OGRE YOU ASSHOLEの主催イベント『““DELAY 2026””』の大阪公演にkanekoayanoの出演が決定した。カネコは『““DELAY””』初年度の2024年にも大阪公演に出演していて、昨年12月にはkanekoayanoの自主企画にオウガが出演したりと、相思相愛とも言うべき関係性を築いている。
では、この二組が共有する感覚はどんな部分なのか。カネコはもともとオウガのファンで、kanekoayanoとしてのサイケやクラウトロックへの接近から、音楽的な共通点も感じるし、エンジニアの中村宗一郎やライブPAの佐々木幸生など、実はサウンドメイクに関わる人物も共通している。その背景にあるのは人間的な熱量との向き合い方であり、国内外でライブをやり続けているその姿勢も、デジタルなツールが日常を侵食し、一元的な価値観を押し付けてくる時代に対する、ある種の抗いの表れだと言えるかもしれない。出戸学とカネコアヤノの対話は表面的には穏やかでありながら、そこから漏れ出る確かな熱量を感じさせるものだった。
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OGRE YOU ASSHOLEとカネコアヤノの出会い
ーお二人はいつ頃からお知り合いなんですか?
出戸:代官山UNITでやったuri gagarnのイベントに僕がDJで呼ばれて、カネコさんが弾き語りをしていて。あれは何年前ですか?
カネコ:10年経ってないぐらいですかね。コロナ禍よりは全然前(2018年5月)。
出戸:そのときはあんまり喋ってないんですけど、初めてライブを観て、印象は結構強かった。シンプルに歌がすごいなと思いましたね。あと歌い終わったとき、それまですごい歌を歌っていたのに、ステージのハケ方が、「もうさっきの私は関係ありません」みたいな感じで、それがすごく印象に残りました。

ーカネコさんはオウガのことはそれ以前から知っていたわけですよね?
カネコ:もちろんもちろん。大雨の野音(2018年9月)も普通にチケット買って行ったし、その前にも下北沢SHELTERで観たり、だから最初は普通にファンです。で、その後に渋谷WWW主催のイベント(2022年2月・めぐろパーシモンホール)で最初にちゃんと共演して。「これからいろいろやること考えなきゃ」みたいなタイミングでした。
ーサポートメンバーの交代があったり、変化を始める初期段階でしたよね。
カネコ:あの日のライブは割ときっかけになっていて。オウガとの対バンだから、(中村)宗一郎さんが来てるじゃないですか。私も前から宗一郎さんにマスタリングをしてもらってて、ずっと知り合いではあって。で、その日は買ったばかりの古いコンボアンプを初めて使う日だったんですけど、ローディーさんがヘッドで組んじゃってて、宗一郎さんに「そのアンプの音が好きで買ったのに、なんでそんなことしてんの?」みたいなことを言われて。些細なことですけど、「そうだった、自分が好きな音を忘れそうだったわ」ってなって、あの日のことはすごく覚えてるんですよね。違うことで一生懸命になりすぎちゃって、忘れそうになってたことをグイッと思い出させてくれた。そういう意味であの日はすごく記憶に残ってます。

出戸:そこから2年後くらいに自分たちの『““DELAY””』に出てもらって、味園ユニバースでまたツーマンをしたんですけど、そのときには全然違った印象になってて、すごいことになってるなって。噂は聞いてたんですよ。「カネコさんのバンド、今すごいよ」みたいな。それもあって『““DELAY””』に呼んだんですけど、観たら本当に別ものになってて、びっくりしました。
ーどう変わっていた?
出戸:バンドの鳴ってる音が深い感じになってるというか……何度も観てたわけじゃないから、何がどうなってるのかは僕もよくわからないんですけど、でも体感として来るものが全然違っていて。前は弾き語りの印象もあったし、歌が強くてバックのバンドが歌を立ててる感じがあったんですけど、そのときは塊でドンってくるような感じの印象ですかね。
ーもともと「カネコアヤノ」という名義ではありつつ、シンガーソングライターというより、バンドっぽいライブをしてたとは思うけど、よりバンド感が増して、その2年で結構変わった感じはありましたよね。
カネコ:メンバーの入れ替わりがあったりしたので、それは大きいですね。自分が積んでるエフェクターとか、サウンド感とか、やってることはそんなに大きく変わってないんですけど、やっぱりリズム隊が変わったことはすごく大きいし、そこなのかな、みたいな。まあでもやっぱりさっき言ったパーシモンの日に「君がやりたいことって何だ?」と言われたことは大きいかもしれないですね。そこから考え直しました。

