8月8日(金)より『ジュラシック・ワールド/復活の大地』が公開中だ。
シリーズの第1作は、マイケル・クライトンの同名小説を原作とし、スティーヴン・スピルバーグが監督した1993年の『ジュラシック・パーク』。エンターテインメントとしての完成度もさることながら、「恐竜が本当にいる」とさえ思える革新的なCG表現は、映画史の大きな転換点となった。
第7作目となる今回の印象は、これまでのシリーズの「いいとこどり」、特に第1作の魅力をストレートに打ち出した「原点回帰」的な作品だ。同時に、いい意味で「無邪気」という印象も強い。何しろ、もはや「陸・海・空を制覇する恐竜すごろく」的な楽しさでいっぱいだったからだ。その理由を説明しよう。
※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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ギャレス監督の恐竜愛、スピルバーグ愛がたっぷり
今回の最大のトピックは、やはりギャレス・エドワーズ監督作品ということ。ギャレス監督は日本の怪獣映画『ゴジラ』シリーズの大ファンで、出世作となった2010年の『モンスターズ/地球外生命体』からして怪獣映画である。そして2014年にはハリウッド版『GODZILLAゴジラ』も手がけた、いわば「怪獣オタク」だ。フィクションの怪獣を愛する作家が、今度は実際に存在していた恐竜を題材に「巨大な生物への畏怖」を描くという時点で、この企画との相性は抜群だとわかる。
さらに重要なのは、ギャレス監督が初代『ジュラシック・パーク』とスピルバーグ監督そのもののファンであるということ。実は、ギャレス監督は2023年のSF映画『ザ・クリエイター/創造者』を完成させて心身ともに燃え尽きていたため、本作のオファーを受けた際も「まだ見ぬ脚本が断る言い訳になれば」と願っていたそうだ。しかし、脚本を読むと「スピルバーグ映画の数々に対する郷愁の念が、慎ましいラヴレターのようにそこにあった」「好きになりたくなかったのに」「まったくもう」「どうせやりたくなると自分でわかっていましたよ」と思ったのだという。
ギャレス監督の愛情は、もはや「オタクの早口」だ。プレス資料から丸ごと引用しよう。
特殊任務もの、転じてサバイバルものでしょ。その過程でどんどん変化球が投げられる。探求と冒険の旅路が、家族にまつわる感動の物語と絶妙なバランスで交錯して、陸・海・空それぞれを舞台に明確に異なる章で成り立っている。その一つ一つがハラハラドキドキするアトラクションのような短編物語で、それらがやがてジェットコースター並みに壮大な一つのストーリーに流れ着く。『ジョーズ』みたいかと思いきや『インディ・ジョーンズ』的。はたまたその中間も。それでいて、まるでデヴィッド・アッテンボローの映画のように、自然の雄大さを享受する。白状すると、脚本を読みながら、『ジュラシック・パーク』でTレックスが襲ってくるシーンに匹敵するほどスクリーン映えして緊迫感もあるシーンを撮れるチャンスが一つでもあるのなら、引き受けてもいいと、なんとなく思っていました。ところが、デヴィッド(・コープ)の脚本にはそういうチャンスがいくつもあったので、それを片っ端から描きたくてたまらなくなったわけです
プレス資料より引用
また、ギャレス監督は「僕の映画はほとんど、自分なりの『ジュラシック・パーク』を作ろうという密かな試み。それがあからさまな作品もなかにはありますしね」とも語っている。確かに『モンスターズ/地球外生命体』の狭い空間での攻防や、『ザ・クリエイター/創造者』での子どもと大人の危険な旅路など、振り返ってみればギャレス監督作には『ジュラシック・パーク』を彷彿とさせるポイントがいくつもある。今回はもともと用意された脚本のおかげもあって、「遠慮なく『ジュラシック・パーク』を全部やる」内容になった作品だと言える。
2014年の『GODZILLAゴジラ』は賛否が大きく分かれた作品だったが、「ゴジラが現れる場面」の演出は高く評価されている。今回も、恐竜が登場するその演出に、身震いするほどの恐怖と感動があるので、ギャレス監督のファンは楽しみにしてほしい。
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3大恐竜を制覇していくすごろく的なストーリー
物語は、「科学者を含む秘密工作の敏腕チームが、人類を救う新薬の開発のため、陸・海・空の3大恐竜のDNAを採取する冒険に出る」というシンプルな筋立てだ。公式サイトに書かれた、それぞれの恐竜の紹介も心をくすぐる。
ティタノサウルス
[体長20メートル超、体重13トン以上」
地上最大級の草食恐竜で、大地を揺るがす“動く要塞”。
モササウルス
[体長30メートル超、体重18トン以上]
海を支配した巨大海棲爬虫類。
強靭なアゴと圧倒的なスピードで、獲物を逃さない“海の覇者”。
ケツアルコアトルス
[翼開長は最大10メートル以上]
空を舞う史上最大級の翼竜。
空中から獲物を急襲する“空の支配者”
こうした少年心をくすぐる巨大な恐竜を登場させるためとはいえ、「心臓が大きい恐竜のDNAは心疾患に効く」という豪快な設定には、皮肉混じりの感心を覚える。脚本を担当したデヴィッド・コープによると「生存期間が異様に長く、心疾患の発症率が非常に低い恐竜がいた」ことから着想を得たという。現代における最大の死因は心疾患であり、「生命は必ず道を見つける」というシリーズの核となるテーマにもピタリとマッチする筋書きとなっている、とも言える。

