グータッチでつなぐ友達の輪! ラジオ番組『GRAND MARQUEE』のコーナー「FIST BUMP」は、東京で生きる、東京を楽しむ人たちがリレー形式で登場します。
11月6日は、ゲームライター・タナカハルカさんからの紹介で、現代美術家の菅野歩美さんが登場。制作の軸である「オルタナティヴなフォークロア」とはどういうものかについてや、作品の作り方などを伺いました。
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「オルタナティヴなフォークロア」を映像インスタレーションで表現
Celeina(MC):菅野さんは現代美術家で、どんな土地にも存在する、その土地にまつわる物語や伝説、怪談といった「フォークロア」が、なぜ人々によって紡がれてきたのか、その背後にある歴史や個人の感情を想像することで生まれる「オルタナティヴなフォークロア」を映像インスタレーションで表現されています。
美大に進学された際は油絵を専攻されていて、その後こういったインスタレーションの形でも表現するようになっていったんですよね。まず、菅野さんが作られているのはどんな作品なのか、そして現在の作風に至った経緯や、「オルタナティヴなフォークロア」という言葉の意味を教えていただきたいです。
菅野:簡単に言ってしまえば、「オルタナティブな」というのは「あり得るかもしれないもう1つの」という意味で、「フォークロア」は「土地の物語」という意味になります。この言葉も造語なので、どんどん流動的に意味が変わっていて、現在においては「フォークロア」という言葉は、ネットミームとか、そういった人々の間で共有されている知識とか、広がっていったり伝承されていったりするもの全般を指す言葉でもあります。
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渋谷の歴史や土地柄から着想を得た『明日のハロウィン都市』
タカノ(MC):なるほど。ご説明ありがとうございます。ちなみに、『明日のハロウィン都市』という作品が色々な賞を取られているんですよね。
菅野:そうですね。 去年作った作品なんですが、渋谷のハロウィンをテーマにした作品なんです。あり得るかもしれないもう1つの渋谷の形をゲームの世界で構築して、それを映像にしました。
タカノ:今実際に見ています。
Celeina:こちらの作品は、2024年に第29回学生CGコンテストでNEW CHITOSE GENIUS賞、学生対象アワードのCAF賞2023で最優秀賞を受賞されています。

タカノ:「おそらく渋谷だったであろう」都市が映像内に映っていて、ゲームをプレイしているみたいな感覚になるんですけれども、水浸しになっているんですかね? ちょっとディストピア感のある悪夢の中をさまよっているゲームのようですね。
Celeina:フューチャー感も感じられますよね。
タカノ:これはどういうことなんでしょうか?
菅野:私自身が、渋谷という街に違和感を感じていて。というのも、渋谷は、ごちゃごちゃしたカルチャーがあるけれども、今もなお再開発でどんどんオーガナイズされていて、そういった意味で水と油みたいな街だなと思っているんです。そんな中で、渋谷で毎年盛り上がるハロウィンって、死者のお祭り、つまりゴーストのお祭りじゃないですか。
Celeina:歴史的にはそうですね。
菅野:でも今の渋谷というのは、そういったゴーストみたいな存在が住めない場所に変わっているなと思っています。渋谷の歴史を紐解いていくと、もともとは沼地だったのが、植物とかがどんどん排除されて、今のような住みやすい綺麗な街になっているんです。なので、ゲームの中ではもう1回古代っぽい雰囲気に戻して、街を水浸しにしてみたり、ゴーストみたいなものたちがウヨウヨ自由に歩き回る映像を作りました。植物ももうボーボーに生えちゃって、コントロールできないような世界になっています。
タカノさんが「ディストピアみたいだ」とおっしゃられたと思うんですけど、ディストピアっぽくもありつつ、ごちゃごちゃとしていて楽しげな雰囲気にもしています。丸山翔哉さんに音楽を作っていただいたんですが、「未来の渋谷ハロウィンで流れている音楽」をイメージして、明るい音楽をつけてもらいました。
Celeina:なるほど。つまり渋谷の歴史や、土地柄を知るところから作品を作る際の着想を得たのでしょうか。
菅野:そうですね。
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作品を作る前に、土地に関して行ったリサーチを地図に落とし込む
Celeina:今お話を聞いたところ、地理学などをたくさんお勉強されている印象を受けました。
菅野:作品を作る時に、最初に地図みたいな形のドローイングを描くんですよ。自分で調べたことだけではなくて、自分だけでは調べきれないことは、リサーチャーに渋谷の都市開発の歴史に関する本などを読んでもらって、知識を共有するんです。
タカノ:すごいですね。
菅野:感じ方はそれぞれ違ったりするので、色々な人に話を聞いて、それをまた地図に盛り込んだりして、その地図をもとにゲームの土地を構築していきました。 そしてゲームを構築した後に、またドローイングに戻って、という形で行ったり来たりしながら作っています。

