映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(監督)やNetflix「ガス人間」(エグゼクティブプロデューサー、脚本)など、話題作を送り出し続けるヨン・サンホ監督。方や『メタルギア』『DEATH STRANDING』など、独創的な世界観で世界中のファンを魅了するゲームクリエイター、小島秀夫。以前から親交のあった2人が、ヨン・サンホ監督の最新作『顔 -かお-』をきっかけに言葉を交わす。
大ヒット作を担う重圧やマーケット主導の表現に対する葛藤、そしてローバジェットだからこそ宿る創作への素直な思い。ジャンルやメディアの境界を越えて第一線で表現を追求する2人が、これからの時代の「ものづくり」について語り合う。
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小島秀夫の語る、ヨン・サンホが描く人間の恐ろしい裏側
―おふたりはこれまでも親交があったそうですね。
ヨン・サンホ:私がもともと小島さんを大好きだったんです。コジマプロダクションのゲーム『DEATH STRANDING』(2019年)の公式アートブック『THE ART OF DEATH STRANDING』も持っていて、そこにサインをしてもらいました。そのとき小島さんからいただいたジャケットを、一時期ずっと着ていました。

1978年生まれ。映画監督、アニメ監督。2016年、映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』、前日譚のアニメ映画『ソウル・ステーション/パンデミック』が大ヒット。Netflixドラマ「ガス人間」(2026年)が配信中。新作『顔 -かお-』が8月28日公開予定。
小島秀夫:僕も『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)の頃からずっとヨン・サンホ監督のファンでした。それで彼のスタジオに行ったら、作品の中に出ていた「丸焼けになった人間」とかの模型がたくさんあって、驚きましたよ(笑)。

1963年東京都生まれ。ゲームクリエイター。1987年に初監督作品『メタルギア』でデビュー。同作はシリーズ化され、ステルスゲームというジャンルを確立した。2019年に『DEATH STRANDING』を発表。同作は続編『DEATH STRANDING 2: ON THE BEACH』の発売に加え、A24との実写映画化、アニメ『DEATH STRANDING MOSQUITO』、27年配信予定の『DEATH STRANDING ISOLATIONS』など多角展開が進行中。
―ヨン監督の作品のどんな点がお好きだったのでしょうか?
小島:彼の作る映画には、ゾンビやモンスターなど異形の存在がいっぱい出てきますよね。僕の友人であるギレルモ・デル・トロ(メキシコ出身の映画監督。代表作に『パンズ・ラビリンス』『シェイプ・オブ・ウォーター』など)もそうですが、似ているようで全然違うんですよね。デル・トロはメキシコ出身で、アメリカではマイノリティーという立場です。マイノリティーの立場をモンスターと重ねて、虐げられる者やモンスターの側に主観を置いて物語を描いてるんですね。だからこそ、モンスターも悩み、他者を愛する気持ちがあるという描き方が最高なんです。
対して、ヨン・サンホ監督の作品に登場する異形の存在には、主観があるのではなく、モンスターが出てくることで、人間の裏側が見えてくるという描き方です。なのでアプローチが違う。なかなかほかにはいないクリエイターだと思います。

―新作『顔 -かお-』をご覧になって、小島監督はどう思われましたか?
小島:素晴らしかったです。これまでの監督作と違って、ゾンビも悪魔も出てこない。けれど、人間の裏側という最も恐ろしいものを見せてくれました。
英語のタイトルに『The Ugly』とあるように、最近トレンドのように扱われている「ルッキズム」がテーマなのかなと思ったら、それだけではなくて。息子と盲目の父親がいて、息子が生まれてすぐに母親は行方不明になってしまう。その母親の「顔」を探しにいく話なんですよね。簡単に言ったら『地獄の黙示録』(1980年 / フランシス・フォード・コッポラ)のような話なんですけど、最後に予想外の結末にたどり着く。元々ファンでしたけど、今回はさらにヨン・サンホ監督の才能に嫉妬しました。
ヨン:本当にありがたいです。『新感染 ファイナル・エクスプレス』も小島さんが「素晴らしい」と言ってくれてうれしかったです。それから時間が経って、今回のように直接お会いして感想を伺える機会を持てたことも本当にうれしいです。
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トンチンカンな結果も楽しむ。アニメやゲームもコントロールはできない
―ほかにも、作り手としてヨン監督の魅力はありますか?
小島:僕もCGを作るデジタルの人間で、ヨン・サンホ監督もアニメ出身じゃないですか。絵を設計して作品を作る人って、ライティングとか自然光とか、俳優さんに演技をしてもらうことなどが苦手な人が多いと思います。それはなぜかというと、自分で画面を設計する作り方と、実写のライブ感とではまったく違うものなので。でも、ヨン・サンホ監督は、それも抜群にうまい! そのことに驚きます。

ヨン:確かに、絵として設計するのと、実写で撮るのとでは、大きな違いがあるとは思います。でも最近感じているのは、アニメでも実写でもAIでも、100%自分の思い通りにはいかないし、コントロールもできないんじゃないかということです。そして、思い通りにいかないことを、僕はポジティブにとらえています。
例えばアニメ制作をアニメーターさんにお願いするときも、自分のイメージそのものにはなかなかできません。俳優の方々の演技もそうですね。AIとのコミュニケーションでも、なかなか理解してもらえずにトンチンカンな結果が出てくることが多いです。でも、トンチンカンな結果が出てくることをちょっと期待しているところもあるんです。

ヨン:そうした状況で何が重要かというと、「誰と出会うか」ですよね。アニメだったらどんなアニメーターと出会うのか、映画ならどんなスタッフや俳優と出会うのか。これまでの仕事の中で、出会いによって結果が違ってくるという経験をしました。だから、いい人と仕事をすることがやっぱり一番いいんじゃないかと思います。

