートが前に来たり、体が反応するような音楽をとりあえず前倒しで、やれるうちにやっておこうみたいな。それは結構でかいですね。ハードなものだったり、リズムがしっかりあるものって結構昔の曲ばっかになってたから。
─『Mellow Waves』『夢中夢』と、静かなアルバムが続きましたからね。
小山田:うん、それもありますね。
─もうハードなものはやらないのかと思ってましたけど。
小山田:僕もやんないかもな、と思ってたんですけど。意外にもそういう衝動が湧き上がってきて。それも年齢がでかいんですよね。
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デビュー30周年を経て迎えた、Corneliusの新たな変革期
─今作の収録曲で最初に発表されたのが2024年の“Mind Train”と“Bad Advice”ですが、今にしてみれば今作のキー曲となりましたね。“Mind Train”はちょっとクラウトロックっぽい曲で、『夢中夢』とは全然違うので驚きました。アルバムのトーンを象徴する曲だと思います。
小山田:もともとKENZOのパリコレでモデルさんが歩くときの音楽を作ったことがあったんです。
20分ぐらいずっと歩いてるんだけど、歩くテンポで尺が長い感じの音楽が必要になって、モデルさんの歩く速度に合わせてモータリックっていうか、ジャーマンロック的な8ビートがひたすら続いていく曲を作った。それがベースにあって、いろいろいじって、ああいう形になりました。元となるきっかけみたいなものは外仕事だったけれども、作るうち自分なりにインスピレーションも湧いてきて、こういうふうな形になったんです。
─これができたときに、次の自分のモードになりそうだなっていう、そういう予感はあったんですか。
小山田:ありましたね。ライブでその後すぐにやり始めて。長いし、そんなに歌とかないんで。演奏を楽しめるし。
─その頃からアルバムの構想が生まれた?
小山田:構想まではないですけど、これを出したとき、ちょうど(Corneliusのデビュー)30周年のタイミングだったんですよ。モードが変わってきているのも感じていたし、もっと開放感のある曲をやりたいなって切り替わっていった感じですね。
─同じ2024年に『Ethereal Essence』というアンビエントものばかり集めたコンピレーションを出したでしょう。あれでアンビエント的なものへの興味が一段落したのかなと思ってました。
小山田:それもありますよね。今でもアンビエントは聴くし、たまに作ったりすることもあるんですけどね。

─今回は時間があったとおっしゃったけど、この3年の間、新曲として発表されるものだけでなく、リミックスとか楽曲提供、ゲスト参加とか結構な数やってますよね。
小山田:結構やってます。
─CMとか展覧会やインスタレーション、企業案件の音楽もすごく多い。
小山田:一時期全然やってなかったんですけど、最近は結構やっています。でも、誰もそういうのわかんないでしょ。普通の人は知らないですよ、そういうの(笑)。
─そういう外仕事がアルバム制作に生かされる場合もあるわけですね。
小山田:ある。“Mind Train”がもともとファッションショー用の曲だったこともそうだし、他の仕事とかでやった曲だったり、リミックスだったりがベースになって、制作のアイデアや素材として機能しているんです。外仕事が新しい方向性の土台となる循環がありますね。

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オリジナルアルバムとしては異例、ゲストボーカルが3名参加
─なるほど。今回はゲストボーカリストが3人も参加しています。オリジナルアルバムとしては異例ですね。前作とか前々作はもっと内省的な感じでやってたんで、そういう意味でも今回は外部に開けた感じがある。
小山田:それはありますね。
─“Bad Advice”はアート・リンゼイがボーカルと作詞で参加しています。彼がかつてやってたAmbitious Loversをちょっと思い起こすようなシャープな曲調。
小山田:そうそう、まさにそれ。アートさんとは、昔からいろいろコラボレーションしていて。リミックスをやったり、アルバムに参加したり、ライブでサポートしたりとか。『デザインあ』(NHK)という番組の曲に声を使わせてもらったこともあります。今回、作っているうちにアートさんっぽいなっていう曲ができたんですよ。
