連続ドラマとしては2022年10月に放送されたSeason10以来、約3年半ぶりとなった『孤独のグルメ Season11』(テレ東系)がひとまずの最終話を迎える。
主人公・井之頭五郎(松重豊)が1人で幸せそうに食事をする。このシンプルなドラマは、日本のみならず海外でも人気を博し、「孤食」を「独りで食べる飯」ではなく、「独りで自由気ままに食を楽しむ至福の時間」と再定義し、食文化の概念まで変えてしまった。
最近では、大晦日スペシャルが毎年の恒例となっていた本作だが、毎週、新しい街や店に出会える幸福感は連続ドラマならでは。Season1から約14年を経た今回も、上飯田町や蓮田市、横芝光町など、よく知られた街でも観光地でもない絶妙な土地との出会いが待っていた。
そんな『孤独のグルメ』Season11について、ドラマ・映画とジャンルを横断して執筆するライター藤原奈緒がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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世界からも愛されるグルメドキュメンタリードラマの金字塔

『孤独のグルメ』Season11がいよいよ最終話である。久住昌之原作・谷口ジロー作画の同名コミック(扶桑社)を原作としたドラマも、2012年のスタートからなんと14年。2025年には主演を務め続ける松重豊が自ら監督・脚本も手がけた『劇映画 孤独のグルメ』が公開された。韓国でドラマ賞を獲得するなど、日本だけでなく世界からも愛されるグルメドキュメンタリードラマの金字塔は、シーズンを経るごとに、ますます進化を重ねている。本稿では、14年間、一貫したスタイルを磨き続けてきた『孤独のグルメ』の魅力を探ってみたい。
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今回もワクワクさせられる、井之頭五郎の「大人の“食”の大冒険」

第5話「神奈川県横浜市上飯田町のブンティットヌングとチャージョー」の終盤、ベトナム料理店「タン ハー」で「思わぬ海外旅行気分」を味わい、満足して店を出た井之頭五郎(松重豊)は、腕時計を見てからバス停へと向かう。バスに乗った彼が、うつらうつら居眠りをするところでドラマは終わる。それがなんとも心に残った。
この回で五郎は元々、ビニールハウスで野菜を育てる親子(苅田裕介、小木茂光)との商談を終えた後、バスに乗ってそのまま帰るつもりだった。しかし、バス停で目当てのバスの到着が1時間後であると判明し、待ちきれず付近の店を探し、辿りついたのがこの店だった。バスを待つ1時間という、限られた時間の中で行われる「大人の“食”の大冒険」の充実を、これほどまで魅力的に表現したものが他にあるだろうか。『孤独のグルメ』はいつも、五郎が食べる美味しそうなご飯とともに(今回もベトナム料理が実に美味しそうだった!)、未知の土地での「1人外食」のワクワクを私たちにありありと伝えてくれる。

五郎は、異国情緒溢れる店の雰囲気込みで、「ブンティットヌング」(ベトナム風和え麺)など初めて尽くしの味を楽しむ。そして、店のママ(内田慈)と談笑する、常連なのだろうベトナム語を話す人々の日常を想像して店を後にする。その果てに、遊び疲れたようにバスで眠るのだ。なんと幸せなことだろうと感動すると共に、視聴者もまた、その「冒険」をやってみたくて仕方なくなる。現実に多くの「孤独のグルメ」を生み出す力も、このドラマは持ち合わせている。
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仕事パート=街の紹介パートのリアリティ

つまり『孤独のグルメ』は、「食」のドラマであると同時に、「旅」のドラマなのだ。視聴者は本作を通して、五郎が訪れる、知らない街の、地元の人々に愛される店と出会える。輸入雑貨商を営む五郎が、商品を届けに行ったり、仕入れに行ったりする先での出来事を描いた「仕事パート」とも言える本作の導入部分は、五郎の「腹が減る」までのお約束というだけではなく、街の紹介パートにもなっている。
例えば、団地の中にある共同アトリエで木彫アートをしている会社員・伊藤美紀(福地桃子)に作品を案内してもらうところから始まる第9話「茨城県取手市のレバステーキ定食」は、その導入だけで「アートのまち」としても知られる取手市のユニークさを伝えている。第2話「東京都港区西麻布のタンドリーチキンとマトン・マサラ」では、商談相手である電気店の主人・和賀義和(金田明夫)の人情味溢れる「街のでんきやさん」ぶりや、仕事を終えて帰ろうとする五郎が目にする、街の人々が集い談笑している姿を通して、スノッブなイメージがつきまとう西麻布に、普通の人たちのリアルな日々の暮らしがあることを映し出す。
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モデルとなった店主とドラマを見比べる「ふらっとQUSUMI」の楽しみ

