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MUSIC AWARDS JAPAN 2026総括。授賞式で見えた課題と可能性

2026.6.16

#MUSIC

MUSIC AWARDS JAPAN(以下MAJ)の第2回授賞式が6月13日(土)に開催された。「世界とつながり、音楽の未来を灯す」を理念に掲げ、日本の音楽を世界へ発信する国際音楽賞として始まったアワードである。しかし、2026年は昨年以上にさまざまな意見が渦巻いている。「ノミネートや受賞アーティストが一部に偏っているのではないか」「政治との距離感は適切なのか」——。それら一つひとつの意見には共感できるものが多い。だが、さまざまな議論が同時に噴出しているからこそ、かえって論点の所在が見えにくくなっているのも事実だ。そもそもMAJとは何を目指した賞なのか? 個別の賛否を論じる前に、まずはその前提から整理してみよう。

音楽賞には「代表選抜型」と「発見型」がある

音楽賞にはさまざまな役割があるが、本稿では便宜上、大きく二つに分けて考えてみたい。一つは、その年や時代を代表する作品・アーティストを顕彰する「代表選抜型」の賞。もう一つは、まだ十分に知られていない価値を掘り起こし、社会へ提示する「発見型」の賞である。前者には、アメリカのグラミー賞やイギリスの BRIT Awards、韓国のMAMA AWARDSなどが挙げられる。これらの賞が重視するのは、その国や地域の音楽シーン全体を象徴する存在を選び、広く社会や世界へ提示することだ。一方、イギリスのMercury Prizeや韓国大衆音楽賞などは後者に属する。市場規模や知名度がまったく考慮されないわけではないが、重視されるのは、新しい表現や時代の兆候をいかに見出し、社会へ提示するかという視点だ。

実はここ10年ほど、メディアによる、この「発見型」の賞やアワードが増加傾向にある。ストリーミングサービスSpotifyによる「Early Noise」、音楽メディア『Rolling Stone』の「Future 25」や『Spincoaster』の「SPOTLIGHT」、よりインディペンデントの領域では「APPLE VINEGAR MUSIC AWARD」や「TOKYO ALTER MUSIC AWARD」、さらに「TuneCore Japan INDEPENDENT ARTIST 100」など、さまざまな形態の企画が増え続けているのだ。背景には、ストリーミング時代特有の環境変化があるだろう。かつては限られたメディアやレコードショップが「何を聴くべきか」を提示していた。しかし現在は、誰もが膨大な楽曲にアクセスできる一方で、「選択肢が多すぎて何を聴けばいいのか分からない」という状況も生まれている。その中で、メディアやキュレーター、アワードには、まだ十分に見出されていない価値を発見し社会へ提示することが求められるようになってきている。

そう考えると、MAJに対する物足りなさを指摘する声も、理解できなくはない。音楽好きのリスナーであれば特に、求めているのは「発見の興奮」だからだ。たとえば、日本のラップシーンは現在も次々と新たなスターが登場し、スタイルや価値観が更新され続けている。その中で、「最優秀ヒップホップ / ラップアーティスト賞」や「最優秀ヒップホップ / ラップ楽曲賞」をCreepy Nutsが2年連続で受賞したことに対し、「シーンの現在地を十分に反映しているのか」という疑問の声が多数あがった。こうした違和感は、「もっと新しい価値に光を当ててほしい」という期待のあらわれでもあるだろう。

MUSIC AWARDS JAPANが「主要6部門」と位置付ける各賞の受賞結果がこちら。最優秀アーティスト賞のMrs. GREEN APPLE、最優秀アルバム賞の藤井風は、昨年の第1回と2年連続での受賞となった。

「今の日本の音楽」を提示するショーケースとしての成否

ただ、その不満をそのままMAJの欠点と考えてよいのだろうか。むしろそこには、異なる種類の音楽賞に対する期待が重なっているようにも見える。ここで改めて確認したいのは、MAJがどのような目的のもとで設計されているのかという点だ。実際、MAJの設立にあたってはグラミー賞が意識されており、主催側も「日本の音楽を世界へ発信する国際音楽賞」と位置づけている。そう考えると、この賞の中心にあるのは、新しい才能や価値を発見することよりも、日本の音楽シーン全体を国内外へ提示することにある。つまりMAJは、発見の機能を主軸とした賞というよりも、国際発信と産業振興を担うショーケースとして構想されているのだ。

同じく近い位置づけのBRIT AwardsやMAMA AWARDSは、いわば音楽版の万博である。この国・地域の音楽は今こうなっている。このようなアーティストがいて、このようなジャンルがあり、このような文化が育っている——。そうした全体像を国内外へ示すための、ショーケースだ。だからこそMAJを評価する際にまず問うべきなのは、「今の日本音楽をどのような物語として世界へ提示できたか」である。その点こそが、MAJというアワードの成否を測るための、最も重要な視点なのだろう。

