音楽にまつわる今のトピックについて、ライター / 批評家に語り合ってもらう座談会。今回は、hiwatt、風間一慶、井草七海の3人から、2026年3〜4月の注目アルバムを紹介してもらいつつ、6年ぶりの復帰作となったBTS『ARIRANG』、過去の言動を謝罪し「改心」した後初のリリースとなったYe=カニエ・ウエスト『BULLY』について聞いた。
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UKラップ、中華系アンビエントポップ、エレクトロソウル……音楽ライターの注目新譜
—みなさんがここ数ヶ月で注目したリリースタイトルについて教えていただければと思います。まずhiwattさん、いかがですか?
hiwatt:はい。先日の『コーチェラ』でも目立った活躍をしていたセントラル・シー(Central Cee)やfakeminkと同じようなところで活躍している、Rico AceというUKのラッパーがいまして、彼の新作『Blackjack』が素晴らしかったです。
hiwatt:UKアンダーグラウンド=UKUGと略されたりもするんですけど、その中で去年はEsDeeKidというラッパーが大ブレイクしまして、彼もこのアルバムに参加していたりとか、Bladeeという、スウェーデンのレーベル「YEAR0001」あたりから出てきて、最近Skrillexなんかとも一緒にやっているVarg2™︎というプロデューサーも、2曲参加しています。ジャークと呼ばれるラップのジャンルが、レイジやクラウドラップを通過して最近リバイバルしているんですけど、彼もそういうふうなことをやっています。UKならではの「訛り」が魅力で、このジャンルはどんどん新しいタレントが出てくると思うんですけど、Rico Aceの新作はその入門にもいいかなと思いますね。
風間:僕はビッグリリース以外で言うと、SY3というプロジェクトの『梦游 SLEEPWALKER』というアルバムを挙げたいです。ケリー・グアン(Kelly Guan)、アレックス・ホ(Alex Ho)、フィル・チョー(Phil Cho)という、ロサンゼルス拠点の中国系アメリカ人3人のプロデューサーがはじめたプロジェクトで、「Music From Memory」というレーベルから出ました。この「Music From Memory」というのは、2010年代からの(ニューエイジ等の)リバイバルを推し進めた再発レーベルのひとつで、いろいろな音楽をリイシューすることによって現代に再提示しているレーベルです。最近はリイシューではない新作も出していて、その中でもこのアルバムはものすごく良いと思います。
風間:内容はアンビエントポップというか、ちょっと昔のアイドルポップ歌謡、たとえばフェイ・ウォンとかとすごく親和性があって。ダウンテンポやトリップホップの潮流を、さらにダンスミュージックと引き離したような内容で、すごく不思議な聴きやすいアルバムです。UKや北欧から出てきそうな感じの内容を、中華系のアーティストが作るということで、いわゆる「オリエンタル」なメロディを使っていたりするんですけど、そういう「Music From Memory」系の作品の中でも一歩抜きん出ていると思います。
—井草さんはいかがですか?
井草:そうですね。ジェシー・ウェア(Jessie Ware)の『Superbloom』というアルバムが、この座談会の収録時点では3曲先行リリースされていて、楽しみにしています。
井草:ジェシー・ウェアはもともと、UKのネオソウル / ビンテージソウルを、フォーキーなアレンジも踏まえつつやっているような作品を3枚出していて、1枚目は鳴り物入りでデビューしたものの、2、3枚目で停滞期があって、音楽を辞めようと思っていたそうなんです。キャリアの転換期になったのが『What’s Your Pleasure?』という2020年のアルバムで、エレクトロダンスミュージックに振り切った、ディスコっぽい作風になったんですね。かなりプロダクションを変えたことで、一気に再ブレイクしました。
井草:『What’s Your Pleasure?』は、1980年代のNYのクィアブラックコミュニティへのリスペクトも内包したディスコテイストではあるんですが、もう少しひんやりとした質感の、ダークな印象もあるエレクトロニックなアルバムです。2023年には同じ系統で『That! Feels Good!』というアルバムを出してるんですけど、これは完全に華やかなパーティー感の強いディスコアルバムだったんですね。それが個人的にはちょっと大味な印象もあったんですけど、今回の『Superbloom』に関しては、先行曲を聴く限り『What’s Your Pleasure?』と『That! Feels Good!』の良いとこ取りのような仕上がりになっていて、オーケストラルなアレンジもあり、ブレイクのきっかけになったモダンでクールな感じのトラックもあり、ここ数作の集大成っぽい感じの作品になりそうな手応えを感じて、期待しています。
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BTS『ARIRANG』の音楽オタク的な聴きどころ
—3月にはBTSの復帰作となる『ARIRANG』もリリースされましたね。みなさん聴かれましたか?
