20世紀前半のアメリカ南部を舞台に、過酷な状況に置かれたアフリカンアメリカン女性の半生を描いたミュージカル映画『カラーパープル』。
本作の音楽について、音楽ディレクター / 評論家の柴崎祐二は、「時代とその変遷を表すものになっている一方、時代考証にこだわりすぎていないことが豊かな魅力を作り出している」と指摘する。
アフリカンアメリカン版『レ・ミゼラブル』ともいうべきこの大作の魅力に、音楽の面から迫る。連載「その選曲が、映画をつくる」、第11回。
※本記事には映画本編の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
INDEX
スピルバーグも映画化した名作小説が、ミュージカル映画に
『ピューリッツァー賞』を受賞したアリス・ウォーカーの小説『カラーパープル』。同作は1985年にスティーヴン・スピルバーグ監督によって映画化されると、賞レースでは無冠に終わりながらも、多くの観客からの支持を得てヒットを記録した。また、2005年にはブロードウェイでミュージカル版が上演され成功を収め、その後全米ツアーやリバイバル公演、海外公演を重ねる人気演目となった。
そして2023年、新たにミュージカル映画版の『カラーパープル』が完成した。米本国をはじめすでに各所で話題となっている中、来る2月9日(金)、ここ日本でも全国公開されることとなった。
監督は、ビヨンセと組んだビジュアルアルバム『ブラック・イズ・キング』が第63回『グラミー賞』にノミネートされるなど、多方面で活躍するガーナ生まれのヴィジュアルアーティスト / 作家 / ミュージシャンのブリッツ・バザウーレが務めた。制作には、上述の1985年版の監督スティーヴン・スピルバーグをはじめ、同年版で重要な役であるソフィアを演じた俳優のオプラ・ウィンフリー、同じく同年版の音楽を担当したクインシー・ジョーンズらの大御所が名を連ねている。
キャストも豪華だ。舞台版でも主演を務めた俳優 / アーティストのファンテイジア・バリーノが、主人公のセリーを演じる他、同舞台のリバイバル公演で『トニー賞』にノミネートされたダニエル・ブルックスも同じくソフィア役として登場している。他にも、ブルースシンガーのシュグ・エイブリー役にタラジ・P・ヘンソンが抜擢されたのに加え、実写版『リトル・マーメイド』でアリエルを演じたハリー・ベイリー(ネティ役)、H.E.R.ことガブリエラ・ウィルソン(スクイークことメアリー・アグネス役)やコーリー・ホーキンズ(ハーポ役)など、個性派俳優・ミュージシャンたちが顔を揃えている(*)。
*シュグのパートナー兼ピアニストの役で、ジョン・バティステも俳優デビューを果たしている。