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29歳の「よすみ」編集長インタビュー 演劇、批評畑から漫画編集部を立ち上げた意思

2026.7.30

「よすみ」

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画面の四隅へとはみ出すように配置されたウェブサイト。作家名も作品名も記さず、レーベルのロゴだけを表紙に大きく掲げた書籍――。

漫画編集部「よすみ」が打ち出すデザインや佇まいには、既存の漫画の売り方や読み方から、少しだけ外へ踏み出そうとする意志がにじんでいる。編集長を務めるのは、少女漫画の編集に携わったのち、一人で「よすみ」編集部を立ち上げた藁谷周太郎。

「よすみ」が掲げるのは、作品を既存の分類に閉じ込めない「ジャンルレス」という姿勢だ。漫画だけでなく、演劇や小説、短歌など異なるカルチャーを行き来するジャンル横断的な場をつくり、作家が描きたいものを読者へ「巡り届ける」。

そのために、ウェブ発の編集部でありながら、すべての作品を紙の本にすることにもこだわっている。ただし、それは過去の出版文化への原点回帰ではない。むしろ、電子漫画が主流となった時代だからこそ、紙の手触りや重さ、偶然誰かのもとへ渡っていく力を、新しいものとして捉え直す試みだ。

NiEW編集部も手に取った瞬間「これはとんでもない」と直感した、「よすみ」の漫画。編集長はどんな人なのか、気になって仕方がない。藁谷のカルチャーに関する原体験と来歴、批評への熱量をたどりながら、「よすみ」が目指す漫画の未来を聞いた。

左から『別冊よすみ第二集』、『別冊よすみ第一集』

「カートゥーンネットワーク」にロアルド・ダール、星新一の幼少期から、高校では演劇へ

―藁谷さんは子供の頃、どんなものが好きだったんですか?

藁谷:僕が幼稚園の時は、『鉄腕アトム』や『トムとジェリー』などを繰り返し見ていました。ストーリーよりも、アニメーションの過剰な表現や、デフォルメされた絵に惹かれていましたね。

藁谷周太郎(わらや しゅうたろう)
よすみ編集部、編集長。1996年生まれ。早稲田大学文化構想学部文芸・ジャーナリズム論系を卒業後、2019年に大手出版社で少女漫画雑誌の編集者に。2024年にSORAJIMAへ入社し、一人でよすみ編集部を立ち上げた。現在も編集部員1名で、連載・読切あわせて20本以上を掲載 / 企画中。紙への思想、カルチャー横断の編集について日頃考えている。

―当時の子供の間で流行っていたのは『ポケットモンスター』とかですよね。

藁谷:友達の輪に入りたくて一応見てましたが、それよりも「カートゥーンネットワーク」でひたすら海外アニメを見るのにハマってましたね。アニメとアニメの間にやってた「レインボーアートデラックス」のCMを、今でも完コピできるくらい(笑)。流行りの真ん中ではなくて、絶妙にマイナーなものが好きだったんですよね。

―幼い頃からオルタナティブ志向だったという。

藁谷:海外アニメは1話完結のものが多くて、見やすいのも大きかったと思います。小説も好きでした。ロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』『ダニーは世界チャンピオン』とかが好きで。小学生では星新一のショートショートにもハマったので、重厚な物語よりも短編の先を想像する方が好きだったんですよね。こういった感覚は、読み切り漫画が多い「よすみ」のスタンスにも通じるところだと思います。

世界を横断するコミック作家・MISSISSIPPIによる14Pの読み切り『FOG SWEET』
漫画家・イラストレーターのトヨヲカ37による読み切り。ライター張江のお気に入り作品

―いわゆる日本の少年漫画に触れたのはいつ頃ですか?

藁谷:小学2年生の時に父が『ドラゴンボール』を全巻買ってくれて、めっちゃハマりました。8歳の僕にとって、少年漫画は大人になるための通過儀礼という感じでしたね。

―そこで漫画一筋にはならなかったんですか?

