テレ東の深夜ドラマと言えば、今までにテレビドラマに関わって来なかった映画界や演劇界の才能を抜擢し続けてきたが、毎週水曜深夜1時から放送中のドラマ『晩餐ブルース』も、その一つと言えるだろう。
長らく演劇界で活躍してきた山西竜矢と、映画監督としても活躍してきた灯敦生や高橋名月らが脚本を、映画『ココでのはなし』(2024年)のこささりょうま、『マイスモールランド』(2022年)の川和田恵真が監督を務めた本作。
『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレ東系)、通称「チェリまほ」を手掛けた本間かなみがプロデューサーを務め、山西とは『今夜すきやきだよ』(テレ東系)に続くタッグとなった本作は、谷口菜津子のマンガ原作に基づき、アラサー女子の二人暮らしを描いた前作に対して、完全オリジナルでアラサー男子の「晩活」を通じた関係性を描いている。
井之脇海や金子大地、草川拓弥、穂志もえかなど映画主演も務める俳優たちにも注目が集まっている本作の第1話~第5話について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター・藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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美味しいご飯の価値を教えてくれるドラマ

温かいご飯を食べる。温かいお風呂に入る。部屋を片付ける。そんな簡単なことがどうしてもできなくなるほど疲れている日が、私たちにはよくある。仕事に忙殺されすぎて、とりあえずの栄養補給しかできないドラマディレクター・田窪優太(井之脇海)や、彼と同期のプロデューサー・上野ゆい(穂志もえか)のように。そして、人に振舞う料理はいつも完璧にも関わらず、自分のための料理にはやる気が起きない元料理人・佐藤耕助(金子大地)のように。そんな彼ら彼女らのありのままを「そんなこともあるよね」と受け止めながら、人と人とを繋ぎ、食べた人の心と身体を前へ前へと動かしてくれる。そんな美味しいご飯の存在を教えてくれるのが、水ドラ25枠で放送中のドラマ『晩餐ブルース』(テレ東系)だ。
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『SHUT UP』『マイスモールランド』など近年の注目作を手掛ける気鋭が集結

毎週水曜深夜1時から放送中の『晩餐ブルース』は、ドラマディレクターの優太と、元料理人の耕助が、高校時代の旧友・蒔田葵(草川拓弥)の離婚をきっかけに再会し、ただ一緒に晩ご飯を食べる関係、名付けて「晩餐活動(略して晩活)」を繰り広げていくグルメドラマだ。脚本は『SHUT UP』(テレ東系)の山西竜矢の他、灯敦生、高橋名月、阿部凌大。監督は映画『ココでのはなし』のこささりょうまと映画『マイスモールランド』の川和田恵真。プロデュースは『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレ東系)を手掛け、『今夜すきやきだよ』(テレ東系)に続く山西とのタッグとなる本間かなみが手掛けている。
近年のテレビドラマ、映画の注目作をそれぞれに手掛ける気鋭の作り手たちが集結した本作は、それだけで必見の作品だ。また、主人公の一人である優太の仕事から、テレビドラマ制作現場の裏話が描かれるのも本作の興味深い一面である。例えば、自身の性自認と向き合う登場人物の心情描写や、作品の方向性を巡って、上の世代の無理解に突き当たるプロデューサー・上野の苦悩など、テレビドラマをよりよいものにしていこうとする人々の思いを垣間見たりもする。主人公を演じるのは井之脇海と金子大地。黒沢清『トウキョウソナタ』で鮮烈な印象を残した後も、ドラマ『義母と娘のブルース』(TBS系)、『べらぼう』(NHK総合)など順調にキャリアを重ねている井之脇海の実直で誠実な佇まいの良さ。2024年の『ナミビアの砂漠』をはじめ、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(NHK総合)、『鎌倉殿の13人』(NHK総合)など性質の異なる役柄がどれも秀逸な金子大地は、友人・優太の異変にいち早く気づきケアしつつ、自身も屈託を抱えている青年を丁寧に演じる。
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「晩活」に突破口を見出した男3人に対して上野ゆいは

本作の第1話冒頭は、交差点をせかせかと歩く人々の姿から始まった。ベンチには「使用禁止」の張り紙が掲げられ、つかの間休息する場所すら奪われた都会の風景。移動中のホームレスが荷物を落としても誰も見向きもしない。そんな雑踏の中を、菓子パン片手に、職場に向かう男性の後ろ姿。それが本作の主人公の一人、田窪優太の姿だった。この冒頭1分間の映像の中から読み取ることができるのは、本作の主人公たちは、この忙しなく、他人に寛容になる心の余裕すらなくなってしまいがちな日本社会をサバイブする現代人のうちの1人であるということ。夢を叶えテレビディレクターになり、周りから羨望の眼差しを向けられる立場にありながら、仕事に追われ、やりたいことが何かすら思いつかないほど追い詰められている優太。仕事で「認められる」ことに必死で、同期の苦しみに気づけなかった自分を責めて職場を辞めた耕助。そして、離婚を経験し、人一倍明るく振舞っているが何かを抱えているように見える葵も、そんな1人だ。
さらに、もう1人の主人公と言えるのが、穂志もえか演じる、優太と同じ職場で働くプロデューサー・上野ゆいである。第1話の終盤、耕助が通うカウンセラー(趙民和)からの「2ヶ月飾っていてもきれいなまま」「だから枯れない花だと思われがちなんですが、そうじゃない」「カスミソウは水に挿したまま誰にも気づかれずドライフラワーになるんです」という言葉とともに、ベッドに横になっている耕助の姿が映される。それは仕事を辞めたことを優太に明かせないままでいた耕助の心の不調の形容であるとともに、心が悲鳴を上げていることを無視して遮二無二働き、その苦しみを誰かに気づかれることがなかった優太、そして上野にも当てはまる言葉であるような気がした。よりよいドラマ作りのために奮闘するも、女性であることを理由に、上からも下からも理不尽な扱いを受ける彼女の生きづらさは、時に優太たち以上に事細かに作中で描かれる。そこで本作に生じるのが、一つの問いだ。優太は男友だち3人で行う「晩活」に、行き詰った日々の突破口を見出すことができたが、そこに加わることのできない上野はどうすればいいのかということ。そして、その問いの答えとも言えるのが、第4・5話の優太の行動だった。