その観点から見た際、MAJにはすでにいくつかの可能性が見え始めている。第一に、業界横断の合意形成。レコード会社、マネジメント、出版社、ライブ業界など、これまでそれぞれの論理で動いてきた日本の音楽産業が、「今の日本音楽」を共同で選び出す場をつくった意義は小さくないはずだ。第二に、日本の音楽をひとつのパッケージとして提示できる可能性。海外から見れば、藤井風、YOASOBI、Creepy Nuts、Adoといったアーティストから、演歌、ヒップホップ、ボカロ、アニメソングといったジャンルまで、それぞれが異なる文脈の中に存在している。MAJは、それらを「日本音楽」という大きな枠組みのもとで見せることができるかもしれない。第三に、海外メディアや海外リスナーにとっての入口になりうること。グラミー賞がアメリカ音楽への、MAMA AWARDSがK-POPへの窓口であるように、MAJもまた日本音楽への窓口となる可能性を秘めている。

主要部門の授賞式(Grand Ceremony)にさきがけて、6月11日(木)には演歌・歌謡曲LIVE[最優秀演歌・歌謡曲 楽曲賞 授賞式]が開催され、吉田兄弟×DAISHI DANCE×カムイらがパフォーマンスを披露した。

どのような価値観を示し、時代の空気をどう見せるのか

しかし、それらの可能性は同時に、課題とも隣り合わせだ。MAJが参照しているグラミー賞を見てみよう。グラミーは新しい才能を発掘することを主目的とした賞ではないが、同時に、単なる人気投票でもない。例えば過去には、商業的な勢いや世間の予想とは必ずしも一致しない受賞結果を通じて、「業界として何を価値あるものと考えるのか」というメッセージを発信してきた。そこにあるのは、価値判断だ。グラミー賞は、発見型よりも代表選抜型の賞でありながら、同時に一定の批評性も備えているのである。それは、「まだ知られていないものを見つけること」というよりも、「何を評価するべきかを示すこと」によって生まれている。つまり、代表選抜型の賞であっても、単なる人気投票や市場の追認に終わればその存在意義は薄れてしまうということだ。ゆえに、どのような価値観や編集方針のもとで「今年の日本音楽」を提示しようとしているのか、という点こそが重要なのである。

さらに、もう一つ見落とされがちな論点がある。賞の価値は、受賞結果だけによって決まるわけではないということだ。グラミー賞やMAMA AWARDSが文化的記憶として残る理由は、受賞リストそのものよりも、そこで披露されたパフォーマンスやスピーチ、演出が作り出す物語にある。誰が何を伝えるためにどのようなステージを見せたのか、そこにはどのような時代の空気や価値観が映し出されていたのか——その積み重ねによって、賞は単なるランキングではなく、一つの文化的イベントへと育っていく。本来、MAJもまた受賞結果だけではなく、「日本音楽をどのように見せたのか」という観点から評価されるべきなのだろう。

例えば、2023年のグラミー賞でバッド・バニーがオープニングを務めたことは象徴的だった。スペイン語によるパフォーマンスが授賞式の幕開けを飾ったことは、ラテン音楽がアメリカ音楽シーンの重要な一部として認識されていることを示していた。一方で、その表現のあり方をめぐっては、放送時のスペイン語字幕表示をめぐる批判も起きた。つまり、グラミー賞も常に称賛されてきたわけではない。それでもなお、アメリカの音楽文化が何によって形づくられているのかを、舞台上で可視化し続けてきたのである。

参考記事:第68回グラミー賞を総括。バッド・バニーの象徴的な受賞と「音楽と政治」
https://niewmedia.com/specials/2602grammy68th_edski_wramr/

高市首相の前夜祭登壇をめぐって

もう一つ、2026年のMAJをめぐって見逃せない論点がある。高市早苗首相のMAJ前夜祭登壇に対し、一部の音楽ファンや関係者から強い反発が起きたことだ。興味深いのは、その反応が単純に「政治家が音楽の場に来ること」への拒否感にとどまらなかった点である。実際、国家元首や政府関係者が文化イベントに登壇すること自体は世界的に見ても珍しくない。ましてMAJは、日本音楽を世界へ発信する国際音楽賞として構想されており、日本の音楽産業全体を代表するショーケースを目指している。その意味では、政府や行政との接続そのものは必ずしも不自然ではないだろう。では、なぜこれほど強い違和感が生まれたのか。