藁谷:ジャンプ漫画は教養として読んでいる感覚があって、「漫画も好き」という感じでしたね。中学では海外ドラマも音楽も好きで、高校に入ったら、クラスの友人の影響でラノベ、アニメ、ゲームにものめり込みましたね。

―高校では何に興味がありましたか。

藁谷:演劇にハマりました。高校の文化祭でなぜか演劇をやることになって、僕が脚本とか演出をやることになったんですよね。10分くらいの寸劇を書いたんですけど、けっこう面白くて。それで2年生では1時間くらいの脚本を書きました。3年生では1時間半の演劇をやって、映像も撮ったりして。

―どんどんのめり込んでいったと。その頃に影響を受けた劇団はありますか?

藁谷:高校生だったので、下北沢の小劇場の公演はけっこう無料で観られたんですよ。その中でも範宙遊泳さんの身体表現に心惹かれました。ミュージカルも好きだったので、帝劇で『ミス・サイゴン』を観たりもしましたね。そこから脚本家とか物書きになりたいと意識するようになって、早稲田大学の文化構想学部に入学したんです。観る側から作る側にシフトしたという意味で、高校時代は大きな転換期でした。

よすみのウェブサイトには演劇のチラシも(右上)。この時掲載されていたのはゆうめい『あわせて』。

大学では批評に目覚め、いつのまにか漫画編集者に

―大学では演劇サークルに入ったんですか?

藁谷:いえ、批評に目覚めました(笑)。入学して最初に受けたのが文芸批評の授業で、それがすごく衝撃的だったんですよ。「君たちは受験勉強によって相当な馬鹿になってしまった。俺が本当の知性を教えてやる」と教授が煽ってきて、まんまと「刺激的すぎる!」と影響されちゃって。「本当に頭がいい奴は批評をやるんだ」みたいな(笑)。

―藁谷さんがマンガ研究者のトミヤマユキコさんとやっているポッドキャスト『よすみの様子見』でも批評について触れていますし、漫画にとっての批評も重要視されてますよね。

藁谷:漫画は特に、叙述が蔑ろにされている分野だと思うんです。常に新しい物語が求められていて、新刊が量産されている。でも、僕らが最終的に熱狂しているのは新刊じゃなくて既刊なんじゃないかと。『ONE PIECE』の好きなシーンの話をするにしても、新刊の連なりの中にある過去の話をずっとしているわけで、それを忘れちゃいけないと思います。

―批評によって、個々の作品を漫画史の中に位置付けるというか。

藁谷:そうですね。そうすることで再発見することもあると思うんです。ちょうど今パリにいるんですけど(※)、パリでは「古びたものこそ新しい」という価値観なんですよね。誰も見向きもしないようなものこそがクールで、一番新しいというか。

漫画や文学に限らず、文化ってそういうものだと思うんですよ。ファッションでも、時代遅れでダサいとされるものを批評して価値を再定義するというサイクルがあって、それは世界中で行われていることですよね。漫画も、神話を含めた文学史の中で再定義を繰り返しているので、「よすみ」はそこを自覚的にやっていきたいと思っています。「よすみ」のロゴも、手塚治虫や『トムとジェリー』の曲線をモチーフにしていて、それは僕個人の経験も含めた、批評的な実践なんです。

※『別冊よすみ第一集』のフランス語版発刊に際して、よすみ編集部はヨーロッパ最大級の日本文化の博覧会『Japan Expo Paris 2026』に出展。その様子は後日、別記事にてレポート予定。

よすみのロゴ。キャラクターの名前は「よすみくん」。

少女漫画編集でぶつかったジャンルの壁

―批評に夢中になっていた藁谷さんが、卒業後、漫画編集者になったのはどういった経緯ですか?