─アートさん参加が前提じゃなく、曲が先にできたんですね。
小山田:そうです。ちょっとファンクっぽい感じがやりたくて。METAFIVEではこういう感じの曲をやったりしていたんですけど、Corneliusではあんまりやってなかったんで。
─Corneliusでは珍しいですよね。
小山田:そうですね。そっちに回っていた曲がこっちに回ってきたっていうか。そういう要素が出てきましたね。
─The Monochrome Setのボーカリスト、ビドが参加した“You Make Me Cyborg”も楽しい曲です。The Monochrome Set初期の「Rough Trade」時代を思い起こすような、ポストパンクというかインディーロックですね。
小山田:そうそう! その感じのシンプルな8ビートの曲をやってみたかったんです。
─こういう曲もCorneliusでは珍しい気がします。これも曲が先ですか。
小山田:そう、まさにこれはビドさんだなっていう。ビドさんはね、知り合ったのは結構古いんです。フリッパーズ・ギターの頃、最初に来日したときとかね。それ以来連絡とってなかったんですけど、7、8年前に来たときに再会して、そこからちょっと連絡取ったりするようになって。3、4年ぐらい前にまた来て、そのときにレスター・スクエアってギターをやってた人が抜けちゃって、ギターがいないのでちょっとだけ手伝ったこともある。
─ポストパンクというか元祖ネオアコというか、そういうものの見直しが個人的にあったんですか。
小山田:割と常に見直してはいるからね。YouTubeとか見てると、いまだに知らない映像とかすごい上がってくるじゃないですか。こんなのあったんだ、みたいな。そういうのは常にあるし、そこで再発見もあるよね。
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井上陽水のカバーが収録された経緯
─井上陽水の“夢寝見”のカバーも、そうした再発見の成果ですか。
小山田:これはコロナ前ぐらいかな。『ハンサムボーイ』(1990年)っていうアルバムの1曲目の“Pi Po Pa”って曲(細野晴臣がアレンジで参加)が気に入って。それで陽水さんのサブスクをいろいろ聴き始めたら、同じアルバムに入っている“夢寝見”が、陽水さんが出演している日産セフィーロっていうクルマのCMでかかっていたことを思い出して。
改めて聴いたら、すごくいいなと思ったんです。最初から最後までずっと夢を見ているような。前のアルバムを作ってるときにずっと聴いてたんだけど、今回自分でもやってみようと思ったんです。
─それまで井上陽水はよく聴いてたんですか。
小山田:そんなに詳しくは知らなくて、有名な曲をちょっと知ってるぐらいだったんですけど、今はストリーミングでいろいろ聴けるじゃないですか。それで、聴いてみてやっぱりすごいいいなと思って。何がいいって、夢と現実の間を浮遊するようなサイケっぽい感じが。
陽水さんって「夢モノ」が多いっていうか、“夢”とか“夢の中へ”とか“夢寝見”とか。ちょっとトリッピーな感じを持っているところがいいなって。“夢寝見”もそうですけど川島バナナさん(※)がアレンジしてるものが特に好きで、一時期結構ハマっちゃいましたね。
※川島バナナ:キーボーディスト、編曲家の川島裕二の名義。京都のニューウェーブ音楽ユニット、EP-4に在籍したことでも知られる。
小山田:歌詞のよさとかメロディーのよさとか、歌のうまさとか、そういうのはもちろんあるんだけど、そうじゃなくて、もっとそのサイケデリックな部分、世界観や、音響的な、テクスチャーみたいのに惹かれたっていう。
思い出してみると、子どもの頃に聴いてた歌謡曲でもジュリー(沢田研二)の“背中まで45分”(1982年リリースの『MIS CAST』収録)が陽水さんだったりとか、歌謡曲の中にもいろんな陽水さんの面白い曲があって、そういうのをまた新たに聴いたりとかしてね。
─陽水さん、高校時代はThe Beatles大好きでかなり影響を受けたらしいけど、サイケな部分はそこから来てるのかも。
小山田:絶対あったでしょうね。うん、それが改めてなんかわかったし。