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ゆうめいの池田亮インタビュー 『岸田國士戯曲賞』受賞作家は美大時代、墓石を掘りたかった

2024.9.5

#STAGE

2024年に『ハートランド』で『岸田國士戯曲賞』を受賞した1992年生まれの池田亮は、劇作家 / 演出家 / 俳優 / 造形作家など多彩な顔を持つ演劇人である。そんな彼が脚本 / 演出 / 美術を手掛けるのが、9月14日から東京・シアタートラムで行われる舞台『球体の球体』。俳優がホログラムとして登場したり、ダンスのシーンがあったり、カプセルトイが作品の鍵を握っていたりと、みどころ満載の作品に仕上がっている模様だ。そんな池田に以前から聞いてみたかったのが、大学院まで彫刻を学んだ彼が、なぜ演劇に道に足を踏み入れることになったのか? ということ。そして、ヌトミックの額田大志やコンプソンズの金子鈴幸を始めとして1990~92年生まれの演劇人が台頭している中、彼らとは何らかの感覚を共有しているのだろうか? ということだった。その2つの質問、そして来るべき新作の概要を池田に訊いてきた。

演劇を続けたきっかけはハイバイ岩井秀人の舞台美術「ハイバイドア」

ー池田さんは東京藝術大学の大学院で彫刻を学ばれていますよね。それがなぜ演劇に道に進んだのかが以前から気になっていたんです。

池田:実は墓石に文字を彫る職人になりたくて、多摩美術大学の彫刻学科に進学しました。でも高校の時は、陸上ばっかりやっていたんですよ。関東大会ぐらいまで行ける、かなり成績のいい選手だったんです。それで、大学で駅伝をやらないか? と推薦ももらっていたんですけど、彫刻も好きだったから結構迷って。走っていて苦しくなってきたときに墓石の横を通り過ぎると「ああ、なんかいいなあ」と思ったりしていたんですよ(笑)。だから、「美大で墓石を彫るってなんかいいなあ」と「美大から箱根駅伝に出た方がかっこいいんじゃないかなあ」ということを同時に思っていました。結局、多摩美術大学の彫刻科に進学して、駅伝部を作ろうと思ったんですけれど、誰一人として参加してくれなくて。

池田亮(いけだ りょう)
1992年生まれ。脚本家 / 演出家 / 俳優 / 造形作家。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。2015年「ゆうめい」を結成。最近の作品に、『ハートランド』作 / 演出(第68回岸田國士戯曲賞)、『養生』作 / 演出 / 美術(『第32回読売演劇大賞演出家賞』上半期ベスト5に選出)、『テラヤマキャバレー』脚本など。また、造形作品として、『クリスタルハンドルの水栓リング』を発起 / カプセルトイ原型を製作。

ーそれで墓石を掘るほうに専念して?

池田:そうなんです。でも、石が高いので、石材屋さんで石材を切り取ったり運んだりするアルバイトをしていたんですけれど、それで腰を痛めてしまって……。しかも美大ってめちゃくちゃ学費が高いし、2万8000円の安アパートの家賃すら払えなくなりそうになって。それこそ『養生』(今年2月に上演されたゆうめいの公演)で描いた日雇いバイトだったり、週刊誌にルポルタージュなどを書くライターの仕事も18から19ぐらいの時にしていました。絵が得意だったから、裁判画を描くのを手伝うバイトもしていました。あと、その頃演劇部に入っていたんですけれども、部の人から劇団の仕込みや撤収の手伝いをしたらお弁当をもらえるという話を聞いて、それに行ったりもしました。演劇部では美術担当だったんですけど、参加するうちに脚本を書いている人や役者がいなくなったりして、代わりにやってくれない? って言われて。

ーそこではじめて演劇をやり始めた?

池田:助っ人で役者として出ることになったのが大体20歳ぐらいの時です。でも彫刻は続けたいと思っていたので、やっぱりお金は稼ぎたいと思って、就職活動は高島屋と東急ハンズを受けて両方受かってたんですけれど、藝大の大学院も記念に受けてみたら受かったから、じゃあ院に行こうって。演劇は大学3年か4年ぐらいで満足していたんですけど、ハイバイという劇団を主宰している岩井(秀人)さんが発明した「ハイバイドア」っていう、ノブだけでできている宙に浮いたドアを見かけて興味を持ったんです。

ー美術面からハイバイに興味を持ったんですね?