藁谷:大学院に行くことも考えていたんですけど、編集という仕事は文芸批評に必ずついて回る仕事でもあるので、面白そうだなと思って。それでいろんな出版社を文芸の編集者志望で受けていました。なのでそもそも漫画編集者になる気はさらさらなかったんですけど、漫画編集部のみの出版社にしか受からなくて。それで少女漫画の編集をやることになりました。いざやってみると批評的な視点を持って少女漫画を作るのは、市場の面を加味すると、なかなか難しくて。

―いわゆる「花の24年組」など、少女漫画は積極的に批評の対象になっている印象がありますけど、実際に作るとなると難しいんですね。

藁谷:かつての少女漫画はSFだったりラブロマンスだったり、いろんなジャンルを開発してきたと思うんです。「キャラ萌え」の土壌を作ったのも白泉社の少女漫画だと思うんですけど、そうやって開発してきたフロンティアを少年漫画や青年漫画などに吸収されてきた歴史があります。その結果、少女漫画のジャンルが学園とファンタジーに二極化していきました。それ以外のジャンルは、出せたとしてもなかなか売れづらくなってしまっていて…‥。このジャンルの枠組みは、めちゃくちゃ強固なんですよね。自分がやりたい漫画作りが難しいと思い、5年で会社を離れることにしました。

デジタルが主戦場の出版社で、紙の漫画編集部を立ち上げ

―そこで現在のSORAJIMAに移るんですね。

藁谷:転職活動している中で、SORAJIMAから「Webtoonの読切を作っていくから力を貸してほしい」と連絡が来たんです。Webtoonの読切は、ビジネス的にはやるべきじゃないんですよ。それをやる理由は、「作家をもっと育てたい、いい作家をもっと採用したい」ということで、他のデジタル出版社とは違うなと。詳しく話を聞きに行ったら、代表の萩原(鼓十郎)、前田(儒郎)とすぐ意気投合したので、正直に「でもサブカル漫画をやりたいんです」と伝えました。そしたら「もし来てくれるならすぐに藁谷編集部を新しく立ち上げる」と言われて。急な展開でした(笑)。

―Web漫画は読者の欲望がダイレクトに刺激されるような作品が多いイメージがあります。

藁谷:確かにデジタルコンテンツには、人間の感覚をハックしてドーパミンを出し、課金を促すようなものもあって。ただ、エンタメを欲するという人間の営みにおいても、我々出版社のビジネスにおいても、そうしたドーパミンが溢れるような作品も必要不可欠だと思います。でも読者の欲望を刺激するという方法だけでは、SORAJIMAの「今世紀を代表するコンテンツを創る」というミッションを達成するのは難しい。

なので、僕がSORAJIMAで自分の編集部をやるのであれば、逆に振り切って、紙で出版することを前提として漫画を作っていくことに決めました。それによって、会社としてもいろんな漫画の作り方を開発できるようになるはずなんですよね。

―会社としての選択肢が増えるというか。

藁谷:そうですね。「よすみ」で一番大切にしているのは、適切な数の選択肢を持ち、その中からちゃんと自分で選ぶという価値観の提案なんです。選択肢が多すぎると選ぶのにもリソースを使ってしまって、結局いつも同じ選択になってしまう。ちゃんと自分で選びたいものがどれか考えられる範囲の、多すぎない、でも十分な選択肢を持っておくことが重要なんじゃないかなと。

なので、Web漫画への否定ということではなく、Web漫画が台頭するこの世界にあえて紙という選択肢を持ちたいと思っているんです。この会社に留まらず、出版界に対して、ジャンルレスな漫画をビジネスとして成立させる選択肢があることを「よすみ」を通して証明したいという野望もあります。

『別冊よすみ第二集』の帯には「豊かさとは、自分の生活を意思をもって営むこと。その中で、他人の生活や感情を想像すること。他者への想像力を膨らまし、わたしたちが抱えるわかりづらさを読みやすく、届ける。」とある。

「よすみ」はTSUTAYAのDVDコーナーでいう「その他」の棚

―『別冊よすみ第一集』の編集後記には「”よすみ”というレーベルを考えるにあたって、最もこだわった言葉=概念」として「ジャンルレス」と書かれています。

藁谷:やっぱり、ジャンルに囲われることによって失われたたくさんの作品があると思うんですよ。日本の漫画文化は、大量に作ってその中から一握りのヒットが生まれるというシステムなので、検索可能性が高くないと読者に届きづらいんです。書店の棚がジャンルで分かれていたりするのは、そうしないと数が多すぎて何を読んだらいいかわからないからですよね。日本の漫画はジャンルの発達によって、海外にも輸出できている側面もあると思います。

