バンドは不思議だ。複数の人間がひとつの音楽を奏で、そして、年月も重ねていく。不思議である。バンドを見ていると、時折、そのバンド自体が、「ひとつの命」を持った生き物のように見えることもある。個人の意志を超えた、もっと大きな「バンドの意志」のようなものに突き動かされているのではないか? そんな風に見える人たちもいる。
この記事の主人公であるChilli Beans.は、YUIやVaundyなどを輩出したことで知られる音楽塾ヴォイスのシンガーソングライターコースにいた3人が、講師の勧めで結成したというバンドの始まりからして、ちょっと特殊な形を持っている。写真をパッと見てもらえばわかると思うが、3人それぞれが違った個性を持っているし、楽曲制作も、全員がシンガーソングライター志望だったがゆえだろう、誰が楽曲の中心を担うかは曲によって変わっていく。ただ、作詞作曲のクレジットは常にChilli Beans.名義。一体、彼女たちはどんな関係性の中でChilli Beans.というバンドとして生きているのか? そんな疑問を胸に、今回の取材に臨んだ。
彼女たちの新曲“breath”は、小池栄子主演のNHK土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』の主題歌として書き下ろされた1曲。ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の挿入歌だった“that’s all i can do”などで見せたチャーミングで軽快な一面とは異なり、ダークで、そして力強さを感じさせる1曲だ。バンドの飄々とした佇まいの奥にある、流されることも、屈することもない確かな意思が、この曲には表れているように感じられる。インタビューは、この魅力的な新曲の話から始まる。
INDEX
「“キュートさはいらない”と言われたとき、嬉しかったです。“きたきたきた!”って感じ(笑)」(Moni)
―新曲“breath”はドラマ『ムショラン三ツ星』の主題歌ですが、もしChilli Beans.に「明るくてポップなバンド」というイメージを抱いている人がいたら、この曲を聴くと驚くと思います。そのくらい“breath”のサウンドはスケールが大きく、内省的で、しかし、その内省の中に力強さを感じさせる1曲ですね。まず、この曲の成り立ちから教えてください。
Moni:ドラマの台本を読んだとき、ちょっと暗めで、重めのイメージが湧いたんです。静寂、もがいている感じ、苦しみ、罪……それでも、光が射してくる。あとは、強さや、進める力。そういうものも表せたらいいなと思いました。ドラマのチームの人たちからは「キュートさは一切いりません」と言われていたんです。そのオファーもクールだなと思って。なので、本当にシビアなものを表現しようと思いました。シビアなものを表現するなら、音がたくさんあるものより、言葉の強さや、一つひとつの音がちゃんと聴こえてくるアレンジがいいんじゃないかと思って作った曲が“breath”です。
―「キュートさは一切いらない」というのはきっと、Chilli Beans.のパブリックイメージを求めたというより、Chilli Beans.のこれまでの作品を知ったうえで、バンドの表現を真っ直ぐに求めたオファーですよね。
Moni:「キュートさはいらない」と言われたとき、嬉しかったです。「きたきたきた!」って感じ(笑)。
Maika:今回の曲は、「本当のMoni」って感じがします。タイアップって、私たちの場合キャッチーさを求められることが多いんです。爽やかで、可愛くて、みたいな。私たちにはもちろんそういう一面はありますけど、でも、それだけではないので。人間ってそういうものですよね。いろんな面がある。だから今回は、より「マジな一面」というか、ドラマチームが私たちのより深いところを見てくれたことが嬉しかったです。

Chilli Beans.(チリビーンズ)
Moni、Maika、Lilyにより2019年に結成された3ピースバンド。作詞作曲からクリエイティブまでセルフプロデュースを行う。2024年に初の日本武道館単独公演を完全ソールドアウトさせ、2025年にはFenderからのシグネイチャーモデル発売など音楽外でも活躍。近年はモード学園CM、アニメ『地獄先生ぬ~べ~』EDなどのタイアップを次々と務め、2026年5月27日にNHK土曜ドラマ『ムショラン三ツ星』の主題歌“breath”をリリース。同年8月からは国内外23都市を巡る過去最大規模のツアーを開催。
―Moniさんは、ドラマの世界観に寄り添うだけでなく、個人的な部分で「こういう曲を作りたかった」という部分はあると思いますか?
Moni:あると思います。現実……というか、人間。生身の人間を表現したいっていう気持ちはあったと思う。生身の人間だけど、ちょっと神聖な感じ。ファンタジーではないけど、神聖な感じもする、海底のような、そんな空気感。そんな表現がChilli Beans.に新たに生まれた感じがします。
Maika:今までの自分たちにはない楽曲になったね。
Lily:バンドを始めてから時間も経った分、知っている音楽も増えたし、興味があることを追求する時間も増えたから。そういうものを曲に反映できる瞬間が、一番楽しいんですよね。今回もそれができた感じがします。自分を超えられた気がして、制作も楽しかった。
―Lilyさんは、“breath”には今のご自分のどんな興味関心が反映されていると感じていますか?
Lily:最近、ギターのインストアルバムをよく聴いていて。マテウス・アサトという人のアルバムとか、凄く好きなんです。どんな曲でも「この人が弾いているな」とわかる。そのくらい、ギターでちゃんと存在感を出せる表現に興味があって。そういう部分は、この曲に反映されていると思います。