2024年から始まった、映画・海外ドラマを半期ごとに振り返るライター対談。2026年上半期も、長内那由多と木津毅がハリウッドの大作から、海外ドラマまでを語り尽くす。
映画好きが注目する作品の「均一化」への危機感から、混迷する現代をリアルに映し出すドラマ作品のインパクトまで、2人の視点をお届けする。
※本記事には映画の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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映画祭とアルゴリズムの影響? セレクトが似通ってしまう上半期ベスト
―2026年上半期、ざっくりと振り返るとどんな半年でしたか?
木津:自分で挙げたベストテンが、リストとして我ながら「面白くない」と感じてしまいました。というのも、去年の『カンヌ国際映画祭』の「パルムドール受賞作」から「審査員賞」まで入っているように、映画祭周辺で注目されていた作品ばかりが並んでしまったからです。
上半期はどうしても昨年の主要映画祭の話題作が日本に入ってくる時期なので、映画ファンとしては忙しい反面、リストの顔ぶれがありふれたものになってしまうんですよね。
木津毅 2026年上半期ベスト
『グッドワン』(インディア・ドナルドソン)
『センチメンタル・バリュー』(ヨアキム・トリアー)
『マーティ・シュプリーム』(ジョシュア・サフディ)
『落下音』(マーシャ・シリンスキ)
『オールド・オーク』(ケン・ローチ)
『ドランクヌードル』(ルシオ・カストロ)
『シンプル・アクシデント/偶然』(ジャファル・パナヒ)
『シラート』(オリベル・ラシェ)
『アン・リー/はじまりの物語』(モナ・ファストヴォールド)
『急に具合が悪くなる』(濱口竜介)
長内:私もリストアップしながら、新しい発見を見つけにくい半年だと感じました。個々の作品の平均値が高いんですけどね。
長内那由多 2026年上半期ベスト
『マーティ・シュプリーム』(ジョシュア・サフディ)
『センチメンタル・バリュー』(ヨアキム・トリアー)
『急に具合が悪くなる』(濱口竜介)
『サンキュー、チャック』(マイク・フラナガン)
『シラート』(オリベル・ラシェ)
『シンプル・アクシデント/偶然』(ジャファル・パナヒ)
『これって生きてる?』(ブラッドリー・クーパー)
『28年後… 白骨の神殿』(ニア・ダコスタ)
『決断するとき』(クレア・キーガン)
『ボイスメールで恋をして』(リア・マッケンドリック)
木津:映画を熱心に追いかける層に注目される作品が、映画祭文化を基盤にして世界中で共有されている。今、「Letterboxd」のようなソーシャルメディアを通じて、世界中の映画体験がリアルタイムで共有されています。各地のローカリティーが見える力強い作品が評価されるのは素晴らしいですが、それが特定の「映画を熱心に観ている層」だけで閉じているのではないか、という危惧があります。
長内:アルゴリズムの影響も大きいですよね。SNSを見ていると、特定の作品、例えば『センチメンタル・バリュー』(ヨアキム・トリアー)や『マーティ・シュプリーム』(ジョシュア・サフディ)はすごく盛り上がっているように見えたけど、一歩映画好きの圏外に出ると、実は全くリーチしていないという現象が起きている。『マーティ・シュプリーム』は、日本では映画ファン以外に全く届いていない寂しさを感じました。