―漫画に限らず音楽でも映画でも、膨大な作品の中からまず手に取ってもらうには、ジャンルという「とっかかり」が必要であると。

藁谷:ジャンルはすごく便利です。例えば、「今日はホラー映画が観たい気分だな」と100人が思っているとして、100人が思い浮かべている「ホラー」は実は全然違うもののはずなんですよ。でも同じ「ホラー」というジャンルに入れることで、「『呪怨』はありだけど、『REC』はなし」みたいな微細な差を四捨五入して、なかったことにしてしまう。

つまりジャンルというものは、読者や視聴者が本来感じ取っている繊細な機微を切り捨てて、一般化・抽象化して同じ言葉で表現する。ビジネス的には効率がいいし、作り手としてもやりやすいけど、それに抵抗する力も持っておかなくちゃいけないなと。ジャンルと同じくらい、「ジャンルレス」にも価値を置いていかないといけないと思うんです。

―「よすみ」では、エッセイストの堀静香さんが漫画の原案を手がけられたり、作家の安達茉莉子さんが漫画原作に挑戦されたり、劇作家のこんにち博士(南極)がエッセイを寄稿していたり……ジャンルを使って一言で表せない代わりに、領域横断的な内容が多いですよね。

藁谷:「よすみ」で漫画以外のものも紹介しているのは、僕が漫画以外も好きだから(笑)。いろんなカルチャーが行き来することで境界が曖昧になれば、そういう面白さが出てくるじゃないですか。漫画家でも、漫画だけ読む作家なんてほとんどいないわけで。どんな作家でも、生活を営み、自分の領域以外のものを見聞きしているはずなんです。生きることそれこそが、本来カルチャーを横断することなんです。

日本語ラップ批評家の中村拓哉による、少女マンガ・カルチャー批評エッセイ

藁谷:ジャンルに支配されないで楽しみたい読者は、絶対いると思います。TSUTAYAのDVDコーナーで「その他」に分類されている棚に置かれているような作品が集まるのが「よすみ」なんですよね。

紙での出版にこだわるのは「巡り届く」を作るため

―「よすみ」は、すべての作品を紙のコミックスに収録するというのも大きな特徴ですよね。

藁谷:好きな漫画を友達に紹介するときに、リアルの紙の本を渡す方が伝わるし、読みたいと思ってくれる気がするんですよね。若い世代はLINEでURLを送ることもあるかもしれないけど、サブスクのURLが送られてくるよりも、CDを手渡されたほうが聴きたくなる。

紙の本は手触りや重さ、色合いなど、電子よりも余計な情報が多いんです。よすみで刊行する漫画は、一般的な漫画よりも、装丁にこだわろうと思っているので、違和感を感じるかもしれません。極端な話、漫画の物語だけ読みたいなら電子でいいと思うし、電子の方が物語を読むハードルは低くなる。たくさんの本を気軽にいつでも読むことができる電子という選択は漫画というコンテンツにおいてはなくてはならないと思います。ただ、物語を読む・キャラクターを楽しむという体験だけではなく、本を読むという体験を、漫画を通して楽しんでもらいたい。そういう意味で紙の本を買いたい読者も絶対いるはずなので。

ブックデザインにもこだわりが。『別冊よすみ第一集』は側面が彩色されていてかわいい。
『ジャングルジムの眺め 横山陸渡漫画作品集』はカバーのサイズが特殊で、上から表紙が見える仕様。

―先ほどのジャンルレスについての話にも繋がってきますね。ジャンルレスな価値を提示するなら、言語化できない、五感を総動員するような面白さを提供する必要があって、紙の本にはそれが詰まっているという。

藁谷:そういった体験を求める人は確実にいるから、これからは「紙の本が逆に新しい」になると思うんです。実際に出版業界の人と話すと、「よすみは新しい」と言われます。漫画の物語はもうほとんど出尽くしていて型も出来上がってるので、どんな漫画もある程度は面白いんですよ。だから「よすみ」は物語に固執せず、作家さんの描きたいもの、言葉にしづらいものを読んでもらう工夫をする。