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結局バンドがずっと好き
ー2024年の6月に『““DELAY””』の大阪公演があって、その2ヶ月後にバンドでの活動はkanekoayano名義に変わりました。改めて、なぜバンドになったのでしょうか?
カネコ:それよりも前から「うちら名前はついてないけどバンドだよね」みたいな感じだったんですけど、結局みんなでアレンジしてるし、ちゃんとバンドにした方がシンプルになるなっていうのは大きかったです。あとはバンドっていうものに自分がずっと憧れを抱いてることも事実だったから、だったらバンドにした方が自分的にもすっきりするし、みんなもそれによってもっとグイッと入ってやれるようになるなら、それが一番いいのかなと思って、そうしました。

vocal/guitar:カネコアヤノ、guitar:林宏敏、bass:takuyaiizuka、drums:SEI NAGAHATA
カネコアヤノ率いるバンド「kanekoayano」。2024年に林宏敏(guitar)、takuyaiizuka(bass)をメンバーに迎え活動を始め、2025年4月にバンド結成後、初のアルバム『石の糸』をリリース。2026年1月にSEI NAGATAGA(drums)が正式加入。近年は海外での活動も積極的に行っており、2025年に3度目のUK Tour、初のAUS Tour、初のASIA TOURを開催。Fuji Rock Festival’25ではRED MARQUEEのサブヘッドライナーを務めた。2026年1月15日にkanekoayanoとしては初の「kanekoayano 日本武道館ワンマンショー 2026」を開催。5月よりAUS/EU/日本をまわる「kanekoayano World Tour 2026」を開催予定。
ーそれこそオウガも含めて、バンドに対する憧れはずっとあった。
カネコ:そうですね。結局バンドがずっと好きだから。
ー出戸さんはもうずっとバンドですよね。ソロを考えたりとかは?
出戸:今のところないですね。バンドでやりたいことを全部やってるので、他のことをやりたいっていうのはあんまり出てこないです。バンドをやりつつソロを出すと、いくら真剣に作っても、片手間でやってると思われたり、趣味だと思われちゃうかもしれないし。だから全力でバンドをやってます。

ー近年のカネコさんの曲はクラウトロック的な、反復を基調とした曲が増えている印象で、例えば“太陽を目指してる”を聴いて、オウガを連想する人もいたんじゃないかと思う。その変化についてはどう感じていますか?
カネコ:それこそ今いるリズム隊の2人はそういうのが得意だから、それは大きいかもしれないです。あと「2コードで曲作るの楽しいな」と思いました。
ーシンガーソングライター的な作り方だとある程度コードの展開が必要かもしれないけど、バンド的な作り方だと2コードでもかっこいいものができる。
カネコ:でもそれをやりすぎると危険だなと思って、最近はまたちゃんと弾き語りというか、前作っていたように作ったりもしてて。だから両方できたらいいですよね。今のメンバーらしさもあるし、私が作ってる意味もあるし、両立できたらいいかなって。
ー反復に惹かれるのは何か理由がありますか?
カネコ:言葉の反復は前から好きでやってて。同じ言葉を何度も何度も言ってたら、何度も何度も言うたびに意味合いが変わっていったり、重くなったり、逆に軽くもなったり、音に関してもそうですけど、私はそれがすごく好きです。

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「オウガのライブ観ると、“やっぱりこれでよかったんだ、ありがてえ!”みたいな気持ちになる」(カネコ)
ー2025年の12月にはカネコさんが自主企画にオウガを呼んでいて。
カネコ:はい、そうです。最高でした。
出戸:(kanekoayanoも)すごかったですよ。
ー割と急に決まったライブでしたよね。
カネコ:そうですね。観たかったからお声がけしました。
出戸:ありがとうございます。
カネコ:引き続き、年一とかで対バンしたいです。
出戸:よろしくお願いします。

