『第2回新潟国際アニメーション映画祭』のレトロスペクティブ部門で、3月17日(日)に『かぐや姫の物語』が上映。関連イベントとして、同作監督・高畑勲に関わりのある人物をむかえたトークイベントが行われた。
シネ・ウインドで開催されたイベントの登壇者は、高橋望、スタジオポノック代表取締役・西村義明、サラマンダー・ピクチャーズ代表取締役・櫻井大樹の3名。『おもひでぽろぽろ』『平成狸合戦ぽんぽこ』などで高畑と仕事をともにしてきた高橋をMCに、『かぐや姫の物語』でプロデューサーを務めた西村と脚本に携わった櫻井に話を聞く形式でトークが進行した。
2018年に亡くなった高畑について、高橋は「厳しい方ですが得るものも大きかった」と語り、西村は『かぐや姫の物語』制作以前の話として、フランスのアニメーション『やぶにらみの暴君』の再編集作品『王と鳥』を高畑が日本で公開したいとスタジオジブリで持ちかけたことを回想。「当時ジブリにあまり人がいなくて、暇な人間が僕しかいなくて『お前やれ』って言われて(笑)。買い付けて宣伝するところまで、高畑さんと一緒に向き合いました。そこが最初の高畑さんとの仕事ですが、その前に僕のことをあまり知らないままに結婚式で挨拶してくれたという経験もあります(笑)」と、2006年に高畑が日本語字幕翻訳を担当して公開された『王と鳥』の裏話を披露した。
櫻井は「『かぐや姫の物語』のシナリオを1年半ぐらいお手伝いはしたんですけど、 もちろん1文字も使われることはなく(笑)。その前プロダクション・アイジーからジブリに出向していた2003年ぐらいに、武蔵境のマンションで深夜まで企画会議をやってて、そこで高畑さんと初めてお会いしました。当時は24〜25歳でまだ血気盛んだったんで、すごく生意気にも、今考えると恐ろしいですけど、(高畑が監督した)『セロ弾きのゴーシュ』好きですって話をしたんですよね。今考えるとよく言ったなと思いますけど。その時にちらっと高畑さんが、冒頭の三毛猫が出てくるシーンは宮沢賢治の原作だと、猫が何本足なのか分からないんですよね。その次の行が『重いトマトを降ろして……』で2本足だと分かる。次に「中々重いやと喋る……」それで喋るんだとその順序で分かるんですよ。でも映像にすると、ぱっと分かる。だからすごいカットを積んでるんですよね。で、しかも頭に嵐のシーンで猫が四つ足で軒下に隠れるカットを作って、こうやって初めて原作の雰囲気を忠実に再現することができるっていうのがあって。原作の感じを忠実に出すためには、原作の通りにやっては出ないっていうトンチのようなことを仰られていたのが出会いでした」と語った。
高畑勲監督の人間としての実像を聞くと、櫻井は「僕が一番最初にお会いした時には、高畑さんのお家。畳の部屋に通していただいて、本だらけなんですよね。ちょっと薄暗くて。で、いつ入ってこられるのかと思ったら、ランニング姿の高畑さんがむくっと起き上がって、『あ、いた』と思って。ここにいたんだ、ずっとと(笑)。その時に奥さんがパイナップルを持ってきてくださって、パイナップルと言えば『おもひでぽろぽろ』じゃないですか。だから、俺もなんか試されてんのかなみたいな(笑)」と初対面時のエピソードを披露。西村は「ある神社に行った時に『この木がなんだかわかりますか?』って聞かれて。杉だと思っても、『何か問われてる』っていう感覚に陥って、分かりませんって言ったら、『これはね、杉です』と言われて(笑)。その答えを聞いて、僕は高畑さんに素直に答えた方がいいなと思うようになったきっかけの木でしたね」と高畑とのユーモラスな思い出を述べた。
制作に8年という長い期間がかかったといわれる『かぐや姫の物語』。西村は当時の現場の温度感について、「ジブリで気運が生まれたことは1回もなかったですね。本当にそれはきつかったけどね」と回想。「(当時)鈴木(敏夫)さんに言われて週6日で家に通っていて、もう僕のその時期本当10年間ぐらい僕の昼飯と夕飯を奥さんが作ってくれた。奥さんのご飯で出来上がった体なんです(笑)。でも行っても高畑さんは来てくれるなって言うわけですよ、だって映画作りたいのはお前たちだろうと。私は一言も作りたいと言ってないよと(笑)。電話も『お世話になってます』って言うと、『あなたのお世話した覚えはない』って言われるんですよ」と高畑の首を縦に振らせるまでの苦労を振り返った。
