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音質にこだわる人ほど、音楽を聴いていない? ハイレゾを選ぶクリエイターの生存戦略

2026.10.27

#MUSIC

オーディオテクニカの「音楽活用実態と音質意識に関する調査」によると、仕事中に音楽を聴く頻度は、クリエイティブ関連職と一般の就業者(非クリエイティブ職)とで大きく違うという。では、彼らは何のために、どんな曲を選んでいるのか。アイデアを練るとき、作業に没頭するとき、耳に入れる音楽は同じでいいのか。

そしてその音質にこだわる人たちは、最高の音で何を手に入れようとしているのか。調査の数字から、音楽好きのクリエイターたちの、ちょっと皮肉な「聴き方」を読み解く。

仕事中に音楽を聴くクリエイターは65%

オーディオテクニカが発表した「音楽活用実態と音質意識に関する調査」は、現代のクリエイターがいかに音楽をシビアな「道具」として扱っているかを浮き彫りにした。オーディオ機器メーカーによる自社調査ではあるが、その数字からは興味深い傾向が読み取れる。

同調査は、20〜50代のクリエイティブ関連職(以下、クリエイティブ職)335人と、非クリエイティブ職(以下、一般層)326人を対象に実施されたもの。それによれば、クリエイティブ職の実に65%が週3日以上仕事中に音楽を聴いており、一般層の19%と3倍以上の開きがある。

さらに一般層が気分転換やモチベーションアップのために聴くことが多いのに対し、クリエイティブ職で最も多かったのは「集中して作業する時間」に聴くという回答。仕事中に音楽を聴くクリエイティブ職の約9割が、パフォーマンス向上のために意図的に聴くことがあると答えている。

イヤホンやヘッドホンを身につけて作業している彼らは、カフェやオフィスで優雅に音楽を鑑賞しているわけではない。デスクワーカーが作業内容に合わせてモニターの輝度やカラーモードを調整するように、クリエイターにとっての音楽は、自らの脳をハックし、生産性を引き上げるための「作業環境の変数」なのだ。データを読み解くと、音楽好きであっても例外ではない、芸術に対する極めてシステマチックで冷徹な態度が見えてくる。

作業用BGMで脳をチューニング

彼らの冷徹さは、作業フェーズに応じたジャンルの使い分けに顕著に表れる。調査では、創造的なアイデアが求められる企画段階では「J-POP」、集中段階ではリズム重視の「洋楽」、冷静な判断が必要な仕上げ・確認段階では「クラシック」がトップに挙がった。単なる気分転換とは考えにくい使い分けという印象だ。

企画段階で「J-POP」を選ぶ理由には、歌詞が刺激になることが挙げられている。思考が行き詰まった脳にあえて「母語の歌詞」という意味のあるノイズを流し込み、凝り固まった思考の枠組みを揺さぶる。いわばショック療法のような使い方だ。

実作業に没頭する集中段階に入ると、それが「洋楽」へと替わる。母語ではない歌詞は意味として頭に入りにくく、メッセージ性よりもリズムが前に出る。テンポのよいビートにタイピングのペースを同期させる、「人間メトロノーム」化である。

そして仕上げ・確認段階になると、ボーカルのない曲も多い「クラシック」が選ばれる。同調査でも、思考を邪魔しないことが理由に挙げられた。人の声や言葉は、それだけで注意を引きつけやすい。ミスを見つけるフェーズにおいて、音楽から言葉を取り除き、音の構造だけを残す選択だと考えられる。いずれも、耳に入れる信号を切り替えることで自らの注意の向け方を調整する「聴覚のチューニング」といえるだろう。

ハイレゾ派の56%が週1回以上「ゾーン」へ。音質は「好み」以上の意味を持つのか

この使い分けをさらに突き詰めた先にあるのが、「ハイレゾ・ロスレス」などの高音質フォーマットへのこだわりだ。

同調査では、クリエイティブ職の約7割が音質にこだわり、4人に1人(25%)はハイレゾ・ロスレス音源を意識して選ぶ「音質最重視層」だった。さらに時間を忘れて深く没入し、最高のアウトプットが出る「ゾーン(フロー)状態」についても調査が行われ、先の音質最重視層のうち56%が「週1回以上ゾーンに入る」と回答。一方、音質にまったくこだわらない層(回答者24人と少数ではあるが)では「(ゾーンに入った経験が)ほとんどない」が最多となり、明確なコントラストを描いた。

調査結果について東京大学大学院情報理工学系研究科 ソーシャルICT研究センターの大黒達也准教授は、ハイレゾの臨場感が「自分が音と一体になる感覚」を生み出し、フロー状態に近づく助けになる可能性を指摘している。

大黒達也

もちろん、調査が示しているのは相関であり、高音質だからゾーンに入れると言い切ることはできない。それでも、作業への没入を求める人ほど音質にこだわるという傾向は、クリエイターにとって音質が単なる「好み」以上の意味を持っていることをうかがわせる。

また、同調査では「音楽を聴いた日の方が、アウトプットに満足することが多い」という回答が49%で最多となっており、この聴覚チューニングは成果物のクオリティを支える仕組みとしても機能しているようだ。しかし、ここには現代の労働構造が生み出した、いびつな矛盾も潜んでいる。

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