大沢たかおが演じる、王騎将軍の壮絶な死を描いた前作『キングダム 大将軍の帰還』から2年。映画『キングダム』シリーズは、第5弾『キングダム 魂の決戦』でついに王騎なきフェーズ2へ突入した。
同作は、中華の列強国が同盟を結んだ合従軍が、秦国を滅ぼすために怒涛の進軍を開始するという、国家存亡の危機を描くストーリー。信(山﨑賢人)、嬴政(吉沢亮)、河了貂(橋本環奈)らお馴染みのメンツに加え、新しいキャラクターが入り乱れる超絶スケールの集団戦が勃発する。
秦、趙、楚、魏、韓、燕……これだけの武将がスクリーンで大乱闘すれば、いま誰が誰と戦っているのか迷子になりかねない。だが、そこは佐藤信介監督も心得たもの。有名俳優を各陣営にズラリと配置することで、激しいアクションの中でもキャラクターを認識できる親切な設計になっている。
土埃舞うむさ苦しい戦場のなかで、一際凛とした存在感を放っているのは、同作が初登場となる蒙恬(志尊淳)と王賁(神尾楓珠)である。志尊淳の飄々とした軽やかさと、神尾楓珠の鋭利でストイックな空気感。この対照的な2人が並び立つだけで、最高のライバル関係がスクリーンからとても伝わってくる。


特に蒙恬のアクションは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズで宙を舞うように戦った、エルフの戦士・レゴラスを思わせる俊敏さで敵を翻弄する姿がたまらなく美しい。対する王賁は、楚国の千人将・項翼(結木滉星)との勝負で、豪快に刃を交えながら一歩も引かない強さを見せつけ、その実力を強烈に印象づける。
『先輩と彼女』や『恋は光』など、普段はキラキラした青春ドラマの中心にいる若手俳優たちを、あえて血泥まみれの最前線に放り込むキャスティングの妙。彼らの眩しいほどの若さとルックスが際立つほど、未来ある才能が無慈悲な戦争に消費されていく不条理さが浮き彫りになる。
こうした若き才能たちの躍動を、秦国のベテラン武将たちが重厚感たっぷりに受け止める。白老の愛称でその名を知られる大将軍の蒙驁(坂東彌十郎)、50年以上にわたり戦場に立つ最古参の張唐(橋本さとし)、かつての六代将軍と並ぶ実力を持ち、豪胆無比な戦いを見せる麃公(豊川悦司)。王騎将軍を副官として支え続けた騰(要潤)、圧倒的パワーで敵を撃破する蒙武(平山祐介)、元野盗という異色の経歴を持つ桓騎(坂口憲二)、終始素顔を隠したまま一言も喋らない王翦(谷田歩)。若手には絶対に出せない強烈なアクの強さと歴史の重みが、スクリーンを引き締めた。

迎え撃つ合従軍のメンツも、とにかく濃い。最強の知将である李牧(小栗旬)が涼しい顔で裏で糸を引き、冷静沈着な楚国宰相の春申君(斎藤工)が総大将として君臨する。そして何といっても、楚国将軍の臨武君(一ノ瀬ワタル)の激烈なインパクト。側頭部を剃り上げ、頭頂部だけを角のように残した奇抜すぎるヘアスタイルで、巨大な棍棒を振り回す。一歩間違えればギャグになりそうな造形だが、規格外の肉体を持つ一ノ瀬ワタルが演じることで、圧倒的な威圧感と説得力を生み出している。

そして同作の影の主人公といえるのが、趙国将軍の万極(山田裕貴)。かつて秦国に大虐殺された恨みを抱える万極軍の描写は、まるでホラー映画のようなおぞましさを感じる。何度斬られても立ち上がる兵士たちや、ボサボサの白髪とトゲトゲの銀甲冑をまとった山田裕貴の瞳には狂気が宿り、人間離れした動きが画面いっぱいに死の匂いを充満させた。
嬴政が掲げる、中華統一という輝かしい夢。しかし、その光が強ければ強いほど、踏み台にされた敗者たちの怨念という黒い影がつきまとう。万極は、大義名分によって生み出された被害者たちの象徴。地の底から湧き出すような山田裕貴の独特の発声は、まるで死者の呪詛となり、狂気とともに戦場を蹂躙する姿は、戦争の残酷な本質を突きつける暗黒の鏡として機能している。

