海外進出を志向する日本のアーティストにとって、その具体的な道筋や手がかりをつかむのは、必ずしも容易ではない。どの国を目指すべきか、誰と組めばいいのか、いつが動き時なのか──その足がかりとなる示唆を得られる場として、ショーケースフェスティバル『CUEW Showcase & Conference』が、2026年4月9日、10日の2日間にわたって東京・渋谷のDragon Gateで開催された。
本稿では一部のトークプログラムの内容と、海外から訪れた3名のデリゲーツへのインタビューをもとに、海外での活動を考えるアーティストや音楽関係者のヒントとなる言葉を紹介する。現地参加できなかったアーティストや関係者にも参考になる形で知見を共有するので、最後までぜひご覧いただきたい。
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2度目の開催。『SYNCHRONICITY』との連動、100名近い海外デリゲーツが参加
『CUEW』は日本やアジアのアーティストの才能を世界へ発信するプラットフォーム。日本やアジアのアーティストたちがキャリアの転換となるきっかけを掴み、未来のヘッドライナーへと成長できる場の創出を目的に掲げている。
初開催となった2025年のショーケースイベントでは、8ヶ国の音楽業界関係者をデリゲーツ(組織やチームの代表者、派遣員の意)として招聘し、2日間にわたるカンファレンスや交流会・ショーケースライブを実施。その後、藤原さくらのエジプトのフェス出演や、sorayaの香港・台湾での単独公演が実現するなど、具体的な成果も生まれている。

第2回となった今回も、独立行政法人国際交流基金(JF)との共催を継続しながら、規模を大幅に拡大し、韓国、タイ、台湾、インドネシア、イギリス、アメリカ、フランス、ドイツなど20を超える国から100名近いデリゲーツが参加。世界各地のフェス関係者やエージェントなど、現場の最前線で活躍するプロフェッショナルたちが集い、リアルな経験をもとに率直な言葉を交わした。さらに4月11日、12日に行われた都市型音楽フェス『SYNCHRONICITY』と連携することで、デリゲーツたちが同フェスの出演アーティストを視察できる機会も設けられた。
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日本では珍しい、ショーケースフェスティバルの役割
そもそもショーケースフェスティバルとは、音楽業界関係者とアーティストのマッチングを目的としたイベントだ。一般的な音楽フェスとは異なり、アーティストが業界関係者に直接プレゼンを行い、 音楽やパフォーマンスを披露し、キャリアを進展させることが主な目的となる。アメリカの『SXSW』やイギリスの『The Great Escape』などが代表例として知られるが、日本ではまだ認知が十分とは言えず、その土壌形成に向けた課題意識が『CUEW』の開催背景にある。
会期中はデリゲーツらによるトークセッションに加え、アーティストと関係者が1対1で出会える「Speed Meeting」や交流会など多様なネットワーキング機会が用意され、参加者は専用アプリを通じて直接コンタクトを取ることもできる。ミュージシャン、レーベル、エージェント、プロモーター、メディアなど、多様な立場のプレイヤーが一堂に会する場となった。

ここからはいくつかのトークセッションで得られた知見を紹介しよう。
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下調べが重要。では何を調べたらよいのか?
海外でのライブやショーケースイベント・フェス出演にあたり、複数のトークで繰り返し語られたのが、“Do your homework.”——十分な下調べをしろ、ということだ。
海外進出を考える時、まずイギリスやアメリカを目指すアーティストは多い。ウェールズ最大の国際ショーケースイベント『FOCUS Wales』共同創立者・音楽責任者のアンディ・ジョーンズ(Andy Jones)は、『Worldwide Music Network: アジア,ヨーロッパ,US をつなぐ音楽ネットワーク』のセッションのなかでこう話した。

フェス文化が成熟するヨーロッパと成長を続けるアジアをつなぐ音楽ネットワークに注目。フェスやショーケースの連携に加え、エージェントの役割にも触れながら、新たな機会やファンベースの広がり、地域間の相互理解とアーティスト支援の可能性を探った。
アンディ・ジョーンズ:多くのウェールズのアーティストが「アメリカに行きたい」とデフォルトのように言います。でも、なぜアメリカなのか? 現地の業界とすでに繋がりがあるのか? 現地でファンベースが育っている兆候はあるのか? と聞くと、たいてい「特にないけど、行ってみたいから」という答えが返ってきます。
世界は広く、チャンスは様々な場所にある。だからこそまず下調べをして、データに基づいて、自分に最も合ったマーケットを見極めることが大切です。
フランスのブッキングエージェントであるロマン・ピケレーズ(Romain Piquerez)(RP Booking)は、「下調べをすることは大前提」としたうえで、「カタツムリのやり方」という言葉を用いて、焦らずじっくり進めることの大切さを説いた。海外に出る前に、まずは自国で実績を作り、自国の音楽業界のプロフェッショナルたちと繋がること。それが他国の関係者への橋渡しになってくれることもある。
その具体例として彼が挙げたのが、自身がフランスでDYGLをブッキングした際の経験だ。彼は、フランスで複数のフェスティバルを運営し日本と深い繋がりを持つプロモーターの存在を事前に知っていたからこそ、フランスでは新人バンドだったDYGLのフェスティバル出演を実現できたのだという。
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海外フェスにどうしたら出られるのか。重要なのは「ライブ」のクオリティ
『Festival New Wave: 音楽フェスティバルにおける新しい潮流』のセッションでも、フェスの出演応募における「ホームワーク」の重要性が話題に挙がった。