池田:そうです。その時ちょうどハイバイの『おとこたち』っていう公演をやっていたんですけど、チケット代が払えないなって思っていたら、お手伝いをしたら無料だと聞いたんで、チケットもぎりとかのお手伝いをして。でも、本編を観たら『おとこたち』にハイバイドアが出てこなかったんですよ。で、「あれ?」と思って、岩井さんと話したんです。

他の人と一緒に成立させる、演劇の集団創作ならではの楽しさ

ーその頃の池田さんの様子については、岩井さんが『TV Bros.』の連載の中で、「モースト・グイグイ来ている男、池田亮のこと」というタイトルで書かれていますね。

池田:それに書いてある通り、「なんで来たの?」って岩井さんに言われたから、「いや、ハイバイドアっていうものを観に来たんですけれど、登場しなかった。どこにあるんですか?」って訊いたら、「今日は出てこなかったけど、彫刻を作っているなら、ハイバイドアを模型で作って売りたいんだけど協力してくれる?」って言われて、それで模型を作ったりしていて。そのうち、三重県で『ミエ・ユース 演劇ラボ』っていう25歳以下の人たちで擬似劇団を作る企画があって、講師が岩井さんだったから参加したのが2015年です。それがきっかけで、もう一回ちゃんと演劇をやってみようと思って。そんな時に、岩井さんから演出助手の仕事をやらないか? とも誘われまして。ゆうめいを立ち上げたのは2015年ですね。

ー数奇な道のりですねえ……。

池田:自分でもそう思います。でも、演劇は彫刻の延長みたいな気持ちもありますね。彫刻は1人で作っている時が多いですけれど、演劇は皆で彫刻を作っているような意識があるんです。

ーひとつの彫刻を複数の人で作る感覚ですか?

池田:そうですね。彫り方も違えばどういう形を切り出すかも違うんだけど、感覚としては似ています。彫刻を1人で作っていると、16時間ぐらいずっと集中してやる。すごい孤独を感じるし、孤独を感じるべきだと思うんです。ただ、それこそ駅伝じゃないですけれど、他の人と一緒に何かを成立させるものもやってみたいなって思うようになって。そんな時に、他の人の力で作品がどんどん変わってゆくという、演劇の集団創作ならではの楽しさに気づいたんです。

カプセルトイ作品の反響をきっかけに生まれた新作

ー新作『球体の球体』についてですが、カプセルトイのガチャガチャっていう言葉があって、そこから連想ゲーム的に親ガチャ、子ガチャみたいに話に膨らんでいったんでしょうか?

ストーリー
現代アーティストの本島幸司(新原泰佑)は、2024年に遺伝と自然淘汰をコンセプトとしたアート作品『Sphere of Sphere』を創作する。その作品が話題となり、独裁国家の「央楼」に招待されることで、本島には思いもよらぬ人生が待ち受けていた。そして35年の時を経た2059年、本島の告白から物語が始まる。

池田:そうですね。実は、自分のハンドメイド作品がカプセルトイ化された時に、それを欲しいっていう海外の人がたくさんいたんです。で、海外に初めてエアメールを使って送ったりしたんですけど、僕は海外って一度も行ったことがないんです。それが、ガチャガチャという作品きっかけで意外と簡単に繋がるんだな、って思ったところから、人と人との繋がりっていう、今回のストーリーが立ち上がっていきましたね。

X投稿:懐かしくも現役な混合水栓のクリスタルハンドルの指輪を作りました。実際にひねって回せます🚰

ー『球体の球体』っていうタイトルはどのようにして浮かんだんですか?

池田:ガチャガチャは「球体の中に世界がある」というイメージが最初にありました。ガチャガチャってミニマムだけどすごく奥行きがあって、この小さいプラスチックを開けて中にお宝が入っている仕様が、好きだなあと思って。ああいうものがショッピングモールに並んでいると、たくさん世界があるなあと思ったりして。それと、親と子、遺伝というテーマも絡めて『球体の球体』っていうタイトルにしましたね。

新原泰佑、小栗基裕、前原瑞樹、相島一之ら俳優の魅力

ー今回って当て書きですか?

池田:当て書きっぽくなりました。基本、出演者のことをよく知りたいっていう思いがあって、皆さんの出ている映像やライブを観たり、インタビューを受けている時の話、普段の日常会話も大量に見たり聞いたりしました。その上でこの人ってどういう人なんだろう?っていうのを考えながら脚本を書いていきましたね。

ー今回出演される俳優さんの、魅力や個性について教えてもらえますか?

