『バナナの花は食べられる』(2021年初演)で、演劇界の『芥川賞』にあたる『岸田國士戯曲賞』を受賞した劇作家の山本卓卓は、現代演劇シーンを背負って立つ紛うかたなき俊英だ。彼が主宰する範宙遊泳は、炎上、メディアリンチ、ジェンダー格差といったアクチュアルなテーマを繊細な手つきで扱ってきた劇団。そんな範宙遊泳の最新公演が、2021年に初演が行われた『心の声など聞こえるか』の再演である。今作の目玉のひとつはなんといっても、曽我部恵一が音楽を手掛けていることだろう。
曽我部が2018年に配信とLPでリリースしたアルバム『There is no place like Tokyo today!』の曲が幾つか使われる他、今作のために書き下ろした“ステキな夜”も流れる。同曲は、曽我部が戯曲と稽古を見て、作品全体への応答として作曲したという。隣人とのトラブルや夫婦間のささいな諍いを描いた今作を端緒に、山本、曽我部、両氏の創作に関わるスタンスをたっぷり語ってもらった。かくして、二人の現在地はもちろん、アーティストとしての行く末や末期までをも見据えた、射程の長い対話が為されることとなった。
INDEX
東京を語っているようで別の世界を描く、という共通点
―(山本)卓卓さんは曽我部さんの音楽をいつ頃から聴かれていましたか?
山本:(劇団の)ロロの公演でサニーデイ・サービスの曲が使われていて、それがきっかけでよく聴くようになりました。そうしたら、曽我部さんが『バナナの花は食べられる』を普通にチケットを買って観にきてくださったそうで。
曽我部:演劇をしょっちゅう観に行くわけでもない自分が、これは観ておかないといけないんじゃないかって思ったんです。映画でも音楽でも、たまにそういう勘が働くことがあって。それで実際に観たら、衝撃的なほど面白かった。一回じゃ足りないというか、機会があればもう一度か二度見てみたいほど。
山本:ありがとうございます。そういうご縁もあって、更に曽我部さんの曲を聴き込んでいったら、めちゃくちゃ多作だということに気付いて。「このエネルギーは一体どこから来るんだろう?」と興味が湧いたんです。そんな時に、たまたま曽我部さんの『いい匂いのする方へ』というエッセイを、ご本人の声で朗読されたAudibleで聴いて。「あ、この人には絶対に会いたい」という気持ちになり、『心の声など聞こえるか』再演にあたって曽我部さんの曲を使わせてもらうオファーをしました。
―それに加えて、卓卓さんは曽我部さんが配信とLPでリリースしたアルバム『There is no place like Tokyo today!』の曲が今作の世界観と親和性が高いと思われたそうですね。具体的にはどの辺が?
山本:『心の声など聞こえるか』って、東京を語っているように思えるんだけれど、僕の中でお芝居の舞台は架空の郊外なんです。で、『There is~』も、東京のことを語っているようで、世界とか宇宙レベルのスケールのことを語っている印象を受けたんですね。そこが共通点だから、マッチするんじゃないかって思って。