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『モアナと伝説の海』実写版は何を目指したのか。「世界規模のミュージカル」という視点

2026.7.29

#MOVIE

『モアナと伝説の海』の実写版は、オリジナル版を驚くほど忠実になぞった作品だ。そのため、「なぜ実写化したのか」という疑問を抱いた人も少なくないだろう。しかし、その答えを「映画のリメイク」という発想から離れて考えると、本作の狙いはまったく違って見えてくる。

舞台演出家トーマス・ケイルの起用や、リン=マニュエル・ミランダが生み出した音楽の存在を手がかりに、本作を”世界規模のミュージカル”という見方もできるのではないだろうか。

『モアナ』実写化、その理由を考える

『モアナと伝説の海』は、『アナと雪の女王』が築いた、ディズニーアニメにおける男性に依存しない、自立した女性主人公像の流れをさらに強固なものにした象徴的な作品だといえる。その後の『ラーヤと竜の王国』や『ミラベルと魔法だらけの家』へと受け継がれていく、新たなヒロイン像を確立した作品でもあった。その流れには、宮崎駿作品に描かれる自立したヒロイン像から影響を受けたという見方もある。

これまでディズニーアニメの実写化が相次いだ背景には、ブランドの再活性化や新たな世代への訴求、そして古典童話を原作とする作品では、パブリックドメイン化したイメージを改めて「ディズニー作品」として印象づける狙いなど、さまざまな要因があった。『リトル・マーメイド』や『白雪姫』にはそうした側面があったと考えられるが、『モアナと伝説の海』は2016年公開の比較的新しい作品であり、パブリックドメインの問題とは無縁である。それにもかかわらず、『リロ&スティッチ』の23年という記録を大きく更新し、最短で実写映画化された。

今作は構成や演出、セリフに至るまでオリジナル版を非常に忠実になぞっており、「実写化する意味があったのか」という疑問を抱く観客も少なくないだろう。例えば『リロ&スティッチ』では、アニメ版では比較的描写の少なかったナニの視点を掘り下げることで、同じ物語でありながら実写ならではの個性を獲得していた。それに対し、『モアナ』は実写ならではの新たな解釈や再構築を積極的に打ち出した作品とは言い難く、オリジナリティは控えめである。

では、なぜ『モアナ』は実写化されたのだろうか。その理由は、本作の監督に、映画よりも舞台の制作経験が豊富なトーマス・ケイルが起用された意味を考えることで見えてくるかもしれない。

映画館を舞台とした「ミュージカル」という発想

おそらく『モアナ』の実写化は、「映画のリメイク」ではなく、「舞台作品のように映像化する」という発想で進められたプロジェクトだったのではないだろうか。

ディズニーはこれまで、『美女と野獣』や『ライオン・キング』を公開からわずか3年でミュージカル化し、『アナと雪の女王』も約5年後にはブロードウェイで上演している。一方で、『モアナ』はミュージカル性の高い作品でありながら、長らく本格的な舞台化は実現していなかった。

確かに、ポリネシア文化に根差した世界観や、海そのものをキャラクターとして描く演出などは舞台化の大きな障壁となる。しかし、これまでディズニーの舞台作品は数々の技術的困難を乗り越えてきた実績があり、『モアナ』だけが舞台化できなかったとは考えにくい。

さらに、作詞・作曲を担当したリン=マニュエル・ミランダは、『イン・ザ・ハイツ』や『ハミルトン』で知られる現代ミュージカル界を代表する劇作家である。彼が手がけた楽曲群を生かした舞台版『モアナ』の構想が、まったく存在しなかったと考えるほうが不自然だろう。

ただし、舞台にはブロードウェイやロンドンのウエスト・エンドといった限られた場所でしか上演できないという制約がある。世界中の幅広い世代へ届けることを重視するディズニーにとって、それでは十分ではなかったのかもしれない。

そう考えると本作は、新たな映画を創造することよりも、リン=マニュエル・ミランダが生み出した楽曲と、それに伴う世界観を、映画館という世界最大の「劇場」で再演することを目的とした作品だったと考えられる。つまり、実写映画という形を借りた”世界規模のミュージカル”だったのではないだろうか。その視点に立てば、オリジナル版を徹底的に踏襲した構成や演出にも、十分な意味が見えてくるのである。

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