そこで問われていたのは、「世界との接続」や「国際発信」を掲げる賞の理念と、現実の文化政策や国際交流政策との間に、どれほど一貫性があるのかという疑問である。実際、一部の批判の背景には、近年の日中関係をはじめとする国際情勢の変化の中で、アーティストの海外公演や文化交流が政治・外交環境の影響を受ける場面が増えているという認識がある。そこには、「世界との接続」や「国際交流」の理念はどこまで現実の制度や政策によって支えられているのか、という現実的な問いがある。国際交流を標榜する賞の舞台に政府トップが立つ以上、その賞が体現しようとしている価値観と、実際の文化政策や国際交流政策との関係は当然視野に入ってくる。「グローバル化を掲げるのであれば、その理念を実現する環境づくりについても議論されるべきではないか」という問題意識が生まれるのは不自然ではない。

参考記事:相次ぐ公演中止。中国の若者たちの本音と日本のインディーズ音楽への渇望
https://niewmedia.com/specials/2602chugoku_ednmr_wrfsm/

そしてこの問いは、今後さらに重要になっていくだろう。なぜなら、MAJが本当に「日本音楽を世界へ発信する国際音楽賞」を目指すのであれば、いずれ国内だけでなく海外からも同じ視線が向けられるようになるからだ。グラミー賞やMAMA AWARDSがそうであるように、国際的なアワードは受賞結果や授賞式だけで評価されるわけではない。その背後にある国や社会の姿勢、そしてイベントがどのような価値観を発信しているのかも含めて見られることになる。

受賞結果以上に大きな課題と、これからの可能性

今年のMAJでも、世界的なポップスターであり、オープンリーにクィアであることを表明しているサム・スミスがパフォーマンスを披露するシーンがあった。その出演自体は、MAJが世界へ開かれた国際的なアワードであろうとしていることを印象づけるものだった。一方で、その前日に登壇した高市首相は同性婚反対を表明している。そのため、クィアアイコンでもあるサム・スミスの出演と、保守的な政府トップの出席が、同じ「国際発信」を掲げるアワードの中に並ぶことへの違和感が指摘されている。ここで問題になっているのは、サム・スミスの出演や高市首相の出席の是非そのものではない。むしろ、MAJが世界へ向けてどのような価値観や日本像を提示しようとしているのか、その方針が問われていたのである。そう考えると、高市首相出席をめぐる議論は、単なる政治的論争というよりも、MAJが今後どのような国際的存在になろうとしているのかを映し出す、一つの試金石だったと言えるのかもしれない。

https://youtu.be/AredX_z7E0I?si=8bDcHtVOoBi8VqNR

しかしこれは、MAJにとって厄介な課題であると同時に、大きな可能性でもある。なぜなら、この問いは最終的に「日本の音楽をどのように世界へ翻訳するのか」というテーマへと行き着くからだ。課題の本質は受賞結果そのもの以上に、「グローバルに向けて日本の音楽をどのように語るのか」というアワードの編集方針にある。どのような日本音楽像を描くのか。どのような価値観のもとで世界とつながろうとするのか。その輪郭がまだ十分に見えていないことこそが、今回の違和感の正体だったのではないだろうか。

日本の音楽は多様性に富み、自国内で独自の変化を遂げてきた。海外のA&Rやグローバルに活動するチームと話していても、「日本だけは世界共通のプロモーションが通用しにくい不思議な市場だ」と言われることがある。だからこそ、その複雑さを魅力として伝えるための編集がますます必要になる。J-POP、アイドル、ヒップホップ、ボカロ、アニメソング、演歌。さらにジャズやクラシック、劇伴といった領域まで。MAJが扱っている範囲は、華々しいメインストリームに限られているわけではない。むしろ、その幅広さこそが、「日本音楽」をひとつのパッケージとして世界へ提示しようとする設計思想を物語っている。果たして、それらをどのような物語として束ね、どのように世界へ翻訳していくのか。

MAJは、制度としてはすでに大きな一歩を踏み出した。これから先に問われるのは、「日本音楽とは何か」を語るための物語である。多様な音楽文化をいかにして束ね、どのように世界へ翻訳していくのか。その答えを探し続けることこそが、MAJに課された最大のテーマなのではないだろうか。

https://www.youtube.com/watch?v=ME2yyOv2GxU
https://www.youtube.com/watch?v=GZwnre6Skm0

MUSIC AWARDS JAPAN 2026

開催日時:2026年6月13日(土)
(※開催ウィーク:2026年6月5日(金)〜6月13日 (土))
会場:TOYOTA ARENA TOKYO他
協力:経済産業省、文化庁、日本貿易振興機構(ジェトロ)
後援:東京都、江東区、渋谷区、国際交流基金、一般社団法人東京臨海副都心まちづくり協議会

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