バッド・バニーを始めとする新世代ラテンポップブームという時流の影響か? プリンスやDuran Duranを思わせる、古き良き「洋楽スター」の風格をまとったそのシルエットか? あるいは「カトパコ」というお笑いコンビのような略称が自然と定着してしまう、その親しみやすいバディ感か?
この1年で急上昇したカトリエル&パコ・アモロソの人気ぶり、その理由はさまざまなポイントがある。しかし、そのすべての前提にあるのは、結局のところ楽曲そのものの強度だろう。そこには「良い曲なら売れる」という素朴な感想を、もう一度信じてみたくなるパワーが宿っている。
INDEX
フジロックでの熱狂。世界を駆け巡る「カトパコ」旋風
アルゼンチン出身の1993年生まれ、カトリエル・ゲレイロ(CA7RIEL)とウリセス・ゲリエーロ(Paco)の2人が奏でる、ラップとロックとハウスとR&Bとファンクとその他諸々が融合したポップミュージック。2024年の『Tiny Desk Concerts』への出演をきっかけに、そのサウンドは一気に、世界に広まった。
去る2025年は、彼らにとってまさに怒涛の1年であった。ケンドリック・ラマーの南米ツアーへの参加、『グラストンベリー(Glastonbury Festival)』や『コーチェラ(Coachella Valley Music & Arts Festival)』といった大型フェスへの出演。アルバム『PAPOTA』にて、ラテングラミー賞での5つの受賞、グラミー賞でも「ベストラテンロックオルタナティブアルバム賞」を受賞。泳ぎを止めれば死んでしまうサメのように、世界中を駆け巡った。
そして彼らの旅路は、日本にまで及んだ。タワーレコード渋谷店でのインストアイベントでは、『PAPOTA』のジャケットよろしく、マッチョ軍団を引き連れて、本人たちは法被を着て登場。日本人と海外からの観光客が入り混じったフロアは、カトパコの熱唱とともに、渋谷で最もハッピーなカオス空間となった。
そして、『FUJI ROCK FESTIVAL』への出演。日本発のブランドである「ANREALAGE」の空調服を身にまとい、登場からインパクト抜群。朝一番の登場ながら、山下達郎やVulfpeckといった、同日、同ステージのベテランたちにまったく引けを取らないパフォーマンスを見せた。すでに「カトパコ」の名前はSNSを通じて、日本でもじわじわと浸透していたが、その魅力が広く知られるようになったのは、この日のステージからだったのではないだろうか。

とくに、終盤の“EL DÍA DEL AMIGO”で、ボルテージは最高潮に。たとえ彼らのことを知らなくても「パリラ♪パリラ♪」というシンプルなコーラスを持つこのディスコ・チューンが鳴れば、誰もがその輪に加わることができる。日本とアルゼンチン、ほぼ真反対に位置するはるかな距離を、彼らがその音楽によって軽々と飛び越えた瞬間であった。
INDEX
『PAPOTA』のその先へ。豪華コラボを迎えた最新作『FREE SPIRITS』
そして2026年、最新作アルバム『FREE SPIRITS』がリリースされた。2025年末にはアルバムの発売が告知されていたものの、「急激な成功によって疲弊している」として撤回。休養期間を経て、改めて届けられた本作に、期待と同時に一抹の不安を抱いたファンも少なくなかっただろう。
しかし、それは杞憂に終わった。蓋を開けてみれば『FREE SPIRITS』は、急激な成功を経験したカトパコ自身が、自己啓発やウェルネスといったテーマを通して自身の内面と向き合った作品だった。『PAPOTA』がハリボテの筋肉や見せかけの虚栄といった「外面」を描いていたとすれば、『FREE SPIRITS』では心や精神性といった「内面」にフォーカスしている。
とくにそのイタズラ心が爆発しているのが“Goo Goo Ga Ga”だ。映画『スクール・オブ・ロック』のお騒がせ教師、近年では映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』でのクッパ大魔王でお馴染みの俳優ジャック・ブラックとのコラボレート。マリオの映画では、岡村靖幸ばりのピアノ弾き語り熱唱が話題となったジャック・ブラックだが、この曲では「君の赤ちゃんになりたい」と歌う、幼児退行のボサノヴァを怪演。一聴、カフェのBGMになりそうな爽やかな音像だが、MVで見ると、ちゃんと狂っている1曲だ。
破滅的なロックスターのように生き急ぐ自分たちの姿を、「このままだと死んでしまいそう」と歌う“Muero”も強烈だ。シンプルな母音のコーラス、コール&レスポンスで構成されているので、どこの国でもライブの合唱が盛り上がりそうだ。
Tylaを始めとした、近年のアマピアノ~アフロハウスの流行を意識したようなトライバルな四つ打ちのダンストラックを手掛けているのは、Fred again..だ。
INDEX
40歳差の奇跡のコラボ。スティングも認める「型破りなエンタメ魂」
そして表題曲にして、もっとも話題を呼んだコラボレーション。スティングとコラボレートした“Hasta Jesus Tuvo Un Mal Dia”だ。
説明不要のレジェンドかもしれないが、あらためて紹介しておこう。スティングは、ロックバンドThe Policeのボーカル兼ベーシストとして世界的な成功を収めた後、ソロアーティストとして長いキャリアを築いてきた音楽家だ。代表曲は“Englishman in New York”、“Shape of My Heart”など。多彩な音楽性を、都会的に洗練されたセンスでまとめあげる、ジェントルなロックスターとして長年支持されている。
また、「技術よりも勢い」が重視されたパンク~ニューウェイブの時代にポリスは登場したが、彼らはもともとジャズやプログレッシブロックの素養を持つ、技巧派ミュージシャン集団だった。この点も、ラップを始める前はバンド青年だったカトパコの出自と重なる。
なによりスティングは、ポリス時代からレゲエなどの要素を積極的に取り入れ、その探究心は後に、ジャズやクラシック、アフリカや中東のミュージシャンとのコラボレートに発展していく。そんな貪欲な音楽的雑食性は、40歳差のカトパコとの共演でも、まるで違和感がない。
ちなみにスティングは、カトパコとのコラボと前後して、アルゼンチンロックの生ける伝説チャーリー・ガルシアとも共演している。75歳のレジェンドと、孫世代の新鋭。同じ国の音楽シーンの歴史と未来、その両方に手を伸ばしているようで実に興味深い。
そして単なる1曲のセッションで終わることなく、アルバム全体の「ギミック」にも、スティングを巻き込んでしまうのがカトパコ流。
前述の通り『FREE SPIRITS』は、自己啓発やウェルネスなどのテーマを通してカトパコ達が内面と向き合ったコンセプトとなっている。先駆けて公開されたティーザーは、スティング自身が架空の「フリースピリッツウェルネスセンター」なる組織のトップとして登場。シリアスな口調で、カトパコの2人の危険な現状と、彼らが受ける更生プログラムを語る……というもの。流行りのモキュメンタリーホラー風、というよりも『ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル』的なユーモアで、転んでもただでは起きない悪ガキぶりを見せつけてくれた。
また、この『FREE SPIRITS』のリリースに合わせて、2026年の4月には彼らが緊急来日。下北沢某所にて、ファンのためのサプライズイベントを開催した。インストアイベントの時以上に濃い空間にて、軽快なトークと熱狂的なライブを披露。残念ながら筆者は参加できなかったが、ファンの誕生日を祝って“ハッピーバースデー・トゥー・ユー”を歌い、最後には会場全体で入り乱れてのダンスタイムに流れ込むなど、彼ららしい型破りなファンイベントであったことは、公式のレポートや映像からもうかがえた。

