同じ言葉で話していても、相手が見ている景色は自分とは違う——その隔たりを前にしたとき、それでも人は、なぜ言葉を交わし続けるのだろう。
シンガーソングライターの大東まみが、6か月連続リリースの第4弾としてリリースする“なんて言うんだろう”。大橋ちっぽけとともに作り、二人で歌うこの曲では、恋人同士のすれ違いを通して、他者を理解しようとする営みが描かれる。制作の合言葉となったのは、「恋愛における翻訳作業」だった。
曲作りの過程そのものも、言葉から始める大東と、メロディや響きから発想する大橋が、互いの違いを持ち寄る「翻訳」になったという。二人はどのようにして、一つの歌へたどり着いたのか。そして、分かろうとすることと、ただ我慢して関係を続けることの境界はどこにあるのか。音楽と言葉、理解と尊重をめぐって語り合ってもらった。
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大東まみが大橋ちっぽけとコラボレーションしたわけ
—まずは、今回のコラボレーションが実現した経緯から聞かせてください。
大東:今年5月から始まった6か月連続リリース企画のなかで、「1曲は誰かとコラボレーションしたいね」という話になったんです。スタッフさんから「誰とやりたい?」と聞かれて、無理かもしれないけど、ちっぽけくんとやりたいです、と伝えました。オファーを受けてもらえたことも、今こうして二人で並んでいることも、まだ少し不思議な感じがします。

1999年生まれ、大阪府出身。高校時代に「歌で自分を表現する」女性シンガーに憧れ、大阪を拠点に活動をスタート。2024年1月、新たな挑戦を求めて上京。同年、J-WAVE「ギタージャンボリー」出演オーディションでグランプリを獲得し、両国国技館のステージへ。2025年3月には “miwaの日” 公認路上ライブ祭りに出演し、miwaと“ヒカリへ”を共演。同年4月に投稿した一発録り歌唱のショート動画が大きな話題となり、わずか半年で Instagramフォロワー3.7万人、TikTokフォロワー15万人を突破。9月には『Augusta Camp 2025』のオープニングアクトとしてぴあアリーナMMのステージに立つ。2026年、日本女子サッカーリーグ「なでしこリーグ」公式テーマソングを担当し、全国12チームのスタジアムで生演奏を披露。同年5月より6か月連続配信リリース&6か月連続ワンマンライブを展開。8月には『Augusta Camp 2026』でメインアクトとしてぴあアリーナMMのステージへ再び立ち、『SUMMER SONIC 2026』にも出演。
大橋:僕もSNSを通じて大東さんの活動は知っていました。カバー曲のショート動画もよく流れてきていて、日本だけでなく海外の人に届いているのもすごいなと。何より歌声が素敵だと思っていたので、お話をいただいたときは嬉しかったです。誰かと一緒にゼロから曲を作る経験はそれほど多くなかったんですけど、大東さんとなら、自分一人では生まれない音楽が作れそうだと思って、お受けしました。
—大東さんは、もともと大橋さんの音楽を聴いていたそうですね。
大東:最初に知ったのは、SNSで聴いた“常緑”でした。そこからいろいろな曲を聴くようになって、なかでも“23”は、同世代の私にすごく刺さったんです。私から見ればずっと先を走っているぽけくんも、葛藤しながら「まだやれる」と信じて進んでいる。そのことを知って、勇気をもらいました。以前、大阪でのライブを観て、終演後にご挨拶したことはありましたが、ちゃんとお話しするのは初めてでした。
—大橋さんのどんなところに、今回の曲を一緒に作りたいと感じたのでしょう。
大東:恋愛のなかにある、うまくいかなさや切なさを描くのが、とても上手な方だと思っていて。明るくて若々しいラブソングというより、今の自分たちの年齢だからこそ書ける、恋愛のすれ違いを歌いたかったんです。だから、ぽけくんと一緒に書きたいと思いました。
—制作はどのように進めていったのでしょうか。
大橋:事前に一度オンラインで話して、今年の4月ごろにスタジオに入りました。お互いにアコースティックギターを持ち寄って、本当に何もないところから作り始めて。二人でギターを鳴らしながら、コードやメロディをセッションのように決めていく作業自体、僕には久しぶりの経験でした。

日本語ポップの新次元を切り拓く、1998年生まれのシンガーソングライター。古今東西のロックやポップを聞いて育ち、グローバル志向のサウンドと、日本語に根ざしたメロディを自然に融合させた楽曲世界を10代にして確立。2019年にメジャーデビューしてからは、リスナーの胸に響くフォーキーな楽曲から、英米の先鋭的なインディロックに通じるバンドサウンド、さらにはK-POPの影響を感じさせるダンスチューンまで、オリジナルな音楽性を日々更新している。自身の活動のほか、&TEAM / WEST. / TOMORROW X TOGETHERなど数々のアーティストや作品に楽曲・歌詞提供をしており、音楽作家としての卓越した才能にも注目が集まっている。2026年9月より初の弾き語りツアーを全国10都市で開催予定。
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「恋愛における翻訳作業」というテーマに込めた思い
—「恋愛における翻訳作業」というテーマは、大東さんの提案だったそうですね。
大東:普段から、コミュニケーションって難しいなと思うことが多いんです。同じ言葉を使っていても、育ってきた環境や経験が違えば、そこに込める意味も同じではない。その感覚を曲にできないかなと考えて、出てきたのが「恋愛における翻訳作業」というテーマでした。
大橋:僕は普段、パソコンでトラックを作りながら、まず曲の雰囲気やメロディを決めて、そのあとに歌詞を当てていくことが多いんです。一方で、大東さんは書きたいテーマや言葉から始める。今回は大東さんの作り方に近くて、テーマから言葉を出し、それに合うコード進行やメロディを探していきました。普段とはプロセスがほとんど逆だったので、僕にとっては新鮮で、すごく楽しかったです。