また、その3大恐竜を「制覇」していくストーリー構成は、まるですごろくのようである。目指す「大きなマス」に辿り着こうとしても、別の恐竜に襲われるなどのアクシンデントが続出し、計画通りにはなかなかいかず、そのたびに臨機応変に対応するしかない……まさにサイコロを振って進むような、運任せの旅路にも思えてくる。
しかも、「別のプレイヤー」的なチームも登場する。一般人の家族が、海上で恐竜に襲われ船が転覆し、偶然通りがかった工作員チームに助けられるものの、やはりアクシデントに遭い離れ離れになり、なんとか追いつこうとするのだ。「最初は並走していたのに、気づけば差がついていた」という展開もまた、すごろく的だ。

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シリーズ第1作のオマージュや、やっと映像化できた小説の一節も
本作はキャラクターが一新されており、シリーズ初見でもまったく問題なく楽しめる。一方で、シリーズのファンにとって嬉しい「過去作品の踏襲」も多い。前述したようにプロフェッショナルたちと一般の家族という異なるチームが混在している様は1997年の2作目『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』的であるし、孤島での逃走劇は2001年の『ジュラシック・パークIII』を思わせる。シリーズの魅力を一度に味わえるお得な内容と言ってもいいだろう。

中でもファンが感涙するであろうことは、やはり初代『ジュラシック・パーク』で誰もが衝撃を受けた、「恐竜を初めて目撃した瞬間」のオマージュだ。長い首を持つブラキオサウルスの悠然とした姿と、ローラ・ダーン演じるサトラー博士の表情には、今でも感動を覚える。それを安易に再現してしまうと単なるセルフパロディになってしまうが、本作では見事なアイデアと演出により、第1作目に迫る「今までに観たことがない恐竜の光景」が描かれているのだ。
さらに注目すべきは、映画シリーズでは未映像化だった、原作小説の印象的な一節がついに実現されたことだ。それは、「狩ったばかりの獲物を食べて浅瀬でまどろむTレックスが目を覚まし、川を下る家族を追い詰めていく」シーン。これはかつてスティーヴン・スピルバーグ監督と脚本のデヴィッド・コープが映像化を断念した場面だったが、今回ようやくスクリーンに登場する。作品の「顔」かつ恐竜の代名詞とも言えるTレックスの見せ場が、ファンにはたまらない。