出戸 学 guitar, vocal、馬渕 啓 guitar、勝浦 隆嗣 drums、清水 隆史 bass
メロウなサイケデリアで多くのフォロワーを生む現代屈指のライブバンドOGRE YOU ASSHOLE。 00年代USインディーとシンクロしたギターサウンドを経て 石原洋プロデュースのもとサイケデリックロック、クラウトロック等の要素を取り入れた「homely」「100年後」「ペーパークラフト」のコンセプチュアルな三部作で評価を決定づけた。 初のセルフプロデュースに取り組んだ「ハンドルを放す前に」ではバンド独自の表現を広げる事に成功し高い評価を得る。2010年 全米・カナダ18ヶ所をまわるアメリカツアーに招聘される。 2014年 フジロックフェスティバル ホワイトステージ出演。 2018年 日比谷野外音楽堂でワンマンライブを開催。 2019年9月 アルバム「新しい人」リリース。 2020年「朝 (alternate version) / (悪魔の沼 remix)」「workshop3」リリース。 2022年 フジロックフェスティバル レッドマーキーに出演。 2023年 4曲入りep「家の外 e.p.」をリリース
ー出戸さんが「すごかった」と感じたのは特にどんな部分ですか?
出戸:情緒がある曲も、物語っぽい曲もあるし、その情緒や物語を補強するような演奏もあるんですけど、そうじゃない瞬間ーー歌声とか演奏が、その曲が持ってる方向性と違う感じのアレンジだったり、歌声になってる瞬間があって。そういう瞬間、そのズレがあることによって、急激に生々しくなったりする。そういうことができてるバンドだなと思います。
ーカネコさんからすると、それは意図的ですか? それとも自然にそうなってる?
カネコ:どうなんでしょう……演奏に関しては結構熱めな人たちがいるので、その人たちが一緒にこうワッてなるところが、もしかしたら我々は一緒なのかもしれないです。でもそういうことでいうと、オウガはずっと無機質な感じだけど、それこそループしていくごとに、「こんな人間っぽい部分があったんだ」みたいなのが垣間見える瞬間が超かっこいいなと思います。そういう熱さみたいなのって、年を取るごとに出すのがむずくなっていったりすると思うんですけど、やっぱりそれが垣間見える瞬間がバンドはかっこよくて、そういうことに胸を打たれて、ずっと音楽を聴いてるような気がしてて。年を取っていくごとに「それがむずいんだよなぁ」とか思ってても、オウガのライブ観るとバーンってなる瞬間があって、「やっぱりこれでよかったんだ、ありがてえ!」みたいな気持ちになるんです。

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「熱いものを作ろうとはしてないけど“漏れちゃう”」(出戸)
ーオウガのライブを観て、「無機質さの中に人間的な熱量がある」というのはよくわかります。出戸さんとしては、意図的にやってる部分と、結果としてそれが生まれる部分と、どんな割合だと思いますか?
出戸:結果ですね。熱いものを作ろうとはしてないけど「漏れちゃう」みたいな。
カネコ:その「漏れてる」みたいなのがいいですよね。多分うちらは自分たちから漏らしちゃってるから。
ー近年のオウガはアナログシンセを使って、シーケンスを流しつつも、クリックは聴かないで、一緒に演奏することによって生まれるズレの気持ちよさがある。そこが今の話にも通じる部分かと思いますが。
出戸:シンセを使い出したのは、コロナ禍でバンドの練習ができなかったのがあるけど、シーケンスを何個も重ねると、やっぱりバンドが死んじゃうんですよね。だから「これいらないね、これいらないね」って削っていって、最終的に“家の外”とか、ライブだとブブブブブっていう単音だけしか流してなくて、でもそれくらいの方がかっこいい。同期をたくさん重ねて、それだけでアンサンブルになっちゃうと、それに従って演奏することになるんですけど、ブブブブブっていう単音だけだと、一拍ずれても別にどうでもいいっていうか、そこの伸び縮みもできる。そこは練習しながら気づいたことで。
ーまさにそれがある種の無機質さと、そこから漏れ出る人間味を生んでると思います。
出戸:そういう意味では、僕らも漏らそうとしているかもしれないです。たくさん同期を流しちゃうと、漏れないんですよね。だから僕らも漏らそうとしてるけど、頑張って漏らさないようにもしてる(笑)。
ーカネコさんのバンドも、同期を聴いて演奏するイメージは湧かないですよね。
カネコ:それはなさそうですね。同期を聴いて、正確なタイム感でやるのは……別にそういうやり方を否定してるわけじゃないですけど、自分がやりたいこととはどんどんずれていってしまいそうだなって、漠然とした危険性を感じてますね。
出戸:弾き語りのタイム感の伸び縮みみたいなのはめちゃくちゃすごいなと思うし、バンドでそれを再現できるのもすごい。そこがやっぱり醍醐味でもある。
カネコ:そうですね。タイム感とか、バンドでも「全然そのときのテンポでいいじゃん」と思うし、それこそ曲の中で伸び縮みすることが、人間がやってる意味があるし、ライブで演奏する意味があるなって、私は思いますね。

