仏教が、これまでとは少し違うかたちで注目され始めている。数年前に、書店で『自分とか、ないから。 教養としての東洋哲学』という、ポップな黄色い表紙の本が大量に平積みになっているのを見て以来、その感覚はいまも続いている。宗教というより、自分や世界を理解するための考え方として、仏教や東洋思想が読み直されているようなのだ。
そんな折、空海の生誕1250年を記念した展覧会『空海と真言の名宝』が上野の東京国立博物館で開幕した。空海は平安時代初期に、密教という教えを日本に広めた人物だ。おかざき真里の人気漫画『阿・吽』でそのキャラクターをご存じの方も多いだろう。日本の仏教界を代表するスーパースターである。その感覚の正体が分かるかもしれない、そんな期待を胸に展覧会へ向かった。
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仏教界のスーパースター、空海に出会う
今回の特別展『空海と真言の名宝』は、空海生誕1250年を記念して企画された展覧会である。真言宗の十八本山と関係寺院の協力のもと、空海のゆかりの名宝や、秘仏が一堂に会する。

展覧会の入口には、弘法大師空海の像が鎮座する。和歌山・金剛峯寺に伝わる、この展覧会を象徴する作品である。『弘法大師坐像』は、思ったほど大きくはない。目線に近い高さに配されており、向かい合うと静謐さのなかに力強さがある。その視線は自分を越え、はるか彼方を見ているようだ。

そもそも空海とは、どのような人物か。彼は、仏教の最新形態だった密教を求めて唐に渡り、中国・密教界のレジェンドである恵果(けいか)に見込まれる。外国から突然来た空海は、名だたる弟子たちを差し置いてその教えのすべてを受け継いだ。漫画みたいでなかなか刺激的なストーリーである。
最初のエリア「空海と真言密教」では、その空海が唐から持ち帰ったと伝わる国宝『金銅錫杖頭』や、留学中のノート『三十帖冊子』といった品々が並ぶ。

『三十帖冊子』は、想像していたより小さい。持ち運ぶことを前提にした、小ぶりなノートだ。薄茶色に変色した紙の質感から、長い時間の経過が伝わってくる。1200年以上もの時を経たものだと思うと、不思議な高揚感がある。

字はどれも丁寧で、淀みがない。思いつきで記したのではなく、書くべきものを確かめながら写し取ったように見える。紙の向こうから、何か凝縮した思いが立ち上ってくるようだ。