各フェスの個性を起点に、ダイバーシティや社会的メッセージなど、いま問われるテーマを紐解く。フェスは時代を映す鏡なのか。グローバル化とローカル性の間で、これからのあり方と役割を探るセッション。
大規模のフェスに出れば良いというわけではなく、観客層やジャンルの傾向が自身の音楽と合っていなければ、出演してもミスマッチが生じる。応募の前に過去のラインナップを調べ、どんなオーディエンスなのかを把握する必要がある。同セッションに登壇したタイ『Wonderfruit』のミュージックディレクター、フォン・リー(Phuong Le)も「『Wonderfruit』への出演を希望するなら、『Wonderfruit』が何であるかを理解することが重要です。私たちは、私たちのスピリットに合ったアーティストをブッキングします」と語る。
では具体的に、海外フェスのブッキング担当者たちはアーティストのどのような点に注目するのか。複数の登壇者が口を揃えたのが、ライブの質だ。
『Festival New Wave』に登壇したセルビア『EXIT Festival』の共同設立者イヴァン・ミリヴォイェヴィッチ(Ivan Milivojev)は、「SNSの数字などよりもずっと良い演奏をするバンドがいることを知っているし、そういうバンドをブッキングしたい」と語り、スウェーデン『Way Out West』のダニエル・ブズドゥセク(Daniel Bzdusek)も「たくさんの応募を精査するが、良いライブアクトであることは非常に重要」と同意する。
前述の『Worldwide Music Network』に登壇したドイツ『Reeperbahn Festival』のロビン・ワーナー(Robin Werner)は「私たちは日本でもっとも有名なアーティストだけを求めているわけではありません」と話す。「人々が求めているのは大衆的な成功や大きな数字ではなく、独自性です。『これこそが私が音楽やカルチャーに求めているものだ』『このアーティストが体現しているものが好きだ』と感じさせるものがあれば、世界中にファンベースを築いていけると思います」。
同じセッションに登壇したアンディ・ジョーンズ(Andy Jones)はこう続ける。「キュレーターとして私が求めているのは、自分自身の個性をしっかり持った、本物のアーティストです。人々が興奮して、記事を書きたくなって、一緒に仕事をしたいと思うような、そういう際立つものを見つけたい」。
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出演で終わらせない。機会を最大限生かすために
実際にショーケースイベントやフェスに出演が決まったら、その機会を最大化するためにも考えておくべきことがある。
『Building the Future Through Festivals: ショーケースフェスティバルが新たな才能とグローバル市場への道を切り拓く』のセッションでは、『The Great Escape 』のアイラ・マクロビー(Isla Mcrobbie)が「ショーケースに出演するだけで、期待通りの観客が集まり、翌朝には世界ツアーが決まってレーベルからの契約オファーが殺到する──そう思い込むのはとても危険です」と警告した。重要なのはチームで戦略的に動くことだという。

『SXSW』のプログラマーであるジュネヴィーヴ・ウッド(Genevieve Wood)も「『SXSW』で一貫して良い結果を出しているアーティストは、フェスティバルに臨む前にしっかりとした計画を持ち、具体的なアクションプランを持っている人たちです」と同調する。
具体的にはどう動くべきか。
効果的なのは海外公演を点ではなく線で設計することだ。『Worldwide Music Network』に登壇したロマン・ピケレーズ(Romain Piquerez)は、たとえば ドイツの『Reeperbahn Festival』なら同フェスだけを目指すのではなく、その前後にフランスなど近隣諸国で開催されるフェスも視野にいれることで、チャンスをさらに増やすことができると話す。5月の『The Great Escape 』や『FOCUS Wales』に合わせて多くのアーティストがイギリスに集まるように、業界関係者が集中する時期を捉えて複数の機会を繋げることが、コスト面でも露出面でも効率的な戦略になるということだ。
また、現地でのネットワーキングも不可欠だ。前述のアイラ・マクロビーはこう話す。
アイラ・マクロビー:フェスティバルに来ることがわかっている人たちには必ず声をかけてください。たとえばその人をコーヒーに誘って自分のショーについて話すこと。常にみんなの意識の中に自分の存在を置いて、毎年必ずその人たちを自分のパフォーマンスに招待するようにしてください。
『FOCUS Wales』のアンディ・ジョーンズは、フェス側が業界のキーマンやスカウトと直接交流できる環境を作っても、アーティストがその機会を十分に活かせないことがあると語る。音楽業界、特に小さなエージェンシーやレーベルほどアーティストが何者なのかを知りたがっているのだという。
アンディ・ジョーンズ:頭の中にある壁を乗り越えて、カンファレンスやネットワーキングイベントに参加して、自己紹介してほしい。結果は必ずついてきます。部屋にいる全員と同じだけ、あなたも重要な存在だと理解してください。デリゲーツたちはあなたのことを知りたいと思っています。
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動き出すのに適切なタイミングとチャンス
下調べができたとして、いつが行動すべき時なのか。『Reeperbahn Festival』のロビン・ワーナーはこう話した。
ロビン・ワーナー:自分自身で完全に確信が持てない時──今年のこのタイミングがベストだ、来年でも再来年でもなく今年なんだと思えない時は、やめたほうがいい。でも本当にそう確信できたなら、全力で取り組んでください。
『FOCUS Wales』のアンディ・ジョーンズは毎年多数の応募を受けるショーケースイベント主催者の立場から、最終的に出演枠を得るアーティストは、パフォーマンスが優れていることは前提として、「いまこの機会を活かせる準備ができていると私たちをもっとも納得させられたアーティスト」だと話した。
アンディ・ジョーンズ:わざわざ飛行機に乗って来てもらう以上、私たちもその経験からしっかりビジネスの成果を得てもらわなければなりません。だから、応募する前にエージェント、レーベル、プロモーターなど、将来一緒に働きたい人たちと事前に対話を始めておくことが大切です。