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映画『MaXXXine マキシーン』を観る前に知っておきたいシリーズの軌跡

2025.6.10

#MOVIE

6月6日(金)より映画『MaXXXine マキシーン』が公開中だ。本作は、タイ・ウェスト脚本・監督によるホラーシリーズで、2022年の『X エックス』と『Pearl パール』に続く3部作の完結編となる。

『MaXXXine マキシーン』の物語は単体でも楽しめるようにはなっているが、それでも『X エックス』『Pearl パール』を事前に見ておくことを強くおすすめする。なぜなら、3部作を通じてアメリカの映画、特に「ポルノ映画史」「ホラー映画史」を振り返る構図があり、今回の『MaXXXine マキシーン』は、その「総括」とも言える位置付けだからだ。

何より、各作品でミア・ゴスが演じてきた主人公の姿を追ってこそ、本作の物語はより深く、感慨深いものとなる。ここでは『MaXXXine マキシーン』を最大限に楽しむために、まずは『X エックス』と『Pearl パール』の内容を振り返り、今回の魅力にも触れておこう。なお、いずれも刺激的なゴア表現および性描写があるため、R15+指定がされていることにはご注意いただきたい。

※本記事には『MaXXXine マキシーン』『X エックス』『Pearl パール』の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承下さい。

『X  エックス』ーー70年代風ホラー映画のオマージュとエイジズムの呪い

舞台は1979年のテキサス。女優志望のマキシーンを含む6人の若者たちがポルノ映画の自主制作のため、農場を訪れる。そこにはなにやら不気味な老婆がいた。やがて彼らは、また1人また1人と姿を消していく——。『X  エックス』はそんな、『悪魔のいけにえ』(1974年)をはじめとした1970年代風ホラー映画へのオマージュが随所に施された作品だ。殺人鬼との一進一退の攻防など、クラシックなホラーの快楽をシンプルに楽しめるだろう。

老婆は確かに殺人鬼ではあるが、「エイジズム」を体現する、哀れな人物に見える。ミア・ゴスが特殊メイクで老婆に扮し、主人公のマキシーンと「1人2役」になっていることも、その残酷な「対比」にも思える。歳を取ることを安易に揶揄しているというよりは、その「呪い」に老婆が囚われているようでもあり、その切実な心情の掘り下げはとても悲しい……と同時に、かなり露悪的な描写で見せていくので、同情すればいいのか、おぞましく思えばいいのかわからなくなり、困惑する。ここは賛否が分かれる描写ではあるだろう。

また、登場人物たちが撮影している「映画内映画」と現実の惨劇が交差する編集や演出も面白い。「この作品自体が映画だ」とあえて観客に示すような、メタフィクション的な構造を備えているともいえるだろう。

なお、タイトルの『X エックス』はアメリカ映画の1990年までのレーティング「X指定(日本の18禁相当)」の他、劇中でも言及がある通り不確定要素の「Xファクター」、性描写や暴力性を強く描写する低俗な作品群を指す「エクスプロイテーション映画」を意味していると思われる。完結編となる『MaXXXine マキシーン』の「XXX(トリプルX)」はポルノビデオの意味だろう。それを意識して、「キレ味抜群」のラストシーンを見届ければ、より味わい深いタイトルと思えるかもしれない。

『Pearl パール』ーー「ここではないどこか」に行けない苦しみを綴る悲しいドラマ

『Pearl パール』は、時代が60年前の1918年にまで遡り、いかにして『X エックス』の老婆は殺人鬼へと変貌したのか、その発端を描く物語だ。いわゆる「前日譚」であるため、こちらを最初に観ても楽しめる。むしろ、こちらを先に見れば、『X エックス』で老婆が「ブロンドが嫌い」と言った理由など、言葉の面白さや切なさを感じられるかもしれない。

キャッチコピー「映画史上、もっとも無垢なシリアルキラー誕生」が示すように、主人公の少女・パールはどこまでも純粋に映画スターを夢見ながら、家庭での母からの抑圧や、病気の父の介護に追われ、精神が歪み狂気が噴出していく。コロナ禍を連想させる、当時スペイン風邪が流行していた背景が、よりパールの「閉塞感」を強調している。ジャンルはもはやホラーという枠には囚われていない、「ここではないどこか」に行けない苦しみを綴った、悲しいドラマでもある。

映写技師の男がパールに見せるのが、彼女が真に望んではいないであろう「ハードコアポルノ映画」であることも切ない。また、劇中の「かかし」は1939年の映画『オズの魔法使』のオマージュであり、その主人公のドロシー役のジュディ・ガーランドが撮影当時にひどい搾取、虐待を受け、精神のバランスを崩していったことも、パールに重なって見える。

なにより、全編に渡ってミア・ゴスの熱演と表現力に圧倒される作品でもある。オーディションでの悲痛な声はとてつもなく胸が痛い。特に7分にもわたるパールの独白からは、そこまで彼女を追い詰めた環境とこれまでがいかに絶望的なものだったかを改めて思い知らされる。「脳裏に焼きつく」ほどの衝撃があるエンドロールまで、ぜひ見届けてほしい。

『MaXXXine マキシーン』ーー「邪魔する奴らをぶっ潰し駆け上る」痛快エンタメへ

完結編となるこの『MaXXXine マキシーン』では、舞台がこれまでのテキサスの田舎町から、1985年のハリウッドの「街」へと移る。『X エックス』での凄惨な殺人事件から生き延びたマキシーンは、ポルノ界で人気を極め、新作ホラー映画のオーディションに挑み、ハリウッドスターへの夢が現実に近づいている。しかし、LAを震撼させる連続殺人鬼や、謎の私立探偵、FBIまでもが、マキシーンの前に立ちはだかる。

マキシーン

公式サイトには、なんとも景気の良い触れ込みが記載されている。

A24発、最高にクールで最高にイカしたニューヒロインが誕生!美しくて大胆不適!誰よりも危険な『マキシーン』がハリウッドの頂点を目指し邪魔する奴らをぶっ潰し駆け上る!A24史上最高に痛快で、爽快なスターダム・スリラー・エンターテイメント

https://happinet-phantom.com/maxxxine/news/archives/16

まさにその通りで、『X エックス』での殺人鬼から逃げ惑っていた女優、『Pearl パール』での閉塞感に苦しむ少女から一転、今回の主人公は「アグレッシブ」だ。そのおかげで、本作はホラーというよりもブラックコメディーの領域に足を踏み入れている。殺人鬼を返り討ちにするどころじゃない、とんでもない行動の数々から「殺人鬼よりあなたのほうが怖いよ!」といい意味でツッコミたくなるし、探偵役のケヴィン・ベーコンが2015年の『COP CAR/コップ・カー』を連想させる「初めこそ自信たっぷりだが情けない姿を見せる」様も、どうしても笑ってしまう。

https://www.youtube.com/watch?v=JkzCDC172iU

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