メインコンテンツまでスキップ
NEWS EVENT SPECIAL SERIES

どうして今、『ガス人間』のリブート作品なのか。キーワードは「社会的不安」だ

2026.7.3

#MOVIE

Netflixシリーズ『ガス人間』の独占配信が、7月2日(木)より開始された。

同作は、『ゴジラ』の生みの親である本多猪四郎が監督を務め、1960年に東宝製作 / 配給で劇場公開された映画『ガス人間第一号』を、現代日本を舞台とした完全オリジナルストーリーで描いたもの。そんな『ガス人間』を映画評論家のバフィー吉川がレビューする。

1960年の『ガス人間第一号』を現代的に再構築したリブート作品

本作のもととなっているのは、変身人間シリーズとして製作された特撮映画『ガス人間第一号』だ。シリーズ第1作目の『透明人間』が先駆的作品となり、のちに『美女と液体人間』(1958年)、『電送人間』に続く第3作目(『透明人間』をカウントする場合は4作目)である。

『ガス人間第一号』というのは、H.G.ウェルズやレイ・ブラッドベリが手がけた作品のようなSFを、日本独自のテイストで映画化することを模索していた東宝チームが、ジョン・メレディス・ルーカスの構想や構成に着目。それを基に木村武(馬淵薫)が脚本化した作品だ。

だが、本作には原案の詳細は現存しておらず、「ガス人間が連続犯罪を起こす」という程度しか判明していないため、ルーカスの原案を直接映像化したのではなく、『ガス人間第一号』を現代的に再構築したリブート作品といえる。

監督は社会風刺が専売特許ともいえる片山慎三

監督の片山慎三は、ポン・ジュノの助監督を務めた経験を持ち、過去作の『さがす』(2022年)や『岬の兄妹』(2019年)などを観たことがあれば、社会風刺が彼の専売特許のようなものであることはわかる。そのため、本作にもそうした視点が盛り込まれていることは容易に想像でき、脚本にヨン・サンホとリュ・ヨンジェという韓国映画業界の最前線で活躍する二人を起用したことで、日本のクリエイターとは少し違った視点も加わっているように感じられる。

そんな制作チームが手掛けているのだから、やはり『ガス人間第一号』が直接的なリメイクであるはずがない。ストーリーや時代背景、視点も全く違う。ところが「科学によって人間が異形の存在へ変貌する悲劇」をテーマとしている点では共通していて、作品の根底にあった「社会的不安」というテーマを現代的に拡張した作品となっている。作中でもこの「社会的不安」というワードが印象的に使用されており、大きく分けて1990年代後半と現代という二つの時代が舞台となっている。

それぞれの時代が抱える「社会的不安」をエンタメに昇華

1990年代後半の社会的不安といえば、オウム真理教とノストラダムスの大予言である。本作は明らかに、その二つがモチーフとなっていることがわかる。つまり本作におけるガス人間というのは、サリンやVXガスなど、化学兵器による被害者のメタファーなのだ。

それを裏付ける理由はいくつかあった。例えば作中で山梨にある「ホワイトセンター」は、かつてオウム真理教が使用していた施設・第7サティアンのことを意味しているといえるし、隕石はノストラダムスの大予言のアンゴルモアの大王と捉えられる。さらには、武器や化学兵器の調達にヤクザが関与していたことや捜査していた警察官の殺害、信者を連想させる服装など、オウム真理教を強く想起させるモチーフが随所に散りばめられており、その影響を受けていると考えるのが自然だ。これまでも、オウム真理教を題材にした作品はいくつかあるが、ここまで真正面からエンタメへ昇華した作品は珍しい。

一方で現代パートでは、コロナ禍以降のオールドメディアとソーシャルメディアの影響力の逆転が大きく反映されているだろう。報道による炎上や、世間からのバッシングのリスクを避けようとするマスコミとは対照的に、社会的不安を煽る動画配信の方が大きな影響力を持つという現代社会への風刺が盛り込まれている。

さらに、悲劇がヒーロー像を形成するという構図は、ドナルド・トランプ襲撃事件後の政治的イメージ戦略を想起させる。また、公約の中身よりもライバルの揚げ足取りによって選挙戦を有利に進めようとする、欧米型の政治文化が日本にも浸透しつつある現状にも切り込む。

こうした現代の日本への視線には、脚本を手掛けたヨン・サンホとリュ・ヨンジェならではの距離感が感じられる。日本ではセンシティブになりがちな題材にも臆することなく踏み込みながら、日本以外からの視点だからこそ可能な俯瞰性によって、日本社会の変化を容赦なく描き出している。その意味でも本作は、1960年に描いた「科学への不安」を継承しつつ、それを現代社会の「社会的不安」へと読み替え、新たな時代の『ガス人間』として再構築した作品と言えるだろう。

Netflixシリーズ『ガス人間』

2026年7月2日(木)世界独占配信
(全8話(一挙配信))

原作: 『ガス人間第一号』(監督:本多猪四郎/脚本:木村武)
監督: 片山慎三
脚本: ヨン・サンホ、リュ・ヨンジェ
エグゼクティブ・プロデューサー: ヨン・サンホ、市川南、大田圭二、臼井央、佐藤善宏(Netflix)
企画・プロデュース: 馮年、呉良次
プロデューサー: 小野田壮吉、ヤン・ユミン
企画: 山内章弘
VFX: 白組
VFXスーパーバイザー: 髙橋正紀、新堀巧
企画・製作: 東宝
共同企画・制作: WOWPOINT
制作プロダクション: TOHOスタジオ
配信: Netflix

キャスト: 小栗旬 蒼井優 広瀬すず 林遣都 UTA
芋生悠 伊島空 こばやし元樹 古館寛治 川瀬陽太
野村周平 中島歩 斉藤柚奈 柊木陽太 三河悠冴 松浦祐也
モーリー・ロバートソン 吉原光夫 三石琴乃 近藤芳正 和田光沙
髙嶋政宏 賀来賢人 森川葵 原日出子 中野英雄 夏川結衣
酒向芳 ピエール瀧 岡部たかし 青木崇高 竹野内豊

RECOMMEND

NiEW’S PLAYLIST

編集部がオススメする音楽を随時更新中🆕

時代の機微に反応し、新しい選択肢を提示してくれるアーティストを紹介するプレイリスト「NiEW Best Music」。

有名無名やジャンル、国境を問わず、NiEW編集部がオススメする音楽を随時更新しています。

EVENTS