風間:聴きました。すごい好きだった。……すいません、バカみたいな感想で(笑)。『ARIRANG』というタイトルが置かれている時点で、韓国の雰囲気を強調したようなアルバムになるだろうというのは明らかだったわけですが、蓋を開けてみたら、いわゆるオールドスクールなヒップホップがバリバリあったりして。自分たちの愛してきた文化とか、ボーイズバンドのルーツも含めて、そういうものをレペゼンする内容だったんで、そういうローカルの出し方というのは面白いと思いました。
ローカルなものを解釈するときに、どこまでをローカルと括るかっていう問題に対峙している、というか。「1980年代に入ってきたヒップホップも、俺らの文化だよね」というようなスタンスに思えて、面白いアルバムだなと。個人的には以前のインタビューで250(イオゴン)が「次作のタイトルは『America』にしようと思っている」と言っていたことを思い出しました。(タイトルは対照的ながら)『ARIRANG』はそのアイデアと近いような気がするんですよね。自分たちのルーツを掘り下げて、その先で出会うのが欧米の文化だという。

hiwatt:前後半に分かれているアルバムかと思うんですけど、前半はラップがメインで、プロデューサーも音楽オタクならちょっと嬉しくなるような人選でね。
風間:たしかに。ディプロ(Diplo)とかも参加していますよね。
hiwatt:そうなんです。エル・グインチョ(El Guincho)が参加した曲(“Hooligan”)が特に好きですね。ちょっとデコンストラクテッドクラブ(※)的で、金属的なパーカッションが印象的でした。
※デコンストラクテッドクラブ(Deconstructed Club):2010年代以降のクラブミュージックのサブジャンルで、その名の通り定型的なクラブミュージックを解体したような、ノイジーさ / 実験性を含むような音楽。通称デコクラ。
hiwatt:“FYA”はJPEGMAFIAとFlumeがプロデュースしているんですけど、彼ら二人は去年コラボEPを出していて、それのアウトテイクを提供したんじゃないかな?(笑)っていうぐらい、彼らの音になっていて、それだけでもファンとしてはぶち上がりました。よくパフォーマンスされている“2.0”という曲も、いかにも(プロデューサーの)Mike WiLL Made-Itやな、というビートで楽しいですよね。
hiwatt:最後の“Into the Sun”もすごく好きです。プリズマイザーのかかった声で。プリズマイザーというのはコーラスが自動でできるようなプラグインで、Francis and the Lightsが開発して、2016年頃にCashmere CatとかBon Iverがよく使ってたんですけど、あの頃を思い出します。「2016 is back」というキーワードも今年は重要だと思うんですけど、その機運も感じるような曲で、好きでしたね。
井草:そうですね。北米でブレイクした“BUTTER”は、有色人種であるということをテーマにしつつも、楽曲自体は当時のポップのど真ん中という印象があったのが、今回のアルバムは例えばパンソリ(※)みたいなものを使ったり、ローカルなものを音楽に取り入れていく、ルーツを隠さずに取り入れていくというところに、自信を感じるなと思いました。でも決して内に閉じこもっている作品でもなくて、バランスが取れている印象があります。
※パンソリ:韓国の伝統的な音楽 / 芸能。歌手と打楽器奏者の二人編成で、身振りや語りを交えて物語を演じる。
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「日本らしさ」「アジアらしさ」とは何か?
—いまみなさんにお話いただいたように、タイトルのアリランは韓国の民謡の名前ですし、今作は自分たちのルーツについて意識したアルバムかと思います。いま、バッド・バニーやロザリアなど、世界中でそうした、ナショナルアイデンティティと向き合う、あるいはそれを対外的に発信する音楽が盛り上がっているように感じますが、その点についてはいかがですか?

