「自分には何もない」。中学生の頃、そんな思いを抱えて楽器を手に取ったWATARUとISSEIは、洋楽という共通の趣味を通じて意気投合し、ロックバンドNapeへとたどり着いた。UKロックから受けた影響を、日本語の歌と独自のクリエイティビティーへと昇華しながら、二人での活動を続けている。
彼らにとってロックバンドとは、単なる演奏形態を超えたものであり、日常のノイズから逃れるための場所でもある。WATARUのサプライズな『フジロック』出演で予想外の注目を浴びながら、しかし浮き足立つことなく、着実にロックバンドとしての厚みを増している。
9月9日(水)に新曲“通常lost summer”をリリースし、9月12日(土)には初のワンマンライブ『THE GREATEST ESCAPE』を控える二人に、音楽との出会いからNape結成の経緯、等身大の言葉にこだわる理由、そして彼らが考える「ESCAPE」の意味まで、じっくりと話を聞いた。
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The Killersのステージに上がった、『フジロック』の思い出
─Napeといえば、WATARUさんが『FUJI ROCK FESTIVAL’24』で客席からThe Killersのステージに上がって、“For Reasons Unknown”でドラムを叩いた出来事は大きな話題になりました。あの経験はNapeで活動する上でひとつの契機になりましたか?
WATARU:契機という部分では特になにか大きなことはなかったです。The Killersのフジロックは、ファンとして楽しみにいったので、ただただ楽しかったなと。賛否もあったのを目にしたので、「やっちまったかも」と思った記憶はあります。
The Killersのショーだし、自分たちの活動とはあまり関係ないと思ってるんですよね。それが自分たちにどう影響するかはまた別の話なので。シンプルにいい思い出です。
ISSEI:ライブが終わったあとも、「いいライブだったな~」って、オーディエンスとしてライブを観にいったファンになってたよね。
WATARU:最高のライブでしたね。でも、俺が60歳になったときに、人生を振り返って「あれがピークだったな」とはなりたくないんですよ。自分たちには自分たちの音楽として積み上げていきたいもののイメージがあったので、契機というよりも一歩一歩やってきたという感じです。

Nape(ネイプ)
東京を拠点に活動する二人組ロックバンド。中学の同級生であるWATARU(Vo)とISSEI(Gt)によって結成。UKロックの手触りと清涼感のあるボーカルを掛け合わせ、孤独や弱さに焦点を当てた等身大の歌詞を、生身の演奏で前向きな感情へと昇華させる。2024年5月に1stシングル“Sentiments”をリリースして本格始動。2024年にはWATARUが『FUJI ROCK FESTIVAL ’24』でThe Killersのステージに飛び入りし、大きな話題を呼んだ。2026年9月12日(土)、初のワンマンライブ『THE GREATEST ESCAPE』を下北沢BASEMENTBARで開催する。
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「自分、何もないな」と思った中学時代。楽器とステージが人生を変えた
─お二人が最初に出会ったのはいつ頃ですか?
ISSEI:僕たちは中学からの同級生なので、中学に入ったときです。最初から一緒にバンドをやっていたわけではなくて、WATARUも僕もQueenやThe Beatlesが好きだったので、音楽の話をする友達ってくらいでした。
─周りに洋楽を聴いている同世代は少なかったんじゃないですか。
WATARU:わりとマイノリティーだったと思います。みんな「エミネムって誰?」みたいな感じだったので、「エミネムっていうすごい人がいてね」と説明してました(笑)。高1、高2くらいでサブスクが普及し始めて、そこはかなり変わった気がします。
ISSEI:当時はニコニコ動画が全盛期だったので、MVやカバー動画をいろいろ調べてました。リアルなコミュニティーより、ネットカルチャーの音楽のほうが趣味の近い人がいる感覚でした。

