兵役による活動休止を経て、BTSが約6年ぶりに発表したニューアルバム『ARIRANG』。韓国の民謡“アリラン”をタイトルに掲げながら、なぜタイトル曲は全編英語なのか?
ヒップホップへの回帰や韓国的情緒を感じさせつつも、グローバルな視点を手放さない彼らの選択からは、「文化的ディアスポラ」というキーワードが浮かび上がる。世界市場とルーツの間で揺れ動く、今の彼らのリアルな姿。悩みながらも「自分たちであり続けること」を選んだ、全14曲からなる等身大の現在地を紐解く。
INDEX
多様なジャンルを横断し「今のBTS」を描く14曲
2026年3月20日(金)にリリースされたBTSのニューアルバム『ARIRANG』は、兵役による活動休止を経て約6年ぶりに発表されたスタジオアルバムであり、韓国の民謡“아리랑(アリラン)”をタイトルに掲げ、音楽的にもコンセプト的にも「原点回帰と再定義」を掲げた作品であることが明確だった。
ヒップホップ、ポップ、ロック、ハウス、エレクトロニカなど多様なジャンルを横断しながら、韓国的情緒とグローバルポップの融合を感じる14曲は、ヒップホップ回帰とルーツへの眼差しをキーワードに、各曲が異なる角度から「今のBTS」を描き出すことを目指したアルバムのようだ。
アルバムの幕開けを飾る“Body to Body”は、伝統民謡“아리랑(アリラン)”のサンプリングを用いた壮大なイントロが印象的だ。ミニマルなビートと重層的なコーラスが交錯し、ラップとボーカルが自然に溶け合う構成は「ヒップホップと叙情性の融合」を象徴している。前半は電子的なビートリズムが印象的だが、サンプルが入る場面では一転してアコースティック寄りのドラムと女性コーラスが前に出てガラリと変わるアレンジが面白い。米国グラミー賞を何度も受賞しているスタープロデューサーのDiploやライアン・テダーらが楽曲制作に参加している。
“Hooligan”は、ストリングスとパーカッションを強調したダークな808ベースのサウンドが特徴で、緊張感のあるアレンジが際立つ。剣がぶつかるようなサウンドデザインと高音ボーカルの対比が、攻撃性と美しさを同時に表現しており、パフォーマンス映えする楽曲に仕上がっている。余裕綽々で堂々と世界を歩き回るようなイメージの楽曲には、グラミー賞受賞プロデューサーのエル・グインチョらが作業に参加した。
“Aliens”はタイトル通り「異物感」を音で表現するように、シンセはデチューン気味で、コードもやや不安定さがある。どこか遠くから聴こえてくるようなサウンドデザインは、BTSがグローバルシーンで感じてきた距離感を表すのかもしれない。一方で「靴は脱いで」や「何でももっと速く」など、韓国の生活様式や特徴を扱った歌詞はどこかユーモラス。アトランタ出身のプロデューサー、Mike WiLL Made-Itがプロデュースに参加している。
Diplo、Flume、JPEGMAFIAなどが参加した“FYA”ではジャージークラブのビートを取り入れ、軽快でストリート色の強いポップラップを展開。短いフレーズの反復とグルーヴ重視の構成となっている。
“2.0”はタイトルが示すように、「BTS 2.0」を宣言するような自己更新のアンセムで、ラップとコーラスがコール&レスポンスのような構成になっている、変則的なリズムが印象的なトラップ系の楽曲。
アルバムの中でも異色なのが“No.29”だ。国宝第29号に指定された聖徳大王神鐘の鐘の音のフィールドレコーディングを使用した実験的トラックで、楽曲というより「音のインタールード」として機能する。このアイデアを提供したのはパン・シヒョク(パンPD)だという。