ほかにも、ミステリアスな色気をふりまく女将軍の媧燐(三吉彩花)、中華十弓の白麗(三山凌輝)、圧巻の巨体で戦場を蹂躙する汗明(勝矢)、そこに魏国の知略派・呉鳳明(田中圭)や、毒使いの成恢(渋谷謙人)らが加わり、クセが強すぎる個性が次々と画面を支配していく。
ここで見逃せないのが、この映画が歴史劇のような伝統的な表現を避け、漫画的なメイクや芝居、記号的な演出にフルスイングしている点。原作由来の誇張しすぎた衣装、誇張しすぎた白塗りメイク、誇張しすぎた髪型を、そっくりそのまま再現する。役者たちも自然体な演技の枠に収まらず、大げさに見得を切るような芝居へと全身全霊で挑みかかっているのだろう。
これらはすべて、大沢たかおが遺した王騎ismの賜物。彼が演じた王騎将軍は、徹底した肉体改造と独特のセリフ回しによって、二次元キャラクターを実写化する際のひとつの到達点を示した。王騎なきフェーズ2に突入した同作においても、彼が作り上げた途方もなく高いハードルは、新キャスト陣へとしっかり継承されているように感じる。
映画『キングダム』シリーズは、キャラクターの個性に全振りすることによって生まれた、極上アクション大作。同作でも、荒唐無稽とも思えるキャラクターとストーリーを、緻密なカメラワーク、リズミカルなカッティングで繋ぐことで、極上の2.5次元的エンターテインメントへと昇華させた。
映画『キングダム 魂の決戦』

2026年7月17日(金)公開
監督: 佐藤信介
脚本: 黒岩勉・原泰久
音楽: やまだ豊
主題歌: 米津玄師「夜鷹」(Sony Music Labels Inc.)
出演: 山﨑賢人
吉沢亮 橋本環奈 清野菜名 満島真之介 岡山天音
志尊淳 神尾楓珠 結木滉星 三吉彩花 三山凌輝 山下美月 / 蒔田彩珠
山田裕貴/坂口憲二
豊川悦司
髙嶋政宏 要潤 加藤雅也 高橋光臣 平山祐介 一ノ瀬ワタル 佐久間由衣 勝矢
坂東彌十郎 橋本さとし 笹野高史 谷田歩 中村蒼 田中圭 斎藤工
玉木宏/佐藤浩市
小栗旬
原作: 原泰久「キングダム」(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
ⓒ原泰久/集英社 ⓒ2026映画「キングダム」製作委員会
<STORY>
守り抜く― / 滅ぼす―。
馬陽の戦いで王騎を失った秦。舞台はあれから3年。
思いを受け継ぎ、更なる成長を続ける主人公・信(山﨑賢人)は千人将に昇格。
天下の大将軍に向かって遥かな道を着実に歩んでいた。
そんな中、秦国に急報が相次ぐ。
趙の宰相・李牧(小栗旬)の策略で、秦以外の全ての国が手を組み、
総数50万からなる“合従軍”が次々と秦へ侵攻。
咸陽の王宮では若き王・嬴政(吉沢亮)を中心に事態の対応に奔走するが、
“秦(20万)vs六国(50万)”というかつてない軍勢を前に、国家滅亡の絶体絶命。
中華からその名が消えようとしていた。
信は同じ若き将である蒙恬(志尊淳)や王賁(神尾楓珠)と共に、秦の国門・函谷関へ。
更には麃公(豊川悦司)、蒙武(平山祐介)、騰(要潤)、王翦(谷田歩)、桓騎(坂口憲二)ら、
秦を代表する将軍が集結、
合従軍には、楚の春申君(斎藤工)を総大将に、かつて祖国を秦に蹂躙された怨念を背負う
趙の猛将・万極(山田裕貴)を始めとする各国最強の将軍が集い、準備は整う。
“中華統一”という夢のために、敗北の許されない最大の危機。運命の“函谷関防衛戦”が始まる―。。