まだ名前は知らないけれど、観終わったあと一番汗をかき、印象に残るかもしれない――今年の『FUJI ROCK FESTIVAL』でそんなアクトをひとつ挙げるなら、Joey Valence & Brae(ジョーイ・ヴァレンス&ブレイ)はその筆頭だろう。
代表曲“PUNK TACTICS”をきっかけに世界的な注目を集め、いまや大型フェスにも名を連ねることになった彼らは、海外で熱を帯びている新世代ラップデュオの一組だ。
Beastie Boysを思わせる1990年代ヒップホップ、Y2Kカルチャー、ゲームやネットミームを思わせる映像。一見すると、彼らは懐かしいカルチャーを現代によみがえらせたリバイバル世代のようにも映る。だが、その理解だけでは、なぜ彼らがこれほど世界中で支持を集めているのかは説明できない。むしろ、ジョーイ・ヴァレンス&ブレイが体現しているのは、2020年代における「DIY」の新しい姿ではないだろうか?
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「ネットのおもしろ動画」から飛躍。すべてを自分たちで手がけるDIYな成り立ち
彼らの物語は、2021年、アメリカ・ペンシルベニア州の大学の寮から始まる。ジョーイ・ヴァレンス(ジョセフ・ベルトリノ)とブレイ(ブレーデン・ルーグ)はそこで、楽曲制作だけでなく、映像やSNSでの発信まで自分たちの手で行いながら活動をスタートさせた。
初期曲“Double Jump”がネット上でバイラルヒットとなり、新世代のラップアクトとして注目を集めると、“PUNK TACTICS”で人気を決定づける。
続いてアルバム『NO HANDS』では、一発ネタではない音楽性を証明し、『HYPERYOUTH』ではさらに表現の幅を広げていく。寮の一室から始まったDIYプロジェクトは、いまや大型フェスに出演する存在へと成長した。

彼らの表現の背景には、インターネットによる文化的な環境変化がある。かつてカルチャーには、時間軸があった。1990年代にヒップホップを知るには、レコードを掘り、雑誌を読み、先輩から教わる必要があった。しかし現在は違う。YouTubeを開けば、1990年代ヒップホップも、2000年代初頭のMTVも、ピクセルゲームも、Flashアニメも、テレビCMも、ゲーム音楽も、すべてが同じ画面に並ぶ。インターネットは、過去を巨大なアーカイブへと変えた。
ジョーイ・ヴァレンス&ブレイのクリエイションに触れていると、参照されているのは1990年代そのものではないことに気づく。そこでは、インターネットに保存され、切り抜かれ、ミーム化されてきた「1990年代の記憶」が集積しているからだ。彼らはY2Kを懐古しているというよりも、インターネットが保存してきたY2Kカルチャーを、2020年代の感覚で編集し直しているように見える。
例えば“PUNK TACTICS”のMVには、粗い画質や過剰なズーム、ゲームを思わせるテンポ感など、2000年代前後のインターネットを通過した人なら思わず反応してしまう視覚言語が散りばめられている。だが、当時を忠実に再現するというよりも、「それをネットで見ていた空気」を圧縮したような感覚だ。
かつてDIYとは、自分で録音し、自分でCDを作り、自分で売ることだった。しかし制作環境そのものが民主化された現在、DIYの軸は別のところに移ってきている。
ジョーイ・ヴァレンス&ブレイは、音楽だけを作っているのではない。MVのチープなユーモア、SNSでの投稿、キャラクター、ジャケット、ライブでの立ち振る舞い……そのすべてがひとつのテンションで統一されている。DIYとは制作工程ではなく、「世界観そのものを編集すること」へ変わった。そのことを、彼らは自然に体現している。

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ジャンルを超えて「暴れたくなる」感覚を抽出。懐かしくも新しい独自の力
その編集感覚はもちろん、サウンドにも表れている。オールドスクールヒップホップを土台に、パンク、ドラムンベース、EDM、さらにはネットカルチャー特有のスピード感までが一気に流れ込む。“WASSUP”ではJPEGMAFIAとの共演によって、従来以上にノイジーで実験的な質感を取り込みながら、細かく展開を切り替えることで緊張感を持続させる。
“push the pipe”になると、初期の勢いを残したままサウンドデザインの精度を大きく高めている。不思議なのは、それらが「ジャンルの融合」としてよりも、「テンション」として聴こえてくることだ。例えば“PUNK TACTICS”はヒップホップのフォーマットで組み立てられているにもかかわらず、身体が反応する瞬間はパンクのモッシュに近い。ジャンルを横断しているというより、「暴れたくなる」という感覚だけを抽出して編集している。
だからこそ彼らの音楽は、1990年代っぽい懐かしさを借りつつも、鳴っている音は2020年代仕様。そして、映像やビジュアルも同じ思想で貫かれている。MVはローファイな質感をあえて残していて、SNSの投稿も遊び心に満ちている。しかし、その雑さは決して未完成ではない。むしろ、磨き上げられたポップミュージックにはないセンスとして機能している。
“PUNK TACTICS”は確かにSNSから広がった。しかし彼らが面白いのは、そこから作品を磨き続けたことだ。TikTokやYouTubeで話題になり、アルバムで評価を積み重ね、ライブのスケールを拡大していく。その流れによって、「ネットのおもしろ動画」ではなく、1組のアーティストとして認識されるようになった。1990年代や2000年代を参照しながら、表現もスター像も完全に2020年代。そのバランス感覚こそ、ジョーイ・ヴァレンス&ブレイが「昔っぽいのに古くない」理由なのだろう。