『別冊よすみ第二集』のテーマが「巡り届く」なんですけど、電子よりも紙のほうが、読者にいきなり「巡り届く」可能性が高いと思っていて。SNSで目にする漫画はすぐに流れていってしまうし、あとから探すのも難しい。紙の本なら、書店はもちろん、喫茶店に置いてあったり、友達の家にあったりする。図書館にもあるかもしれない。自分で買わなくても、そこにいけば読める。そういう「巡り届く」可能性を大切にするような文化を信じていて、続いてほしいんですよね。

『別冊よすみ第二集』

―電子書籍は、購入しても厳密には所有したことにならないですしね。

藁谷:電子はプラットフォームの都合で急に読めなくなったりしますから。紙も燃えちゃったりする可能性はありますけど、誰かに勝手に燃やされることはそうそうないので。そう考えると、紙と電子は全く異なる、非対称なものなんですよね。日本の漫画市場は電子が70%を超えていますが(※)、だからといって「紙の時代は終わった」ということではないと思うんです。紙には紙の読み方が、電子には電子の読み方があり、漫画は両者の読み方の違いが最も強く出る出版物だと思うんですよね。

※2026年時点、出版科学研究所公開のデータより

―何度も読み返すのにも紙の本は向いてますよね。「物語に固執しない」ということは、一度ストーリーを知った後でも、何度も読むことで味わいが増すということでもあります。

藁谷:そうですね。基本的に日本の漫画は巻数が多いから、読み返しづらいと思うんですよね。僕は個人的に、それはあんまり好きじゃなくて。1冊1冊の価値が低いと思うんです。膨大な巻数を大量に刷るためにすごく安い紙を使ったりしているので、今のシステムは紙を大切にする文化と相容れない部分もある。そのゲームを「よすみ」で変えられないかなと。

作家から信頼される編集部に。書店員のファンも多数

―「よすみ」で描いている作家さんからはどんな反応がありますか?

藁谷:ほとんどの作家さんが「ここは呼吸がしやすい」というようなことを口々に言ってくださってます。やっぱり、自分の描きたいものがジャンルの壁で阻害されるというか、編集者から「売れるためにはこういうジャンルを描きましょう」みたいなことを言われた経験がある作家さんが多いんですよね。

「よすみ」一冊目の単行本である横山陸渡の原画。鉛筆を使い、アナログで仕上げる手法は今の時代では珍しく、締め切りよりも作品の質にこだわる「よすみ」だからできること。

藁谷:僕ももちろん何も口出ししないわけではないんですが、基本的には「とにかく読みやすい作品にしてください」としか言いません。今の漫画市場だと、読みやすいだけでは売れないんです。でも、「よすみ」という編集部で描いてもらう上で、どうやったら売れるかはこちらが考えるから、とにかく作家さんが描きたいことを描くことに集中してもらいたい。作家さんが一番泥臭い肉体労働をしてるのは間違いないので、編集者も同じくらい泥臭く売るための方法を考えたり、書店営業に回ったりしないといけないなと思ってます。

紙の漫画を出版するのは会社でも初だったので、『別冊よすみ第一集』を発売した際は藁谷自身が全国の書店に往訪や電話で営業をかけたという。今回についても、2026年5月には徳島、6月に九州、中部、広島、7月にフランス、北陸と全国の書店を足で周りながら実物を「巡り届ける」ために奮闘中。8月には、次回刊行作品の作家の地元である北海道へ赴き営業予定。

―作家と編集者の権力差は定期的に問題になっていますし、「あくまでも対等」というスタンスが明確になっていると、確かに作家さんは息がしやすいでしょうね。

藁谷:『別冊よすみ第一集』にも収録されている『追い風に旗なびく』の河野大樹さんは、サイトがローンチされるまで、正直半信半疑だったらしくて。「担当編集の熱い気持ちに応えて読切を1作描きました」という状態だったけど、いざサイトがローンチされて掲載された他の作品や全体的なデザインを見た瞬間に「ここで連載したい」と言ってくれたんです。ちゃんと「よすみ」のコンセプトが作家さんにも伝わってるんだなと思って、うれしかったですね。