本編終了後には、原作者の久住昌之が、その回のモデルとなった店を紹介するコーナー「ふらっとQUSUMI」がある。第3話「東京都文京区千石のラムショルダー発酵菜スパイシー炒めと豚バラきゅうりガーリックソース」後の「ふらっとQUSUMI」で、久住が「四川家庭料理 中洞」の看板息子の少年に「このコーナーではほぼ主役だからね」と言った言葉どおり、このコーナーの主人公は「店」だ。そして、「下戸」設定である五郎の代わりに、久住がお酒に合うメニューを楽しみつつ紹介する役割も担っている。

お店の人たちの楽しそうな様子もさることながら、ドラマの登場人物の演技と、モデルとなった本人を見比べるのも楽しい。第4話「神奈川県厚木市本厚木のバーニャカウダと脾臓のパニーニ」で多岐川裕美が演じたイタリアン「タベルナ ラ・メッセ」の店主が料理を説明する上品な口調の「本家本元」はこうだったのかと知ったり、第8話「埼玉県蓮田市の台湾ラーメンと水餃子」で五郎がしみじみ「明るいお母さんだったなあ」と述懐した、佐藤真弓演じる店主の「実際の明るさ」を実感したりすることができる。
そもそもドラマ『孤独のグルメ』の真髄は、何と言っても五郎が訪れる店そのものの魅力にあるだろう。セットではなく、モデルとなった店にロケーションして、実際の料理を映し、味わうわけだから、ドラマであると同時に「グルメロケ番組」でもあるわけだ。第6話「東京都目黒区池尻大橋の豚うす切 鉄板焼」の「豚のうす切」の美味しさは、五郎の前で自ら肉を焼いてくれた店の女将みやこさん(本人が出演)の存在なくしては語れない。
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五郎はごはんだけでなく、店の人や常連客も静かに見つめる

第1話「神奈川県藤沢市善行のさばみりんと豚汁」で女将と娘(観月ありさ、中井友望)が二人で営む定食屋「おうちごはん はるね」の、家族にしかあり得ないやりとり。第4話のイタリアン店主が語る「夫の遺作」の脾臓のパニーニと、彼女が見つめる夫の似顔絵。家族の人間模様や店の歴史をさりげなく描くのも、本作の魅力だ。

そして、五郎と共に聞き耳を立てずにはいられないのは、店の人と常連客とのやり取りだ。第7話「東京都北区東十条のカジキのムニエルホーレン草のクリームソース」の終盤において、常連客の若い女性と、他の常連客からもらったエプロンとカップについて楽しそうに話すママ(岸本加世子)とシェフ(本人)のやりとりを眺めながら、幸せそうに店を出る五郎。第9話「茨城県取手市のレバステーキ定食」における女将(藤田朋子)と常連客間の「丼で」「いつもの」で通じる関係性から生まれるリズムに便乗して、追加注文をかける五郎の密かな喜び。このように店の人と他の客との会話を必要以上に聞き取ってしまうのは、「1人外食」ならでは。誰かと共にご飯を食べる時は、目の前にいる人との会話に夢中になって、周囲の会話に耳を傾けることも少ないだろう。1人だからこそ、孤独なようで孤独でない、店にいる人々との一期一会のセッションを繰り広げられるのである。
また、店の人と常連客との会話には、長年通わないと生まれない関係性が存在する。第9話の「ふらっとQUSUMI」では「60年くらい食べている人がいる」焼きそばが紹介されていた。でも、五郎の「孤独のグルメ」という名の旅は、(極まれに再登場店舗があるものの、基本的には)「営業先で見つけた食事処にふらりと立ち寄る」物語であるために、五郎は「常連客」にはなれない。だからこそ、彼はその街に根付いた店の、人々のやりとりを羨ましそうに眺める。出過ぎた関わりはせず、店を通して、その街を生きる人々の人生の物語を見つめる五郎さんの姿が、なんとも愛おしい。