─楽器を始めたきっかけは?
ISSEI:僕は中2のときに「自分、何もないな」と思ったんです。このまま高校、大学と進んで、自分の人生は面白くなるのかなって。何か始めたいと思いながら、実家のソファーに寝転んでたら、たまたま父親のギターが置いてあって。なんとなくポローンと指で弾いてみて「あ、ギターがあるな」と。
最初は父のギターをパソコンにつないで、The White Stripesの曲を弾くゲームをやってましたが、本格的にレッスンに通うようにもなりました。
WATARU:俺も根っこの感情は似てるんですよ。俺はさらに何もなくて、成績もマジで悪かった。『太鼓の達人』の一番難しいモードの「おに」をクリアできたのが数少ない成功体験なくらいで(笑)。
学校の吹奏楽部のライブを観たら、ドラムを叩いてる人がめっちゃかっこよかったんですよね。今chilldspotでサポートをやってる嶋(英治)くんなんですけど。「俺は『太鼓の達人』も上手いからドラムもできるんじゃないか」と思ってドラムを始めました。何かを変えたくて、そのために楽器を手に取ったというのはISSEIと同じですね。

─「何かを変えたい」と、楽器を始めてステージに立つようになって、実際に変わったことはなんでしょう?
WATARU:バンドを始める前は、自己開示が苦手で自信のない性格だったし、自分の内面に誰かが共感してくれた経験が正直ほとんどなかったんですよね。自分が輝ける場所もなくて。初めてのライブは高校の文化祭だったんですけど、かなりの数の人に見られて頭が真っ白なまま、勢いでハチャメチャにドラムを叩いたんですよ。そしたら面識のないお客さんや同級生から、一生分くらい褒めてもらえたんです。あんな経験は初めてでした。
ライブのステージって、自分の内面を100%出せる聖域みたいな場所だから、そこでなら内面を堂々と誇れる。それに引っ張られて、性格も少しオープンになってきたかな。
ISSEI:ステージに立つたびに、否応なく自分自身が変わっていく感覚はありますね。楽器は、僕にとっては自分を拡張するためのかけがえのない相棒で、武器でもありアーマーでもある。それを持つことで、自分から見た自分の存在が確実に大きくなっていく。それは、聴いてくれる人に音楽を届けていく上ですごく大事なことだと思っています。ロックバンドにヒーロー的な側面があるとしたら、楽器はヒーロースーツなんだと思います。
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二人体制になって見えてきた個性
─一緒にバンドをやるようになったのはいつ頃ですか?
ISSEI:高校生になってからなんですが、高校時代はお互い別々のバンドをやっていて、ライバルバンドって感じだったんです。
WATARU:俺のバンドのギターが抜けたタイミングで、音楽の趣味も合うし、いいギターを弾いてるなと思ってたので、ISSEIをヘッドハントしました。実際一緒にやってみたら、思った以上に趣味が合ってたよね。
ISSEI:Green Day、Linkin Park、blink-182、System Of A Down、Radioheadとか、お互い2000年代以降の音楽も聴くようになって。ニコニコ動画やYouTubeで古いものも新しいものも同時に見ていたので、年代はあまり関係なく、全部が並列に存在している感覚でした。
─その後、同じ大学に進学して、再び本格的に「バンドをやろう」と動き出したきっかけは?
WATARU:Napeの活動は高校で一旦止まってたんですけど、やり取りは続けてたんです。
ISSEI:大学3年生の頃、コロナ禍でお互い家で作った曲を送り合ったりして。そこから、スタジオに入って演奏する楽しさをまた味わいたいなと思っていたタイミングで、大学の学祭のテーマソングを作る機会があり、そこでNapeを復活させたんです。

WATARU:一人でライブハウスに出ることも考えてたんですけど、やっぱり誰かと組む方がパワーが出るなと思ったし。バンドで初めてオリジナル曲を作れたことには、すごく手応えがありました。
─そこから現在の二人体制になった経緯と、曲作りのプロセスを教えてください。
WATARU:当初はベーシストもいてスリーピースバンドだったんですけど、メンバーが脱退して。二人になったことで、個人のストーリーだったり、サウンドの個性がむしろはっきり見え、そこが面白くなってきたなと感じました。今は二人であることに意義を見出してます。
曲作りに明確な役割分担はなく、ISSEIの弾き語りから作り始めることもあるし、俺が打ち込んでデモを作ることもありますね。

