TBSの「日曜劇場」で、定石たるビジネスエンタメに、大人が夢を見る競馬ドラマを掛け合わせた新たな挑戦をしているのが『ザ・ロイヤルファミリー』だ。
2019年に刊行され、第33回山本周五郎賞を受賞した早見和真による同名小説を原作に、映画『桐島、部活やめるってよ』など、幅広い作品で活躍する喜安浩平が脚本を務め、『ラストマイル』(2024年)、『グランメゾン・パリ』(2024年)、『ファーストキス 1ST KISS』(2025年)など映画作品の監督も務め、高く評価されてきた塚原あゆ子らが演出を務めている。
北海道ロケやJRAの全面協力、実在の競走馬や騎手の出演も話題の本作について、ドラマ映画ライターの古澤椋子がレビューする。
※本記事にはドラマの内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。
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大人が夢を見るビジネスエンタメ×ヒューマンドラマ

ここ数年、大人が夢を見るドラマが目立つ。『宙わたる教室』(NHK総合)や『いつか、無重力の宙で』(NHK総合)など、宇宙を夢見る大人たちを題材にしたものから、『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)のように、学生時代の夢にもう一度向き合うものまで、その描き方はさまざまだ。
日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』(TBS系)も、そんな大人たちが夢を見る様を描いているが、本作で印象的なのが、そんな「夢」とは対極的なものに思える「ビジネス」という日曜劇場が得意としてきたモチーフを用いて、物語を成立させていることだ。
『ザ・ロイヤルファミリー』は、日曜劇場で頻繁に作られてきた「ビジネスエンタメ」としての外見をもちながら、その中には人々の繊細な心を掬い上げていく濃密なヒューマンドラマが詰まっている。
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日曜劇場の定石を受け継ぎながらも爽やかに覆す

本作で特徴的なのは、各話に、物語を進めていく上でのわかりやすい目的が設定されていることだ。例えば、第1話では、大手税理士法人に勤める税理士・栗須栄治(妻夫木聡)が、山王耕造(佐藤浩市)が一代で築き上げた株式会社ロイヤルヒューマン(以下「ロイヤル」)の人事部長の山王優太郎(小泉孝太郎)から赤字続きの競馬事業部における財務調査を依頼され、競走馬の世界の現実の一端を知る。競馬に関わる人々の熱い思いに心を動かされた栗須は、ロイヤル競馬事業部の専任秘書に転身するが、第2話で優太郎からロイヤルの競走馬たちに1勝させなければ競馬事業部を撤廃すると伝えられ、耕造と共に、勝たせられる調教師探しに東奔西走する様子が描かれる。

各話に明確な目的が設定されることで、視聴者は物語がどこに向かっていくのかを理解しやすく、その目的に対して困難な状況が訪れることで物語に引き込まれていき、その困難を乗り越えようとする登場人物たちを応援したくなる。これまでの日曜劇場が得意としてきたビジネスエンタメを踏襲した構成といえるだろう。
一方で、『ザ・ロイヤルファミリー』がこれまでの日曜劇場のビジネスエンタメよりも爽やかに見えるのは、わかりやすい敵が設定されていないからだろう。日曜劇場ではこれまでにも、社会の荒波に揉まれるビジネスマンが、夢や目標に突き進むドラマが制作されてきた。そして、そうした作品にはわかりやすい敵の存在が必要だった。主人公が夢を追う物語としての側面を持ちつつ、敵による妨害や味方だと思っていた人物の裏切りが、物語を盛り上げていった。次々に訪れる逆境に葛藤する人間のリアルな怒りや憎しみ、悔しさを見ることができるのが、日曜劇場のビジネスエンタメの強みだったとも言える。

『ザ・ロイヤルファミリー』は、そんな定石をあえて覆すことで、大人が無謀な夢を見る純粋で強い感情にフォーカスされた物語になっていると言えるだろう。もちろん原作自体がそうした作品だが、人の感情を丁寧に積み上げていく構成の工夫と、詰まった夢の重さを体現する俳優たちの名演がなければ、毎話の後半にかけての盛り上がりも叶わなかったはずだ。