2026年上半期の音楽を、全3回の座談会で振り返る。
鈴木慶一、大森靖子、BiS等についての著作があり、メジャー / インディの垣根を問わずシーンをウォッチする宗像明将、DJとしても活動しインディペンデントな音楽に精通した松島広人(NordOst)、ブラジルなど米欧以外の音楽や国内インディに精通した風間一慶。世代も観測範囲も異なるライター / 評論家3人に、注目したリリースタイトルについて語り合ってもらった。
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Trooper Salute、座布団忍者、国内インディバンドの隆盛
—2026年上半期にリリースされた新譜について、みなさんから事前に注目作を挙げていただきましたが、守備範囲の違うみなさんが共通して、国内インディのバンド系のタイトルを挙げていらしたのが印象的でした。
風間:はい。僕はTrooper Saluteの1stアルバム『友達がいました』が、クオリティが抜きん出ていたと思います。日本だけじゃなく海外でも、例えば「Album of the Year」というインディロックのオタクが集まる投票型のサイトがあるんですけど、そこで今年のアルバムの中でユーザースコアが3位になったんですよ。世界のロックの中で。過去に日本の作品では、青葉市子さんが上位になったぐらいなんですね。それくらい世界的にも評価が高い。
風間:また、座布団忍者の『Still, You Dance』も面白かったですね。座布団忍者とほぼ同世代のバンドに雪国がいますが、彼らには残響系が終わったあとの、下北沢BASEMENTBAR系のバンドのような雰囲気があるし、下半期ですが7月にアルバムをリリースしたばかりの二兆円というバンドは、ちょっと京都っぽい、空間現代とかの影響を感じるんです。そういった、2010年代のバンドを見て育った世代が現れています。
風間:国内のインディ的なシーンもずっと見てきた宗像さんは、いまのインディロックのバンドをどう見ていらっしゃいますか?
宗像:風間さんがこのあいだ、座布団忍者のインタビューされてたじゃないですか。それを読んで聴いてみたんですよ。彼らはラテン音楽研究会でしたっけ? というサークルの出身なんですよね。
風間:早稲田大学の中南米研究会ですね。
宗像:はい。20代前半の若者たちが、ラテン音楽も吸収していろんなことをやりながら、インタビューになると尖ったことを言っている。そんなところも含めて面白いなあと思いました。
宗像:私はいま54歳で、渋谷系を直撃した世代なんですよ。私のような、渋谷系的な、古いものでもいろんなものに触れる聴き方をしていた人間からしても、いまのインターネットで全てがフラットになった世代が作るものって、わけのわからない面白い方向に行くなと思って。私たちの世代からは想像がつかない、時代性とか地域性のエディットがされてるんだろうなっていうのは、座布団忍者を聴いてありありと思いましたね。
松島:僕はDJもしているんですけど、昨年の9月にゆるふわギャング主催の『PURE RAVE』という野外レイヴに出演した際に、座布団忍者の存在を知りました。サイケトランスのDJとかラッパーが出てるようなレイヴに、なんでバンドが呼ばれてるんだろう? 名前もかわいい響きで不思議だし、と思って聴いてみたら、インディロックなんだけどリズムワーク等に違和感が含まれていて、面白いと感じました。音楽ももちろん、そういう活動領域も独特で面白いですよね。
風間:彼らとすごく仲が良いwanbedとかもそうなんですけど、日本的なポストロックに加えて、曲の中で例えば急にアフロビートのノリが入ってきたりとか、いろいろな要素を自由に組み換えていくっていうのは、彼らの世代に共通していると思いますね。
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インターネット以降世代の「新渋谷系」的雑食性
松島:渋谷系って、例えばFlipper’s Guitarのようにサンプリングの概念を持ってきたりとか、輸入レコ屋から仕入れた舶来の音楽を日本なりにローカライズするという、大きな社会ムーブメントだったと思うんです。対して、いまの世代のバンドが参照しているのは、渋谷系に影響を受けたバンドが作っていた、よりミクスチャーな音楽をさらにミクスチャーした、ミクスチャーのミクスチャーの……という感じだと思うんです。だからこそ飛躍を感じられるのかなって思うし、同時に根っこの部分は渋谷系的な精神とあまり変わらないのかもしれません。かつてはものすごく高い7インチを手に入れたり、廃盤になってるCDを先輩に借りたりするものだったのが、いまはYouTubeでなんでも視聴できてしまうようになって、だからこそスーパーフラット極まった時代以降のバンドがたくさん出てきているのかなと。
宗像:まさにその通りだなと思いますね。まさに高いレコードとかCDを買っていた世代なので、羨ましいことだなと思いますよ。本当にそういう意味では間違いなくいい時代です。