「やっぱり会社からのプレッシャーもあるんですよ。 お前らが言っても全然進まねえだろって怒られてね。何も進まない1、2年の間に、自分たちの同世代は活躍をしていったりとかするわけじゃないですか。そうすると、やっぱ焦りは募ったりするんですね。僕らもそういう岐路に立たされた時期があって。奥さんの夕飯を食べて、高畑さんがすぐにテレビに手を伸ばそうとしたんだけど、『ちょっと高畑さん、話したいことがあります』って呼びかけて。『映画を作りたい時に、もしアニメーションであればいいんだったら、世界一のアニメーション作家は宮﨑(駿)さんです。でも、世界一のアニメーション映画監督は高畑勲です』って言ったんです。『僕は映画を作りたいから、高畑さん、一緒にやってください』って。そしたら高畑さんがむくって起き上がって、『うん、わかりましたよ、やりますよ』って言った。歴史的な瞬間でした。そこから何か変わるのかと思いきや、何も変わらなかったですけどね(笑)」と、高畑が『かぐや姫の物語』に取り組む意思を示した瞬間を述懐した。
高橋は「皆さんちょっとピンとこないと思うんではっきり申し上げたいと思うんですけどね。高畑作品はつくるの大変なんですよ。 企画も大変だし、制作も大変だし、公開も大変なんですよね。全部大変なんですよ。西村君が(『かぐや姫の物語』を)引き取って完成まで導いたっていうのは本当にすごいなと思って。 僕は人生を通じて尊敬してる人ってあんまいないんですけど、西村さんのことは本当に尊敬していて。やり遂げたのは本当に偉いですよね。 宮﨑さんとはちょっと意味が違うんですよ。宮﨑さんは自分の中にはっきりイメージがあるから、自分で作りたいものを自分で作るんですよ。 だけど、高畑さんの場合はちょっと違いますよね」と、高畑勲と宮﨑駿の制作スタンスと違いによるプロデューサーの大変さに言及すると、西村氏は「うん。でも僕はジブリに入ったのは、高畑さんの作品があったからなんですよ。『火垂るの墓』、人生で100回以上見てるんですよ。これをもしスタジオジブリが作ってなかったら、僕はジブリには入ってないんですね」と、 「巨匠・高畑勲」が特別な存在であることを語り、三者三様のエピソードで高畑を偲んだトークショーは終了した。
『第2回新潟国際アニメーション映画祭』レトロスペクティブ部門では、「高畑勲特集」と題し、高畑が監督を務めた『太陽の王子 ホルスの大冒険』をはじめとする長編アニメーション全作と、TVアニメの監督デビュー作『狼少年ケン(第14話)』などを一挙上映。映画祭は3月20日(水・祝)まで開催される。
『第2回新潟国際アニメーション映画祭』レトロスペクティブ部門 高畑勲特集
上映作品
3月19日(火)
平成狸合戦ぽんぽこ / 10:00 – 12:00 at シネ・ウインド
劇場版「赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道」 / 12:25 – 14:05 at シネ・ウインド
パンダコパンダ 雨ふりサーカスの巻 / 14:30 – 15:45 at シネ・ウインド
パンダコパンダ / 14:30 – 15:45 at シネ・ウインド
じゃりン子チエ / 19:45 – 21:35 at 新潟市民プラザホール
3月20日(水・祝)
劇場版「赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道」 / 10:00 – 11:40 at シネ・ウインド
かぐや姫の物語 / 12:05 – 14:25 at シネ・ウインド
太陽の王子 ホルスの大冒険 / 14:50 – 16:15 at シネ・ウインド
スケジュール | 新潟国際アニメーション映画祭 https://niigata-iaff.net/schedule/ より抜粋