タカノ:渋谷の捉え方が変わってきそうですね。歴史を踏まえて街を歩いてみるだけでも、今まで感じていた渋谷とまた違った側面が見えてくると思います。でも、さらにこの『明日のハロウィン都市』という作品に触れることで、また1個レイヤーが増えるような感覚がありますね。個人的に、ゲームエンジンで作られているこの3DCGの質感が、割と平成のテイストというか、3DCGゲームが出始めた頃の雰囲気が感じられるのも好きです。
菅野:ありがとうございます。
Celeina:この3DCGの質感については、何か影響を受けたものがあるんですか? 平成カルチャーを摂取してきたとか。
菅野:自分があんまり今のトゥルトゥルとした質感に興味がないんです。
タカノ:トゥルトゥルした質感という表現はわかりやすいですね。
菅野:もともと油絵科の出身なので、3DCGなどを専門的に勉強してきた人間ではないんです。なので、YouTubeを見てやり方を調べたり、友達に聞いたりとDIYな感じで作っていて、単純に技術的にできないみたいなところもあります。
タカノ:それがまたインディーズゲームのような独特の風味を感じさせますよね。
Celeina:この『明日のハロウィン都市』はどこかで見ることはできるんでしょうか?
菅野:現在期間限定で、ショートバージョンをInstagramに上げています。Instagramにアップしているのは映像なんですけど、実際に作品として展示する時は、空間を含めたインスタレーションとして楽しんでもらえます。ちょっと空間を歩き回って、さっきお話しした地図と見比べたりとか、お話みたいなものを傍に置いていたりするので、また展示は展示で違う体験になるかなと思います。
タカノ:今後展示の予定はあるんでしょうか?
菅野:今、東京藝術大学の油絵科の博士課程にいるんですが、12月に大学で、ごちゃごちゃした私の思考を論文にしたものに加えて、新しい作品を発表する機会があるので、そちらでも見られるかなと思います(現在は終了)。
タカノ:論文も読んでみたいですね。
Celeina:気になりますね。ぜひ、菅野さんのInstagramをチェックしていただければと思います。さて「FIST BUMP」、グータッチで繋ぐ友達の輪ということで、お友達を紹介してもらっています。どんな方を紹介してくれますか?
菅野:ジャグリングパフォーマーの結城敬介さんをご紹介します。
Celeina:ジャグリングというと、スーパーお手玉のような……?
タカノ:わかりやすいけど、ちょっと適切な表現かはわからないですね(笑)。物を投げてキャッチするパフォーマンスですよね。ラジオでどこまで表現できるのかも楽しみです。
Celeina:菅野さんとの繋がりも含めて伺いたいです。本日は現代美術家の菅野歩美さんをお迎えしました。ありがとうございました。

GRAND MARQUEE

J-WAVE (81.3FM) Mon-Thu 16:00 – 18:50
ナビゲーター:タカノシンヤ、Celeina Ann