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海外ドラマがすくい取る、2026年の時代精神
―長内さんは上半期、いかがでしたか?
長内:前半の『マーティ・シュプリーム』と『センチメンタル・バリュー』が2トップで、そのあとにこの2作を超える作品が続かなかった印象です。
あと、僕はアメリカ映画を中心に見ているので、心の中にずっとあったのは、イラン侵攻が起きている真っ只中であるということ。そうした状況と切り離せずにいろいろ見ていたので、今の時代精神をすくい取ってくれる作品にインパクトを感じました。
その前提の上で、僕はこの半年、映画よりもドラマのほうに現在(いま)を感じる作品が多かったです。ドラマは映画より制作期間が短いので、時代に対するレスポンスが速い。これもドラマの魅力だなと思います。
長内那由多 2026年上半期ベストドラマシリーズ
『ウィドウズ・ベイ』
『ユーフォリア シーズン3』
『オフキャンパス』
『インダストリー』
『ナイト・オブ・ザ・セブンキングダムズ』
『マーゴのマネートラブル』
―どんな作品に、その時代精神を感じましたか?
長内:何を描くかを問われる時代において、「個人がどう今をサバイブしていくのか?」というのが一種の時代精神なのかなと感じています。今期、特に印象的だった『ユーフォリア シーズン3』『マーゴのマネートラブル』などで、それぞれ現代社会の何かしらを捉えようとしている流れを感じました。
まず『ユーフォリア シーズン3』。これは衝撃の1本でした。テーマとして薬物問題が入ってくるのですが、麻薬カルテル同士の抗争劇と同時並行して、シドニー・スウィーニーがOnlyFans(※)でのし上がっていく話が繰り広げられる。支離滅裂なのだけれど、そのデタラメさに圧倒されてしまう!
※OnlyFans:成人向けSNSプラットフォーム。クリエイターは自身のファン専用のコンテンツを販売できる。
木津:『ユーフォリア』はシーズン1の途中までしか見られていないのですが、支離滅裂な飛躍にすごくエネルギーがあり、それが今の混沌とした社会を映しているとも言えるんですね。
長内:そうなんです。シーズン1、2から話もほとんど繋がってませんし。あと『ザ・ピット / ピッツバーグ救急医療室 シーズン2』もよかった。アメリカという国は一体どうなっているんだろうというテーマが、舞台をアメリカ独立記念日である7月4日に選んでいることからも伝わってきました。シーズン3は感謝祭シーズンにやるという話もあるそうで、今後も描くべきことのあるドラマだと思います。
木津:シーズン2は、今のアメリカが壊れているさまが描かれていて、だからこそ僕は見ていて辛い気持ちになりました。保険に入っていなくて、勝手に退院しちゃう糖尿病の患者の話とか……。
長内:シーズン2は、移民やホームレスなど、医療ケアを受けられない人たちを中心に描いていましたからね。
そして『マーゴのマネートラブル』は、なんでもない普通の女の子がどう今の時代をサバイブできるのか、そこに焦点を当てている。この作品も主演のエル・ファニングがOnlyFansを使ってのし上がろうとする話で。『ユーフォリア』でも感じましたが、若い世代のアメリカに住む女性にとって、「アメリカンドリーム」とはOnlyFansでのし上がることになってしまったのか? その不健全なアメリカンドリームのあり方に、「2026年のリアル」を見て取りました。
木津:『マーゴのマネートラブル』もですが、今Apple TVに勢いがありますね。その中でも僕は『ウィドウズ・ベイ』にすごく現代性を感じました。近年のシュールなコメディがアリ・アスター的なフォークホラーと結びついた作りになっています。作り手であるヒロ・ムライが『アトランタ』時代からやってきたシュールさが結実した印象を受けました。
長内:僕は最初、コメディなのかホラーなのかわからなかった。4話に入って、これは笑っていい作品なんだと理解してから急におもしろくなった。ヒロ・ムライ以上に、『チェア・カンパニー』のアンドリュー・デヤングと親和性が高かったですね。
木津:『X エックス』(2022年)などのタイ・ウエストが監督のエピソードもありますしね。AppleがHBOに接近していると言われているらしいですが、実際にこの2社が作っているものはイチイチ面白くて、気が効いている。だけど、これも一部の熱心な海外ドラマファンがソーシャルメディアで盛り上がっているだけで、その外側に伝わっていないんですよね。
長内:それはもう、Appleが宣伝に力を入れることが大切だと思いますね。
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『シラート』『落下音』のロジックを超越したインパクト
木津:長内さんから時代精神の話がありましたが、僕は『シラート』(オリベル・ラシェ)みたいな作品に、それを感じました。抽象的であるからこそ、「世界が壊れていること」のイメージとして説得力を持っている。
もちろんアメリカ映画のような具体性のある作品、あと『オールド・オーク』(ケン・ローチ)のような具体的な政治的、社会的な作品も好きなんです。ただ抽象的なイメージのほうが今の混沌とした時代を捉えている可能性もあると感じました。

―『シラート』はあの内容で、興行収入1億を突破しているのが驚きですね。
木津:『シラート』は「音のいい映画館で観よう」という気持ちになる作品で、日本でもドルビーで拡大上映された流れが生まれたのがヒットにつながりましたね。それは、すごくよかったと思います。

長内:『シラート』は木津さんの言うように、抽象的で、そこがよいと思うのですが、SNSなどを見ていると後半の急展開や、難解さに怒っている人もいました。でも、僕は「映画はショックだ!」と思っているので、わけのわからないものを見て呆然となって帰るのが一番です。初見は本当に衝撃を受けました。
木津:『シラート』は「考察文化」的に盛り上がるだけではもったいない部分もありますよね。長内さんのように、わからないものをわからないまま楽しむ態度も大切だと思うんです。
長内:『落下音』(マーシャ・シリンスキ)でも同じことを感じました。厳密にわからなくても、わからないままで楽しめる映画だと思います。人物相関図とかいるのかな。奇しくも、どちらもカンヌの審査員賞ですね。
木津:そうですね。今の2作に加えて7月公開の『きれっぱしの愛』(フリーヌル・パルマソン)も、すごく抽象的な感覚の作品で、本質的にはいくら考察してもあまり意味がないような気もします。ロジカルに理解できるものを超越した領域を目指している。
長内:7月に公開される『オブセッション 災愛』(カーリー・バーカー)は20代のYouTuber監督による作品ですが、ソーシャルメディアでの論争や考察文化をあえて仕掛けているところがあって、新しいタイプの作り手だなと思いました。つまりアナリティクス的な感覚を持つ作家。未見ですが、おそらく『バックルームズ』(ケイン・パーソンズ)もそういう面があるのでしょうし、今後のムーブメントになると予想しています。
木津:そうした「トレンド」の文脈とは別に、『アン・リー/はじまりの物語』(モナ・ファストヴォールド)や『急に具合が悪くなる』(濱口竜介)のように新しいものを作ろうとしている心意気を感じる作品もありましたね。
『アン・リー』は古くからのミュージカルの文脈も取り入れているけれど、強烈に見たことがない作品になっていた。『急に具合が悪くなる』では、女性2人がずっとアカデミックな会話をしている。そんなモチーフや展開の映画は今まで見なかったなと感じました。僕はそうした「新しさへの挑戦」に希望を感じました。