井草:欧米の白人主体のポップ産業から、そうではない世界がもっと広がっているというところを、主張しやすい環境にはなってきましたよね。あと、これはただの思い付きですが、TikTokで短い時間の尺で聴かせるときに、聴きなじみのあるものより「なんだろう、これ?」と思わせるようなメロディや要素が、キャッチーに聴こえるというのもあるのかなと思いました。速くバイラルしていくからこそ、あらためて自分たちのルーツ的なものが、別の地域のリスナーからは耳を惹くものとして面白く聴いてもらえるという発見が、もしかしたら起こっているのかもしれません。
風間:アイデンティティ、日本語に直したら自己同一性ですけど、アジアのアーティストにとって、どこからどこまでを自分と括っていくのかというのは、いろんな見出し方があると思っていて。日本で言えば、じゃあ演歌なのか? シティポップは? シティポップは相当「洋楽」からの影響を受けているけど、「洋楽」を「洋楽」と括ってジャンルとして見る文化というのも日本っぽいんじゃないか、とか。
風間:そういう意味で、例えば先日の『コーチェラ』だと、藤井風が演奏した(「和」的な側面を押し出した曲である)“It’s Alright”〜“まつり”はわかりやすく「日本的」だと言えるかもしれないけど、一方でCreepy Nutsが節操なくいろんなビートを使いながら、アニメの主題歌をばんばんドロップする光景の方を「日本っぽい」と捉えた人もいるだろうし、なんならそっちの方が多いかもしれない。そういう、いろんな(日本らしさ / アジアらしさの)出し方があっていいんだよな、という中のひとつが、BTS『ARIRAN』だったかなと思います。日本の多くのミュージシャンは、いまルーツのアウトプットの仕方を模索しているんじゃないかと思うんですが、今回のBTSのアルバムはヒントになると思いますね。
hiwatt:米津玄師なんかも、ボカロプロデューサー然としたような、がっつり和風なメロディを使ったりしていますよね。ボカロの文脈で「日本的」というのを打ち出しているアーティストも多いかなと思います。
風間:そうなんですよね。Adoも「歌い手」っていう文脈がある。そこが海外でどれくらい共有されているのかわからないですけど。
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Ye『BULLY』に感じた「真面目さ」
—3月末には、Yeことカニエ・ウエストのニューアルバム『BULLY』も発売され、カリフォルニア・SoFiスタジアムでのライブも配信中継されました。こちらはみなさん、どう聴かれましたか?
風間:やっぱりすごかったですね。こんなことをYeに対して言う日が来ると思わなかったですけど、「真面目だな」と思いました。自分の出したい音にひたすらぐんぐん迫っていく、良いアルバムを作るんだ、良いライブをするんだ、という意志をむちゃくちゃ感じましたね。
hiwatt:BULLYというのはいじめっ子のことなんですけど、去年はカニエ自身がいじめっ子マインド、暴力性が表出した状態で、いろいろやっちゃったわけですけど、今度は逆にカニエが世界中からいじめられているような状態でこの『BULLY』が出たわけで、そういう構造 / ストーリーラインも、皮肉で面白いコンセプトになっていると思います。

hiwatt:カニエはこれまで音楽にイノベーションを与えてきたアーティストなんで、どうしてもイノベーションを期待してしまうんですけど、今回はわりと過去の自分の文脈を何個か引っ張り出して展開しているような感じではあるものの、単純に良い曲が多いですね。サンプルの使い方もあんまりチョップとかをしていない印象で、良いDJを聴いているような感覚にもなりました。
風間:ゴシップの側面がまず浮かぶリスナーが多いとは思うんですけど——僕もその節は無いことはないんですけど——なんだろう、不思議なんですよ。『BULLY』を聴いていると、本当に反省しているような気がするんです。
hiwatt:ね。優しい気持ちは感じちゃうんですよね、どうしても。
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入国禁止とフェス中止に思うこと
—いろいろと問題があった中で、過去の暴言を謝罪し、また、双極性障害を患っていることも公表しました。また、イギリス政府がカニエの入国を拒否したことで、カニエがヘッドライナーに予定されていた『Wireless Festival』が開催中止になった件もありましたが、みなさんはどう見られましたか?