河野大樹『追い風に旗なびく』は『別冊よすみ第一集』に収録。この作品のみ、藁谷の判断で他の編集が担当している。

藁谷:既存の市場システムに沿っているわけじゃないから、最初は「マジで売れなくてごめん」という感じなんですけど、編集部として「よすみ」の世界観をきちんと打ち出して読者からの信頼を獲得していくことで、どんな新人作家の作品集でも、たとえば必ず1万部売れるという状況を作りたい。「よすみ」が目指しているのは「レーベル買い」なので。5年後には実現させたいです。

2026年7月23日に青山ブックセンターで開催されたイベントには、漫画家・横山陸渡と『コミティア』で出会ってから長年のファンだったスカート・澤部渡が登壇。澤部は横山の作品集に収められた書き下ろし作品『傘』を大絶賛。

―書店の方からはどんな反応がありますか?

藁谷:『別冊よすみ第一集』は編集部のやりたいこととやりたくないことを詰め込んだ宣言文みたいな感じだったので、正直売れにくいだろうと思ってました。実際、新宿の紀伊國屋書店さんからは「ごめんなさい、全然売れませんでした」と言われて。なので、2026年7月23日発売の『別冊よすみ第二集』の営業はこの書店では厳しいだろうなと思ったら、なぜか前回の倍の冊数を入れてくれたんです。僕もなんでそんなに評価されたのかわかんないんですけど(笑)。

『ジャングルジムの眺め 横山陸渡漫画作品集』も同日に発売するので、一緒に展開しやすいとは思うんですね。横山さんはすごく絵の引きが強い作家さんですし、SNSで作品や書影の反響が結構大きかったりもしてるので、書店員さんが、ちゃんと可能性を感じてくれてるんだろうなと。

東京・青山ブックセンター本店ではレジ横で大展開
『別冊よすみ第二集』カバーイラスト原画(横山陸渡)

―『別冊よすみ第一集』に明確に藁谷さんの思想を込めたから、それに共感する書店員さんはさらに身を乗り出して応援してくれているということですね。

藁谷:前回よりも、取り扱ってくれる書店の数は減ったんですよ。でも、各店舗が仕入れてくれる冊数は格段に大きくなっています。僕はまさにこういう売り方がしたかったんですよね。全国の書店に行き渡らせるというよりも、この書店に行けば絶対に「よすみ」の漫画があるし、書店員さんもノリノリで売ってくれる、という。これはやっぱり編集者自らが営業に行かないとできないことだなと。実際に書店員さんに会いに行って「1冊目で終わると思ってたけど、続けてくれてありがとう」とか「どんな人がこの本を作ってるのか気になってました」とか言ってもらえるのはうれしいです。

「豊かであるために。」が「よすみ」のモットーなんですけど、この「豊かさ」は、他者への想像力なんですよね。他者がわからないと、コミュニケーションは乏しくなるし、自分の世界に閉じこもっちゃう。漫画にはその想像力を膨らませる力があると思うし、「よすみ」はこれから、そういう作品を多く作っていきたいと思ってます。

横山陸渡『ジャングルジムの眺め 横山陸渡漫画作品集』(SORAJIMA)

定価:1,200円+税
消えゆく地球の中で揺れ動く感情を描写した傑作『地球滅亡前 僕たち』をはじめとした読切を四篇収録した、描線も感情もみずみずしく躍動する、著者初の一冊。巻末には歌人・エッセイスト堀静香による特別解説も収録。

よすみ編集部編『別冊よすみ第二集』(SORAJIMA)

定価2,200円+税
SORAJIMA の漫画編集部「よすみ」がお届けする漫画作品集。
特集テーマ「巡り届く。」のもと、集った漫画読切4本、連載1話3本、エッセイ4本、短歌1本、対談1本を収録。漫画を分水点としながら、さまざまなカルチャーに越境する読み物も充実した豊かな漫画作品集、第二集。

よすみウェブサイト:https://yosumi.jp/

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