ーもちろん同期を使うライブのかっこよさもあるけど、最近いろんなアーティストの取材をしてて、同期を使わなくなったとか、クリックを聴かなくなった、みたいな話をする機会が増えてて。コロナ禍もあってDTMで作る人が増えて、それをライブでやる上でクリックを使う人が一時期増えたけど、最近はそれをもう一度見つめ直すような流れがある気はします。
カネコ:SNSとかAIとかの普及も関係あるんですかね……知らんけど(笑)。
ー昨年の『““DELAY””』の対談でも、出戸さんは小山田さんとAIの話をされてましたよね。
出戸:小山田さんは使い方次第ではありますが、わりと肯定派でしたよね。
カネコ:そうなんだ。
ーちなみに出戸さん、その後は?
出戸:全然使ってない(笑)。
カネコ:いやなんか、上手い人がものすごく増えた印象があるんですよね。SNSとかAIが普及していく中で、教材みたいなものがもうゼロベースであるじゃないですか。例えば、歌でいえばボーカロイドが歌う超高いピッチの声を出せることだったり、無謀なことを人力でやることがすごみの主流になってきているような気がして、「上手さのゴール」がそこにシフトされすぎているものをみると気持ち悪く感じてしまうときがある。やっぱり私が好きな音楽は雑味とか、伸び縮みみたいなものがあって、それをバンドとか人がやるからこそ、胸を打たれたり、琴線に触れたりするんじゃないかなって信じていたいですね。
出戸:その気持ち悪さって、正解があって、価値が一元化してる感じですよね。クリックがあったり、ピッチが合ってるとか、唯一の答えに向かってみんなが修練していく、みたいな世界観。でも音楽はそうじゃないというか、一個の価値の中で戦ってるわけじゃなくて、「あいつも面白いし、あいつも面白い」ぐらいのものだから。
カネコ:そうなんですよね。「よくわかんないけどブチギレてやってる」みたいなのが笑えるじゃんって思うんですよ。けど今は「涼しい顔してすごいやつ弾ける」みたいな方が評価が高いというか、答えが決まってる感じがして、それはちょっと怖いなと思いますね。

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両バンドを支える、佐々木幸生とアコースティックの魅力
ーオウガとkanekoayanoの共通点として、ライブのPAを佐々木幸生さんをはじめとしたアコースティック(※)の方が担当することが多いですよね。佐々木さんとのやりとりをはじめ、音作りでどんな部分を大事にしているか、お伺いしたいです。
※株式会社アコースティック:佐々木幸生が代表を務める音響会社。YMO、電気グルーヴ、サカナクション、羊文学、坂本慎太郎など様々なアーティストのPAのほか、恵比寿LIQUIDROOMやSpotify O-EASTなどの音響設備も手掛ける。
出戸:僕らはもう佐々木さんにお任せです。
カネコ:私も。リハのときに「この音、大丈夫そうですか?」とか聞いたりはしますけど、基本的な外音に関しては、佐々木さんにお任せしちゃう。
ーなぜそんなに信頼できるんですか?
出戸:佐々木さんがオペレートしてる他のバンドを観ても、明らかにいいんですよ。アコースティックは、今回の大阪公演をお願いする糸賀(隆)さん含め、みなさんそれぞれ個性はありつつ、芯にあるものの質感が似てて。
カネコ:佐々木さんが担当してるライブを何バンドか観に行ったときに、全部同じ音なわけじゃなくて、そのバンドに対する解釈がそれぞれあって、それがどれもいいんですよね。あとは思いっきり音を出してくれるところが私は結構好きで。それはただでかいだけじゃなくて、うちの場合は林(宏敏)くんがバーってギターソロを弾いてるときとか、私が出番前に「あそこはもう思いっきりいっちゃってください!」みたいにふざけて言ったら、もうバーン! って、全員がドン引きするぐらい出してくれて。でもそれが痛くはないんですよね。コンプがバキバキにかかってて、シャリシャリする音はあまり好きじゃないんですけど、佐々木さんは音量感というより密度が上がってる感じがして、そこが好きですね。
出戸:すごいわかる。耳が痛いって思ったことがない。
カネコ:本当にそう。でかいのに痛くない。
ーオウガのライブもカネコさんのライブもダイナミクスは大きくて、でかい音を出すとき爆音だけど、確かに痛い感じはしないですね。
カネコ:だし、音が大きくても疲れないから、そこがすごいなと思う。
出戸:佐々木さんは電気グルーヴとかサカナクションもやってるんですけど、若い頃からDJのPAをやってて、要はオールナイトでずっと音が鳴ってるようなところの音作りをしてる。だから10時間とか聴いても嫌にならない場を作ることに長けてるんです。どんな音量感にするかとかも、その場の空気やお客さんの感情を読みながら決めてる気がして。
カネコ:そんな感じはしますね。だからメンバー的な立ち位置で一緒にライブを作ってくれてる印象があります。
出戸:今回は糸賀さんが両バンドのPAをやってくれるから安心だけど、ツーマンライブで出演者ごとにPAさんが違う場合、「あれ、さっきと同じ会場かな?」ぐらい場の空気が変わってしまうこともあるんですよね。そういう意味でも今回の『““DELAY””』はちゃんと地続きで楽しめるし、一つの場が作られていく感じがあるのかなと思います。