—タイトルの「なんて言うんだろう」は、どのように生まれたのでしょうか。
大橋:同じ言葉を使っていても、それぞれが生きてきた背景や価値観によって、抱く印象は変わりますよね。そのことを端的かつキャッチーに表す言葉はないかなと、二人でいろいろ出していくなかで、「なんて言うんだろう」がぽろっと出てきて。どちらが言ったのかも覚えていないくらい自然に決まりました。
大東:私は、日常のなかで引っかかったことや、書きたい問いを見つけるのは得意だと思うんです。でも、それを話し始めると、どんどん長くなってしまう(笑)。ぽけくんは、私が散らかした言葉をすぐに歌の形にして、フックのある表現へまとめてくれました。本当に職人だと思いましたし、正直、ちょっとショックなくらいでした。
大橋:ショック(笑)。
大東:もちろん、いい意味で(笑)。経験を重ねた先に、こういう技術や自由さが身につくんだと感じられたことが、私には希望でもあったんです。
大橋:そんなふうに思ってくれていたんですね。僕からすると、大東さんが、音楽になる前の感情や言葉の原型をたくさん出してくれたことが新鮮でした。僕はメロディや韻といった制約のなかで言葉を探すことが多いので、まだ形の決まっていない言葉に触れられた。大東さんが話したことを一度すべてパソコンに打ち込んで、「つまり、こういうことかな」とサビの歌詞を提案しました。
ーまさに翻訳や編集に近い作業ですね。
大橋:確かに。作り方が違うからこそ、お互いの得意な部分が見えた気がします。

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音楽は人を一人ぼっちにさせない
—この曲では、同じ言葉を交わしても、思いがそのまま届くとは限らないという感覚が描かれています。二人にも、言葉がすれ違った経験はありますか?
大東:私はけっこうあります。相手はよかれと思って言ってくれたのに、その言葉が自分には凶器のように刺さってしまったり、逆に、自分が何気なく言ったことで誰かを傷つけてしまったり。特に恋人や家族のような近い相手には、「私のことを分かっているはず」という前提で話してしまうんですよね。でも、その前提は共有されていないから、言葉の意味が少しずつずれて、気づいたときには大きな問題になっていることも多くて。
ちゃんと話してみると、始まりは本当に小さなことだったと気づく場合もあるんです。自分に相手を傷つける意図がなかったとしても、相手が傷ついたなら、その人の立場に立って謝れる人でありたいと思います。
大橋:それほど親しくない相手なら、話が合わなくても「合わなかったんだな」で終わらせることができますよね。でも、恋人や自分にとって大切な人とは、すれ違っても関係を続けたいし、向き合いたいと思う。歌詞のなかにある、<分かりあえずとも 分かろうとすること 決してやめないで>という感覚は、相手が大切な人だからこそ生まれるものだと思います。
大東さんは、そうした状況を見つけて言葉にするのがすごく上手なんです。恋愛の歌ではあるけれど、恋人同士に限らず、誰かと関係を結ぶ多くの人が、自分を重ねられるテーマになったと思います。

—音楽には、人の気持ちを翻訳する役割があると思いますか?
大橋:あると思います。特に失恋したとき、自分ではうまく説明できない気持ちを、歌が代わりに言ってくれることもあって。もちろん、悲しいときだけではなく、嬉しいときに聴きたくなる曲もある。音楽は感情と結びついていて、生活にBGMのように色をつけてくれます。心が曇っているときにもそばにいて、聴く人を一人にしない。日常に根ざした芸術だからこそ持てる力だと思います。
この曲は、人と分かり合うことの難しさを共有しながら、最後には少し前を向いている。聴いた人に「諦めなくてもいい」と思わせる強さがあるし、その人がまだ言葉にできていない本音の代わりにもなれる気がします。
大東:私は逆に、音楽は翻訳を必要としないものなのかもしれない、とも思います。歌われている言葉が分からなくても感動したり、救われたり、涙が出たりする。言葉よりも直接的に届くものがありますよね。だから、聴いた人が私の意図とは違う受け取り方をしてもいいと思っています。
ただ、私はフィクションの物語を書くときも、「その場に大東まみがいたら、どう感じるか」は嘘にしたくなくて。きれいな部分だけではなく、ひねくれたところや、格好悪さ、弱さも含めて、自分にとって本当のことを書く。それによって、生きづらさを抱えている人が、「こんな部分を持ったまま生きてもいいんだ」と思えたらいいなと思います。ぽけくんが話していた、音楽は人を一人ぼっちにさせないという考えには、私もすごく共感します。