風間:それで言うと、Trooper Saluteって、自分たちでリファレンスプレイリストを公開してるんですよ。そのリファレンスに、彼らとめちゃくちゃ近い世代、例えばbetcover!!とかKhakiなんかが入っているんです。20代後半の人をもう参照して、それを参照しましたと公言することに躊躇が全くないんですよね。従来の音楽って、前世代へのカウンターだったり、リバイバルだったら価値を転倒させてそこに今日性を付与するものだったと思うんですけど、彼らの世代のバンドがやっているのは、価値転倒のための音楽では全くないんです。
風間:あと、orlikという2005年生まれのシンガーソングライターがいるんですけど、彼は残響系が大好きで。なんで好きなんですか? って聞いたら、「すごく東京ローカルなものに感じた」と。東京でしか存在し得ない音楽で、無機質な風景にマッチしたのはこれだから、自分には馴染むんだっていう話をしていて。それと同じような感じで、例えば渋谷系から続く系譜を、日本にしかない独自の文化として、新たなローカルミュージックとして捉えてるような人たちがいる。カウンターではなくて正統後継者と言いますか。宗像さんは注目タイトルに民謡の盛り上がりみたいなところを挙げていらっしゃったので、もしかしたら近いものを感じているのかなと思いました。
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民謡クルセイダーズ、中西レモンなど民謡が熱かった上半期
宗像:いやー、そこまで深く考えてませんでしたね(笑)。そう、民謡のシーンがいま熱くなっているというのは、2026年上半期のトピックとして言っておきたくて。まず、民謡クルセイダーズが2023年にメジャーデビューして、メジャー2作目となるアルバム『日本民謡より愛をこめて』が6月にリリースされました。元ちとせさんとかもゲストに迎えて、民謡にラテンを掛け合わせた音楽をやってるんですけど、こんど北米ツアーもするなど、でかい話になっている。というのがやっぱり大きなトピックとしてあります。
宗像:あと、中西レモンっていう人がいるんですよ。この人は江州音頭の音頭取りで、 コブシを回して歌う人なんですけど、その人がアルバムを出して、それがわけがわからないぐらいすごかった。その中西レモンを全面的にバックアップしているのが、すずめのティアーズっていう女性2人組なんですよ。すずめのティアーズは、ブルガリアンポリフォニーみたいな、不協和音を含むボーカルミュージック、ヨーロッパのルーツミュージックと日本のルーツミュージックを掛け合わせたようなことを2人でやっています。そういう人たちが中西レモンと一緒にやったりしている、シーンがあるんです。
宗像:あと島々っていう、チミドロの花井(国治)さんと元Have a Nice Day!の内藤さんがやっているユニットがあって、彼らも民謡×ラテンみたいなことをやっています。彼らはまだフィジカルリリースがなくてSoundCloudでしか聴けないんですが。あと、沖縄のゆいゆいシスターズという女性4人組のアルバム 『天まで届けシトゥリトゥテン』も出たところです。ウチナージャズと呼ばれる沖縄独自で育ったジャズシーンがあって、その要素を取り入れた雑食性の強いアルバムで、これもとても良かったです。4人のうち1人がお母さんで、2人がその娘なんですよ。
松島:内藤さんって復活してるんですね(笑)。少しずれるかもしれませんが、『DAIBON』(=中野大和町八幡神社 大盆踊り会)は行事として定着して、盆踊りから派生した日本のブロックパーティーっぽい感じになっているような印象があります。さらにADM(アジアンダンスミュージック)的に拡大解釈すると、Soi48というクルーがそういうパーティーをずっとやっていたり。民謡というもの自体をADMとして捉え直すような、そういう複眼的な視点で民謡を見るっていうのは面白いかもしれないですね。
宗像:そうですね。民謡クルセイダーズにしても中西レモンにしても島々にしても、ダンスミュージックではあると思うんです。民謡とダンスミュージックの親和性は高いと思います。
松島:切腹ピストルズとかがちょっと前にやっていたことも、民クルの感じに通ずるところがあるかもしれません。
風間:そうですね。民謡クルセイダーズに関しては、長い蓄積があるんですよね。フェスを回ったり、ドキュメンタリー映画になったり、ヨーロッパも回ったり、フレンテ・クンビエロとコラボしたり。積み上げてきたものが成就した、そこに時流も乗ってきた、という側面が大きいと思います。
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次世代に受け継がれていく難波ベアーズのDNA