小島:僕は40年くらい前から活動していて、最初は2Dのゲームを4、5人くらいで作っていたんです。それから3Dゲームになって、声が入ったり音楽が入ったりするようになった。そうなると俳優さんやミュージシャンとコラボすることになる。可能性が広がっていくことは確かに楽しいですよね。その楽しさというのはやはりライブ感と、誰かとコラボすることにあるんですけど、ゲームでもそれができるようになりました。ヨン・サンホ監督とも、今後一緒になにかやりたいですね。
ヨン:ゲームにも関心があるので一緒にやりたいですね。時間があるときに、今撮っている映画のコンセプトについてもお伝えしたいです。映画とゲームというのは作り方や制作期間も違うので、2つのものを1つにするのは難しいかもしれないけれど、何かのコラボができたらいいなと思っています。
小島:ゲームを作ってもいいし、映画を作ってもいいし。サブスクの時代なので、インタラクティブな映画とか、映画に近いゲームとか、今まで誰も踏み込んでないようなことができたらいいと思います。
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マーケットの縛りを抜け出して。表現者が「作りたいもの」に立ち返る時代
―おふたりのコラボも楽しみですが、そもそも作品を立ち上げる際、「コンセプト」はどのくらい重要なものなのでしょうか?
ヨン:映画産業のニーズにマッチするコンセプトを作るのは難しいですが、自分で「こんな映画が作りたい」というコンセプトを決めるということは、そこまで大変なことではないんです。そして、それが今回『顔 -かお-』を作った理由でもあります。マーケットに合わせたコンセプトを作ることに、実は疲れを感じていたんです。僕はインディーズアニメからキャリアを始めたんですが、『新感染』以降、公開規模の大きな映画や、Netflixシリーズなど、バジェットの大きな仕事が増えていきました。
『顔 -かお-』のコンセプトはかなり前から温めていたんですが、マーケットに合わないということで、映画化をずっと後回しにしていたんです。でも「もっと自由に映画を作りたい」「マーケットに縛られずに作ってみたい」と思って、低予算でトライしたいと思いました。そして、主演のパク・ジョンミンさんしかり、スタッフさんしかり、私と同じような考えを持っている人たちがいたからこそ、この映画を作れた。上映した結果もよかったので、この映画は僕に大きな勇気を与えてくれました。

小島:僕も同じ気持ちです。日々生きている中で、疑問とか怒りとか感動とかありますよね。そこから「こういうものを作りたい」という気持ちがあって脚本を書いています。ゲームの場合は、そのコンセプトをゲームのシステムにブレイクダウンしないといけないので、テーマを生かす世界観やキャラクター、ストーリーを考えないといけないんです。そして、今のテクノロジーでそれが可能かを考えます。
そして、ヨン監督と同じように、大きなバジェットなのか小さいバジェットなのかを考える必要があります。僕はクリエイターと同時に経営者でもあるので、ある程度、儲からないといけない。だから優先順位を考えながらやっていますけど、ヨン監督と同じく、インディーズでやりたいという気持ちもあります。やっぱりローバジェットだと、出資者から何か言われることも少ないので。
今の僕は経営者としてビジネス面も考慮しないといけないフェーズなんですけど、僕の中にも監督にとっての『顔 -かお-』のような企画はあるんです。『顔 -かお-』じゃなくて、『お尻』かもしれないけど(笑)。

ヨン:最近AIが話題になってるじゃないですか。今後、映像やゲームといった産業は、大きな変化の時代を迎えるんじゃないかと思います。例えば、これまで巨大な資本の力で積み上げられてきた配給の仕方であったりとか、マーケットであったりとか。今後、数年内に激変するのではないかと思っています。でも、私が個人的にラッキーだと思うのは、『顔 -かお-』を作ったことで、そうした巨大なマーケットの仕組みに縛られない経験をしたことだと思います。今後、僕がいろいろな映画を企画する上での勇気がもらえたと思っています。

小島:映画を作るには、制作スタジオと配給と観客、そして出資者がいますよね。今の時代、スマホのカメラも性能がいいし、編集やサウンドエフェクト、カラーコントロールまですべてアプリケーションでできる。ゲームに関して言えば、エンジンもあるんですよ。そうなると少人数で作って、ネット上で発表できます。
実際、すでにYouTuber出身の『オブセッション 災愛』(2026年 / カリー・バーカー)とか、『バックルームズ』(2026年 / ケイン・パーソンズ)とかを撮っている監督も現れていますよね。今の若者たちは、やろうと思えばすぐに作品を発表できる。そして、その存在に注目した会社がバジェットを与えて次の作品を作るという時代になっています。これからは、観客だってものを作るようになるんです。

小島:僕はゲームを作りながら会社を維持しなくてはいけませんが、そうした変化の中で会社をどう変えていくかを考えています。僕は今年63歳なんですけど、今若かったら会社なんか作らず、もっと自由にいろいろなものを作っていたと思います。作り手にとって、すごくいい時代が来ると思いますよ。
―そうなると、「何を作りたいのか」がある人が強くなるのかなと思いますが、そこはどう思われますか?
小島:誰でも発表できるようになるので、それが「流行るかどうか」は別のところにありますからね。これまでは、「今はこういうものが流行っている」とマーケティングして、コンセプトを決めて二番煎じ、三番煎じで、「これだけ売れるだろうから予算はこのくらい」という作り方でした。でも、これからはマーケティング主導でものを作るのではなく、おっしゃるとおり作家から出てくるものがバズるという方向に向かっていくと思います。ヨン監督の『顔 -かお-』もそういうことですよね。若者たちは、昔ながらのマーケティングありきのやり方と、作り手主体のやり方、どちらも選べるようになるんじゃないかと思いますよ。
