ラッパー、トラックメイカー、そしてMPCを自在に操るパフォーマーとして活動するえびちる。沖縄の路上サイファーでラップを始め、MCバトルへの出演を経て、現在はジンベイザメの「ジンベーニョ」とのラップユニット「ちるちるにょにょにょ」やソロで活動している。
TikTokでは、MPCを楽しそうに叩く動画を見た若い女性たちから「かわいい」と注目される一方、本人は「たぶんみんな何やってるかわかってないと思う(笑)」と話す。でも、その「なんかわかんないけど楽しそう」という感覚こそ、今のえびちるを象徴しているのかもしれない。
周囲に合わせていた子供時代。コロナ禍での引きこもり。自分から飛び込んだサイファー。そして、周囲から期待される「えびちる」を演じることに苦しくなったMCバトル時代。
その時々の直感を素直に信じて活動のフィールドや音楽スタイルを変えてきたえびちる。いくつもの場所を通り過ぎ、たどり着いたのは「自分がいいと思えればいい」というシンプルな答えだった。
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「自分って何者なんだ?」コロナ禍で全部が止まった
―子供の頃はどんな子だったんですか?
えびちる:ちっちゃいときは自分の好きなことに夢中な子でした。『アイカツ!』にもめっちゃハマってて、土日もお母さんを連れ出して、「ゲームセンター行こう」って(笑)。『アイカツ!』の曲もめっちゃ好きだったし、かわいいものが大好きで。
でも、どっかのタイミングから「周りに合わせなきゃ」みたいになっちゃって。小学校から中学校までバスケをやってたんですけど、お友達が誘ってくれてなんとなくやってたんです。自分から「これやりたい」みたいなのがあんまりできなかったんです。

沖縄県出身のラッパー、ビートメイカー、MPCプレイヤー。ピンクのお団子ヘアがトレードマーク。2024年、地元・沖縄のサイファーをきっかけにラッパーとしてのキャリアをスタート。「Red Bull Roku Maru」などのMCバトルに多数参戦する。2025年よりAbleton Liveを駆使したDTM活動を開始し、全曲の作詞・作曲を手がけた1stフルアルバム『ネリリ チルル ハララ』をリリース。ヒップホップ、エレクトロニカ、ブレイクコア、ハイパーポップなど、多様なジャンルを“ちゃんぷるー”した独自の世界観を表現している。また、Jリーグクラブ「FC琉球」のマスコット「ジンベーニョ」と結成したラップユニット「ちるちるにょにょにょ」のメンバーとしても活動中。
でも急に「これでいいのか?」みたいになって。心の中がざわざわして、ちょっと闇みたいなのが出てきたんですよね。
―そうこうしているうちに、コロナ禍がやってきたという。
えびちる:そう。学校も部活も一回止まって、急に「あれ、自分何してんだろう?」ってなって。「自分は何者なんだ?」みたいな。バスケとか、お友達とか、家族とか、なんか全部違うかもと。「自分が本当にやりたいのってなんだ?」って。それで学校にも行かなくなって(笑)。ちょうど進学するタイミングだったから、「このまま普通に高校生活していいのかな」とかいろいろ考えたんですよ。でもまだ何がしたいのかもわからないから、そのまま引きこもりになりました。

―その時期はどういった生活だったんですか?
えびちる:本当に外に出られなくて、友達とも一切連絡取らなくなって。もう部屋からマジで出ない。SNSも怖くなって、TikTokとかアプリを全部消してました。なんか時代に置いていかれる感じがして、見られなかったです。
でも一方では一日中アニメ見たり、本当に好きなことをだらだらできるから「めっちゃ最高やん」みたいな(笑)。『NARUTO』とか、眠くなるまでずっと見てました。
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外に連れ出してくれた沖縄サイファー
―音楽をやるようになったのはいつ頃ですか?
えびちる:お母さんが「このままじゃやばい」って思ったのかわかんないですけど、イオンの楽器屋さんでアコギを買ってくれたんですよ。それでコード見ながら弾き語りしたりしてました。せっかく買ってもらったから、なんとなく真似してやってる感じで。
その頃、お兄ちゃんが家や車で音楽を流してたんですよね。「なんだこれ、かっこいい」と思って盗み聞きしてて。それが、かせきさいだぁとか、日本のヒップホップだったんですよ。
―そこからラップに興味が湧いてきたんですね。
えびちる:YouTubeのおすすめにもいろいろ出てくるようになって。そしたら、路上で丸くなってみんなでラップしてる動画が出てきたんですよ。「何これ?」と思ってXで調べたら、沖縄サイファーというのがあるらしいぞと。その頃はもう「自分は何者なんだ?」より、とにかく「何かしたいぞ!」という気持ちが強くなってたんで、行ってみることにしました。

―「じっとしていられない!」というような。
えびちる:「散歩行ってくる」みたいな感じで家を出て、バスに乗って向かいました。着いて、主催者っぽい人に「ラップやってるんですか? 見てもいいですか?」って話しかけたら、「大丈夫?」「迷子かな?」みたいな(笑)。でも「見てていいよ。なんならやってみなよ」ってマイクを渡してくれました。
―急展開ですよね。
えびちる:全然ラップできなくて、もう「あー……」みたいな。でも気づいたら朝までやってました。帰ったらママとパパ激おこ(笑)。そこから毎週通うようになりました。みんなからしたらちょっとやばい女の子が急に来た感じだったと思うんですけど、みんな優しく受け入れてくれて、朝まで一緒にラップしてくれた。それがめっちゃ嬉しかった。もうめっちゃ楽しかったですね。青春って感じ。だから沖縄サイファーの人たちには本当に感謝してます。最初にあの人たちが受け入れてくれたから今があると思う。