風間:入国拒否については、そもそも一般論として、国家としてどうなの? それは検閲じゃないのか? と。カニエがどうという以前にそっちの問題の方が大きいとは思います。
井草:最近の動向までしっかり追えているわけではなかったので、そうなのか……っていう感じでした。象徴的な存在になりすぎてしまっている、みたいなところは、やっぱりあるのかなと思いましたね。
hiwatt:『ワイヤレス〜』の中止でSNS上で一番怒ってた音楽ライターは僕なんじゃないかと思うんですけど……第一に表現の自由の面でどうなんだというのがあります。左派政党の議員からも「カニエのことは肯定しないけれど、表現の自由があるだろうし、客も聴く自由があるだろう」という声がありましたけれど、その通りだと思いますね。3日間のフェスがなくなるというのは、相当な労働が奪われてしまうという面もありますし。
あと、UKラップを推しているプロパー目線では、同日に出るはずだったアーティストにとって、世界で一番脚光が当たるイベントになるはずだったわけで。去年はドレイクがヘッドライナーで、その日に出ていたYTというラッパーがすごくブレイクしたり、彼らの活躍にとって重要な機会なんですよ。そこがすごい残念ですよね。ずっとカニエの振り付けをしてきたBlackhaineというダンサー / ラッパーがいて、彼もきっと出るはずだっただろうし、EsDeeKidももちろん出るはずだっただろうし。自国のアーティストの労働と活躍の機会を奪うというのは、政府の姿勢としてどうなんだと思いましたよね。
—日本や他の国でも、そういうことが起きるかもしれないですし、皆が求めている音楽を聴ける状況であり続けてほしいなと思いますね。
井草:そうですね。カニエがイギリスに入国拒否されたのは、反ユダヤ主義の件が発端にあって、そこにはヨーロッパ特有の歴史的な問題があると思うんですけど、日本も今後情勢が変わることで、立たされる立場によっては、変わってくることがあるかもしれない。難しいですね。
風間:カニエはこのまま問題発言をしなかったら、またいろいろと活動を再開できると思うんですけど、今後のことは誰にもわからないし、たぶん本人もわからないと思うので、そこは本当に祈るばかりです。あと、宗教的な面を含めると、ローカリティを是とするのも場合によっては難しいですよね。暴力的なナショナリズムに帰結することもあって。イスラエル / パレスチナの問題では、カニエが反ユダヤ主義的な発言でキャンセルされたときと今とでは、事情が違う部分もあります。
hiwatt:僕もカニエのナチ的なムーブはもちろん全く肯定できない。それは明確に言っておきたいです。ただ、人がミステイクを犯して、その後反省しているときに、チャンスはあるべきだと思うんですよね。許すことは必要だと思っていて、そこを個人が考え直さないといけないタイミングかなと思います。
Ye『BULLY』

2026年03月27日リリース
レーベル:Vydia/Gamma
BTS The 5th Album 『ARIRANG』
◼️形態・販売価格
■『’ARIRANG’』
販売形態数:計2形態[Rooted in Korea Ver.]、[Rooted in Music Ver.]
価格:3,410円(税込) /3,100円(税抜)
■『’ARIRANG'(Living Legend Ver.)』
販売形態数:1形態
価格:4,180円(税込) /3,800円(税抜)
■『’ARIRANG'(Standard Vinyl)』
販売形態数:計8形態[Group Red Vinyl]、[RM Silver Vinyl]、[Jin Pink Vinyl]、[SUGA Clear Vinyl]、[j-hope Cream Vinyl]、[Jimin Burgundy Vinyl]、[V Velvet Red Vinyl]、[Jung Kook Orchid Vinyl]
価格:5,225円(税込) /4,750円(税抜)
■『’ARIRANG'(Modern Korea Vinyl)』
販売形態数:1形態
価格:7,480円(税込) /6,800円(税抜)
■『’ARIRANG'(Deluxe Vinyl)』
販売形態数:計2形態[B&W Ver.]、[Color Ver.]
価格:8,800円(税込) /8,000円(税抜)