池田:そうですね、まず、新原(泰佑)さんはすごく優しさを持った方という感じがするんです。でも、それでいて、何か秘めているものがある。それは言葉に出すまでにものすごく考えられていて、体の動きなどに出てくるところがあるのも面白いなと思っています。

新原泰佑(本島幸司役) / 現代アーティストを演じる

池田:小栗(基裕)さんは話していてかなり面白い人ですね。s**t kingz(男性4人組のパフォーマンスチーム)として海外公演もやられているし、ダンスも、映像でもライブでも吸引力があり、目が離せなくなるほど素敵で。でも、自分が今この空間で何をしているんだろうかっていう、すごく俯瞰した目線を持っているような気がしますね。ゲームをやっている時のように、キャラクターを動かしながらもメタな自分がそれを見ているというか。

小栗基裕(日野グレイニ役) / 大統領の影武者を演じる

池田:前原(瑞樹)君はだいぶ前に玉田企画という劇団にも、一緒に出たことがあります。その頃は、明るめだけれどしっかりしている役を多く見ていたんですけれど、今回はもうちょっとおかしな役っていうか、彼が先頭を切って面白いことを言うみたいな役がいいかなって思って。彼の笑顔にはすごい力があると思ったので。前原君自体も演じる上で色々気遣いをしてくれていて、場の空気を飛び越えて演じられる人なんじゃないかなって思いました。

前原瑞樹(岡上圭一役) / 本島のキュレーターを演じる

池田:相島(一之)さんは三谷幸喜さん主宰の東京サンシャインボーイズにも出ていらっしゃるベテランですね。でも、『ハートランド』の時もそうだったんですけれど、新しいことにチャレンジしてくれる。今回はゲームの『フォートナイト』の話が出てきますけど、相島さんのお子さんはあのゲームがめちゃくちゃ好きでやっていて、今回は自分よりお子さんのことを考えながら表現をしているかもしれません。だからなのか、ある種の父性的ものを相島さんに感じていますね。

相島一之(大統領役) / 独裁国家「央楼」の3代目大統領を演じる

ーあと、ダンスのシーンがあるそうですね。なぜ今回取り入れようと?

池田:まず今回、主演の新原さんがダンサーでもある、というのが大きいです。あと、家で自分の子供がよく動いたり踊ったりするんですけれど、その瞬間を何も考えずに見ているのが楽しいんですよね。本当にただそこにいて踊っているのを、ついつい見てしまう。ダンスってそういう力があるなあと思って。TikTokなんかを見ていてもそう思いますし。今まで、色々な戯曲も書いていて文字とか意味とかコミュニケーションの力を実感したんですけど、ただ動いているっていう、言語化されていないものをフィーチャーしてみたいなと思って。

『Uber Boyz』に反映された、同世代の演劇人に共通する感覚

ーところで、昨今、1992年生まれの池田さんと同世代の演劇人の活躍が目立ちます。2021年の『芸劇eyes番外編 vol.3「もしもし、こちら弱いい派 ─かそけき声を聴くために─」』では、ウンゲツィーファの『Uber Boyz』(※)に3人の演出家が参加しました。ヌトミックの額田大志さん(1992年生まれ)、コンプソンズの金子鈴幸さん(1992年生まれ)、ウンゲツィーファの本橋龍さん(1990年生まれ)。この3人は『岸田國士戯曲賞』の授賞式でも再度パフォーマンスをされました。同世代だからこそ分かりあえる感覚ってありますか?

※編注:2021年に劇作家・本橋龍を中心に活動する「実体のない集まり」であるウンゲツィーファの公演として上演。ゆうめいの池田亮、盛夏火の金内健樹、コンプソンズの金子鈴幸、スペースノットブランクの中澤陽に俳優の黒澤多生を加え、全員が作 / 演出 / 出演を担う形で創作された作品。音楽にはヌトミック / 東京塩麹の額田大志を迎えた。 

池田:ものすごくありますね。『岸田國士戯曲賞』の授賞式での『Uber Boyz』の出し物も、こういうことをやりたいって言ったらみんなアイデアがバーって、もうあり得ないぐらいたくさん出てくる。しかも、そのアイディアが「分かる! 分かる!」という感じなんですよ。

ー共通項はなんなんでしょうね?

池田:『少年ジャンプ』とか『コロコロコミック』とか、そういう男子が好きなものですかね。あとテレビかなあ。『岸田國士戯曲賞』候補になっていた金子君の『愛について語るときは静かにしてくれ』で最後に使われていた曲は『ビーストウォーズ』っていう3Dアニメの主題歌らしいんです。僕はそれを見たことがないんだけど、曲を聴いた時「あ、懐かしい、かろうじて覚えている」みたいな感じで。あと、1992年生まれはパソコン室が学校の中にできて、そこで色々なものを調べられるようになった世代だから、そういうところで繋がっているんじゃないかなと。それと、同世代だし互いにちょっと仲良くしておいたほうがいいだろうみたいな(笑)、勝手な仲間意識が生まれているのかなって。そういうことは『Uber Boyz』の中で話したりはしましたね。

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