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UKロックを日本語で歌うこと。「ロックバンドはスーパーヒーロー」
─Napeを再始動したとき、音楽性についてはどんな話をしていました?
WATARU:自分たちが好きなUKロックを取り入れつつ、きれいな声で歌う「歌もの」の日本のロックをやりたいと話していました。具体的には、ブリットポップもそうですけど、Royal Blood、Catfish and the Bottlemen、Bring Me The Horizon、サム・フェンダーも好きだし、Fontaines D.C.のような最近のバンドも含みますね。特にRoyal Bloodは二人組で、キャラも立っていたからすごく新鮮で、影響はかなり受けています。
ISSEI:そういったUKロックのアプローチって、実は日本語との相性もいいと思うんですよね。だから、日本語をベースにやるというのは、Napeのひとつの柱なんです。
─日本語で歌うことにこだわるのはなぜでしょう?
WATARU:英語はネイティブじゃないので、日本語の方が自分の言いたいことも伝えやすい。それに、日本語には独自のメロディー運びがあるじゃないですか。それが作っていて面白いんですよね。そこに洋風な要素が合わさったら、独特なものが出てくると思うんです。

─ここまで話を伺っていると、ロックバンドを組むということが、人生において非常にエポックな出来事だったんですね。お二人にとってのロックバンドは、単なる音楽表現以上のものを感じます。
ISSEI:さっきの話に通じますけど、ロックバンドは自分たちを救ってくれるスーパーヒーローみたいな存在だと思っているところがあって。特にその世代を代表するようなバンドは、アイアンマンやスパイダーマンみたいに、どこか欠けていて愛すべきところがありつつ、僕らを救ってくれる武器を持っていると思うんです。
WATARU:「魂が込もっているか、本物かどうか」が音楽に限らず普段から価値判断の基準になっていて。音楽でいえば、人間が生身で鳴らしているフォーマットに強い憧れがあります。親が機械メーカーのエンジニアなので、職人気質みたいなものが染み付いているのかもしれない。中でもロックバンドは、主張し合う人間同士の化学反応から音が立ち上がる。あの奇跡感と人力感が魂を震わせるんです。
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“通常lost summer”が描くほろ苦い夏。等身大の歌詞
─9月9日(水)には新曲“通常lost summer”がリリースされます。「通常」という漢字2文字がNapeの曲名に入るのも珍しいですよね。
WATARU:自分たちのディスコグラフィーを眺めたときに、日本語がほしいとシンプルに思ったのがひとつです。あとは、「今年もほろ苦い夏だったな」みたいなニュアンスを強調したかった。<いつも通りlost summer “通常”のlost summer>と歌っているので、それをタイトルに入れたほうがインパクトがあるし、検索したときに見つけやすいし。遊び心で入れているところも大きいです。
─世の中には「夏=楽しい季節」というイメージがありますが、実際にはそんな夏ばかりではないですもんね。
WATARU:夏は「楽しい」瞬間も数多くあります。友達とドライブしたり、BBQしたり、海に入ったり。一方で、夏ってうまくいってないときもあって……。それは楽しい時との落差が大きくいから、エピソードとして記憶に刻まれやすいと思うんです。
だから、そこにフォーカスを当てて、残暑っぽい曲を作りたいというところから始まりました。切ない夏をを呼び起こすような曲を作りたかった。
─サウンドはNapeの中でもかなり爽やかです。
WATARU:だいぶ爽やかで、ちょっと軽めの曲ですよね。そういう曲で歌いたかったんです。重い曲にすると、淀んじゃうかもしれないから(笑)。元気なんだけどちょっとシニカルで、切なさもある、みたいな曲にしたかった。
─後半には突然レゲエに切り替わるという、Napeらしいアレンジも登場しますね。
WATARU:スピーディーなパートを作ってるときから、後半にゆっくりしたところが欲しいと思ってて。「夏っぽいものって何?」となったときに、「レゲエじゃね?」って(笑)。
ISSEI:レゲエにはちょっと哀愁がありますよね。ただ明るいというより、少し音楽的な悲しさがある。それがすごくフィットしてるなと。
WATARU:過剰なアンセムというより、もっとコンパクトな曲だと思っていて。レゲエのパートをつけることで、ちょうどいい温度感になりました。