松島:話をちょっと戻すんですけど、さっき風間くんが名前を挙げたwanbedというバンドは僕も愛聴していまして。3月に『135』というEPが出たんですけれども、オルタナティブロック / インディロックに、日本の激情ハードコアみたいな地下シーンの尖った感覚だったり、インディエモ〜スクリーモのようなラウドな要素が入ったりというのが、近くて遠かったジャンルを紡いでいくような作風で、懐かしさもあるけど完全に新しいものとしても聴ける。ライブも必ず観に行きたいなと思っています。
松島:あと、難波ベアーズ周辺シーンから出てきた沼というトイポップのデュオがいまして、その『いとまのすいけい』というアルバムも素晴らしかったです。disk unionのDIW PRODUCTSというレーベルから出ていて、僕の大好きなバンド・ラブクライの三沢(洋紀)さんがプロデューサーで、エンジニアに原浩一さんという座組みで作っている4年ぶりの2ndアルバムです。
トイポップとかインディフォークみたいな、ベアーズ的な歌モノの系譜にある作品ではありつつ、リリックや展開、歌い方の節々に、パンキッシュな要素が見え隠れする。わりと長尺の曲の中で、サイケデリックでプログレッシブな展開が複数見られたりして、ずっと聴ける作品だなと思っています。取材させていただいたんですけど、高校時代に一緒に青春パンクのコピーをやっていたころからの仲良しなんだそうで、人柄も強烈に面白い人たちでした。ベアーズは惜しくももうすぐ閉店してしまいますけど、その精神性はやっぱりずっと引き継がれるんだろうなというのを感じました。

風間:難波ベアーズの遺伝子を感じるのは、今年アルバムを出した人で言えば、テレビ大陸音頭もまさにそうですよね。豊田道倫さんがすごい好きだというのも言っていたし。昨年札幌に観に行った『THE JUSTICE 2025』というthe hatch主催のイベントでも、テレビ大陸音頭が出ていて、KK mangaといういまのベアーズの魂みたいなハードコアバンドが出ていたりとか。
松島:KK manga、まさに。めちゃめちゃソリッドで、ちゃんと怖いバンドですよね。カッコいいし大好きです。
風間:そうですね。ちゃんと血が出るライブをしてます。ベアーズの遺伝子がいろんなところにつながってるんだなというのは、ここ半年や1年でけっこう感じましたね。
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「ポスト生音」の超重要作と、フォークの今日的更新
松島:いわばポスト生音と言ったらいいのか、生音っぽい風合いでDAW的な感じの組み立て方をする人たちも、あらためて出現してきているような印象があります。生音と電子のあわいを行くような感じの作風でずっとやってきたLe Makeupくんの最新作『The Crying Xpress』っていうアルバムが本当にすばらしくて。あえて安いMTRを通して音をぼやけさせるみたいなミキシングをするような独特の工程を経た作品です。いまって、特に電子寄りのポップスやラップは、パキッとクリアな感じで音の分離も綺麗なのが常態化してるんですけど、その中で耳休めになるような聴きやすさと、ハッとさせられるリリックや、細かな展開と、たおやかさがある。消費サイクルが早くなったいま、長く聴ける、聴き流しそうだけどハッとして振り返るような作品で、逆にビビッドなんじゃないかと思いました。
宗像:Le Makeupは私も聴いてるんですけど、音楽のメロウさであるとか、歌詞の良さ、ローカリティに気を取られていて、音像のことは聴けていなかったです。お話を聞いてなるほどと思いました。
松島:あとあと振り返って「これはやばかったよね」となりそうな、超重要作なのかなと思います。レコ発のワンマンライブもすごく良かったです。僕は仕事柄、毎週何本もパーティーに行ったりライブを観たりする暮らしが続いていますが、人のライブで自然と涙ぐんだのは、本当に何年ぶりかな? という体験でしたね。

宗像:八丸於冬さんの『今日僕はここを出ていく』も良かったです。曽我部(恵一)さんのROSE RECORDSの中にできたKAJITUっていうレーベルからのリリースです。このタイトルナンバーって、友部正人さんのアルバム『どうして旅に出なかったんだ』(1976年)へのアンサーなんですよね。彼はハチマライザーというバンドのギターボーカルなんですけれど、ソロでは全然やっていることが違って、ある種の内向的な部分を、赤裸々でありつつ作品としてちゃんと聴かせている。ローファイな音も含めてすごく感銘を受けて、上半期の収穫として入れさせていただきました。1970年代的なもの、フォークみたいな扱いをされるかもしれないですけど、やっぱり2026年の音楽だなというのをありありと感じて。
風間:フォーク的な若い世代だと、去年アルバムを出した月野恵さんも話題になりましたよね。松島さん方面というか、クラブとかに行っている若い方にも訴求し得るようなアーティストだと思います。
—ありがとうございます。続いて次回も2026年上半期の注目作について伺えればと思います。