─Napeの歌詞には、自分の弱さをさらけ出しながらそれを否定せずに受け入れていくものが多いですよね。
WATARU:等身大の歌詞が好きというか、それしか書けないのかもしれないですね。あんまり自分を強い人間だと思ったことがないんです。でも、それでものらりくらりと生きてるので、それを曲にして、少しでもポジティブなものに変えたい。
仕事とか色々な場面で、他人との関わりをノイジーだと感じる瞬間ってあるじゃないですか。そういうところから音楽に逃げられたらいいなとずっと思ってるところがあって。俺にとって、音楽はそういう逃げ場として機能してるんですよね。歌詞にゆっくり背中を押してもらった経験もあるし。エミネムとかThe Killersも、結構等身大のことを歌っているイメージがある。だから、そういう音楽が好きなのかもしれない。
ISSEI:僕も曲のコンセプトや歌詞を書くときに、等身大以上のことは語れないと思ってるタイプで。伝えたいことはあるけど、やっぱり自分の体験がベースになってる。そういうものが根底にあるからこそ、ライブではバーッと爆発できる。その塩梅というか、バランス感はNapeにはあるなと感じます。

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初ワンマン『THE GREATEST ESCAPE』で作り出す逃げ場とは
─今年の4月からWATARUさんはドラムボーカルを辞め、ボーカルに専念しています。フロントマンとして、Napeのライブをどのように表現していきたいですか?
WATARU:俺の物語を、みんなの物語として届けたい、というか。ブルース・スプリングスティーンのような華のあるフロントマンは、歌を自分自身の物語として没頭して歌っていますよね。漫画の主人公のような姿が、観ている人の心を震わせるんだと思います。
もっとシンプルに言えば、フロントマンはNapeの音楽が持つ説得力とダイナミズムを伝える存在。だから、俺を観てみんなが楽しんでくれることが一番大事だと思っています。以前はドラムボーカルでも成立はしていたけど、ピンボーカルは表現の幅が広いから、ずっとやりたかった。その分、「物語を伝える」ことにもっと踏み込めるようになったと思います。
ISSEI:ドラムを叩きながら歌っていた頃のWATARUは、僕から見るとどこか二面性があり、表現者としてのモードがふたつ居合わせているように見えていたんです。だから今は歌に全部振り切れている。
でも、それを僕が後ろから支えている、という感覚はあんまりないんです。Napeは二人しかいないので、支える側と支えられる側に分かれてしまうとバランスが悪い。どちらかというと、WATARUが前に出たぶん、僕は違う方向に出る。
フロントマンとして前に立ってくれたことで一番大きいのは、お客さんとのコミュニケーションですね。コールアンドレスポンスをより近い距離感から投げかけられるようになって、返ってくる量が明らかに増えた。Napeにとってライブは、来てくれた人と直接やりとりできる一番大事な機会なので、そこを考えられるようになったのはかなり大きいです。

─初のワンマンライブ『THE GREATEST ESCAPE』が9月12日(土)に開催されます。先ほどWATARUさんは「音楽は逃げ場」とおっしゃっていましたが、このタイトルもそこに繋がりますよね。
WATARU:かなり密接につながってます。自分もISSEIもそうだし、ライブに来てくれるお客さんもそうだと思うんですけど、音楽を一種の非日常として捉えていると思うんです。特にライブはその象徴で、音源よりさらに立体的で、リアルな経験ですよね。
他者から自分への介入だったり、モヤモヤだったり、そういうものから逃避したいという思いがずっとあるから、自分たちが喜怒哀楽のある音楽を鳴らして、お客さんにそれを持って帰ってもらいたい。その極致になるようなロングセットのライブをワンマンでやりたいと思ったんです。
それってやっぱり「ESCAPE」だなと思って。ちょっとかっこつけて、この名前にしました。